春と呼ぶには暑すぎて
夏と呼ぶには物足りない
そんな、ある日の午後
相沢祐一は、激しく困っていた

「祐一、極悪だよ…」

「あ〜もう、だから謝っただろ!?」

従姉妹である名雪が
責めるように祐一に言う
どうやら、祐一が今日のデートの約束を
予定が出来たからと断ろうとしたのが理由らしい
そして、困難の原因はそれだけでは無い

「相沢君が悪いわね」

「そんな事言う人嫌いですよ?」

「…祐一が悪い」

「あははーっ、佐祐理もそう思いますよ〜」

「相沢さん、それは人として不出来でしょう…」

「あぅー!祐一!嘘つきは泥棒の始まりなんだからね!!」

「祐一君、酷いよ…」

様々な女性から、口々に責めたてられる
基本的に名雪以外に責められる言われは無いようだが
彼らの言うデート、とはメインが一人、サブが七人で
ローテーションを組んで祐一に食事を奢らせる事を言うのだ
もちろん、メイン、とは食材を決める人間の事を指し
祐一に拒否権が与えられる事はほとんど無い
いつもこの調子で押し切られてしまうからだ
しかし、今日だけは祐一にも譲れないものがあった

「だから、埋め合わせはきちんとするからな…」

女の子達は黙って祐一をじっと見詰める
そして、じりじりと祐一ににじり寄っていく
祐一も下がるが、すぐに背中と壁がこんにちはをする
ヤバイ、このままでは押し切られてしまう
祐一が諦めかけたその時、救い主がドアを開けて現れた

「お〜い相沢!早くせんか!
補習授業が長引いて困るのはわしも同じなんだ!!」

恰幅の良い教師がドアに手をかけながら叫ぶ
祐一達の担任教師である石橋某だ

「あっ…ホラ、先生来ただろ?
そう言うワケなんだ、分かっただろ?」

しどろもどろになりながらそう言い
そそくさと祐一は石橋について出て行ってしまった

「…祐一、補習受けるほどバカだったんだ…」

名雪が口惜しそうに言う

「今度のようなケースを未然に防ぐためには
今度から相沢君の学力を向上させる必要があるわね…」

「あははーっ、佐祐理が祐一さんの家庭教師をしますよーっ
こう見えても佐祐理は厳しくしつけるのは得意なんですよーっ」

物騒な会話が続き
その後、祐一は一日寝る前に三時間勉強
という取り決め事が、祐一の理外の外で決定された



必殺必中華音屋稼業

『鬼畜で勝負!』


「しかし、アレだな、よくモテるな、お前…」

「…そう見えます?」

石橋の嫌味に
祐一は辟易した表情で相槌を打つ

「おいおい、仕事の前に疲れるなよ…」

石橋は微笑しながらそう言うと
瞬時に表情を引き締め、合い鍵で
使われていない空き教室の扉を開いた
そして、誰にも見られないようにと注意を払い
素早くその中に滑り込む、幸い、この教室は
人通りの少ない、見つかりにくい場所にあるので
その心配はほとんど無いのだが、用心は必要だ

「鍵は?」

同じように素早く入ってから祐一が尋ねる

「すぐに北川と斎藤が戻る」

そう言って石橋は、空き教室のさらに奥の準備用の教室に消えていく
教室に残されたのは祐一、そして、すでに中で待っていたもう一人の少年

「また女性達と一悶着あったようだね、ご苦労様」

嫌味っぽくそう言って、久瀬がずれた眼鏡を指で直す

「ほっとけ、俺だって好きで揉めてるワケじゃねぇ
大体、お前らが仕事の段取りを今日にするから悪いんだろうが!!」

逆ギレ風味に怒りながら祐一が叫ぶ
この教室はある程度防音が効いているので
大声で会話をしていても差し支えが無いのだ

「仕方が無いだろう?
思いの他早く裏が取れたんだ
早いうちに片付けるに越した事は無い、それに…」

久瀬がニタリと笑いながら言う

「少しまとまった実弾が必要になったのだ」

「100%テメェの都合じゃねぇか!!」

思いっきり怒鳴り散らし
ようやく落ち着いたのか
祐一がポツリと呟く

「…ったく、悪徳会長め、人殺した金を賄賂に使うなよ…」

「仕方ないだろう?
君や川澄さんのせいで、僕の支持率はがた落ちしたんだ
それに、君だって殺しで稼いだお金をデート費用に使ってるじゃないか」

無造作に言い放つ祐一と、軽口を叩くように言う久瀬
しかし、彼ら二人は確かに言った、人を殺して金を得る、と
まるで、RPGのゲームでモンスターを倒して金を得るように
悪びれもせず、罪の意識も無く、その場のノリで言い放つ
しかし、町で無学な若造が軽口を叩くのとは確かに違う
言葉ではなく、纏わりつく雰囲気に重みを持った一言だった

「俺のは不可抗力だっての…
お前、そこまでして出世に生きて、くたびれないのか?」

「君こそ、恋に生きて切なくないかい?
僕はせめて自分のために最大限に有意義な使い方をしてるだけだ」

すると、突然彼らの背後から声がかけられた

「高校生が生徒会の会長になるのに賄賂、ねぇ…
ま、俺も金に生きるほど下品じゃないし、別にいいんだろうけどね」

声の主の方を振り向いた後、祐一と久瀬が互いの顔を見合わせる

「…最初からいたのか?」

「いや、僕もまったく気付かなかった」

本気で言う二人の言動に
斎藤は苦笑いしながら答える

「一応、密偵としての能力への誉め言葉と受け取っておくよ
調べ残しのある北川とは別行動取って帰ってきたんだ
ちなみに、教室に来たのは祐一達と同時だよ」

そこまで言うと、再びドアが開き
北川が息を切らせながらやってきた

「悪い!遅れた!!」

「いいさ、俺も今来たばかりだ
ところで、裏はちゃんと取れたのか?」

僕は大分待ったぞ、という久瀬の言葉を遮って
祐一が北川に彼自身の仕事の安否を尋ねる

「あぁ、もちろんだ
奴ら、完全に黒だぜ、しかもかなりの悪党だ
調べてるこっちの方が反吐が出そうだったぜ…」

北川がそう言うと
石橋が手に何かを持って戻ってきた

「だ、そうだ…
では、改めて今回の仕事の説明をする」

石橋はそう言って近くの机の上に
三枚の写真を乗せ、祐一達はその周りに群がる
そこには、同じような顔をした醜い中年男性の顔が並んでいた

「…これ、三つ子の用務員のおっさんじゃねぇか」

「うむ、これほど親の顔に興味が湧く人材はそうはいないだろう
何せ、名前のセンスといい、この遺伝子の屈強そうな顔面といい
常識があるとは到底思えんからな…まぁ、蛙の子は蛙って所かな?」

祐一に相槌を打つように、久瀬が好き放題に言う
しかし、石橋の口が開かれた瞬間、無駄口はピタリと止まる

「今回の仕事はこの三人
『伊藤遺作』『伊藤醜作』『伊藤鬼作』
我が校で用務員をやっている、名物男達だ
給料泥棒と呼ばれない程度には働くんだが
三人とも女子生徒達にはすこぶる評判が悪い
視線が気持ち悪いとか、ありがちな理由なんだが
こいつらに関してはあながち間違っていない
連中は、適当に女生徒を物色し、拉致監禁して
手篭めにしては、写真を撮って脅迫している
そのせいで自殺した女生徒も少なく無い
また、その被害は校外にも及んでいるほどだ」

「…ちっ、胸糞悪くなる話だな」

祐一が嫌悪感をあらわにして言う
すると、斎藤が懐から何やら書き込まれている紙を取り出して口を開く

「それに、祐一にも関係無い話じゃ無いよ
いいからコレ見てみろよ」

斎藤が机に広げた紙を、皆で覗き込む

「さっきパクってきたんだけど…
どうやら、目星つけた女のリストらしい」

その中に、祐一達は見知った名前を見つける
すなわち、『美坂香里』『美坂栞』『沢渡真琴』『天野美汐』『月宮あゆ』『川澄舞』『倉田佐祐理』『水瀬名雪』『水瀬秋子』

一通りそれらの名前を確認した後
祐一、久瀬、そして北川は何とも言えない表情になる

「…こいつら、そのうち自滅するんじゃないのか?」

祐一の言葉に、久瀬と北川が大きく首を縦に振る

「どういう意味?」

事情をよく知らない斎藤が尋ねる
本来、説明なんて必要無いほど有名な事なのだが
斎藤は調べる必要のある事と料理以外には基本的に無関心なのだ

「…冬の生徒会の事件、君も知っているだろう?」

「あぁ、前に川澄先輩に手刀で頬を切られたってアレか…
でもアレは公衆の面前で下手に動けなかったからでしょ?」

久瀬がまず重い口を開き、斎藤が相槌を打つ
しかし、久瀬の返答は斎藤の予想外のものだった

「…見えなかったんだよ」

「え?」

「手が動いたのは分かったんだが
ソレが僕の頬を切り裂くまで
僕の視界からは全く消えうせていたんだ」

「ホントに…………………?」

斎藤が黙ってしまう
すると、次に北川が口を開く

「美坂は中学時代までは『両棘鉄拳の香里』って呼ばれててな
妹が入院してる病院の傍を走る暴走族を、妹の安眠妨害をしたって理由で
一人ずつ闇討ちして、ある程度数を減らしたところで、一気に全滅させちまった」

もちろん、その後、病院という
栞のテリトリーに踏み込んだ暴走族達は
病院側の薬の誤投与という『事故』が相次いで
復讐などとはとうてい考えられないほどの恐怖を刻みつけられてしまった

「他の連中にも、俺は喧嘩で勝てる自信は無い」

祐一が胸を張って答える
男としてはかなり情けない姿だ

「…マジかよ…」

斎藤はすっかり絶句してしまった

「なぁ、石橋、この仕事ほっとけば勝手に解決すんじゃないのか?」

「別にいいぞ、詫び料を相沢が持ってくれるんならな」

「さっ、冗談はこれぐらいにして仕事だ、仕事」

祐一が両手をパンパンと叩き
石橋が机の上に札束を投げ出す

「え〜、頼み人は被害者の肉親達だ
頼み料は彼らから受け取った金から
俺の仲介料を差し引いた100万円だ
条件は奴らの醜い顔面を潰して殺す事、以上だ」

そう言って石橋はさっさと奥の部屋へと去っていった
恐らく、次の依頼の下準備をしに行ったのだろう
殺人を生徒に任せたというのに、実に淡白な行動だ
しかし言い換えれば、それだけ彼らの成功を確信しているのだろう

「じゃ、俺達はこの鬼作ってのやるよ…
女を下品に食い散らかすような外道
三枚に卸して猫の餌にしてやる!!」

「ホウ酸団子代わりにしかならねぇかもしれねぇけどな」

そう言って、北川と斎藤は
25万づつ取って教室を去った

「このツラじゃあ女に相手にされないのは分かるけどよ
不細工に犯される女の気持ちも考えろってんだ、なぁ、久瀬?」

祐一が久瀬に同意を求めると
久瀬はふぅ、と軽く溜め息をついて言う

「なぁ、相沢君、時々子供の頃を懐かしくは思わないかね?」

「何言ってんだよ、高校生っつったらまだガキのうちだぜ?」

祐一が茶化すように言うと、久瀬は、真面目な顔のまま続ける

「いや、もっと昔…小学生の頃は
善と悪とのきっちりけじめがついた世界だった
ガキ大将が悪戯をして誰かを泣かせれば
クラス委員が教師にそれを訴え、叱られる
あの小さな世界には、良い事と悪い事の二つだけだった
それがどうだい? 今の世の中じゃ、こんな事件があっても
捌かれるべきこいつらにも人権があり、裁判にもなれば
検察や弁護士に被害者達が辱めを受ける…誰が被害者かわかりゃしない」

しんみりした久瀬の言葉に、再び祐一は軽口を叩く

「何言ってんだ
テメェだって実弾使うわ
佐祐理さんと司法取引しようとするわ
散々悪い事ばっかりしてきてるくせによ」

しかし、久瀬は涼しい顔で答える?

「それの何処が悪い?
川澄さんの件はただ事情を知らなかっただけだ
状況が不利になれば、金を使ってでもその場を凌ぐ
不良がいればそれをダシに教師や生徒に媚びを売る
利害が一致すれば、違法な取引であっても目を瞑る
生徒会長ってのは、そういう人間が座る椅子なんだよ
別に誰かに直接的な迷惑をかけたわけでもないのに
わざわざそれを悔いたりする必要がどこにある?
人が何かを食えば、必ずその何かを食えない人がいる
その程度の間接的な罪なら、誰でも犯す、それが人の原罪だ
僕はただそれが罪に問われるギリギリの線に立っているだけだ
それに、倉田さんに関してはお飾りとして生徒会にいるだけで
僕自身何の束縛はしていない、少なくとも悲しませるような真似はしてないよ」

祐一はその論法を聞いて呆れ帰ってしまった
昔は正しい事を信じ、それを行うために生徒会に入ったであろうはずなのに
どうしてここまで性格がねじくれまがってしまったのだろうか?
北川達に前に聞いた話では、一年の頃に先代会長とかなり揉めたらしいが
まぁ、それは個人の問題だ、祐一はそれについて聞く気は無かった

「何でそこまでして生徒会長の椅子にこだわるんだ?
『俺がこの組織を変えてやる』って青臭い理由じゃ無いだろ?」

久瀬はずれた眼鏡を直し、フンと鼻で笑いながら答える

「どうせ僕が変えても、僕が去ればすぐに腐るんだ
そんな無意味な事でタダでさえ短い会長任期を無駄にしたくない
ただ僕は小悪党が僕よりも高い位置で僕を見下すのが我慢ならないだけさ
どうせ誰が座ったって同じ椅子なんだ、僕が座っていたって、差し支え無いだろ?」

そう言って久瀬は
25万と醜作の写真を机の上からさらった

「だがね…少なくとも僕は
僕がこの学校の会長である間は
この学校に巣食う害虫を駆除するよ
僕はせいぜいこの学校の悪党さ
でも、こいつらは平穏に暮らそうと
青春を謳歌する生徒達を脅かす、敵だ
悪は善があってこそ、初めて悪と言えるんだ
僕は僕が僕であるために、善の敵を倒すだけさ
それに、人の命を奪っておいて、今さら善になんて戻れないだろう?」

含みのある笑みを見せて、そのまま教室を立ち去る久瀬

「…ちげぇねぇや
俺たちゃ所詮人殺し、悪の上行く極悪だ
きっと死ぬまで一生涯、殺しに殺す殺し屋稼業さ」

そう言って祐一は、最後の25万と写真を取り、教室から立ち去った


「おい、あんまり急がせるなよ…」

「出来たてが美味いんですよ、料理ってのは…」

ノロノロと歩く鬼作を、斎藤がせかす
二人が向かっている場所は家庭科室
鬼作が用務員の仕事をサボってるのを良い事に
斎藤が自作の料理の試食を鬼作に頼んだのである
正直、鬼作には面倒臭く、またどうでもいい事だった
しかし、斎藤の手料理と言えば、校内でもかなりの評判だ
その斎藤の新メニューと言われれば、食指が動くのも無理は無い

「これで不味かったら承知しねぇぞ?」

「えぇ、きっと頬が落ちますよ」

鬼作のドスの効いた脅しを斎藤が軽くいなす
すると、突然目の前の角から北川の顔が飛び出す

「鬼作さ〜ん、ちょっとお話があるんですけど…」

ニヤニヤと笑いながら北川が鬼作に言う

「んだよお前、俺ぁ今忙しいんだよ。ガキはとっとと家に…」

言いかけて鬼作の目が丸くなり、冷や汗が流れる
北川が懐からチラチラと見せている人名が書かれた紙
そうだ、アレは、自分達が目星をつけた女生徒の名を記したリストだ
それを何故あんな小僧が持っているんだ?まさか自分達の悪行がバレたのか?
何にせよ、このまま捨て置く事は出来ない、鬼作は北川の傍へ駆け寄った

「お前!ちょっとそこで待ってろ!こっち来んじゃねぇぞ!いいな!!」

廊下に鬼作の怒声が響き渡る

「いや〜、穏やかじゃないですね〜、鬼作さ〜ん」

北川が猫のような口でニヤニヤと笑う
クソ餓鬼が…このまま殺してやろうか?
鬼作はナイフを右ポケットにしまったのを思い出し
北川の口を塞ぐためにゆっくりと近づいていった

「…それで?何が目的だ?金か?女か?」

「おっ、さすが物分りがいいですね
俺そう言う人大好きだな〜」

そう言いながら
お互いにゆっくりと近づいていく
馬鹿が…もっと近づいて来い…
鬼作は心の中でほくそえんだ
このまま接近して心臓を一突き
不審に思って近づいてきた斎藤を
この角に引きずり込んでまた一突き
始末を考えるとまだ難が残りそうだが
こうなってしまっては仕方が無い
人殺しなど初めての経験だが
女をさらう手間に比べれば問題は無いだろう
それに、自分達が原因で自殺した女もいるのだ
今さら罪悪感など感じる事などあるものか
北川と鬼作の距離がほとんど無くなり
鬼作がポケットからナイフを取り出そうとした、その時

「ナイフなら左ポケットに移し変えといたぜ?」

「!!?」

北川のその一言に、ドキリとして慌てて両方のポケットを探る鬼作
しかし、ナイフは間違いなく、左ではなく右ポケットに入っていた
鬼作が北川のハッタリに気付いた時は、もはや全てが遅かった
慌てて右ポケットからナイフを取り出し、北川に向けようとした時
右手の甲が薄い鉄板のようなもので打ち据えられ、鈍く激しい痛みが走る

「ぎゃ…」

ナイフを落としてしまい、叫ぼうとした鬼作の口を
何者かが塞ぎ、そのまま鬼作の顔を上に向かせる
必死で叫ぼうと、その手を払いのけようとする鬼作
しかし、その行動が結果として実る事は無かった
鬼作の顎辺りに、冷たい刃が押し当てられる
涙と鼻水と涎が自分の口を塞いでいる手を汚す事だけが
彼に出来る唯一にして最後の抵抗だった

「オラッ!!」

北川が鬼作の顎を
正確に言えば、顎に押し当てられている刃の峰を蹴る
刃は、蹴りの勢いを受け、そのまま地面と平行に
ベリベリと音を立てて鬼作の額の肉までこそげとって走っていく

「………………!!」

声にならない鬼作の悲鳴が上がり
地面にびしゃりと鬼作の顔面が
先ほどまで鬼作の顔に張り付いていたモノが
血しぶきを巻き上げながら転がり落ちた

「どうだい、あの世送りの御馳走は?
言った通り頬が落ちただろう?」

落ちた顔面の切れ端を踏み躙って
手にもった包丁の血を拭いながら斎藤が言う
そして、その斎藤に北川が気遣うように言う

「お前、腕は大丈夫か?
一緒に切れてないか?」

すると、斎藤が左腕をブラブラと揺らしながら答える

「料理人が腕傷つけるようなヘマはやらないよ
それに、潤の蹴りも正確に峰にあたったしね」

「いやいや、お前こそ気配の消し方といい
勢いがついた包丁を正確に操る技術といい
見事なもんだよ、俺にはとても真似できないよ」

「そんな事無いって、潤の方が凄いって」

「斎藤の旦那にゃあ敵わねぇよ」

「いやもう照れるなぁ…
そうだ、新メニューは本当に開発したからさ
今から家庭科室に作りに行かないか?」

その言葉に北川の顔が微妙に引きつる

「…今から?」

「そうだよ、今から、何か用事でもあるの?」

「いや、用事は無いんだが…
その、食欲がちょっとな…」

そう言って北川が足元の鬼作の死体を見やり、そして言う

「…お前、コレ見た後に食事は無理だよ」

「そんなの、俺だって無理だよ」

さらっと斎藤が言ってのける

「はぁ!?」

「俺は作るだけだもん、食うのは潤」

「無茶苦茶言うな!!」

そして二人はそのまますたすたと去って行き
後には夕日を浴びた鬼作の亡骸だけが転がっていた


「…で、生徒会長様のお話ってのは何だい?」

日が沈みかけ、薄暗い教室の中
久瀬に呼び出された醜作が品の無い声で尋ねる

「いや、別に…ただ、君らの副業についてちょっとね…」

久瀬が副業に強調符をつけて言う
当然、醜作の目の色も変わる

「まぁ、落ち着いてくれ
何も君達を訴えようってんじゃあ無い…
それに、そんな事しても大した得にはならない
それよりも、今の世の中ギブ&テイクだ
僕の権力があれば、君らの仕事もやりやすいだろうし
僕としても君らの仕事には大変な興味がある…悪い話では無いだろう?」

すると、醜作の表情が一変し
ニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべた

「ヘヘヘ、さすが生徒会長、世の中わかってらっしゃる…」

「ところで…」

言葉を一旦切られ
内容に食いつこうとして久瀬の顔を覗き込む醜作
しかし、久瀬のかけている眼鏡が、沈みかけの夕日に照らされ
薄赤い光をキラキラと反射させているために、その真意を測りかねていた

「君らの標的に、川澄舞という女性はいるかい?」

久瀬の一言に、醜作の笑顔に醜悪さが増す

「そういや、あんたあの女に恥かかされてたな…
ありゃあ見物だったぜぇ、『佐祐理を悲しませたら絶対許さない』だっけか?
馬鹿丸出しだったな、ありゃあよ、わざわざ公衆の面前で騒ぎ起こしてよ
理解できねぇよな、本当に賢い奴ってのは、俺らみてぇに影で動くもんだ」

そう言ってクククといやらしく笑う醜作

「…確かにな」

久瀬がポツリと呟く
その眼鏡に照り返された夕日は
まるで炎を写しているかのような緋色を映えさせていた

「だろ?だから女ってのは頭の悪いんだよ
俺の見立てじゃあの二人はきっとレズビアンだぜ?
楽しみだよなぁ…二人一緒に犯してやったりとかよぉ…」

「もういい、黙れ」

久瀬がきっぱりと言い放つ

「おいおい、黙れってこたぁ無いだ…」

「黙れと言ったのが聞こえないのか、下衆
貴様如き殺すのに無駄な労力を裂くのも勿体無いと思い
散々油断させてから楽に死なせてやろうかと思ったが、止めた
そのために貴様のそのガマガエルが車に轢き潰された時に出すような
品性下劣なダミ声を聞かされ続ける事を思うと気が遠くなってしまう
迅速に、かつ苦しみぬかせてから殺してやるから、とっととかかって来い」

久瀬がそう言って醜作を手招きした
醜作は、一瞬面食らったようだが
すぐに落ち着きを取り戻し、また醜悪な笑みを浮かべた

「な〜んだ、テメェも馬鹿野郎か…
な〜にがとっとと殺してやる、だ
青臭ぇんだよ、クソ餓鬼が…」

そう言って醜作は、背に隠した防犯用催涙スプレーを握り締める

「いいからかかって来い
僕もそんなに暇じゃない…
それに、これ以上馬鹿に馬鹿と思われるのは精神衛生上宜しくない」

い〜や、お前は馬鹿さ
醜作は心の中で毒づいた
人を殺すと宣言しておいて
かかってこいも無いもんだ
賢い人間のやる事じゃない
あと二歩近づいて、目潰しを一吹き
それで勝負は決定するのだ、殴り合いの必要など無い
相手の攻撃手段を奪ってからの、一方的な私刑、そして死刑
それが喧嘩の基本だ、何に腹を立てたのかは知らないが
その基本を見誤った時点で、お前はすでに負けているんだ

「じゃあ、お言葉に甘えて近づくとするかな…」

そう言って醜作が一歩踏み出す
すると、久瀬は逆に一歩遠ざかった
その久瀬の様子を見て、醜作が思わず噴き出してしまう

「おいおい、お坊ちゃん、怖気づいたのか?
自分から近づいて来いって言っといて、遠ざかるのはナシだろう」

そう言って一歩近づくと
久瀬はまた一歩下がり、そして言う

「あともう二歩分近づけば、射程距離か?」

醜作の表情が変わる
それは、今まで久瀬に見せたどの表情とも違う
驚愕と、わずかな畏怖を塗りたくった、そんな表情

「図星だろ?
しかもお前、僕の事を馬鹿だと思ったろ?
喧嘩の基本も分かっていない、馬鹿なガキだと」

醜作の額に冷や汗が滲む
何だ?この迫力は?
こう見えても俺は腕っ節には自身がある
遺作兄貴以外に喧嘩で負けた事は一回もねぇ
クソ度胸だって凡人とは比較にならねぇほどある
それなのに、自分の半分も生きていないような
こんな若造に、何を臆するような事があるんだ?
そして、醜作は、理由の分からない恐怖に追い立てられるように
獲物を前に突き出して、久瀬に向かって突進する

「やはり君は馬鹿だな
喧嘩と殺しの間合いの差がまるで分かっていない」

そう言って久瀬は高速で隣の机の上を両手で撫でる
醜作にはまったく理解する事の出来ない行動
威嚇?第三者への合図?何かの呪い?
しかし、醜作の考察はどれも的外れだった
それは、久瀬が机を撫でたと認識した時点での間違い
久瀬は、机の上を撫でたのでは無い、あったものをさらったのだ

醜作が射程まであと一歩の地点に辿り着く
その瞬間、久瀬は両手を振りかぶり
醜作へ向かって勢いよく振り下ろした
そして、醜作の耳に何かが空を切る音が届いた刹那
醜作の目からは、永遠に光が奪われた

「ひぎぃぃぃぃぃ!!?」

顔面に走った鋭い痛みに、醜作はリノウムの床にのた打ち回る
醜作には、顔面に刺さったモノの正体を知る術は永遠に無いのだろう

彼の顔面に深々と突き刺さったモノ
それは、ガラスの欠片であった
それも、タダの欠片では無い
先端を鋭く尖らせた、言わばガラスで作った手裏剣
薄く、鋭く、なおかつ固い、強化ガラスで作られた凶器
突き刺さる寸前まで夕日を真っ赤に照り返していたソレは
今は醜作の瞼から止めどなく溢れる血で真紅に染め上げられていた

「見苦しい奴は今わの際まで見苦しいな…
流石にもううんざりだ、いい加減死んでくれ」

そう言いながら
久瀬は、今度は左隣の机の上に手をかける
そこにあるモノは、先ほどのような小型の手裏剣などでは無い
机からわずかにはみ出すほどに広がった、巨大なガラス板
これも通常のガラス板とは違う、強化ガラスで作られた板
一部の側面が刃になっている、中世のある処刑器具に似た板

「ひぃぃぃぃ!!?
ひゃあああああ!!?」

光を失って混乱しているのだろう
ガタガタと机や椅子を押しのけながら
醜作は害虫のように床を這いまわる

「よいしょ…っと」

久瀬は、醜作が向かう先の机の上に立つ
そして、久瀬の立つ机の前までやって来て
机の足をガタガタと揺らし始める醜作

「滞りなく拷問終了、続いて死刑執行に移る」

そう言って、久瀬はガラス板から両手を離す
重力によって引っ張られたソレは、加速を増し
醜作の顔の前半部と、両手を勢いよく切り落として
血に塗れながら深々と床に突き刺さった

「…確かに彼女は愚かではあるが
それでも君のような小賢しい人間よりは100倍はマシだ」

そう言って、久瀬が床からガラス製のギロチンを引き抜くと
醜作の骸はグラリと揺れて、血を流しながら床に倒れこんた
そして、さらにガラス板で落ちている醜作の顔面を叩き潰すと
ガラスについた血を拭い、2時間ほど前にソレがあった場所…
夜風の通り道に変わっている窓枠にソレをはめ込んだ

「もしかしたら、こいつらも割られてたかもな」

微笑しながらそう言い
そっ、とそのガラスに触れた

「もし、僕が彼女ほど愚直であれたなら…」

そう言いかけて、久瀬はすぐに自嘲の笑みを浮かべた

「下らない、愚か者ではこの世の中は渡っていけない
それに賢ければ…愚か者の一人ぐらい、影ながら守ってやるのもワケは無いもんさ」

久瀬は、ずれた眼鏡を指で直し、そのまま夕暮れの廊下を歩き去った


「…ったくよぉ
いくら目くらましのためとは言え
こうも面倒臭くっちゃあ…やってらんねぇぜ」

ブツクサと呟きながら
遺作がゴミ箱を焼却炉の前に持って行く
しかし、そこには先客が待ちわびていた

「…毎日お忙しそうですね…」

祐一にそう声をかけられ
遺作がウザったそうに返答する

「まぁな、オメェみてぇにいつまでも居残ってるガキとかいるからよ」

「それに女さらったり、だろ?」

祐一の一言に、遺作の表情が変わる

「…よく知ってんじゃねぇか
…相沢…祐一だったっけか?」

遺作は祐一の逃げ道を塞ぐようにしながら、にじり寄っていく

「へぇ、よく調べてあるじゃねぇか」

「まぁな、何せ上玉の女が9人とも
お前といつも一緒にいやがる…
うらやましいねぇ、色男」

しばらく二人はじりじりと移動していたが
祐一が焼却炉を背負うような形で、その場に止まる

「で、俺をどうしようってんだ?
たった一人でノコノコやってきやがってよ
俺ぁ知ってるんだぜ、オメェは腕っ節の強い方じゃねぇ
よけたりさけたりすんのは得意なみてぇだが
まさかここまで来て逃げるって事はねぇよ…なぁ!!?」

そう言って遺作が地面の土を祐一めがけて蹴り上げる

「くっ!!?」

咄嗟にガードするが
すぐに遺作の両手が祐一の首に伸びる
そして祐一は、あっけなく地面に転がされ
首を締め上げられてしまった

「…どうだい色男…
どうせ女守るためにナイト様気取って来たんだろうけどよ…
俺はそう言う世の中甘く見てるクソ餓鬼が一番キレェなんだ…
このままあの世逝って俺が女奴隷にする様を指咥えて見てろ!!」

遺作の腕にますます力が込められる
祐一は、苦しそうにうめきながら、遺作に問い掛ける

「ぐぁ…他の…女の子達も…こうやって…殺したり…したのか…?」

「いやぁ、殺すのはテメェが初めてだぜぇ…
初めての殺しが男ってなぁ色気がねぇが…
なんなら、テメェの女達に後を追わせてやっても…」

遺作の言葉が言い終わる前に
祐一は、遺作の右手を両手で掴んで言う

「なんだ、あんたアマチュアか」

言うが早いか
祐一の両足が遺作の両腕に
まるで蛇が這うように絡みつく

「!!?」

瞬間の出来事だった
遺作自身にも何が起きたか理解できない
気がつけば、自分は地面に転がされて
鈍い音の後に激しい痛みが右腕を襲った

「ぎゃあ…」

遺作が、悲鳴をあげようとし
自分が祐一に腕ひしぎ十字固めで右腕を折られたのだと
気付くよりも早く、祐一は遺作の首を両腕で締め上げていた

「苦しいか?
絶対に落ちねぇように締めてやってんだ…」

遺作が残された腕で祐一の腕をかきむしる
しかし、祐一はその程度の痛みなど意に介さない

「うざってぇ左手だ…な!!」

祐一は、右腕で遺作の首を締め上げたまま
残された左腕を使って、遺作の左肩を外してしまった
両手を失ってしまい、遺作はただ足をバタバタともがかせる事しか出来ない

「確かに俺は喧嘩じゃ女の子にも勝てねぇよ…
なんせ…喧嘩で相手を殺しちゃマズイんだからな」

そう言って祐一は左手で焼却炉の戸を開ける
中からはゴミの焦げる音と匂い、そして真っ赤な光と熱が出ていた

遺作は、これから自分がどのような目に合うのかを察し
死に物狂いで首をひねり、足をバタつかせた

「死ぬのは怖いだろ?
痛い目に合うのは恐ろしいだろ?
だがな、死ぬ前によ〜く覚えとけ
テメェ達に散々辱められた女の子達も
今のテメェと同じ恐怖を味わったはずなんだ…
地獄に落ちてもそれだけは忘れるんじゃねぇぞ!!」

祐一は、そう叫びながら、素早く遺作の顎骨を外し
燃え滾る焼却炉へと遺作の首を押し込んでしまう

「ッハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

喉が張り裂けんばかりに声にならぬ断末魔をあげながら
遺作は狂ったように両足をばたつかせ、脱出を図る
しかし、その頭は祐一の左足で焼却炉に押さえ込まれ
醜かった顔面は、原型が分からぬほどに黒く焦げつき
やがて、遺作の両足は、電池の切れた玩具のように動かなくなった
祐一は、鼻をつく肉の焦げる匂いに顔をしかめながら呟く

「人間ってのは嫌な生き物でな…
自分の手で殺した命の重さしか分からねぇんだ
そして、例えテメェみてぇな悪党の命でも、支えきれないぐらい重いんだ…」

悲しそうにそう呟き、去っていく祐一
その横顔を照らしていた夕日は、ちょうど沈んだばかりであった


「さぁ、みんな、この前の詫びだ
思う存分食ってくれ!!」

臨時収入が入り、懐が暖かくなった祐一は、確かにそう言った
そう言って、女の子8人を引き連れて百花屋に向かった
言った証拠をテープレコーダーにも取られてしまった
相沢祐一一生の不覚であった、祐一は心からそう思った

「いや〜悪いね相沢君、僕達まで御馳走になっちゃって…」

久瀬が嫌味ったらしく言いながら
バターとハチミツたっぷりのホットケーキをパクつく

「おい久瀬、大食いの基本は早食いだぞ
脳に満腹命令が行く前に全てを食い尽くすのだ」

そう言って北川が目の前のジャンボパフェにスプーンを伸ばす

「潤〜、もう少し味わって食えよ
料理の心得は一期一会にあるんだぞ?」

そう言いながらも、斎藤のイチゴサンデーを食うスピードは緩まない

「…何でお前らがここにいる?」

それは、久瀬達三人にのみ向けられた言葉では無かった
百花屋の中には、名雪達8人と久瀬達3人に加えて
名雪の陸上部の後輩やら学校のクラスメートやらが所狭しとひしめいたいた

「だって、祐一が思う存分食べていいって…」

イチゴサンデーを食べながら言う名雪に
祐一は、額に青筋を浮かべながら言う

「常識で考えろ…
何が悲しくて俺はお前の後輩達にまで奢らねばならんのだ?」

「あきらめなさい、相沢君」

後ろでサンドイッチを食べていた香里が口を挟む

「約束を破ると酷い目に合うって、分かったでしょ?
コレに懲りたら、もう約束をすっぽかすような真似はしない事ね」

薄ら笑いを浮かべながら言う香里を見て
祐一は、この行動が確信犯による行動だと言う事を理解した、さらに…

「あははーっ、祐一さん
もう補習授業なんてしなくて済むように
佐祐理が特製のドリルを作ってあげましたよ〜
これを明日までにやって来てくださいね〜」

そう言って、佐祐理さんが目の前に
山のような問題集を積み上げる
パラパラと内容を見てみると
どれもかなり高難度の問題ばかりだ

「祐一、忘れたら祐一だけ明日のご飯は紅しょうが
お茶碗山盛りの紅しょうがに、紅しょうがをかけて食べるの、飲み物は…」

「あ〜っ!分かったよ!やりゃあいいんだろ!やりゃあ!!」

涙目になりながら逆ギレする祐一

「はっはっは、大変だな、相沢」

呑気にコーヒーをすすっている北川に軽く殺意を覚える

「お客様、こちらお勘定になります」

店員がそう言って祐一に値段を見せる

「…これ、0が一つ多くありませんか?」

「いえ、この値段でまちがいはございません」

店員にきっぱりと否定され
ヘナヘナと祐一はテーブルの上にへたれこむ
そんな祐一に、名雪が呑気に声をかける

「祐一、ふぁいと、だよ」

そして、祐一が涙を流しながらボツリと呟く

「…鬼だよお前ら」



『鬼畜で勝負』終

壊れ気味なあとがき{雰囲気重視したい人、読まぬ方が吉}


…このやたらカッコイイ
中村主水ベースの新キャラは誰だ?

樫の木おじさん「…久瀬だろ?」

…このお方、悪いもんでも食べたのですか?

樫の木おじさん「お前がこんな風に書いたんだろ?
斎藤とかもやたら美化して書かれてるし…
おかげで割食って北川の影が薄い薄い」

…久瀬がな〜
仕置人の主水をひねくれさせて
もうちょっと青臭さと世への絶望と自尊心を足したような
私のツボを八割ほどついたキャラになっちゃったな〜

樫の木おじさん「10割じゃないんだ」

もうちょっと昼行灯っぽいのがツボ10割
でも、それだとまんま中村主水だし
もうちょっと久瀬っぽさを出したらこうなった
しかも佐祐理さんよりも舞に惚れてるっぽくなったし

樫の木おじさん「あ〜、そんな感じだな
なんか『悲しませたら許さない』って台詞で
相当考え込んだみたいに書いてあるしな」

久瀬君はね、女性を悲しませるのは好きでは無いのです
悪党と判断したら性別分けはせずに平等に裁こうとするけどね
それに、舞の退学問題に対して躍起になってたのは
自分の仕事道具である『正義の柱』の存在がバレるのを恐れたため
そして、復学を許したのは、周りの意見と、佐祐理さんをダシにして
舞の動きを封じようと企んだのが原因、久瀬らしからぬ考えの足りない行動

樫の木おじさん「裏稼業がバレる事を危惧して焦ったんだな」

わざわざ学校に隠す方が悪いんだけどな、それで勝手に自滅した

樫の木おじさん「だから作者が言うなっての」

ちなみに、祐一が来る以前は
一匹狼みたいな感じで仕事しててね
仕事の方もマンネリ化してきて
人を殺しても何の感情も湧きあがらず
日常でもただ悪徳会長として無意味に君臨し続けていた久瀬にとって
この事件や祐一達との出会いは、相当ショッキングなものでした
他人のために、一番愚かで一番純粋な行動を取る事が出来る
彼がかつて憧れ、そして心の奥底で燻りつづけた希望そのものです
正義って奴の存在を心の底で信じてみてもいいのかもしれない、そう思うほどに

樫の木おじさん「けど、人殺しに今さら選べる人生なんてありはしない、と」

久瀬にとって、悪を倒すよりも正しい行い、それが愚直
その愚直な生き様を見届ける事に、久瀬は生きる目的を見出す
そして日々をただ生きる事に、初めて充実を感じるようになる

樫の木おじさん「舞に告白とかすんのか?」

ん〜とね、それについてはね
とりあえず祐一も前の町では裏稼業をやっていたという設定で
8股かけてる祐一君だけど、誰か一人、とは決めないつもり
人殺しの自分に寄り添って生きるのは、修羅の道だから
その重みを大事に思う人たちに味あわせたくは無いから
あんな微妙に不幸っぽい日常生活を送ってます
主水みたいに仕事初めから結婚してれば、そこまで悩まなかったんだろうけどね

樫の木おじさん「最後、遺作に言った台詞がそれを物語ってるな
悪党相手の殺しでも、人を殺した、という事実が重く両手に圧し掛かる
久瀬もその理由で告白しないとかか?」

ありゃタダ性格捻れてるだけ
自分から告白するなんて自尊心が許さないし
ただ舞の生き様を見てたいだけだから、恋心とはちと違う
まぁ、裏の稼業に純粋な舞を巻き込みたく無いって気持ちはあるだろうけどね

樫の木おじさん「これからも影ながら助けていくって感じか」

舞エンディングの祐一の気持ちに近い感じでね
かつて自分の見失った理想をそのまま体現している少女、それが久瀬にとっての舞

樫の木おじさん「北川と斎藤は?」

一応、設定とかは考えてあるよ、『必殺!』用のね
ちなみに斎藤の武器は、妖刀を打ち直して作った『鬼斬り包丁』
北川は、鉄板仕込んだ靴で蹴り殺すのがスタイルなんだけど
斎藤とは違って北川は主に密偵専門だから、あまり殺しには参加しない
北川は香里がらみの、斎藤は秋子さんがらみでストーリー考えてあるんだけど
まぁ、ここで言ったって仕方無い事だし、書くの大変そうだしね…

樫の木おじさん「祐一の技って、アレは何だ?」

あ〜、あの念仏流?

樫の木おじさん「だから作者が言うなと何度言えば…」

だって、魔物との戦いでは役に立たねぇし
あんまり喧嘩強そうな方じゃねぇしさ
それで何が出来るのか? って思ったら
一般人相手にみだりに使用は出来ず
さらに姿の見えない魔物相手じゃどうしようも無い
そんな、超接近戦の関節技が祐一の殺し技になった

樫の木おじさん「あちこちに『必殺!』ファンならニヤリとしそうなお遊びがあるな」

タイトルとかまんまだしね
ヒロインズとの掛け合いは、せんとりつを意識してみた
まぁ、あそこまでやったらファンが怒るからやらなかったけど

樫の木おじさん「続編の予定は?」

楽しくて設定作りこんだから
もっと書きたくはあるんだけど…
ストーリー作るのが結構大変だよ
大雑把なネームは切れるけど
細々と書くとなるとかなり重労働
だから、もっと読みたいって人が多ければ書くよ

樫の木おじさん「…遠まわしに書かねぇって言ってねぇか?」

タダの前期『必殺!』の焼き直しだしねぇ…
テーマの解釈を気に入ってもらえると嬉しいんだけど…
やっぱ大人しくギャグだけ書いてるのが一番いいのかね?

樫の木おじさん「とりあえず、読んでよかった、と思ってもらえるのを書け」

う〜ん、それが一番難しい…
しかし、コレ書いた後で『フードファイター相沢祐一』の
壊れ久瀬とかブッシュ斎藤とか書くのは少し抵抗あるなぁ…

樫の木おじさん「嘘つくな、なんかニヤケてるぞ」

惜しいなぁ、彼らも『必殺!』モードじゃカッコイイのに…

樫の木おじさん「あまり脇役キャラをバラバラに書くなよ…」