FX 短編SSシアター


短編SS あゆちゃんと真琴ちゃん

「髪型よしっ、荷物よしっ、たい焼きよしっ」
 手鏡と櫛をポーチの中にしまって、月宮あゆちゃんは曲がり角を飛び出しました。
 手にはもちろん、たい焼きの紙袋。
「祐一くんと一緒に食べるんだよっ」
 よくわからない熱意に燃えたあゆちゃんは、水瀬家のドアの前に立ちます。
 ドアのチャイムを押そうとした時、あゆちゃんは近くに人の気配を感じました。
「おまえっ」
 庭のしげみから飛び出してきたのは水瀬家の居候、沢渡真琴ちゃんです。
「うぐぅ、な、なにっ」
 驚いたあゆちゃんは、たい焼きをうしろに隠して後ずさります。
「ここを通りたかったら、あたしと勝負して行きなさいっ」
 あゆちゃんを指差して言い切ります。
 祐一くんに会ったときと同じように、見た目だけは格好良かったりします。
「しょ、勝負、まさか、美少女コンテスト?」
 口元に手を当てて驚いたように言う、あゆちゃん。
 ボケのように見えますが、本気です。
「ははぁん、あたしの美しさにかなうと思って・・・じゃ、なあああああいっ」
 それにのってくれる真琴ちゃんも、いい人なわけじゃなくて本気なのです。
「勝負はぷよぷよ地獄よっ!」
 真琴ちゃんはゲーム機のあるリビングへ、あゆちゃんを連れて行きます。
「あっ、真琴ちゃん、通さないんじゃなかったの? ボク通っちゃったよっ」
「あうーっ、いいのっ! 叩き出してやるんだからっ」
 リビングに駆け込んだ真琴ちゃんは、机の下からゲーム機を取り出します。
 それは、祐一くんが友達の潤くんに500円で売ってもらったセガサターン。
 最新鋭なんだぞという祐一くんの言葉を、真琴ちゃんはいまだに信じています。
 あゆちゃんもやっぱり、ソフトがCD−ROMなことに時代の進歩を感じていたりする
のです。
 勝負の結果はここでは言わないことにしておきましょう。
 その日の夕方、リビングに下りてきた祐一くんが見たのは、肩を寄せ合って昼寝してい
るあゆちゃんと真琴ちゃんの姿でした。




短編SS 繭ちゃんと澪ちゃん

 昼休み。
 浩平くんの周りでは、いつものように2人の部外者が昼食の最中です。
「あのさあ、折原くんって、なんか繭ちゃんのお父さんみたいだよねえ」
 唐突に、詩子さんは言いました。
「みゅっ?」
 繭ちゃんが不思議そうに詩子さんの方に向き直ります。
「ねえ。折原くんって、繭ちゃんにはなんかお父さんって感じじゃない?
 ほら、おとーさんって言ってみなよ」
「みゅぅ、こーへーおとーさん」
「おとーさんねえ」
 浩平くんは興味なさ気に呟きます。
「やっぱよー、お父さんよりお兄ちゃんだろ。それが男の王道だよなっ」
 そう言ったのは、浩平くんの親友の護くんです。
「でもさあ、折原くん、もう妹いるじゃない」
 詩子さんが教室の入り口の方を指差します。
 澪ちゃんが扉に隠れるようにしてこっちを見ています。
 さっきからずっと繭ちゃんと浩平くんが仲良くしてて、澪ちゃんは入れなかったのです。
「どうしたんだ、澪?」
 ねえ? 入ってもいい?
 澪ちゃんが視線でそんなことをききます。
「どしたの? 澪ちゃんおいでよ」
 詩子さんがいうと、澪ちゃんは浩平くんの左袖にしがみつきます。
 浩平くん、両手に花です。
「だれ? こーへーの、いもーと?」
 繭ちゃんブレインが、この新たな登場人物の正体を明かそうと超音速で回転します。
 こーへーはおとーさん。おとーさんのいもうとの子は――
 チャキーンと、繭ちゃんコンピューターが答えを出します。
「みゅっ、よろしくっ、おばちゃん」
 繭ちゃんは曇りの無い笑顔で澪ちゃんに言いました。
 その言葉が澪ちゃんのハートにぐさりと突き刺さります。
(澪はお姉さんなの。泣かないの)
――ううっ
(小さい子がひどいこと言っても笑って聞き流せるもん)
――うるうる
(泣かないの、泣いちゃいけないの)
――えぐえぐ
(でもね、でもね、おばさんはいやなの)
 だんだん涙目になってきた澪ちゃんは、浩平くんを突き飛ばして教室を飛び出してしま
いました。
 どうやら、“おばちゃん”と呼ばれたことはとってもショックだったようです。
 でも、繭ちゃんには何がいけなかったのかわからなくって、ヘンなおばちゃんだな、と
思っただけなのでした。


おまけSS 澪ちゃんと、美汐ちゃん 

 教室を飛び出した澪ちゃんは、自分の教室に戻ってきました。
 涙目のままきょろきょろと教室内を見渡すと、友達の美汐ちゃんが自分の席で教科書を眺めていました。
 澪ちゃんが飛びつくと、美汐ちゃんは澪ちゃんを受け止めてくれます。
 美汐ちゃんの胸の中で、とうとう澪ちゃんは泣き出してしまいました。
「どうしたんですか」
 背中をぽんぽんと叩いてあげる美汐ちゃんは、まるでお姉さんみたいです。
『あのね』
 澪ちゃんがスケッチブックに言葉を書きます。
「愚痴でもなんでも聞きますよ」
 美汐ちゃんはもう1度優しく呼びかけます。
 澪ちゃんはぐしぐしと手の甲で目をこすって、それからペンを走らせました。
『おばさんはいやなの』
 美汐ちゃんはその台詞に凍り付いてしまいます。
 大変です。澪ちゃん、友情の大ピンチです。




短編SS 舞先輩の罰ゲーム

――ぐしゃん
 熟れ切ったトマトは祐一くんを外れ、佐祐理さんの顔を真っ赤に染め上げました。
「あ……」
 小さく開いたドアの向こうで、真琴ちゃんが凍り付いています。
 硬直と沈黙が3秒間。
 舞さんは反動もつけずに立ち上がると、真琴ちゃんをカーペットに組み伏せます。
「ぎゃああああっ」
 両腕を決められた真琴ちゃんは、必死にもがいて抜け出そうとします。
 けれど、舞さんは真琴ちゃんのお尻の上に乗っかって、両腕を背中側にきりきりと極めてしまいます。
「佐祐理を傷つけた……許さないっ」
 舞さん、怒ってます。
「あははーっ、悪い子には罰が必要ですね」
 佐祐理さんは普段どおりににこにこと笑っています。顔に張りついたトマトの切れ端が、まるで人間のお肉みたいで、なんだかとってもスプラッタです。
「真琴ちゃんは食べ物が好きみたいですから、人参の刑にしましょう」
 佐祐理さんの合図で、舞さんは真琴ちゃんを仰向けに寝かせました。
 真琴ちゃんは身体中からくてっと力が抜けてしまって、抵抗することができません。
「い…いや…… 怖い……」
 怯える真琴ちゃんに佐祐理さんは言います。
「平気ですよーっ。舞はとっても上手ですからねーっ」
「信用していい。痛くないようにするから……」
 代わる代わる真琴ちゃんに話しかける2人の姿がとても淫靡に思えて、祐一くんは唾を飲み込みます。もちろん、佐祐理さんはとっくに顔についたトマトを拭っています。
「ちょっと祐一っ、黙って見てないでなんとか言いなさいよおっ」
 真琴ちゃんの言葉に、祐一くんはなんだか見透かされたような罪悪感を感じました。
「恥ずかしいから出て行って」
 舞さんが頬を赤らめて言います。
「祐一さんにも見てもらいたかったんですけど、舞がそう言うんなら仕方ありませんね」
 佐祐理さんに追い出された祐一くんは、ドアに耳を当てて中の様子を探ります。
「いやっ。あたし、怖いっ」
「あははーっ、大丈夫ですよーっ、じっとしてれば痛くありませんよーっ」
「服、脱がせて」
「はいっ」
「いやっ、やだっ、なにするのよおっ」
「あははーっ、人参さんですよーっ」
「ちょっと、それ、どこからっ。い、いやっ、真琴痛いのも血が出るのもやだー」
「ダメですよーっ。おしおきですから」
「もうやめてよお、真琴いい子にするからー」
「動かないで」
 舞さんの台詞の後、真琴ちゃんは黙り込んでしまいました。
「う……く……」
 息を押し殺したようなうめき声がかすかに聞こえてきます。
 舞さんと佐祐理さんはいったいなにをしているのでしょう。
 数秒間そんな時間が続いてから、真琴ちゃんは、溜め込んでいた息を吐き出しました。
「…………ああああああっ」
「真琴、いい子でしたねっ」
「偉かった」
 そんな会話が中で交わされています。
 祐一くんは健全な男の子です。そんなに焦らされては我慢できません。
 部屋に飛びこんでいった祐一くんが見たのは――
 真琴ちゃんの白いお腹と、その上に転がる微塵切りにされた人参の姿でした。
「……あれ、佐祐理さん、人参の刑って」
「あははーっ。見ての通り、舞の一発芸ですよーっ」
「なんだか、真琴がらみの悪戯でいちばん成功した例のような気がするんだが」
 疲れたような祐一くんに、真琴ちゃんは一言言いました。
「ねえ、祐一。このSS、ばっちぃオチつけていい?」
「なんだ?」
「祐一のズボンの中、にんじ\h.

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