「夜行幽霊船プラート号の旅」
オカダ ミチルくんは小学5年生です。
ミチルくんはお父さんと二人で暮らしています。
お父さんはよく働き、料理は下手ですが、ミチルくんととても仲が良いです。
ミチルくんも、お父さんの代わりに家事をてつだい、べんきょうはできる方ではありませんでしたが、
べんきょうもがんばってお父さんと仲良く暮らしています。
では、お母さんはどこにいるのでしょうか?
ミチルくんのお母さんはミチルくんが4才の時に亡くなりました。
そのとき、お父さんに「お母さんは星になったんだよ」と言われました。
ミチルくんはそれを本当に信じているわけではありませんが、つらいことがある時はいつも星を見ます。
そして眠る時はベッドから見える窓の外の星を眺めながら眠ります。
そうすると、お母さんと一緒に寝ている気分になるからです。
でも、ミチルくんが大きくなるとそういうことをする回数も減ってきました。
そんなある日、お父さんが出張でミチルくんは一人留守番をすることになりました。
一人で食べるごはん、一人ではいるお風呂。
そして一人で眠るベッド。
ミチルくんはとてもさびしくなり、ふと、窓の外を見ました。
そしてお母さんのことを思いだしたのです。
小さい頃、お母さんとミチルくんはいっぱい映画を観ていました。
そのことをふと、思いだし、ミチルくんは泣きそうになりました。
「もう一度、お母さんとメリー・ポピンズを観たい」
そう、思ったのです。
その時 ピンポーン と、呼び鈴が鳴りました。
「こんな夜中に誰だろう? お父さんが帰ってきたのかな?」
ひどく不安でしたが、外に出てみると誰もいません。
おかしいなと思うと、ポストがキラキラかがやいていることに気付きました。
おそるおそるポストに近づくと、そこにはキラキラかがやく一枚の封筒がありました。
ミチルくんは不思議な気持ちになり、思い切って封筒を開けてみました。
すると、そこにはこんな手紙が入っていたのです。
おめでとう、おめでとう! オカダ ミチルくん! プラート号 船長 アカオニより |
ミチルくんはとてもびっくりしました。
少し怖くもありました。
でも、すぐにこう考えました。
「プラート号に乗ればお母さんに会える」
怖かったけど、ミチルくんは勇気を出して手紙に同封してあったチケットをポケットに突っ込み、
ベッドに入りました。
でも、どうすれば船は来るのだろうか?
どんな人が乗っているのだろうか?
天国はどんな所なのだろうか?
色々考えているうちに、ミチルくんは眠ってしまいました――――。
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目が覚めると、ミチルくんはベッドの上ではなく、きれいな河原に立っていました。
少し霧の濃い、良い香りのする河原です。
「ここはどこなんだろう? 僕はどうしてこんな所へ来ちゃったのかな?」
ミチルくんは少し不安になりましたが、チケットのことを思いだしてポケットから出してみました。
すると、河原の向こうから顔の真っ赤な大きな男が歩いてくるのが見えました。
霧でよく見えませんでしたが、ミチルくんはその男の人に聞いてみることにしました。
「あの、すいません。ここは何処なんですか?」
「ん? やぁやぁ、これはこれは!」
その男はミチルくんににっこりとほほえみました。
すると、ミチルくんは驚きました。
なぜなら、その男を良く見てみると口からは牙が、頭には角が生えているのです。
ミチルくんが怖がっているのを見て、その男はまたほほえみました。
「失礼、失礼。君がオカダ ミチルくんだね? 初めまして、怖がることはないよ」
男はおどけたように、ぺこりとおじぎをしました。
「わたしが、わたしがプラート号の船長、アカオニです。この通り頭から角も生えているが驚くことはありませんよ」
「あの、あなたがアカオニ船長なんですか?」
それを聞くととても嬉しそうにまたアカオニ船長は微笑みます。
「そうです、そうです! ようこそ! ようこそ! 三途の川へ! さぁ、ミチルくんで最後の乗客ですよ、急いで急いで!」
アカオニ船長は奇妙なステップを踏みながら歩いていきます。
ミチルくんも慌ててその後を追いかけます。
アカオニ船長においつくと、ミチルくんはアカオニ船長をおそるおそる観察します。
良く見てみれば、黒いスーツに黒いサングラス。
白いシャツに黒いネクタイに黒い革靴。
まるでレザボア・ドッグスに出てくるようなヤクザ風味です。
怖がっていたミチルくんも、アカオニ船長に話しかけてみました。
「あの、船長さん」
「ああ、駄目駄目。アカオニ船長とお呼びください」
「えっと、アカオニ船長」
「よろしいよろしい」
嬉しそうに笑います。
どうやら顔は怖いけど悪い人じゃなさそうです。
「アカオニ船長。船はどこにあるのですか?」
「どこにだって!?」
アカオニ船長は驚きました。
そしてすぐに笑い出したのです。
「そうかそうか、ミチルくんには見えてないんだね、いやいや失礼」
するとアカオニ船長は右手の壁を指差しました。
「この壁のようなモノがあるね? これが我が船『プラート号』さ!」
あまりに大きすぎてミチルくんは気付きませんでした。
壁だと思っていたモノはあったのですが、それは大きな大きな船の一部だったのです。
「これが全部船なんですか!?」
「いかにもいかにも、でも安心なさい。入り口はもうすぐですよ。さぁ、もう見えてきた!」
歩いていくと、船への入り口への階段がありました。
アカオニ船長は先に乗り込むと、こちらをじっと見つめます。
ミチルくんも慌てて階段を上り、船に入ろうとします。
「さぁさぁ! ミチルくん、チケットを拝見」
ミチルくんはチケットを見せると、半分だけもぎられ、半券を渡されました。
「船の半券はずっと持っていると良いですぞ。なぜなら帰りの船に乗る時、半券を見せないと帰れませんからね」
「ありがとうございます。アカオニ船長」
それを聞くとアカオニ船長はヒゲを揺らし微笑みます。
「ミチルくんは礼儀正しくてとてもよい子だね、気に入りました。なになに、帰りもわたしが責任を持って送り返しますよ」
「ありがとうございます」
ますますアカオニ船長は嬉しそうです。
「よろしいよろしい! わたしがじきじきに君をこの船の中を案内してあげましょう!」
そして、船長は手をだしてまだステップに乗っているミチルくんの手を握り、船へ導いてくれました。
「改めましてようこそ! 夜行幽霊船プラート号へ! ミチルくんにとって良い船旅でありますことをっ!!」
そしてミチルくんのプラート号での天国への旅が始まるのです。