バキ
第172話『幕開けA』
ホテルで勇次郎が寝転がってジュニアを誘う
なんか激しく誤解されそうな表現ですが
勇次郎が今取っている構えこそ、猪狩・アライ状態
かつて自分の父親が二度も攻めあぐねたバトルスタイルです
「通称アライ・猪狩状態
驚いたことに
1974年にこの状態が登場して以来
一人として完璧に打破した者はいない
さァ・・・どうする・・・・・・・・・・・・」
ジュニアを挑発する勇次郎
そうは言ってもジュニアも一流の格闘士
これが並の相手ならどうにかなったかもしれませんが
相手はあの地上最強の生物、鬼{オーガ}こと範馬勇次郎です
例えこの状態から麻酔銃で撃ってもかわしかねない迫力があります
「因にこの型の―――――
最初の犠牲者はおまえの父親だ
アントニオ猪狩が苦肉の策であみ出したこの型に―――――
おまえの父親は「起きて来いッ」と叫ぶだけで近付くこともできなかった」
どうやら、この世界でも
アライ対猪狩は世紀の凡戦だった様子
でもまぁ、この型の意味は素人には理解できないでしょう
ボクサーの規格外に位置するこの構え
相手が相応の実力者ならば、うかつに近付く事は
文字通り、アリがアリ地獄に突撃するようなものです{上手く無い}
しかしまぁ、ある意味さすがは勇次郎
寝っ転がりながら説教とかなりダサい格好なのに
己の言葉に充分な説得力と凄みを持ち合わせています
これが本部だったら語ってる最中に踏み潰されてしまいそうです
「一見どうにでもなりそうなこの型・・・・・・・・・
実はなかなかどうして厄介もの・・・・・・
ふふ・・・・・センスの見せ所だぜ」
何だか少し嬉しそうな勇次郎
自分が尊敬した男が使っていた拳法
それが完成しているかもしれないのですから
勇次郎にとってもこれは楽しみな事なのでしょう
そんな勇次郎に対し、ジュニアは不遜に溜め息をつきます
そして、何故か無事な方のグローブも外して、唐突に語りだします
「父を始め・・・・・・・・・・・・
なぜこの型に苦しむのか
ボクにはさっぱり理解できない」
父親はこの型を始めて見た時
ヤバイぐらい冷や汗をかいていましたが
何故かこのジュニアは涼しい顔のままです
先週はジャブより早いだのなんだと結構ビビっていたくせに
この余裕は一体どこからくるのでしょうか?
「格闘技とはそもそも弱者が強者から
身を守るために発生したもの
その相手たる強者が勝手に寝てくれている
いったいこれ以上なにをする必要がありますか
あなたが寝てくれるなら ボクは部屋を出るまでです」
そう言って勇次郎に背を向けるジュニア
勇次郎が読者の気持ちを代弁するかのように素っ頓狂な声を出します
「ああ?」
「よかった
何事もなくて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ{はぁと}」
ジュニア、帰っちゃった
自分から挑んだ勝負だって事を忘れてます
なんで自分から完成したアライ流を見せようとして
「ボクは部屋を出るまでです」とか言って普通に出て行けるのか
ボクにはさっぱり理解できない
そして、それで納得できないのが勇次郎
上等な料理目の前にして、おあずけを食わされた気分
まるで勝ちを確信していたどっちの料理ショーで逆転されたよう
初めて草薙に土壇場で裏切られた時の三宅のような気持ちに近いでしょう
そんな状況で黙ってられる勇次郎ではありません
ぞわと逆毛立ち、怒りを露にします
「きさまッッ」
次の瞬間、ドアを殴り破って外に飛び出す勇次郎
ドアノブを握ると、前に逆側に回された思い出があるので
それを思い出してドアの外で待っていた場合の不意打ちを考慮したのかもしれません
まさか自分からケンカ吹っかけておいて本気で逃げるとは思わないでしょう
多分、今の勇次郎に見つかってしまったら
ジュニアもこのドアと同じ目に合わされる事でしょう
「ひイイッ」
可哀想なのは偶然居合わせたホテルボーイ
目の前にまさに文字通り『鬼』が踊り出てきたのだ
下手なホラー漫画も真っ青な恐ろしい形相で周りを見回す勇次郎
常人ならこの一睨みだけで10回は殺せてしまう気がします
ズンッ
勇次郎の十八番、物に八つ当たり
地上最強の地団太で高層ホテルが揺れます
突然の出来事に、ホテルの客達もパニックになります
「ひ・・・」「おッ」「えっ」「なんだ!?」「テロだテロッ」
たしかにある意味テロ行為です
多分、このホテルは八つ当たりで倒壊させられるでしょう
そんな勇次郎を尻目に
何時の間にかジュニアは外に出ています
しかも、何かとてもすっきりした顔をしています
これはやはりアレでしょうかね?
幼少期の仇を嫌がらせで取ったと
結構色々と根に持っているのかもしれません
どうでもいいですが、ジュニア
次に勇次郎に会ったら問答無用でぶっ殺されそうです
そして舞台は中国に変わり
烈がバキに何かを告げています
「え?」
「非常識は百も承知だ
しかし乗り越えねばならない
張と戦ってくれ」
烈先生の場合は
たとえ非常識は承知しても
相手の反論は承知しなさそうですが
この問いに梢江ちゃんはある意味一触即発の状況
そして当人であるバキは、またあの死人の笑顔を浮かべます
「ありがてェなァ・・・・・・
烈さんはこんな俺が戦えると思ってくれてる
逃げちゃいけない しかも勝つと・・・・・・・・・」
「謝謝・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
むしろ烈先生は逃がしてくれないでしょうが
断れば確実に殺されそうだが、戦えば助かる道もありそうです
何度も死に直面し、バキはある意味悟りの境地に立ったのかもしれません
まぁ、さすがに今度は梢江ちゃんを抱えて逃げ出さないでしょうが
念のため、梢江ちゃんはバキと離して置いておいた方がいいように思います
そして、巨大な黒曜石の前で
一人の男が打岩の修行に励んでいた
烈と比べるとまだまだ未熟な気もしますが
瞬く間に岩を削り取るスピードといい技といい
生半な技量の持ち主ではないと言う事は見て取れます
まぁ、どんなに強そうな前評判でも
結局烈以下で病人と戦うだけのキャラですが
鎬昴昇と戦わせたら結構いい感じの勝負ができるかもしれません
二人とも「今の私なら烈海王に勝てるッ」とか言い出しそうな感じですけど
{そしてそれに腹を立てた烈が「貴様らは海王を嘗めたッッ」とダブルノックアウト}
ともかく、バキの事を伝えに来た小太りの僧に張が言います
「その者は・・・・・・・・・・・・どこに・・・・・・・・・」
「さきほどから・・・・・・
第1試合場の方へ・・・・・・」
「ただではおかぬ・・・・・・・・・ッッ」
まだ会った事も無い病人に対して「ただではおかぬ」ときました
次期海王候補生 張洋王登場ッッ
ってカッコ良く登場したのはいいんですが
海王に関わる奴らってこんなのばっかですか
もしかしたら烈先生
この生意気な後輩ぶちのめすために
わざわざ半病人のバキ君を連れてきたのかもしれません
そして張が負けたら「や〜い、病人に負けた〜」って思いっきり罵倒するつもりとか
とりあえず、一つだけ分かった事は
劉海王は技量さえあれば誰でも海王にするって考えを改めた方がいいと思います
多分、あと三代持たないと思いますこの寺