「…という事は、真琴があぁなったのは、その秘密特訓のせいなんだな?」

「はい…私が真琴の熱意に負け、心を鬼にしてしまったばかりに…」

天野が口元を手で押さえて嗚咽を漏らす





フードファイター相沢祐一 第参膳{後編}


「ねぇ、美汐、どんな特訓をするの?」

真琴が私に聞いてきます
ちなみに、ここは人が滅多に通りかからない校舎内の空き部屋です
肉まんの敵討ちをしたいという、内容はどうあれ真琴のあまりに必死な姿に
私も授業を休んでまで特訓に付き合う事にしました
確かに相沢さんは酷すぎます、この前も、物腰が上品なだけの私に対し
「天野って、おまじないとか、占いとか、民間伝承とかたくさん知ってるし
おばさんくさいっていうよりは、おばあさんくさいよな」
などという失礼極まり無い暴言を吐いてきました
お灸をすえる必要があります
それに、親友に頼られて無碍に断るのも、人として不出来でしょう

「はい、真琴、それではこの椅子に座ってください」

私は、真琴を椅子に座らせます、真琴の目の前の机には
50音やYES,NO、あと、鳥居の絵などを書いた大きめの紙と、10円玉が一枚置いてあります

「ねぇ、美汐〜、これ、どう見ても『こっく…』」

「黙りなさい、真琴、いいから私の言う通りにしてください
まず、ここに霊を呼び出します…」

元々相沢さんに対して以外は真琴は素直なんです
渋々ながらも私の言う通りにします

「…では、次の質問です、貴方は、狐の霊ですか?」

私の指示した通りに真琴が質問します
10円玉はYESを指します

「ねぇ、美汐、次はどうするの?」

「はい、真琴、10円玉から手を離して
机を思い切り蹴飛ばして下さい」

「え…?」

真琴が呆然としています
いけませんね、フードファイト本番までもうあまり時間が無いというのに
真琴に急ぐように指示します、すると、真琴が怖々反論してきます

「でも、途中で止めると、呪われるって…」

素晴らしいです、真琴
世の中にはそんな事も分からずに途中でやめて、呪われる馬鹿もいるのですが
これも私が漫画が大好きな真琴に『後ろの百太郎』や『地獄先生ぬ〜べ〜』を
読ませてあげたおかげですね、本当なら、もっと本格的で高級な
『#$'"_(%'&{人語での訳は不可能})』を読ませてあげたいのですが
アレはソロモン王に封印された72柱の魔神全てと契約を果たさなければ
触れただけで生命を奪われてしまうかなりのレア本です
アレを「いつも真琴と遊んでくれているから」という理由で
お譲り下さった秋子さんには本当に感謝です
しかし、今でも何故秋子さんがあんなレア本を持っていらっしゃったのかは謎ですが
相沢さんから「秋子さんの『謎』には近づくな」
ときつくいわれているので、深く考えるのは止めましょう
人間、分というものをわきまえねばいけません、そもそも…

「あぅ〜、美汐、どうしたの?」

はっ、いけません、どうやら少し考え事に集中しすぎていたようです

「何でもありません、真琴、相沢さんに勝ちたいのならば
勇気を持って私の言う通りにするのです」

「祐一!?…そうよ、祐一が真琴の肉まん盗るからいけないのよ…
お腹すいてたのに…肉まん…食べたかったのに…
あぅ〜…祐一の……祐一の………祐一のっ!馬鹿〜〜〜!!!!!」

真琴が思い切り机を蹴飛ばしました、10円玉は真琴の指を離れ
弧を描くようにして天井すれすれで飛んでいきました
私は、10円玉が落ちる音を確認すると、真琴に尋ねます

「真琴、気分はどうですか?」

「…なんだか寒気がする」

真琴の顔色が少し悪くなり、全身の毛が逆立っているようでした
第一段階は成功です、どうやら無事狐の霊は真琴に憑依したようです
狐に狐の霊が憑依するというのも不思議な話ですが
人間にも人間の霊が憑り付くのです、別に構わないでしょう
少なくとも私は全く構いません
ここからは、真琴の妖力、いや、真琴の魂の強さ頼みです

「…で、だから何なんだよ?」

天野の話が少々長かったため、時間が押してしまっている
このままでは埒があかないので、俺は天野に要点だけ喋るように催促した

「はい、私が行ったのは、いわゆる『蟲毒』と呼ばれる方法です
真琴の身体を媒介にして、一匹ずつ狐の霊を注入し
真琴の魂と戦わせ、吸収させます、まずは一匹づつで
最後には10匹ぐらい一気に入れ、真琴の魂を一気に鍛え
その妖力でもってフードファイトに勝利させようとしたのです…
真琴も一度奇跡を行使してしまったとはいえ、まだ立派な伝説の妖狐
特に妖狐界のサラブレッドと言われているものみの丘の妖狐です
低級霊の10匹や20匹、なんとかなると思っていたのですが…」

…恐ろしい奴だ、天野美汐、これからはからかうのはよそう、呪われそうだ

「で、失敗してあぁなったというワケだな…」

鉄格子の向こうでは、黒服が交代しながら真琴を押さえつけていた
真琴は白目をむき、首はぐるぐると回転し、今にも空まで飛びそうな勢いだ
黒服も強いとは言ってもまだ全員高校生
さっきから全身をガタガタと震わせながら涙声でお経をつぶやき続けている

「はい、私も誤算でした、まさか一番めにあんな霊を呼び出してしまったなんて…」

「…失敗ってのは、お前の方法のことじゃなかったのか?」

「とんでもありません!私の魔道は完璧です、理論は間違っていませんでした
ただ、強力な悪霊の侵入を防ぐ結界を貼るのを忘れていただけで…」

「もういい…で?どんな失敗で真琴はあぁなったんだ?そして、治す方法は?」

俺の一言に、少し熱くなりかけていた天野が正気に戻った
というか天野よ、魔道って…お前は一体何者だ?

「はい、実はただの狐の霊だと思っていたのは、ただ低級動物霊ではなく
飢えて苦しみぬいて死んだ人や動物達の霊が集まって出来た悪霊
畑怨霊{はたおんりょう}だったのです」

早い話が、餓鬼の超強力な奴のことだろうか?
北川といい天野といい
どうもオタクという人種は知識を語ることに価値観を見出しているような気がするのだが
俺の気のせいだろうか?
とりあえず、この二人に関しては、オタクという言葉すら生ぬるい気もするが…

「畑怨霊といっても、ピンキリですが、あの畑怨霊の持つ妖力は特別中の特別
恐らく、100匹近くの悪霊の集合体でしょう、言わば、超畑怨霊です
そして、対処法ですが…
実は、これを取りに行っていたので遅くなってしまったのです」

そう言うと、天野は、ポケットから
何やら呪文やら模様やらが書き込まれた紫色のハンカチを取り出し
中に包まれていた一枚の10円玉を取り出した

「これは?」

「真琴が使った10円玉です、これに秋子ししょ…コホン
秋子さんに特別な呪{しゅ}をかけてもらいました
これにはまだ真琴と畑怨霊の契約が生きています
詳しい話は端折りますが、この10円玉を賭けて畑怨霊と勝負をして勝つ事で
相沢さんは畑怨霊の魂を掌握、使役する事ができるようになります」

「そんな事ができるようになりたくは無いが
とりあえずこの勝負に勝てば真琴は元に戻るんだな?」

「はい、まぁ簡単に言ってしまえばそうです」

じゃあ、早く言ってくれよ
あと、『秋子ししょ…』って家で一体何があったんだ?
本当にただこの10円玉に呪とやらをかけてもらっただけだったんだろうな?
とりあえず考えても仕方ないし、時間が無いので素早く10円玉を受け取ると
俺はまた鉄のドアをくぐって、真琴の隣に座った
ちなみに、さっきから全然話に加わって無かった北川は
まだ久瀬にバキの良さについて語っていた
何故か、テーマは『僕が考えたオリジナルグラップラー』だった
久瀬を黙らせていてくれた事と、久瀬を精神的においつめてくれた事は嬉しいが
セコンド失格だ、どうせ役には立たなかったのだろうが、後で殴ってやろう
ちなみに、久瀬は薄笑いを浮かべながら
北川から渡された紙に佐祐理さんの絵をいくつもいくつも書いていた
どうやら完全にぶっ壊れたらしい、久瀬、強く生きろよ、そして永遠にさよならだ

「ルールは簡単だ
この肉まんを時間内により多く食った方が勝ち
お前が勝てば、お前は自由にしていい
ただし、俺が勝てば、真琴の身体から出て行ってもらう」

真琴、いや、真琴に憑り付いている畑怨霊が頷く
先ほどまでの暴れっぷりからは予想も出来ないほどの素直さだ
本当に何者なんだ、天野はまだしも秋子さんは?

俺と畑怨霊との意思の疎通が出来ていると見るや否や
黒服達は泣きながら逃げていった、まぁ、当然だろう

「…ニ…イ…ニク…クイ…」

真琴の声とは違う
様々な音が混じり合ったような声で何やらぶつぶつと呟いている
よくは聞き取れないが、そんなにも肉まんが食いたいのだろうか?
さすがは餓死者の怨念の塊だ

第3ラウンドのベルが鳴り、俺達は同時に肉まんにかぶりつく
畑怨霊もかなり真琴の体に馴染んだのか、さっきよりも食う速度が速い
俺もうかうかしていると本当に負けてしまう
だが、いくら100匹分の悪霊の怨念とは言え、ベースは真琴の体だ
すぐに逆転できた、まぁ、本気を出せば、こんなもんだろうが

すると、急に頭に声が響いてきた

「…ニ…ニク…ニ…クイ…ニクイ…ニクイ…」

さっきも聞いた声、どうやら畑怨霊達が直接俺に語りかけてきているらしい
しかし、何故『ニクイ』なんだ?俺は悪霊に憎まれる覚えなんて無いぞ?
まぁ、真琴の場合は7年前の事が関係していたのだが
さすがに悪霊百匹から同時に恨みを買うような真似は、7年間丸ごと費やしても無理だろう
そんな疑問が頭をよぎると、俺の考えを読んだかのように畑怨霊は言葉を続ける

「…ニクイ…オマエハズルイ…ヒトリデソンナニタクサン食ベテ…
ワタシタチハミナ飢エテイタノニ…ソレナノニ…オマエハ…ニクイ…ニクイ…」

隣を見ると
真琴が白濁した眼球から血の涙を流してこちらをにらみながら肉まんを頬張っていた

…そう言うことか、俺は大変な思い違いをしていたらしい
奴は、奴らは、飢えて死んだ霊だから、腹が減ったまま死んでしまったから
今も飢えて、食べ続けてるんだって、そう思っていた

だけど、本当は違う、死んで、恨んで、悪霊になってしまった今は
いくら食べても満たされない、だって、食べる意味が無いんだから
でも、俺は違う、あいつらが生きていた頃、俺の一回の食事量で
きっとあいつらは何日も何ヶ月も生きる事が出来たのだろう
だから憎いんだ、飢えた時も、腹一杯食うことができる俺が
普通の人間よりもずっと多く食べて
そして、食い終わった時に満足できる俺が、食べた事で生きている事を実感できる俺が

つまり、奴らは今の真琴と同じなんだ
今腹一杯食えることなんて関係無い
飢えて苦しんでいた時、本当に食べたかった時
そんな時に食う事が出来なかった時の憎しみ
真琴の場合は俺がそれを作った原因だったから、俺を恨んだけど、奴らは違う
飢えた理由は、今の飽食の時代では無かったから
誰もが平等に飢え、誰を責めていいのかわからない
そんな理由、悔しいのに、苦しいのに、誰かを恨み、責めることすら出来ない
だから、奴らは、悪霊になったんだ、同じ傷を持つ者同士集まって
そして、似た傷を持った者が特定への人間を恨む事が出来たから
それにすがるように真琴に引き寄せられて…

つまり、奴らが食事をする動機は復讐心
食事は、本来生きるためにする事なのに
憎いから、俺をおとしめたいから、ただそれだけの理由で食う
本来ならば、楽しいはずの食事も、奴らにとっては恨みをはらすまでの作業
そして、真琴の思いもまた奴らと同調しているのだろう
大好きなはずの肉まんを、あんなに辛そうに頬張っている…

「それは俺のせいでもあるんだよな…」

「相沢さんっ!何してるんですか!早く食べて下さい!!」

鉄格子を握り締めながら天野が叫ぶ
観客席からざわめきが聞こえる
無理も無い、チャンプが食べるのをやめてしまったからだ
そして、一人で何事かをぶつぶつと喋っている
もちろん、祐一自身は自分が喋っていることなど気が付いていないのだが

「本当に…辛そうだよな…」

そう言って祐一は、ゆっくりと肉まんに手を伸ばし、一つを手に取ると
口一杯に頬張ってフードファイト用に特に最高級の食材を使われた肉まんを堪能するように
ゆっくりと咀嚼した

「…うん…美味い…」

祐一の顔がほころぶ

「相沢さんっ!!」

天野が叫ぶ
しかし、さきほどの焦りの色は微塵も無い
顔をほころばせた祐一が、凄い勢いで肉まんを頬張りだしたからだ
畑怨霊も慌ててペースをあげるが、それでも祐一の比では無い
苦しそうに口に詰め込む畑怨霊、嬉しそうに口一杯に頬張る祐一
71,72,73…両者の電光掲示板の数字が目まぐるしく変わっていく

そして、第3ラウンド終了の合図
最後の一個を必死に食おうとしていた畑怨霊は79個
そして、満面の笑顔で右手を高々と突き上げている祐一の電光掲示板は、80を示していた

「相沢さんっ!!」

三度目の天野の叫びは、歓喜に満ち溢れていた

「…あぅー…」

畑怨霊、いや、真琴の身体がよろめき、椅子からずり落ちて床に倒れた
俺は立ち上がると、真琴の顔の隣でしゃがみこんで、宣言した

「俺の胃袋は宇宙だ、とっとと真琴の体を返せ
それとな…お〜い、天野!これで俺は畑怨霊を自由に操れるんだよな!?」

俺の言葉に天野が冷静さを取り戻して反応し、即答する

「はい、勝利した事で、相沢さんは畑怨霊の霊魂をすでに掌握しています」

「………ググ………」

真琴の表情から畑怨霊の口惜しさが漏れ出しているのが分かる

「そっか…じゃ、俺からの最初で最後の命令だ、お前らとっとと成仏しろ」

真琴の表情がきょとんとした顔になる
白濁した眼球と、顔中に浮かんだ血管を除けば、いつもの真琴の表情と変わらない

「成仏して、生まれ変われれば、今度は腹一杯食えるかもしれないだろ?」

俺がそう言うと、真琴の、畑怨霊の頭をなでてやった
畑怨霊は真琴の顔を使って、喜びの感情を笑顔に変えた

「…ア…リ…ガ…トウ…」

最後に、唇を動かして、真琴は完全に気絶した
その表情からは、まさに憑き物が落ちていた

「あれであいつらちゃんと成仏できたのか?」

「心配することはありませんよ、恨みも完全に消えていましたし…」

俺は気絶している真琴をおぶりながら天野に付き添ってもらって家路についていた

「でもなぁ…真琴の意識を完全にのっとるほどの悪霊が…」

俺が言葉を濁しながら喋っていると
俺の言いたい事を完全に察した天野が俺の言葉を遮って
俺の知りたい質問に答えてくれた

「それは多分、秋子さんが呪を込めた10円玉の霊力の余波のせいで
霊的に特殊な空間が出来て、そこで言霊が発動したからだと思います」

『秋子さん』の名を聞いて俺の表情が激しく引きつる
聞くのも怖いが、聞かないワケにもいかないだろう
俺は恐る恐る天野に尋ねてみた

「秋子さんの霊力って…何が起こったんだよ…?」

「簡単な言霊ですよ…」

「わっ!ここどこ!!?」

天野が何かを言いかけた時、突然背中の真琴が目覚めた

「あれ?祐一?美汐?なんで私ここにいるの?
……あっ!そうだ祐一!また真琴の肉まん盗ったでしょ!!」

記憶が混乱していたようだが、結局行き着くところはおんなじか
俺は苦笑しながら佐祐理さんに包んでもらったおみやげの肉まんを真琴に渡してやる

「ほら、肉まんだぞ、食え」

「あ…ありがと…うん!美味し〜!!」

「まだたくさんあるからな」

真琴は俺の背中から降りると、口一杯に肉まんを詰め込みながら、笑顔で頷いた
どうやら天野の言った通り
畑怨霊の食った分は畑怨霊が成仏した時に消滅したらしいし
機嫌も治ったようだし、フードファイトのことも忘れているようだし
万事解決でめでたしめでたしだ
肉まんを一つほおばった俺の顔も自然にほころぶ
すると、そんな俺達の様子を見て、天野が肉まんを指差しながらくすりと笑って言った

「それですよ」

「肉まんがどうかしたのか?」

「言霊による呪で、肉まんを『憎まん』とかかったんです
つまり、あの肉まんを食べれば食べるほど
畑怨霊の憎しみは浄化されていったというワケです」

なるほど、そういうワケだったのか
秋子さんの霊力の余波というからには悪魔の力でも借りてしまったのかと思ってしまったが…
しかし、肉まんが憎まんとは、まるで…

「駄洒落みたいだな」

「はい、そうですね、駄洒落も一種言霊だと思いますよ」

「そういう意味で言ったんじゃないんだが…
しかし、天野は今日は大活躍だったな
良かったら北川の代わりに俺のセコンドやらないか?」

「いえ、それは丁重にお断りさせていただきます
あんなにハラハラドキドキするのはもう懲り懲りですから」

「それもそうだな、ハハハ…」

「フフフ…」

「あぅ〜、二人ともなんの話してるのよぅ…」

「気にするな、肉まんのお代わりはまだまだあるぞ、食え」

暑い夏の夜に熱い肉まんを食べるのもオツなものだ
しかも、それを自分の懐を痛めずに手に入れられ
さらに皆で笑いながら食べれれば
もう他に何も言う事は無い

その後、和やかに談笑しながら水瀬家についた俺達は
天野を夕食に招待し、秋子さん自慢の料理を堪能した
もっとも、真琴は肉まんの食べ過ぎであまり食べられなかったが

「…これでお前に教えることは無い、よくぞ今まで頑張った」

「…バキ…倉田さん…勇次郎…倉田さん…金竜山…倉田さん…」

ちょうど祐一達が夕食を取っていた頃
秘密地下通路では、やっと久瀬が北川から開放されていた
もっとも、久瀬の精神はすでに崩壊し
久瀬の世界は『倉田佐祐理』と『グラップラー刃牙』一色になってしまっていた
そんな久瀬を見下ろしながら、北川はご満悦だ
ふと見た腕時計に、もう夕食時だという事に気付かされる

「おっ、もうこんな時間か…
よし、今日はお前が童貞を捨てた{バキ読者の隠語で、バキにハマったという意味}
記念に、何かおごってやる事にしよう、何がいい?」

「…おじや…梅干…バナナ…炭酸抜きしたコーラ…倉田さん…」

「…お見事、素晴らしい組み合わせだ、ただ、最後が蛇足だったな」

北川は爽やかな笑顔でそう言うと、しゃがみこんで俯いている久瀬を抱きしめた

「ナイスファイト、ナイステクニック、ナイススピリッツ、お前は俺の誇りだ」

北川の目からは感動の綺麗な涙が流れていた
久瀬の抜け殻になったような目からは、とても透明な涙がとめどなく流れていた
そして、北川は久瀬を連れてスタスタと家に帰ってしまった

翌日、北川に興奮気味に先日の感動を祐一に語ったところ
祐一は、怒りを通り越して、ただ呆れてしまったが
ますますヒートアップする北川の話を聞いているうちに
呆れたも通り越し、もう一回怒りに戻ってきたので北川が泣くまで殴るのをやめなかったという

久瀬はというと、3日後に衰弱しきった所を発見され、病院送りとなった
特に精神の消耗が激しかったため、しばらく入院するはめになり
責任者不在で行えなかったフードファイトの違約金を払うために
ますます財政が圧迫されてしまったという

………続く………

次回の対戦メニュー
『アイスクリーム』

NEXTチャレンジャーからの一言
「やはりアイスは夏に食べるのが一番です」