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コマンダーS「モミー、『聖戦(ジハド)』の準備は進んでいるか?」
ツリー「ぼちぼちだが、時間と金はいくらあっても充分ではないな。私の場合、飾り付けは多ければ多いほど戦果が見込める。あと三太郎。その安易で恥ずかしいネーミングセンスをいい加減どうにかしろよ」
コマンダーS「三太郎ではない! 『聖なる復讐鬼(クリスマスジェノサイダー)』ことコマンダーSと呼べ!!」
ツリー「……お前、そろそろ古希だろ? そんなだから六十余年生きても彼女どころか友人の一人もいないんだよ。大体なんだこの『聖夜壊滅独立愚連隊(ホーリー・ロンリー・アーミー)』って。要するに社会の落後者どもからすらもハブられて、テロとも呼べない奇行をたった一人で寂しくやるだけって事だろうが。私はこう見えてガチガチの性善説論者だが、お前らを見てるとどうもその信念が揺らいで仕方がない」
三太「一人じゃねー! お前がいれば一人と一本で二つの勇気! 今年はさらに大型新人が一匹加入するから、一人と一本と一匹で毛利元就もビックリの3本の矢じゃぜ!!? あと、ワシはハブられてるんじゃない。彼らに陽動の任務をまかせ、単身危険かつ重要な任務を行おうとしてるだけだ。いいか、決してハブられてるんじゃないぞ? これは意見ではない、決定事項だ」
ツリー「じゃあそれでいいよ。で、新人ってのはなんだ? ひょっとしてさっきから外で昼寝してる鹿じゃないよな? 動物園から盗んできたとかヤメロよ。流石にそれはお巡りさんから本気で怒られる」
三太「いや、ほんとにハブられてないんじゃよ? 年賀状のやりとりとかもしてるんじゃよ? ちゃんと1月1日に届くようにしてるし。まぁ、返事は『あけおめ しっと団日本支部一同より』ってメール一通だけじゃけど」
ツリー「はいはいハブられてないハブられてない。だからあの鹿どうしたんだよ? なんかよく見たら遠近法おかしいんだけど。あれ、いくらなんでもデカ過ぎないか?」
三太「うむ。期待の外国産選手、『赤鼻のルドルフ』君だ。ちなみにただの鹿じゃないぞ? 地上最強――とはいかなくとも、哺乳綱偶蹄目シカ科トナカイ属最強のトナカイじゃ!! くくく、この最強のトナカイをどう使ってカップルどもを苦しめてやるか……想像もつくまい?」
ツリー「そうだなぁ。お前が毎晩シコシコ頑張って作ってた催涙弾とか「今年のキーワードは『空中戦(スカイ・ジハド)』。クリスマスの夜は、天からの裁きが憎きリア充どもを襲うであろう……」とかって戯言、ついでに長年の付き合いによる経験則から類推すると、できれば外れて欲しい考えが一つだけ浮かぶ」
三太「くっくっく、じゃがいくら我が長年の相棒とはいえ詳しくは話せんぞ? なんせ今作戦のキモじゃからな。精々当日を楽しみにして大人しく待っているがいい!!」
ツリー「そうだな。目が覚めたら夢である事を祈るよ。まぁ、盗んできたわけじゃないならそれで……いや待て。お前今外国って言ったか? ひょっとして密輸か? いや、火器弾薬使用してる時点で大概なんだが」
三太「うむ。武器の買い付けにロシアまで行った時、偶然出会ったのだ。地元の連中が、『ブラッディレインディア』なんて呼んで恐れておったが、なかなか話のわかるいい奴じゃったぞ」
ツリー「ほー。お前、トナカイと話ができるのか。初めて知ったな」
三太「うむ。六十余年も童貞やってるとそういう事もあるんじゃな。ワシもびっくりしたよ。まさかトナカイと会話ができるようになっていたとは」
ツリー「(傷つきやすいわりに皮肉が通じないんだからうっとおしさもひとしおだなぁ)……まぁ、見たところ脚と首の筋肉が異様に発達してるし、戦力としては申し分なさそうだ。話半分に聞いてもコミュニケーションはとれるようだから、死人出すような事にはならないだろうし」
三太「まかせておけ! なんせワシらは同じ仇を持つ戦友じゃからのう!!」
ツリー「………………まさかお前、また『カップルがクリスマスで浮かれるから環境破壊が続く! (中略) じゃから大自然はカップルの被害者であり奴らを滅ぼすまで宇宙船地球号の危機は去らん!!』とかいう妄想に従って行動してないよな? あいつ、ちゃんとコミュニケーションとれるんだよな? お前の脳内世界の話じゃなくて、現実問題として。言っとくが、死人出そうになったら殴って止めるぞ?」
三太「うむ、ルドルフの怨敵がカップルであるのは間違いない。じゃが、彼がここに来た理由は少し違う。そう! 思い出すのも忌々しいが、去年ワシが構想20年準備1年かけて発動させた『デュラハンサンタクロース軍団作戦』を邪魔しおった憎き女子高生(?)! なんとルドルフも彼奴に復讐する機会を望んでおったのじゃ!!」
ツリー「それがお前の妄想でない保障はどこにもないが、事実なら心強いな。どうせ私らの妨害担当はあいつらだから。なんせお前の妄想虚言癖に付き合ってやれるのは味方じゃ私だけ、敵じゃあいつらだけだしな」
三太「妄想ではない。世界の真実じゃ。繰り返す、ワシは『真実を識る者(トゥルース・トーカー)』。ワシの言葉は全て真実じゃ。信じろ」
ツリー「そういう事は女を知ってから言え童貞ジジイ」
三太「だって出逢いが無いんじゃよ!!? ワシは清楚で儚げで見目麗しくて三つ編みでメガネで図書委員で気弱だけど弟的ポジションなワシには優しくも厳しい態度をとってくれてでも二人の関係は段々子供の頃のままではいられなくて男と女を意識しちゃうようなイベントを繰り返して、そんなお姉ちゃんの卒業式に告白できるようなイベントがあればなんの文句もないのに!!! 世の中にはビッチとスイーツ(笑)と汚ギャルしからおらん!! そんな世界はワシが否定してやるんじゃよー!! ワシが幸せになれない世界なんか滅んでしまえばよいのじゃ!!」
ツリー「…………………………」
三太「なんじゃ、ワシを潤んだ熱い瞳で見つめて。惚れたか?」
ツリー「う〜ん、なんというか見下げ果てたというか呆れ返ったというか……でもまぁ、一応惚れ直したよ。流石は三太郎だ。老境に入って、そこまで馬鹿馬鹿しい妄想を真剣に持ち続けられるシンプルな定命種(モータル)を私は他に知らん」
三太「くっくっく、あまり褒めるな。自分で自分の偉大さに恐れおののいてしまうじゃろ?」
ツリー「いやいや謙遜する事はない。お前ほど重度なパラノイアと一緒でなければ、誰がこんなしちめんどくさい事をするものか。憎き定命種どもを苦しめてやるのに、理由も躊躇も区別も情けも必要ない。クリスマスだのバレンタインだのと時節に合わせて工作を行うようになったのは、お前と出会って以来の50年だけだよ」
三太「ふぅむ、カップル狩りの楽しさも知らずに今まで生きてきたなんて人生の大きな損失なのじゃぜ? 罪深きリア充を滅ぼす事こそ人生の喜びなのじゃよー」
ツリー「最初の200年ぐらいまではそうでもないさ。多分、当時の私はどちらかと言えばお前達に狩られる側だったような気がする。罪があるとするなら、寿命が無いという私の存在そのものだな」
三太「カップルより罪深い存在などいない! あいつらは全部不幸になるべきじゃ! じゃってワシより幸せそうじゃから!!」
ツリー「ははっ、そうだな。その点において私は全面的に同意するよ。ほとんどの定命種は、ほとんどの不死者(イモータル)よりも幸せな人生を送れる。300年ほど生きた後は、私はそれがどうしても許せなくなった」
三太「ワシなんて15の時からリア充が許せねぇぜ!!」
ツリー「私は、定命種の持つその強烈な自我が羨ましくて妬ましい。死ねないってことの何が辛いかってな。みんな先に死ぬ孤独とか生きる事に飽きるとか、そんな三文小説にあるような理由全部ひっくるめて、段々自我が保てなくなるんだよ。性善説ってのはありゃ真実さ。どんな生命も本質は善だ。だが、長年にわたり知性という不純物を混ぜ続ける事でそれはどんどんネガティブでダーティなものに変質していく。……こうして目を閉じると、嫌な事ばかり思い出すんだ。そりゃいい事もあったんだろうが、思い出すのは決まって悪い事ばかりだ。どんな悪い事かは覚えてないが、とにかく嫌な事が多かった人生だったってのが強調されるんだ。どんな大それた夢や希望を持ってても、1000年生きれば大抵は叶う。そうすれば、あとは燃えカスのような人生さ。なまじ長く生きた分だけ未練が残って、幸せの絶頂で死ぬ勇気も持てなくなって、ズルズルと永遠の倦怠期を迎えながら生き恥をさらし続ける。死にたくない、でももう生きたくない、そんな不安と恐怖に悩まされて、どんどん頭の中に霞がかかったようになっていくんだ」
三太「だからカップル狩りをするんじゃよ! その憎しみをカップルにぶつけてやればみんなスッキリする。これが世界の真実じゃ!!」
ツリー「……お前は本当に、単純に真実を突くよな。自我が混沌として、仕組みが簡単になっていく私とはえらい違いだ。ああ、自分が不幸だと他人の幸せが壊れる事ぐらいにしかもう興味が持てない。短い人生で華々しく輝ける定命種が羨ましくて妬ましくて憎くて憎くて憎くて仕方がない。奴らの幸せが壊れるなら、私はなんだってやってやるさ。ただし、安易に殺しはしない。ただでさえ定命種は、幼児が自分の生命に頓着しないように軽い未練のままで逝けるんだ。誰が楽に殺してやるものか。幸せの絶頂から不幸のどん底にたたき落として、私の万分の一でも「もっと幸せに生きたかった」と絶望を味わわせて生き恥を晒させてやるんだ」
三太「うむ。話半分にしかよくわからんが、お前のカップルが許せんという気持ちはよく伝わった!! 一つだけ不満なのは、お前がそのモータルだのモーテルだのという単語をワシに使ったりカップルどもに対して使ったりする事じゃな。あいつらと一緒のカテゴリーにくくられると、なんか惨めになるやら悔しくなるやらでできればやめて欲しい」
ツリー「お前にはアフリカゾウとナウマンゾウの区別が簡単につくのか? 動物学者でもない限り、日常生活では「象」と呼ぶだけで事足りる。まぁ、安心しろよ。私はお前を裏切ったり不幸にしたりする事はない。お前は味方の定命種だし、他は敵の定命種だ。不死者は味方を大事にするからな、お前のためなら命だって賭けるさ」
三太「うむ、お前の義理堅さには感謝している。ワシがこの50年カップル狩りに情念を燃やし続けられたのも、お前の支えあってこそじゃ」
ツリー「そう言われてしまうと、お前の人生に対する責任を切に感じてしまうんでやめてくれ。というか、義理とか人情とかそんな大したものじゃない。私自身はもう、ただの枯れかけたモミの木でしかないからな。それを、他者との関係性で飾り付ける事によって、ようやくクリスマスツリーとしての体裁を保てるのだ。長く生き過ぎたイモータルはもう「我思う、故に我あり」などという哲学だけでは己を保てない。他者との強い繋がりなくしては、他者との関係に依存しなければ自我を確立し得なくなってしまっているのだ。愛すべき仲間、憎むべき敵、それらなくしてはもう自分の立ち位置すら分からないメクラのようなものさ。もしこの世からお前がいなくなれば、カップルがいなくなれば、私の自我はまた今とはまったく違うものに変容していくだろう」
三太「大変じゃのぅ。ワシなんて『我カップル憎む。故に我あり』で十分生きている実感があるのに」
ツリー「それが羨ましいんだよ。私なんて強い動機があって定命種への復讐なんてやってるわけじゃない。ただ、それぐらいしか気晴らしになる事が無いからやってるのさ。お前が毎晩のようにパソコンの画面見ながらシコシコやってるのと同じだよ。最初は快楽を感じてただろうが、今はただの惰性になった。お前はよく私にカップル狩りのテンションが低いと文句を言うが、そう捉えてもらえれば納得いくだろう? 『なんとなくやらなくちゃいけない気がする。やればスッキリする』。私にとっては、誰かを不幸にするのにそれ以上の理由がいらなくなっただけだ」
三太「なんでワシの『性なる0.6時間(ワールド・イズ・マイン)』を知っておる!!? お前が寝静まったのを確認してから毎晩励んでいたと言うのに!!」
ツリー「私は普段から意識が半分眠ってるようなものだからな。ただ動かずにじっとしていれば定命種で言うところの睡眠と同じだけの休息が得られる。別にお前の性欲処理作業について興味がないから今まで口出ししなかっただけだ。大体、あんな大きな音と声を出していて気付かれないとでも思ってたのか? 言っとくが隣近所でも有名になってるんだぞ。私が井戸端会議で奥様方にフォローしてなかったら、今頃住民運動で住居を追い出されてる」
三太「……………………………………………………死にたい」
ツリー「そう思えるのも、定命種の特権だよ。私が眠らないのも意識を失う瞬間が死に臨んでいるみたいで怖いからだし、感情だって薄暗い情念が燻ぶる程度にしか震えない。私が幸せそうなカップルを特に憎むのも、お前が憎むから私にとってもなお憎いってだけさ。不死者はもう心が簡単になってるから、誰かを愛した分しか誰かを憎めないんだ」
三太「ややこしいのぅ。しかし長生きすると底意地悪くなるってなら、ワシらの邪魔してきたあの化け物大木もよほど性根が腐っとるんじゃろうの」
ツリー「……まぁ、仙人とか聖人とかって存在でなければ、長く生きた分だけ不死者の性根は腐るんだがアレはちょっと違うな。アレは私の上位種だ。スペックがまるで違う。私は肉体が不老で死に難く、精神が簡略化する事で超長寿に耐えるが、アレはむしろ『不滅』の部類に入る。肉体的にも精神的にも、私とは格が違う」
三太「そうか? 肉体はともかく、あんなダムダム弾一発で泣き叫ぶようなのがお前より精神的に優れてるとは思えん。むしろ脆い部類に入らんか?」
ツリー「あれは脆いんじゃない。柳のようにしなやかなんだ。もし脆ければ、そこに受けたダメージは精神的外傷になる。だが、奴はどんなに痛めつけても決して懲りないんだ。どんなに拷問を受けても、どんなに心を傷つけられても、奴は元の精神状態に戻る。予測だが、あいつは多分生まれた時から性格がまったく変わってないんだと思う。精神的に成長することも退化することもなく、それを含めて『完全な個体』としてその不滅性を保ち続けている。あいつは『脳』で記憶したり思考したりするのではなく、もっと別の器官があるんだろうな。だからこそ、不変性を保ちつつ『自分に有利な学習』ができる。学者だったら興味の尽きない存在さ」
三太「ふ〜ん。でもワシ学者じゃないし。『不平等を憎む聖人(カップルデストロイヤー)』じゃし。ワシの敵になるなら神様だって半殺しにして土下座で『ごめんなさい』って言わせてみせるんじゃよー!!」
ツリー「頼もしいね。まぁ、お前の言うとおりだよ。あいつは不死不滅だが、私にとって脅威になりえない。精神性が不変である代わりに精神的な成長が無いからな。『学習』によって肉体は最適化を行ってポテンシャルは上がってるだろうが、心が新兵のままではどんな最新鋭兵器を持たせたところで宝の持ち腐れだ。白痴ぶりでは同レベルで、持病のヘルニアが悪化しててもお前の方がまだ強いよ」
三太「当たり前じゃ! カップルを憎む心はワシの中で日々強くなっている!! 今年こそ、クリスマステロを成功させて12月24日を『聖なる復讐者の記念日(メリー・クリスマス)』にするんじゃ!!」
ツリー「私もあいつほどじゃないが、もう内的成長は見込めないからお前の研鑽に期待しているよ。定命種の成長の早さと心の強さはこういうときには頼もしい限りだ。……もし、あの妖木を更生させようと本気で考えている奴がいたとしたら……それは、不死王を殺すのと同じぐらい不可能な難行に挑んでいるという事だ。『人間的成長』というものは、不死者にとっては悲願だよ」
三太「そう、ワシもカップルどもを滅ぼさねば一歩も前に進めんようになってしまった! 奴らを倒して、ワシはワシの人生を歩むのじゃ!!」
ツリー「そんなもんあと20年あるかないかだろうが、まぁ精々最期まで連れ添ってやるよ」
三太「ではこれより全世界に向けてクリスマスの終了を知らせるため終焉の鐘を鳴らしに行く! リア充どもよ、『虐げられた者達の嘆き(ラクリマクリスティ)』をとくと味わうがいい!!」
ツリー「……まぁ、とりあえず歩くときは少し離れてくれよな」
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