鍛冶嬶の嘘 

――この物語に、真相を推理すべき名探偵は出てこない。 

「今回のライアーゲームでは、あんたがメインディーラーになるのか?」 
「倶楽部賭郎拾陸號立会人、門倉雄大と申します。以後お見知り置きを――」 

――出てくるのはたくさんの嘘つきと、 

「おお、こいつは凄いぞカマオロカ! この男は次に引くカードがスペードのエースだと分かっている!!」
「し、失礼な! 俺がイカサマをしているとでも言うつもりか!?」
「なんだ、つまらん。これはイカサマだったのか。しかも自分から種明かしをするなんて酷い興醒めだ。驚いて損をしたじゃないか! だが、カードの絵柄が透けるメガネとは面白いな。僕が貰ってあげよう」 

――この世にたった一人の、本物の探偵 

「人狼遊戯――って何スか獏さん?」
「さぁ〜? とりあえず、嘘つきの匂いだけはぷんぷんするね」 

――ルールは簡単。羊に紛れた狼を見つけ出せ。 

「へぇ、あんたも梶ちゃんっていうんだ」
「違うっ・・・! おれの名はカイジ・・・! 伊藤カイジだ・・・!」 

――羊同士群れるもよし互いに争うもよし。 

「ま、待ってくれ! 外には狂犬がうろうろしてるんだぞ!? 丸腰で山の麓まで無事に辿り着けるはずがない!!」
「なるほど、つまり貴方はこう仰りたいのですね? 丸腰で山犬の群れをかいくぐるよりも、丸腰でこの私の取り立てから逃れる方が容易だと」

――夜ごと行われるゲームの脱落者は、館の外に放り出される。 

「対戦相手が部屋から出てこないって事は、僕の不戦勝!? これ、僕は凄いツいてるって事じゃないスか!!?」
「いや……単純に喜んでばかりいられる話じゃないかもね」
「え?」
「どうもするんだよねぇ〜。血の、臭いがさ」 

――狼のルールは一つだけ。 

「部屋に鍵もかけてある。見回りもいた。各自にアリバイもある――どうやらこの犯人は自身のトリックに相当自信があるらしいな」
「ひょっとして犯人はゲームに勝つ自信が無くて、それでライバルを減らすために殺しちゃったとか」
「まさか。少なくとも、この犯人はこの館にいる人間全員を出し抜いたんだ。少なくとも、死んだあいつに負けるような頭脳じゃないさ」 

――狼は、一日に一匹だけ羊を食べる。 

「この館に過剰なほど設置されたカメラ・・・これは監視のためなんて生易しいものじゃない・・・! これは観察・・・! 生き死にの博打と、狼の殺人ゲームを楽しむための・・・鬼畜の目玉・・・!」
「くくく・・・面白い・・・! もう感付く者がいるとは・・・!」
「だが・・・それでこそこの見世物に金をかけた甲斐がある・・・!」
「どうじゃ・・・せっかくじゃからワシらも狼の正体当てでもせんかな・・・? ついでに・・・次に誰が殺されるかも・・・!」 

――さぁ、羊達よ。その知略の限りを尽くして狼の正体を暴いてみせろ。 

「京極堂、いつから君はそんなに勝負強くなったんだい? 古本屋、神主、拝み屋の次は博打打ちだったとでも言うのか?」
「別に博打なんてやってるわけじゃないよ。ただね、ここにあるものは全部、イカサマの道具なんだ。これは人と人の勝負じゃない。どちらが先に必勝法に気づけるかという、狼とのゲームなのさ」 

――狼は羊に嘘をつく。羊は互いに嘘をつく。さぁ、本当の事を言っているのは誰だろう? 

「は・・・話が違う・・・! 館の中にさえいれば安全・・・絶対安全ななはずだ・・・! 僕達は・・・狼サイドの仕掛け人だったんじゃないのか・・・!!?」
「だからさ、それも――嘘だったんじゃないか?」 

――誰も彼もが嘘をつき。誰も彼もが騙されて。 

「マ、マルコは、警官、嫌い」
「上等じゃねぇか。こちとらいい加減小難しい博打にゃうんざりしてたんだ。てっとり早く殴り合いでカタぁつけようぜ」 

――智と暴が入り乱れる狂気の宴。 

「外部と連絡って、携帯電話は使用禁止じゃないんですか!?」
「よく考えてみろ。最初に説明されれたのは、ここが圏外だって事と勝手に館から出ちゃいけないって事だけだ。つまり、館の中から外部と連絡を取り合う分にはかまわないって事さ」
「じゃあ、外に連絡して助けてもらえばいいって事になりませんか!!?」
「それはやめておいた方がいいな。なぜなら、外がこの館よりも安全とは限らないんだ」 

――何も信じられなくなる狼の嘘。自分自身さえも疑わしくて。 

「最後まで自分自身を信じること。それが僕のギャンブルだ!」
「ならば見るがいい・・・! これぞ我が秘策・・・ワシズコプター・・・!」

――1人減り2人減り。やがて誰もいなくなる。 

「守れ・・・! ワシを・・・! ワシはこんなところで死んでいい人間ではない・・・! あなたとは違うんです・・・!」
「……もし。このゲームに『暴力禁止』のルールが組み込まれていれば、我々はプレイヤーを全力で守る必要があったでしょう。しかし、それもあくまでプレイヤーの話です。つまり――」
「つ・・・つまり・・・?」
「自分の身ぐらい自分で守れクソジジイ」 

――館の中には狼さん。館の外にも狼さん。 

「京極堂、君はこれが鍛冶嬶事件だと言ったな。つまり化け猫が鍛冶屋の妻を食い殺して成り代わったように、犯人がゲームの参加者に成り代わってるという事なのか!?」
「鍛冶嬶がネコならそうなんだ。でも、今回の鍛冶嬶は狼だからタチが悪い。いいかい関口君。猫じゃない鍛冶嬶とは狼の憑き物ではない、その逆を指すんだ」 

――騙したつもりが騙される。自分の嘘が自分を責める。 

「館にいた最後の一人が死んで、外に追い出された奴だけが助かった。つまり、ゲームの最後は狼の自殺でエンディングって事でいいのか?」
「その通りだよ。その状況を作ることこそが、鍛冶嬶の狙いなんだから。ただ、このままにしておくのは――ちょっとまずいな」 

――この物語は全て嘘で綴られる。その言葉こそが、鍛冶嬶の嘘なんだ。 

「どんなに特殊な状況であっても、これがライアーゲームである事に変わりはない。つまりお前は――」
「あんたさぁ――」
「貴方が――」 



――嘘つき、だったのですね。