2月3日
「大豆を炒って〜恵方巻き作って〜
あともう立春とはいえまだまだ冷えるのでこれも・・・」
「鬼は〜外〜」
「鬼は〜外〜」
「あぁ、もう豆まき始めちゃってるようですね。私も急いで準備しないと・・・」
「鬼は〜外〜!!」
「鬼は〜〜外!!!」
「鬼は! 外! 外!! 外!!!」
「鬼はァァァァァァッッ!! 外をォォォォォォォォッッ!!!(神谷明ボイスで)」
「・・・やけに鬼ばかり払ってますね
まぁ、元々は追儺式ですし、無駄に伝統に五月蝿い樫の木さんがまたとやかく言ったんでしょうか」
「ファァァァァァイナァァァァァル鬼はァァァァァァァァ外ォォォォォォォォォォ!!」
「鬼は・・・ブルワァァァァァァァァァ!!?(若本則夫ボイスで)」
「・・・いくらなんでも騒がしすぎですよね?(台所から移動しつつ)
ちょっと大吉さん樫の木さん、ちゃんと真面目に節分やってるんで・・・・・・」
ベチョ、ヌト〜
「・・・・・・なんで私はいきなり頭から納豆をかぶってるんでしょうか?」
「馬鹿め。貴様は『鬼は外』になった」
「♪2月3日に鬼は外どんしゃらら
ピンクの髪の女が納豆被った〜ら臭いが一週間は取れなくな〜った」
「妙な童歌を歌わないで下さい!
うぅ、せっかく朝から時間かけて櫛で梳いたのにネバネバして気持ち悪い・・・」
「泣き言をホザくな! ここは戦場だぞ! チリビーンズでなかっただけありがたく思え!!」
「その通りだ。大人しくそこで松山せいじの漫画みたいな一枚絵でも展開してるがいい
さて、覚悟はいいか大吉? 次は、貴様の大嫌いなこの豆板醤をお見舞いしてやるぞ」
「くっ、ならばこちらは熱々の茹でたて枝豆で対抗してやる!」
「・・・・・・ふ〜ん
ちゃんと豆まきしてるかと思えば、そんな事してたんですか・・・
ねぇ、私も混ぜてもらってもよろしいですか?」
「ん〜、別にいいけど〜?」
「まぁ、女は皆豆を一粒持っているからな。資格は充分だろ
よし、お前にはこっちの三年前の納豆弾を食らわせてやろう。特別にトロロも混ぜてやる」
「えぇ、ありがとうございます♪ それじゃいきますよ〜?」
「ちょっと待ちなさい
・・・桜邪さん。貴女、投げるべき豆はどこに?」
「え〜? 何を言ってるんですか? 見て分かりません?」
「・・・すまんが俺にもわからん
お前が持ってるのが、寸胴いっぱいの汁粉だって事しか分からん」
「えぇ、出来立てですよ♪ じっくり煮込んだからとっても熱々です♪」
「・・・樫の木おじさんが先に豆をぶつけてきたんです」
「違う! 大吉がなんか豆をぶつけて欲しそうな顔をしてたから・・・」
「自白しました! 犯人が自白しましたよ隊長! えいえい! 嘘吐き鬼め! 鬼は外! 鬼は外!!」
「くっ、いい香りだ! この珈琲豆はコピ・ルアクだな!! 奢りやがったなテメェ!!!」
「憎むべき鬼も最上級のもてなしを――これがマスターの教えなんだ!!」
「食べ物で遊ぶなっつってるんですよ!!」
「・・・・・・その煮えたお汁粉をぶっかけようとするのは遊んでるうちに入らないんですか?」
「安心して下さい。投げるような馬鹿な真似はいたしません。飲ませます」
「・・・・・・確かに。食べ物で遊ぶのは悪い事だと思う。思うが・・・・・・俺達の命を弄ぶのは悪くないのか・・・?」
「いやぁ、貴方達が何度お説教しても私の言う事を聞かないのは、
多分悪い鬼が憑いてるからなんですよ。ですから、この霊験あらたかな豆で作ったお汁粉を飲めば、
体の中から鬼が追い出されて、きっといい人に生まれ変われると思うんですよ♪」
「・・・・・・私達がやってたのは節分ってイベントですよね? 魔女裁判じゃなくて」
「まぁ、細かい事は置いとくとして、冷めないうちにぐいっといっちゃって下さい♪
大吉さんのっ ちょっといいとこ見てみたいっ はいイッキ! イッキ! イッキ!」
「う・・・うう・・・(寸胴を押し付けられて泣きそうな顔)」
「鬼は――外!」
バッ!!
「!? これは――湯葉!!?
くっ、顔に張り付いて前が見えません!!」
「今だ大吉! ここはひとまずこの陣地を放棄する!!」
「わ、分かった」
〜5分後〜
「・・・で、これからどうする?」
「うむ、あの馬鹿女は最早復讐の鬼と化した
ここは一つ、俺達の手で葬ってやるのがせめてもの情けと言うものではないか」
「・・・まぁ、私もあんな拷問みたいな方法で殺されたくないしねぇ」
「よし、無事生け捕りにできたらじっくり因果を含めてやろう
なに、相手は鬼だ。つまり何をしても構わない悪の権化だ。たっぷりいたぶってやろうじゃないか」
「・・・昔の朝廷もこうやってまつろわぬ民を弾圧してたんだろうなぁ」
「よし、と言うわけで頑張れよ戦闘隊長。俺は調教部門を担当するからな」
「・・・・・・は? なんで? 私にアレと戦えと?
あの『痕』の二次創作に出てきそうな戦闘力持った奴と?
そんなんムリに決まってるだろ! どうせならU−1呼んで来いよU−1!!」
「・・・・・・何のためにさっきお前を生かしたと思ってるんだ?(心底不思議そうなツラで)」
「・・・・・・あそこで死んでた方がまだ幸せだったかも知れん
うおお・・・この世で一番借りを作っちゃならん奴に借りを作っちまったのか私は・・・!
『エリートヤンキー三郎』の河井を生命保険の受取人に指定するよりも早まった真似しちまった・・・!」
「正義は我らにあり! と、言うワケでだ大吉。これを使え(パラパラと手に豆を数粒乗せる)」
「・・・大豆? 今更こんなもんでどうなるって言うんだ?
あっちは豆を指で弾くだけでこっちの脳天ぶち抜ける怪物だぞ。せめてグレネードランチャーぐらい使わせてくれ」
「まぁ、よく聞け。向こうも今までの流れからただの豆は使うまい
使うとすれば・・・そうだな。カラバル豆辺りを使ってくる可能性が非常に高い」
「カラバル豆?」
「アフリカで『裁きの豆』って言われてた豆でな
そいつに罪があるか無いかを試すために使われていた豆だ」
「豆で? どうやって?」
「簡単だよ。その豆をだな、飲み込ませてだな
生きてたら無罪、死んだら有罪だ」
「毒じゃねぇか」
「未開の地の裁きなんてそんなもんだよ。死んだ罪人だけが罪を赦されるんだ
だが安心しろ。アレはすぐに吐き出せば助かるシロモノだ。恐れずにぐいっといけ」
「・・・じゃあ、この豆は? その流れからすると、ただの大豆じゃないの?」
「俺特製、俺の豆!(関俊彦ボイスで)」
「・・・・・・胡散臭さが極まったので明確な説明を求めます
さもなければこの手にあるものをあんたの口めがけて放り込む」
「や、やめろ! 殺す気か!! 言うからちょっと待て!!」
「・・・そんなにヤバイ豆なのかこれ(とりあえず臭いをかいでみる)」
「つってもお前に専門の説明は分からんだろうからなぁ・・・
まぁ、分かりやすく言うとだな。この惑星の食糧事情を憂いた俺が作った、遺伝子組み換え1200%大豆だ」
「組み換えすぎだろそれ。ビオランテだってもうちょっと原型留めてるよ」
「なぁに、新しい物に対しては最初は誰しも安全性を疑うものだ
だが、やがて気付くのさ・・・この豆のおかげで救われた大勢の命の尊さと言うものに・・・」
「・・・待て。さっきあんた口に投げ込もうとしたら「殺す気か!」とか叫ばなかったか?」
「・・・救えるはずだったんだがなぁ
やっぱり遺伝子工学は専門外なんだよなぁ。まさかこんなのができちまうとは」
「・・・そんな凄いものなの、これ?」
「ば、馬鹿! こっち向けるなよ!
まかり間違って素肌についたらどうするつもりなんだ!!?」
「なんつーもん握らせてくれてんだテメェ!!(地面に豆を叩きつける)」
「あぁ!? よりによって地面にぶち撒けやがったこの低脳!!
あ、ああ・・・この土地はもう終わりだ・・・むこう百年はこの地は『地獄』と呼ばれるようになるだろう・・・
お、俺は知らん! 俺は知らんぞ! 全てお前の責任なんだ!!」
「・・・この始末は後できっちりつけさせるとして・・・なんかさっきから妙な音がしない?」
「ん? 言われてみりゃ・・・木が倒れるような音がするな」
「むぅ、なにやらメキメキと・・・ものすごく不吉な音だ」
「あ、俺わかった(空を見上げながら)」
「・・・先に空を見たおじさんが羨ましいなぁ
こっちは下を見ちゃったから・・・なんか大きな影がどんどん濃くなってるのが怖くてもう上が見れない」
メキメキメキメキメキメキ・・・ドシャアアアアア!!
「ジャックと豆の木(ジャイアント・ジャック)です!!」
「アレは・・・・・・まぁ、もう避けようとしても「無駄無駄無駄ァッ!」ってとこだろうねぇ」
「ああ・・・なぁ大吉、最後に一服できるもん持ってないか?」
「ん〜、さっき桜邪からパチった恵方巻きならあるよ」
「じゃあそれ貰うわ・・・一本しか無いのか?」
「半分こすればいいでしょ」
「・・・だな」
「・・・なんか言い残す事、ある?
恵方巻き食べてる間は、喋っちゃいけないものだしさ」
「そうだな・・・・・・『いただきます』」
「生まれ変われるなら・・・福が内に来るような人生がいいね・・・」
(一本の恵方巻きを互いに反対側からかぶりつき、真ん中から千切る)
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ドグシャアアアアアアアアア!!!
「(二人の圧死体を発掘して)
・・・・・・なんでこの人達はまとめて潰されて死ぬ直前だったと言うのに・・・
最後まで互いを盾にしようと争った形跡が見られるんでしょうか・・・?」
「う・・・うう・・・恵方巻きの反対側にだけ毒豆を仕込んだトリックが・・・」
(圧死体)「不意打ちで恵方巻きを押し込んで先に窒息死させてから盾にしようと思ったのに・・・!」
「・・・ほんと、死ぬほどハードボイルドが似合いませんね貴方達
はぁぁぁぁぁ(深い溜息) もういいですから。ほら、一緒に年の数だけ豆食べましょう?
貴方達の場合、『鬼』が憑いてるって言うかもうそのものみたいで払えそうになさそうですから・・・」
「じゃ、私は21粒と端数でも食っておくか(モグモグ)」
「・・・え〜と、下一桁から確か5、8、7、1・・・・・・・・・めんどくせぇから食えるだけでいいや(モグモグ)」
「・・・どうやったらこの厄い連中を落とす事ができるんでしょうねぇ・・・?(モグモグ)」