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ショウの感想はとりあえず置いておいて、まずは賞レースの結果に関する所感をいくつかつらつらと並べてみようと思う。(長文ごめん)



■ 作品賞 ミリオンダラー・ベイビー Million Dollar Baby ( Warner Bros )

いやビックリ。いかにもアカデミー賞向きの大作「アビエイター」を抑えて評価の高い小品「ミリオンダラー・ベイビー」が逆転受賞するという筋書きは決して予想の難しいことではなかったものの、実際にそうなる可能性はかなり低いと思っていた。見た後しばらく立ち上がれないほどの衝撃作という感想は伝え聞いていたが、同時にイーストウッドならではの問題作でもあると聞いていたからだ。

本番でのこうした逆転劇と言うと、今回に似たケースでは「羊たちの沈黙」が「バグジー」を逆転したときのことを思い出す。あの時も最多候補の本命「バグジー」を「羊たちの沈黙」が主要部門総なめで下した。その後「羊たち〜」が90年代を代表する映画になったように、今回の「ミリオン〜」も長く語り継がれる名作となるのかもしれない。

結果的に今回「アビエイター」が受賞できなかったのは、実はアカデミーがイーストウッドとディカプリオとの二択を迫られていたからかもしれない
ハワード・ヒューズの半生を描いたこの大作は、主演のディカプリオ自身も製作に名を連ねる渾身の一作として知られていた。俳優によるこうした積極的な取り組みは評価されることが多いものの、「タイタニック」の成功で名声と富を手にしたディカプリオという時代の寵児が豪華絢爛なビッグ・バジェット・ムービーを作ったという事実に、少なからずやっかみの気持ちが働いたとしてもおかしくない。
個人的には「タイタニック」後の苦しみを乗り越えたディカプリオの今回の功績は評価したいのだが、ミラマックス&スコセッシという強力なバックアップの前で輝く彼の姿がアカデミーには少々まぶしすぎたのかもしれない。

低予算の「ミリオン〜」が大作「アビエイター」に勝利した今回の結果を、アカデミーの品質重視への方向転換と評価する向きもあるが、それでは批評家賞で圧勝した「サイドウェイ」が脚本賞のみの受賞に終わったという事実を説明できない。今回の結果にはやはりまだまだアカデミー賞ならではの複雑にして怪奇な裏事情が含まれていると考えるのが妥当な気がしてならない。



■ 監督賞 クリント・イーストウッド (ミリオンダラー・ベイビー)

今年の授賞式で最大の焦点とされたのがこの部門。世界中のマスコミが無冠のマーティン・スコセッシとハリウッドのスター、クリント・イーストウッドの対決を煽ったおかげで、授賞式終盤に至っても映画ファンの熱気はおさまることがなかった。だが、対決に勝ったイーストウッドは授賞式後のインタビューで今回のマスコミによる演出を「私はマーティン・スコセッシの全ての仕事を尊敬している。彼との競争のように騒がれてしまったのは残念だ」とコメントしている。

さて、マーティン・スコセッシ悲願成就の年という下馬評を誰もが信じて疑わなかった賞レース序盤戦から、どのようしてこのような逆転劇が実現したのか。答えは意外と簡単なものかもしれない。作品賞同様、会員たちはこの部門もディカプリオとイーストウッドの対決と見ていたのだ。

今回の「アビエイター」では、スコセッシはディカプリオからの依頼を受けた、言わば”雇われ監督”でしかない。1億1000万ドルという巨費を投じるような大作は、本来「タクシードライバー」や「レイジング・ブル」といった傑作を生み出してきた彼の作るべき映画ではない。作品の評によれば、スコセッシの匂いは限りなく希薄だと言う。長いキャリアで身につけたテクニックで大作を無難にまとめあげ高い評価を獲得したが、それはスコセッシ本来の仕事ではないとアカデミーは判断したのだろう。これが仮に無冠(だった頃)のスピルバーグの作品だったなら、アカデミーは素直にオスカー像を進呈したかもしれない。

アカデミーは常にハリウッドのスターとしてわが道を歩んできたクリント・イーストウッドを選んだ。だがそこには、NY派のスコセッシに対する拒絶反応はもはや存在しなかったはずだ。(そう思いたい)スコセッシが悲願を達成するのは、彼がホームグラウンドであるNYで撮った作品であって欲しい。ミラマックスやディカプリオの助けは必要ない。



■ 主演男優賞 ジェイミー・フォックス (Ray/レイ)

9月に作品が公開された時点で賞レースのトップにランクされ、そのまま下馬評通りにオスカーを受賞するというのは意外に難しいことだ。事実、フォックスにもイーストウッドというライバルの影が迫り、彼の受賞を脅かした。「ミリオン〜」が主要4部門を制した流れにあってイーストウッドの追い上げを振り切ったこの結果は、実際には”順当な勝利”と片付けられない薄氷の勝利だったのかもしれない

フォックスにはオスカー受賞を阻む不安要素が実はいくつもあった。黒人俳優であることは言うまでもなく、まだ38歳と若いこと、コメディアン出身であること、パーティ好きの遊び人という報道がちらほらと聞かれたことなど・・・。これだけのマイナス要素の中、よくぞ受賞できたものだと逆に評価したいほどだ。それだけ今回のフォックスの演技はズバ抜けていたと言う証拠だろう。

ただ、フォックス自身も自らのマイナス要因を払拭すべく努力はしていたようだ。俳優組合賞やゴールデングローブ賞での受賞スピーチでは、天国にいる祖母に感謝の意を表し、情に厚い常識人であることをアピールした。時には感極まって声を詰まらす姿さえ披露し(やや演技過剰ぽかったが・・)、アカデミーの情に訴えた。こうした営業努力がオスカー受賞に少なからずアシストしたという推測は強ち間違いでもないような気がする。

個人的には、授賞式で声を詰まらせたあのスピーチもフォックス流の演出であり、彼のしたたかさを見たような気がしてならない。でも、役者ってそれくらいでないとね。


■ 主演女優賞 ヒラリー・スワンク (ミリオンダラー・ベイビー)

アネット・ベニングの受賞はないような気がしていた。でも、ヒラリー・スワンクが2つのオスカーを受賞するというシナリオもどうしても描けなかった

世間では本命視されていたスワンクだが、この受賞は決して順当な結果などではない。アカデミー賞での実績は、俳優のランクを決定する最大の要素ともなりうる。ジョン・フォードがときにかの名匠ウィリアム・ワイラーより先んじて語られるのは、オスカー像の数によるものに他ならない。オスカー像には映画人のキャリアに対する評価を一変させる力がある。

だから、スワンクが2つ目のオスカー像を受賞したというのは、例えばこういうことなのだ

・ヒラリー・スワンクはジョディ・フォスターに並ぶ名女優である。
・ヒラリー・スワンクはベティ・デイヴィスに並ぶ名女優である。
・ヒラリー・スワンクはメリル・ストリープを超える名女優である。


他にも、スワンクはエリザベス・テイラーやジェーン・フォンダ、ヴィヴィアン・リーと肩を並べ、オードリー・ヘップバーンやシャーリー・マクレーンといった大物女優を超える存在になった。

俳優の序列に細心の注意を払ってきたアカデミーが、まさかこんな異例の人事を行うとは・・・。この”序列”に泣かされてオスカー受賞のチャンスを逃してきた例をいくつも知っているだけに、スワンクの受賞はありえないと高を括っていた。

そういうわけで、もしヒラリー・スワンクの受賞が下馬評通りの順当な結果と少しでも思っている人がいたら、認識を改めて欲しい。スワンクの受賞は近年でも最大級の事件と言っていい。彼女の受賞にこそ、アカデミーの性質が変わりつつある兆しが見てとれる。


■ 助演男優賞 モーガン・フリーマン (ミリオンダラー・ベイビー)

ある意味、この部門でのフリーマンの受賞は、アカデミー賞というイベントにおいて恒久的に変わることのない性質を物語っている。たとえ低予算の作品が大作を打ち破ろうとも、序列を無視した選出が行われようとも、キャリア評価による功労賞が消えてなくなることはないという事実だ

フリーマンには申し訳ないが、今回の彼の受賞は約8割が彼のこれまでの功績に対して与えられたものだろう。「ミリオン〜」を未見なので断言は出来ないが、海外の予想サイトによれば、彼は過去にも似たような役柄を演じたことがあり、決して今回の演技が突出しているわけではないと言う。にも関わらずフリーマンが受賞できたのは、やはりこれまでの功績によるところが大きい。

本来ならば、フリーマンは出世作となった「ストリート・スマート」でオスカーを受賞して然るべきだった。あの映画で見せた演技こそ彼の真骨頂だ。今でこそ貫禄あるベテランといったイメージの強いフリーマンだが、アカデミー会員たちはあの映画で見せた強烈な個性を忘れてはいないだろう。今回手にしたオスカー像の半分は、あの映画に対して贈られたものだと僕は勝手に思っている。


■ 助演女優賞 ケイト・ブランシェット (アビエイター)

ケイト・ブランシェットはまだ主演賞候補の経験が1度しかないにも関わらず、世間ではオスカーの常連というイメージが強い。受賞して当然の「エリザベス」で賞を逃して以来、毎年のようにオスカー戦線を沸かせてきた彼女だが、何故かあと一歩のところで候補入りを逃してきた。突出した演技力でポスト・メリル・ストリープとも騒がれ、毎年オスカー受賞を期待されてきた。そんなわけで、まだ若い彼女にいつしか”アカデミー賞に縁のなかったベテラン”というイメージが定着してしまった。

そう、誤解を恐れずに言うならば、今回のブランシェットの受賞もある意味功労賞に近い

伝説の女優キャサリン・ヘップバーンを演じきった力量を疑う声はないものの、ジェイミー・フォックスがレイ・チャールズになりきったそれと比較すると、モノマネ演技と敬遠する声は決して少なくなかった。これまで満場一致で高い評価を勝ち取ってきたブランシェットからすれば、今回の評価は平均点をクリアした程度に過ぎない。

決して彼女のベスト・パフォーマンスではないとする声が大きいにも関わらず受賞できたのは、女優としていかに評価されているかという証拠だ。彼女がこの先、より素晴らしいパフォーマンスを見せて再びオスカー像を手にすることへの期待値がこめられているのは明らかだ。


■ 脚本賞 チャーリー・カウフマン (エターナル・サンシャイン)

ああ嬉し。
カウフマンもついにアカデミーに認められるときがきた。「マルコヴィッチの穴」も「アダプテーション」も本命視されていたにも関わらず受賞を逃して悔しい思いをしていただろうから、今度こそ受賞できて本当によかった。今回も「Hotel Rwanda」と「ヴェラ・ドレイク」が強敵として立ち塞がっていたので、半分ダメかなぁと思っていたのだけど。


「エターナル〜」はこれまでのカウフマン作品の中ではテーマも普遍的でわかりやすいんだとか。もともとのアイデアが監督のミシェル・ゴンドリーの友人から来ているようなので、カウフマンの強すぎるクセがゴンドリーらの介入で中和されて一般受けしやすくなったということか
どちらにしろ、めでたい。


■ 脚色賞 アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー (サイドウェイ)

「ハイスクール白書」のファンとしてはこちらの受賞も嬉しい。このコンビが書く脚本はコメディの皮をかぶった緻密な人間観察のドラマなので、今回の脚本もきっとクスクスと笑わせながらしんみりと考えさせられるものに仕上がっているはず。

今回の成功は、良質な脚本がメジャーとインディペンデントの垣根を越えて成功することを示した貴重な前例になる。興行的にも成功をおさめたことで、これまで苦労していたであろう資金繰りにもしばらくは悩まずに済むだろう。

ペイン監督の次回作は宝くじを当てた親子の珍道中を描く「Nebraska」。って脚本書いてないじゃん・・・。


■ 撮影賞 ロバート・リチャードソン (アビエイター)

「コラテラル」がノミネートされていない時点で半分興味を失っていたのだが・・・。
リチャードソンはオリバー・ストーン映画のほとんどを手がけてきた人。スコセッシとは「カジノ」と「救命士」で仕事をしただけだが、今回はストーンでなくスコセッシとの仕事を選んで大正解。よしみで「アレキサンダー」を引き受けていたらひどい目にあっていたところだった。こういうことってあるんですねえ・・・。


■ 編集賞 セルマ・スクーンメイカー (アビエイター)

スコセッシ映画を支え続ける女流編集者。トリッキーで刺激的な手法も多いスコセッシ映画の中核をなす人だけに2つ目のオスカーは遅すぎたくらい
今後もスコセッシとのコンビは続くだろうので、3つ目のオスカーも夢じゃない。編集賞部門は毎年注目しているが、今年はとるべき人がとったという感。


■ 美術賞 ダンテ・フェレッティ他 (アビエイター)

7回目のノミネートでようやく受賞。授賞式でのイタリア訛りのスピーチは印象的だった。時代物を専門としている感があるけど、「バロン」みたいなファンタジーも手がけているのね。


■ 衣装デザイン賞 サンディ・パウエル (アビエイター)

スコセッシとは「ギャング・オブ・ニューヨーク」以来2度目のコンビ。時代物の第一人者で、今回の受賞も当然の結果か。実在のスターたちが着こなしたドレスにオリジナルの想像力を盛り込む作業は決して平坦なものではなかったはず。豪華絢爛な世界の再現に一役も二役も買った功績はオスカー受賞にふさわしい。


■ メーキャップ賞 ヴァリ・オライリー他 (レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語)

ライバル2作品に比べ得点を稼ぎやすいファンタジー作品。しかもジム・キャリーという広告塔も大きなアピールになった。作品に大きく貢献したはずなのに、壇上に呼んでもらえなかったのは可哀想


■ 作曲賞 ヤン・A・P・カチュマレク (ネバーランド)

ライバルたちがノミネート資格剥奪やら申請忘れやらで脱落していくのを尻目にスイスイと漁夫の利を得た印象だけど、よく聞けばスコアはとても美しく、これからスタンダードになる可能性も十分。カチュマレクも今後ハリウッドで重宝されることになりそう。


■ 主題歌賞 "Al Otro Lado Del Riacuteo" by ホルヘ・ドレクスラ (モーターサイクル〜)

サンタナが弾きバンデラスが歌う。授賞式で披露されたパフォーマンスの中では最も印象的だった。スペイン語の歌曲は初ノミネートで初受賞。壇上に上がったドレクスラが美声を披露したスピーチは素晴らしかった。


■ 録音賞 スコット・ミラン他 (Ray/レイ)

グラミー賞も含め、音に関しては今年レイ・チャールズに敵うものなし


■ 音響効果賞 マイケル・シルバー他 (Mr.インクレディブル)

素晴らしい作品なので、長編アニメ部門以外でも賞をあげたかった。ここで受賞できてよかった。


■ 視覚効果賞 ジョン・ダイクストラ他 (スパイダーマン2)

あれだけ評判のよかった作品だもの。視覚効果賞くらいはあげないと。


■ 外国語映画賞 海を飛ぶ夢 (スペイン)

たしか授賞式の案内役を務めた大林宣彦監督が、「海を飛ぶ夢」をこれまでの77回の外国語映画賞受賞作品の中でも最高の作品と褒めちぎっていた。そこまでスゴイのか!?
「アザーズ」でハリウッド進出をいとも簡単に成功させ、その後未練なく本国に戻って本作を撮りあげたアメナーバルは確かにタダ者じゃない。彼が尊厳死っていう複雑で繊細なテーマにどんな答えを用意しているのか楽しみ。


■ アニメーション映画賞 Mr.インクレディブル

文句なし。興行成績では「シュレック2」に遅れをとったけど、映画としての出来、そして楽しさならこちらが何倍も上。アニメーションの枠を超えた、というよりも、アニメーションであることの特性をこれ以上ないくらい生かしきったという評価が正しい気がする。ブラッド・バードは「アイアン・ジャイアント」も素晴らしかったが、あれからまた進歩している感じ。次回作が楽しみだ。


■ ドキュメンタリー映画賞(長編) Born Into Brothels

モーガン・スパーロック、残念!
受賞した「Born Into Brothels」はインドの売春宿の子供たちを描いた作品だとか。昨年の「フォッグ・オブ・ウォー」に比べると地味だが、オスカー受賞で日本公開への道も開けた。ぜひとも公開にこぎつけてほしいものだ。昨年受賞を逃した「Capturing the Friedmans」は全く公開の目処がたってないし・・・。


■■■ 最期に

アカデミー賞が変わりつつあるというのは事実なんだと思う。従来ならありえないヒラリー・スワンクの受賞や「ミリオンダラー・ベイビー」の逆転勝利、さらにはジョニー・デップの連続ノミネートや「ヒトラー 最期の12日間」のような問題作のノミネートなどは、芸術性への純粋な評価とそれ以外の要因との比率が変化してきていることを示す証拠だ。
その一方で、「サイドウェイ」のアンサンブルキャストに対する低評価などは、アカデミー本来の体質が依然として厳然として存在することを表している。
変化の兆しはあっても、アカデミー賞はやっぱりアカデミー賞なのだ。別にそのことを悲観的に思っているわけじゃない。あらゆる要素の上で選考されるからこそ、アカデミー賞は面白い。僕はそういうアカデミー賞が好きだから、それでいいのだ。