4.心の変化に影響を与える要因


 これまでに、私の心の変化に影響を与えた要因として、病状の進行状態、医療や福祉サービスの状況、私自身のものの考え方、などについて話をしてきました。
 しかし、それ以外にも、私の心に影響を与えた要因があったと思います。それらをまとめてここに列記いたします。

(1)介護者自身のものの考え方、価値観、性格        
この要因は、まさに本質的なもので、私の場合は、妻に対する愛、感謝の念、勇気といったことを持ち合わせていたのが幸せでした。しかし、中にはこれらの気持ちの整理がつかないまま、親を引き取らざるを得なかった、といった方もおられるでしょう。そうした方々は、現状を何とか改善しようと努力することは少ないかもしれません。
観点を変えてみますと、これまでの病人と介護者の人間的なかかわり方がどうであったか……ということが、介護の質を決める大きな要因と言えるように思います。愛情や信頼の念にうら打ちされて、日々を二人たずさえて過ごしてきたような場合には、安定した精神状態の中で、ベストなことをしてやろうとする努力への力が湧いてくるのではないでしょうか。
(2)病状の変化
一般に病状が快方に向かっていると確信できる場合には、心は明るく希望が湧いて来ます。しかし、日に日に病気が進行していると思われる場合は、心が沈まざるを得ないでしょう。ところが、私の場合、病状の進行と共に心の平穏が得られて来たと、申し上げました。
考えてみますと、病状という中には、病人がとる行動も含まれており、その行動の変化が、私の心に影響を与えたと思います。つまり、病状は進行しているものの、それにつれて、妻の行動は弱々しく、おとなしくなり、私自身の心理的なイライラは少なくなりました。
(3)医療・福祉サービスの状況
望む時に、望ましい医療や福祉サービスが受けられるかどうかも、私の心の変化に大きな影響がありました。妻の病気の初期的段階では、率直に申しまして、医療は介護者である私のためには殆ど力になりませんでした。この不信、不安は私の心を暗くしたことは間違いありません。
  一方、今日のように医療をはじめ、これ以上ないと思われるくらいの体制が出来た状況では、大いなる心の安定を得ることができています。
(4)生活環境の変化
私の場合、妻の発病から4〜5年の間は会社に勤務していましたので、仕事と介護という一人二役を演じていました。しかし、退職(これを生活環境の変化と称しています)を機に、介護に専念することとしましたので、介護の状況は、一変し、前述の介護体制づくりなど、良い方向へ良い方向へと、ことが回り始めたように思います。
  とはいえ、一般的に考えて、介護に一人で専念するのが良いのかどうかについては、これまでの病人と介護者の人間的な関わり方がどうであったかによって専任が必ずしも良い結果になるとは限らない気もします。
(5)親、兄弟、姉妹、子供、親戚などの関わり方
子供がいなかった(両親は他界)私たちには、頼りとするなら兄弟姉妹ということになりますが、何度も申しますように、現在は地場で最高の医療・介護チームに囲まれていますので、この必要性を余り感じていません。仮に頼りたい近親者がいたとして、彼らが期待に応えてくれなかったなら、却って心理状態を悪くするかも知れません。あくまで、在宅介護のためには、地場でベストのチームを作り上げることこそ重要だと思います。
(6)経済的背景
将来に向けて経済的な不安がある時は、決して心の安定にプラスにならないでしょう。また、当面の問題として、新しい介護機器を購入したいのだが先立つものがないといった場合なども、心は穏やかにはなれません。この問題を今から解決しようとすることは、殆ど不可能かも知れません。しかし、介護者の心に影響を与える要因の一つであろうと思い、ここに取り上げました。
 (7)介護者の健康状態
私は、介護に専念するようになって約半年後に、腸閉塞で急遽入院するというハメになった経験があります。この間、妻を別の病院に入院させていただき、辛うじて切り抜けました(その際には、社会福祉事務所と保健所の方に大変お骨折りをいただきました)。入院期間中、妻のことが気になり、大変つらい思いをしました。勿論、腸の痛みも並ではありませんでした。このような突発的な場合だけでなく、持病を有するとか、病弱といった場合なども、つらい介護になるでしょう。介護者の健康が介護の絶対的必要条件です!!
(8)これらの要因整備の必要性
私が今思いますには、
        最高の介護をする↓

        そのためには↓

        心の平穏がなければならない↓

        それを得るためには↓

        心に影響を与える要因を改善せねばならない        
という図式があるように思います。
  要するに、心の平穏が得られないのに、良い介護が出来る訳がない、と言いたいのです。そこで、心の平穏を得るための要因を探し出してその満たされない要因を改善していく(ただ、本人の努力だけで改善できない要因もあります。例:経済的背景)ことによって、心の階段を上がって行き、良い介護につなげて行く必要がある――というのが私の考えです。

CANADA私の描いた油絵(カナダ)