Subject: 水質汚濁に係る農薬登録基準値(案)に対する意見 --------  2020年5月8日 中央環境審議会土壌農薬部会農薬小委員会事務局 環境省水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室 御中 反農薬東京グループです。標記意見を投稿します。 【意見1】わたしたちの認識は以下です。  農薬取締法では、植栽管理に使用され、環境中に放出された農薬が水系を汚染した  結果、人畜に影響を与えることを防止するため、水質汚濁に係る農薬登録基準が  設定されている。この基準は、農薬登録の可否を決めることを目的にしており、  『水質汚濁の観点から予測される公共用水域の水中における当該農薬の成分の  濃度(水濁PEC;水質汚濁予測濃度)が、農薬の毒性及び残留性に関する試験成績  に基づき環境大臣が定める基準値に適合しない場合には、登録できない』と  なっている。   人畜とは、人、家畜、養蜂ミツバチなどをいうが、人への影響が重要視され、基準  の算出にあたっては、当該農薬の人に対するADIがベースとなっている。   そのため基準値は、一日あたりの水からの摂取がADIの10分の1以下になるよう  設定される。すなはち、成人の体重53.3kg、水摂取量2L/日と仮定し、一日あたりの  1人の当該農薬の摂取量が、   ADI(mg/kg体重/日)×体重(kg)÷2(L/日)×0.1=ADI×2.665(mg/L)が  農薬登録基準となる。この数値は、水道法による水質管理目標設定項目にある目標値  と同等である。   しかし、わたしたちは、厚労省の現行水道目標値について、『「水質管理目標設定  項目」の総農薬方式に反対し、EU=ヨーロッパ連合で行われている単一農薬濃度で  0.0001mg/L=0.1μg/L、総農薬濃度で0.0005mg/L=0.5μg/Lのような管理方式をとる  べきである』と主張しており、科学的根拠が不明なまま、水からの摂取を各農薬成分  のADIの10分の1を超えなければ、問題ないとの考えを受け入れていません。  たとえば、IARCが発がん性ランクを2Aクラスとしている除草剤グリホサートの  ADIは1mg/kg体重/日と高いため、日本の水道目標値は、約2mg/Lですが、EUの  基準は100ng/Lとなります。  さらに、わたしたちは、食品安全委員会が設定したADIにも、高すぎるとして反対 する場合もあることを付言し、【意見3】以下で、提案された個別の農薬ごとに意見を 述べます。」 【意見2】農薬登録基準でいう「農薬」は植栽管理にもちいる化学物質に限定され、 同じ成分でも、農薬以外の用途で使用され、水系を汚染していても、基準と比較される のは、農薬について算出される『水濁PEC;水質汚濁予測濃度』という推定値です。  農耕地、山林、その他生活環境での農薬使用による河川・湖沼、海水、地下水などの 水系汚染だけでなく、農薬と同じ成分が、農薬以外の用途(シロアリ防除・木材保存用、 防疫・衛生害虫。動物用医薬品、不快害虫用、非植栽用除草剤=鉄道・道路・空き地・ 運動場ほか、衣料防虫剤、その他PPCP=ファーマシューティカル・アンド・パーソ ナルケア・プロダクトなど)から、直接又は一般家庭や工場、廃棄物処分場、下水処理 場などの排水を通して、水系に流入していることを無視してならないと考えます。  そのためには、上記の推定値である水濁PECと一般・市街地区、農林業地区、工業地 区、廃棄物処理地区などに区分した広範な環境中の汚染実態を比較し、その妥当性を検 証することが必要だと思います。   [理由] たとえば、、PRTR法の指定物質である農薬成分で、農薬以外の防疫用、 不快害虫用、シロアリ防除用として、排出されている化学物質の2018年度の数量と、 当該成分の農薬排出量(単位;kg/年)は、下表のようである。  成分名       非農薬   農薬            排出量   排出量  フィプロニル     4,646  13,517  エトフェンプロックス 4,326   74,180  テブコナゾール       2.8  81,027  トラロメトリン 1,165     347  フェンプロパトリン 385    6,432  テトラメトリン 33,314 0  プロピコナゾール 2,165 33,165  トリクロルホン 263 22,300  ダイアジノン 62 293,034  フェニトロチオン 16,858 337,592  フェンチオン 4,606 0  ペルメトリン 8,241 11,890  カルバリル 11,624   43,750  フェノブカルブ 12,772   17,416  ジクロルボス 51,985 0 【意見3】クロルピクリンの水質汚濁に係る農薬登録基準0.002mg/Lに反対である。  基準を云々するよりも、使わなければ、汚染しないを念頭に、登録を廃止すべき  第一の農薬である。  [理由]1、当該農薬は、刺激臭のある揮発性ガスで、水にも溶ける。また、毒劇法で 劇物指定、化学兵器禁止法では、トリクロロニトロメタンとの名称で第一種指定化学物 質とされている。  経気毒性の評価が不十分なまま、ADIを0.001mg/kg体重/日とし、作物での残留量の多 くが<0.005ppmがあったとして、70作物の残留基準が0.01ppmとされている。人への影響 は、食品からの摂取しか考慮されておらず、大気や水系からの評価は無視されている。   2.農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令では、圃場での使用後、被覆 することがもとめられているが、努力規定にすぎず、被覆なしや被覆しても、周辺住民 の受動被曝による健康被害が絶えない。   3、土壌処理された圃場周辺の大気を汚染し、住民から健康被害の訴えが、一番 多い農薬である。地下水を汚染し、井戸水から検出され、ひとの健康に影響を与えた例もある。   4、化学物質に過敏な人からの訴えがあるのに、使用者による周辺への周知義務が ない。   5、欧米では、登録がないか、資格認定者しか使用できない。たとえば、カナダで は使用にライセンスが必要であり、EUでは2012年6月から販売停止となっている。   6、当該農薬の農薬評価書では、食品からの推定摂取量TMDIは国民全体で0.007 mg/人/日=対ADI比で12.8 %と算出されており、水2Lからの摂取0.004mg/人/日を加 算すると対ADI比はさらに増加する。  <参考資料1>食安委の2018/10/24-11/22募集の食品健康影響評価パブコメ意見として    http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/chlo181122.txt  <参考資料2>厚労省の2019/10/07〜11/05募集の残留基準パブコメ意見として  http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/zrpc191105c.txt 【意見4】ジクワットイオンとして 水質汚濁に係る農薬登録基準0.015mg/Lに反対である。  フィールドでの汚染実態の調査を行い、基準を厳しくすべきである。  [理由]1、厚労省が20/02/23〜20/03/08に募集した「水道水の水質管理目標設定項目 の改正案」に関するパブコメ*で、上述の【意見1】で述べたように、ADI0.0058 mg/ kg 体重/日をベースにしたジクワットの目標値0.01mg/Lの設定に反対した。  なお、EUにおけるADIは0.002mg/kg体重/日である。   2、当該農薬の農薬評価書では、動物実験で『主に体重(増加抑制)、眼(白内障 :ラット、イヌ)、舌及び口蓋(炎症:ラット)並びに腎臓(尿細管拡張及び尿細管内 硝子滴形成:マウス)に認められた』と報告されているにもかかわらず、食品からの 推定摂取量の算出記載もされておらず、水2Lからの摂取0.030mg/Lで、対ADI比がどの 程度加算されるか不明である。。  <参考資料>* http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/mizu200308.htm 【意見5】セトキシジムの水質汚濁に係る農薬登録基準 0.23mg/Lに反対である。 フィールドでの汚染実態の調査を行い、基準を厳しくすべきである。  [理由]1、食品安全委員会の設定したADIは0.088 mg/kg体重/日であるが、  EUでは、登録されていないため、ADIは設定されていない。   2、当該農薬の農薬評価書では、食品からの推定摂取量TMDIは国民全体で  1.8549mg/人/日=対ADI比で38.3 %と算出されており、水2Lからの摂取0.46mg/人/ 日を加算すると対ADI比はさらに増加する。  <参考資料>厚労省の2019/12/16〜20/01/14 募集の残留基準パブコメ意見として       http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/zrpc200114seto.htm 【意見6】ペルメトリン の水質汚濁に係る農薬登録基準 0.1mg/Lに反対である。  フィールドでの汚染実態の調査を行い、基準を厳しくすべきである。   [理由]1、マウスの2年間慢性毒性/発がん性併合試験において、雌で肝臓及び肺の 良性腫瘍の発生頻度増加が認められており、また、神経毒性があるにも拘わらず、発達 神経毒性の評価もない。さらには、マウスの試験で、ペルメトリンを含む母乳を与えた 仔の脳発達への影響が示唆されていることなどから、食品安全委員会の設定したADI 0.05mg/kg体重/日は高すぎる。   2、当該農薬の農薬評価書では、食品からの推定摂取量TMDIは国民全体で  1.6852mg/人/日=対ADI比で61.2%と算出されており、水2Lからの摂取0.2mg/人/日 を加算すると対ADI比はさらに増加する。  <参考資料1>食安委の2019/01/30〜02/28募集の食品健康影響評価パブコメ意見として   http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/per190228.txt  <参考資料2>厚労省の2020/02/27〜03/27募集の残留基準パブコメ意見として  http://home.catv.ne.jp/kk/chemiweb/kiji2/zrpc200327per.htm 【意見7】ベンズピリモキサンの水質汚濁に係る農薬登録基準 0.069mg/Lに反対である。 フィールドでの汚染実態の調査を行い、基準を厳しくすべきである。  [理由]1:食品安全委員会の設定したADIは0.026mg/kg体重/日であるが、農薬評価 書では。ラットの2 世代繁殖試験において、F1 親動物の雌 1 例が異常分娩を示し、 出産率の僅かな低下及び児動物(F1 及び F2)の生存率の低下が認められたものの、 親動物の検体投与による体重増加抑制に関連した哺育不良による二次的な影響と考えら れたとされている。このような農薬は、出来る限り、水田での使用による水系汚染を防 止し、摂取量をへらすべきである。  2、当該農薬の農薬評価書では、食品からの推定摂取量は国民平均(体重55.1kg) で、0.120mg/人/日と算出されており、水2Lからの摂取は0.14mg/人/日と匹敵する。 以上