Subject: 生活環境動植物に係る農薬登録基準の設定について(第一次とりまとめ)(案)に対する意見 --------                     2018年12月15日 中央環境審議会土壌農薬部会農薬小委員会事務局 環境省水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室 御中  表記の件で意見を述べます。 氏名:反農薬東京グループ 職業:市民団体 【意見1】<生活環境動植物>を<生活環境動植物・生態系>とする  旧農取法条文にあった<水産動植物>をあらため、<生活環境動植物>とされ、法条 文での説明は、(その生息又は生育に支障を生ずる場合には人の生活環境の保全上支障 を生ずるおそれがある動植物をいう)というとなっている。  新農取法における<生活環境動植物>は、個々の生き物のイメージが強く、食物連鎖 や生物多様性保持をも含めた生態系全体を、表記の中に含めるべきと考える。  以後、わたしたちは、<生活環境動植物・生態系>という語句を用いることにする。 貴省も語句の重みを感じ、適切な用語を使うべきである。  [理由1]貴省の第一次とりまとめ案では、『これまでの水産動植物に係る農薬登録保 留基準に代わり、生活環境動植物に係る農薬登録基準を定める必要がある。その際には、 評価対象動植物を新たに選定するとともに、毒性試験(試験生物種の選定を含む)、ば く露評価及びリスク評価の方法を検討し、農薬登録申請者等に対する周知期間を勘案し て、これらを早期に示す必要がある。』とされている。  わたしたちは、11月の政令のパブコメ意見で、『「生活環境動植物」の選定において は、試験に供する水産動植物の種をふやし、かつ、個別種への毒性評価だけでなく、食 物連鎖を配慮した生態系全体への影響評価を行うべきである』と主張し、以下の理由を あげた、   ・水生生物の種をふやすだけでなく、両生類、トンボやミツバチなど陸生生物、ミ ミズなどの土壌生物や微生物、鳥類その他への影響評価が必要である。   ・農薬使用時期に減少した種が、食物連載でその種の上位にある他の生物の生育に 影響をあたえる点にも留意すべきである。−後略−  さらに省令のパブコメ意見では、『法改定に伴い、水産動植物を、生活環境動植物と 改めるとされているが、具体的な生物種があげられていない。すでに、個体数の減少が 問題となっているトンボ、両生類、野生のミツバチその他のポリネーターのほか、土壌 微生物やミミズ、野鳥等への影響調査が必要である。生物種の選定においては、国民の 意見を聞くべきである。また、個別種だけでなく、食物連鎖を踏まえた生態系全体への 影響防止をも責務とすべきである。』と述べた。  また、わたしたちは、2014年に、「農薬の登録申請時に提出する試験成績及び資料に 係る関係通知の改正案に関する意見」として、以下の意見を農水省農薬対策室に提出し ている ・補助成分の毒性明確化とポジティブリスト化   ・発達神経毒性、発達免疫毒性などの試験   ・ミツバチやポリネーター、天敵への影響評価   ・カエルなど両生類、鳥類への影響評価   ・ミミズなど土壌生物や微生物への影響評価   ・複数の農薬使用による環境への影響評価   ・生態系への影響、フィールドでの影響評価   ・人や環境へ影響調査と農薬の再評価制度制定   ・環境・生態系保護の視点をいれた、大気や水質、土壌の登録保留基準の設定   ・農薬処理された種苗、育苗箱で農薬処理された苗移植による環境影響評価  詳しくは、下記を参照されたい。。  <参照1>反農薬東京グループの意見:       http://www5e.biglobe.ne.jp/~ladymine/kiji/pcno140303.txt  [理由2]貴省案でも<生態>という言葉が使われ、『第2 農薬の生態影響評価に係る これまでの取組』とし、みずから、「農薬生態影響評価検討会」を設置し、生態リスク という言葉も使用している。  [理由3]EUの取組みの項でも『非標的生物種、生物多様性、生態系に受け入れ難い 影響を生じさせないことを目的として、陸域では鳥類、ほ乳類、ハチ類、その他の節足 動物、ミミズ、土壌微生物、土壌生物、非標的植物、水域では、魚類、無脊椎動物(甲 殻類等)、藻類、水草の毒性試験成績を要求し、ばく露量との比較によりリスク評価を 行っている』との記述がみられることを、紹介している。 【意見2】法条文にある<人畜><天敵>と<生活環境動植物>との関連について  <生活環境動植物>のあいまいな定義だけでなく、<人畜>と<天敵>との関連も不明 確であり、以下をきちんと説明されたい。 (2-1)農取法でも条文に<人畜>という用語が使われ、農水省は、いままでも、現実に問 題となっているネオニコチノイド類によるミツバチの被害防止について、<畜>として の養蜂蜜蜂を対象として調査し、対策を提示し、指導してきた。一方で、野生の蜜蜂は 環境省の問題だとしてきた。  新農取法で、養蜂蜜蜂及び野生ミツバチは、それぞれ、<人畜>、<生活環境動植物 >のいずれで、どのように対処するかを、明確にすべきである。 (2-2)農取法では、『防除のために利用される天敵は、この法律の適用については、これ を農薬とみなす』とあり、登録された天敵昆虫、天敵線虫や微生物などを有効成分とす るいわゆる生物農薬らが該当する。  また、農水省、環境省告示第一号(平成十五年三月四日)では、法第三条にある<特 定農薬>の中に天敵を含めており、『天敵:昆虫綱及びクモ綱に属する動物(人畜に有 害な毒素を産生するものを除く )であって 使用場所と同一の都道府県内採取』とある。  これら天敵等が、農薬として使用されなくとも、自然界で活動し、作物保護に役立っ ている。  農薬を使えば、天敵生物への影響を避けられないことについて、貴省の見直し案では、 有害な農薬の使用量を減らして、環境中の生き物を保護しようとする姿勢が希薄である。  天敵を<生活環境動植物>として、どのように位置づけるかを、明確にすべきである。  [理由1]貴省は、天敵農薬に係る環境影響評価ガイドラインなどで、登録天敵を取締 っている。  [理由2]貴省が取締対象にしている個別の天敵農薬については、放飼地域における定 着性の有無と元々生息している生物への影響(寄生・捕食、競争、交雑)が懸念される。  天敵類が外来種の場合、在来種が影響を受けるし、外来種が作物生育に有害な場合、 その天敵が存在しないと、あらたな被害につながるなど、生態系は複雑であり、対応策 が不明確のままでは、病害虫、天敵、ただの虫、外来種の生活環境動植物・生態系の位 置づけに混乱をきたす。  [理由3]農薬要覧によると生物農薬は、殺虫剤46種、殺菌剤21種ある。また、農林水 産政策研究所は、国の生きものマーク米一覧で、水稲に利用される生き物のをあげて いる。ちなみに、これらは、生活環境動植物・生態系で影響を評価すべき生き物の参考 になる。  <参照2>農林水産政策研究所;環境プロジェクト研究資料第2号(2010年12月)      生物多様性保全に配慮した農業生産の影響評価とその促進方策、  http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/101224_22kankyo2.pdf#page=12 【意見3】予防原則の適用について  貴省は、生活環境動植物・生態系の影響について、毒性試験、ばく露評価及びリスク 評価の内容を検討するとのことだが、これらは、予防原則の立場で、実施すべきである。  環境に悪影響を及ぼす農薬使用を減らすには、予防原則が重要である。特に、生殖系 や神経系、免疫系などへの影響、内分泌系撹乱作用による不可逆的な影響が懸念される 場合、ヒトや生態系への影響メカニズムが完全に科学的に究明されてから、規制するの では遅すぎる。  [理由1]従来の評価手法は、環境汚染についていえば、自然の力によって回復すると の仮定の上にたっているが、予防原則では、ヒトの活動は、環境になんらかの影響をあ たえるので、環境への負荷をできる限り減らすというのが原則である。  [理由2]ヒトや自然に対する化学物質の作用は不確実なものであり、ヒトの健康や生 態系に被害を及ぼすおそれのある行為は、因果関係のメカニズムが科学的に完全に立証 されていなくとも予防的措置を講ずるべきであるというのが予防原則である。  [理由3]予防原則の手法では、毒性試験データや環境調査などの情報がすべて公開さ れていることが必須条件であり、ものいわぬ自然界の生き物をできる限り守ることを目 指すべきである。  ちなみに、2009年の「我が国における農薬登録制度上の課題と対応方針(案)につい ての意見」で、私たちは、情報公開の徹底を求めたが、公開されている農薬抄録は、201 8年12月12日現在255成分であり、多くの試験データの数値は隠され、試験に用いた成分 の純度すら非公開となっている。メーカーと一般国民が対等の立場で、話し合えるには、 情報公開を徹底することが不可欠であり、農薬の毒性及び作物残留性等のデータについ ては、いままでのように、守るべき企業の財産として、公開を拒むことは、許されない。 国民への情報公開を原則とし、企業秘密の保持に関しては、別途の法的制度で守ればよい。  [理由4]従来の評価手法では、基準値が決められ、部分的な規制にとどまることが多 い。予防原則の手法ではこのようなことは許されない。  ヒトや生態系に危害を及ぼすことはないという証明はすべて、その化学物質を製造販 売する業者に課せられることになる。もし、証明ができなければ、製造販売の禁止措置 がとられることにつながるわけである。  [理由5]化学物質の内分泌撹乱作用は、毒性発現機構として、細胞や遺伝子を傷つけ ず、無毒性とされていたよりも低い量で、種の保存や生命維持、成長、行動等に影響を あたえるケースがあることを示唆している。  従来の毒性試験だけでは、化学物質がヒトや野生生物にどのような影響を及ぼすかを 予測するのに十分でない。  国連環境開発会議での"環境と開発に関するリオ宣言"(1992 年)には「環境を守るた めに、各国はその能力に応じて予防的アプローチを広く採用する。重大なあるいは回復 不能な損害の脅威がある場合、充分な科学的根拠がないことを理由に費用対効果の高い 環境悪化防止策が先延ばしされてはならない」との原則がある。 【意見4】生活環境動植物・生態系への影響評価について  生活環境動植物・生態系への影響云々を論議する必要性がでてきたのは、規模の大き な単作圃場で、同一作物の連作をつづけ、病害虫の発生状況を科学的に調べずに、農薬 を定期的かつ予防的に使い続けたことにより、生物多様性が妨げられてきた結果である。  日本では、まず、水産動植物への影響が重視されてきたが。これは、水田除草剤によ る魚介類の被害が顕著であったからである。現在でも、水稲用農薬は全農薬出荷量の30 %を占めている。  環境生物への農薬の影響は、農業生産第一主義をとる日本では、軽んじられ、被害が 顕著になってからの事後処理として、適正な使用をすればよいという観点でなされてき た。  そんな中、貴省は、現行に類似した登録保留基準をいろいろな生き物に拡大すること に、眼を向け、野生のハチやトンボをターゲットにしたり、長期ばく露による影響評価 の導入も必要だとしている。具体的には、藻類、水草等の感受性差に係る知見を収集し、 除草剤の水産植物の影響評価試験の実施があげられている。 (4-1)ある農薬に感受性の高い日本在来の個別生物に対して、急性毒性の観点に加え、繁 殖に影響する農薬は、使用を規制することは、いうまでもないが、これに加え。生物多 様性保持につながる生態系総体への影響評価も導入すべきである。  たとえば、農薬を使用しない場合と、使用した場合の圃場の生物相調査(生き物の種類 及びそれぞれの生息数と分布パターン、花粉媒介植物では訪花昆虫などの調査)やこれに 基づく生物多様度指数のような考え方を取り入れ、圃場や周辺自然界での生物相の貧困 化を抑制すべきである。  [理由]種類の多い陸域や土壌生物については、直接被曝だけでなく、食物連鎖の上位 にある鳥類に対しては、食べ物に残留する農薬の繁殖への影響評価は必要である、  取組み案には、以下のようないままでの主張も引用されている。  ・環境省「農薬生態影響評価検討会」の2002年の第二次中間報告   今後の検討課題として、『農薬の散布方法等によっては、ミツバチや鳥類など陸域 生態系を構成している生物に直接影響を与えるおそれのあることや、蓄積のおそれのあ る農薬については、その影響が食物連鎖を通じてより高次の生物の生息にも関与する可 能性もあることから、陸域生物等についても、幅広くその影響の可能性を検討する必要 がある。』  ・2018年4月に閣議決定された第5次環境基本計画   環境影響が懸念される問題については、科学的に不確実であることをもって対策を 遅らせる理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、予防的な対策を講じるという 「予防的な取組方法」の考え方に基づいて対策を講じていくべきである」とされ、農薬 については、「水産動植物以外の生物を対象としたリスク評価手法を確立し、農薬登録 制度における生態影響評価の改善を図る」とされたところである。 (4-2)農薬メーカーに、登録申請しようとする農薬が、自然界でどのような影響を与える かを判断できるフィールドでの生物調査データ(せめても、一定面積以上の圃場やバイ オトープでの試験データ)を提出させ、専門家だけでなく、国民の手で、登録や適用の 可否を決めることを求める。  [理由1]生活環境動植物・生態系への影響評価には、個々の生き物に対してだけでな く、農薬が使用されていない自然環境に、農薬が散布されたら、当該地の生物相はどの ように変化するかの調査が必要である。  従来説では、農薬が散布された直後は、環境中の生き物はその生息に影響を受けるが、 徐々に回復し、もとにもどる。従って、致死毒性があっても、蓄積性が顕著でないかぎ り、大きな影響を受けないとうものである。しかし、このような結論は、農薬を散布さ れた地域で、生き残ったものが、再び、繁殖するか。農薬が使用されていない他の地域 からの生き物の流入するかを調べなければ出てこない。  農薬の生活環境動植物・生態系への影響は、その農薬を使用したことにより、不使用 の対照区と比較して、その地の生物相がどのような影響を受けるかの調査が、基本事項 である。  [理由2]現実のフィールドでは、複数の農薬−殺虫剤、殺菌剤、除草剤その他−が使 用され、昆虫も植物も微生物もそこに生息するすべての生き物が複合的な影響をうける ことは。はっきりしている。実験室での個別農薬を用いた、個別生物の毒性試験は圃場 の実態を反映しないことに留意すべきである。。  [理由3]わたしたちは、水生生物、ただの虫、クモ、ミミズ、土壌微生物などを含む 生態系全体への農薬影響の評価には、農薬を使わない圃場と使用する圃場の生物相の比 較が重要であり、有機農作物の圃場でのいままでの実績、虫見板を用いた水田でのフ ィールド調査の経験が役立つ、と考える。 (4-3)貴省は、水産動植物の登録保留基準設定に際して、環境中の予測濃度が算定されて いるが、これはあくまで、予測濃度であり、フィールドでの実態濃度とは異なるため、 登録メーカーには、期限を設けて、自然環境やフィールドでの農薬環境汚染調査を義務 付けるべきである。  [理由1]ヒトが病害虫とする個別の生き物の生息状況を調べて、農薬を使用すること もあるが、多くの場合、予防的に壊滅させようとするのが農薬であり、いったん使用さ れれば、標的とされる生き物だけでなく、その天敵となる生き物やただの虫が影響を受 け、耐性種が生き残り、新たな病害性の生き物が出現することを防ぎえない。過剰使用 にならないよう。農薬の環境汚染の実態を知ることは基本である。  [理由2]低濃度で、個別生物の個体数を減らし、繁殖に影響を与える農薬を使用しな いことは、もちろんだが、水域と陸域生物にわけて、現在の水産動植物のように、理論 計算による推定数値との比較で登録保留基準を決めることを最終目標にすること、すな はち、数値第一主義で規制することで、生態系への影響、生物多様性の保持がどこまで できるか疑問である。 (4-4)貴省は、取組み案の「2 海外における取組」で、すでに実施されているEUでの 生活環境動植物・生態系の影響評価項目をあげているが、本年末で、開放系での使用が 禁止されることになっているネオニコチノイド類について、EU加盟諸国ごとに、どの 項目が適用され、使用規制状況がどうなったかをおしえてほしい。 (4-5)EUでは、ネオニコチノイド規制の前に、神経毒性の強い有機リンなどが問題にな り、再評価がおこなわれ、登録が取消されている。  しかし、日本では、いまだ、有機リン系農薬はネオニコチノイドの4倍以上の年間約1880トンも出荷されている。  日本でよく使われる農薬のうちEUで登録がないの農薬成分は約160(*注)あり、代表 的な成分は、下記のようである。これらの29農薬について、それぞれ、どのような生活 環境動植物・生態系の影響評価が実施され、登録取消しにつながったかを明らかにされ たい。たとえば、期限までにどのようなデータの提出が要求されたが、提出できないた め、登録失効した農薬については、その旨明らかにする。   BPMC、CAT、D-D、DEP、DMTP、EPN、IBP、MEP、MPP、   NAC、PAP、アセフェート、アトラジン、アレスリン、エチプロール、   エチルチオメトン、カスガマイシン、クロルピクリン、クロルフェナピル、   ジノテフラン、シペルメトリン、ダイアジノン、トリフルラリン、パラコート、   フィプロニル、フェンバレレート、プロシミドン、ベノミル、ペルメトリン  <参照3> 注* 機関誌てんとう虫情報 316号   http://home.e06.itscom.net/chemiweb/ladybugs/kiji/t31601.htm 【意見5】個別生物に対する意見:水産動植物について (5-1)水系における生物相の調査を実施し、これをもとに、毒性評価すべき生き物を選定 すればよい。水系の底質中に残留している農薬(活性成分、不純物、補助成分を含む)や その代謝分解物についての影響評価も十分に行う。  [理由1]一般に 農薬の水系汚染は、使用時期の5〜10月に高く、冬期には、低い傾向 にある。水系汚染による生態系への影響評価が十分なされておらず、プランクトン、昆 虫類、魚類だけでなく、食物連鎖の上位にある両生類、野鳥、哺乳類への長期的な影響 が不明である。  [理由2]、現状では、水田で使用される農薬や土壌処理剤を中心に、水系汚染がみら れ、人や環境への影響に関する以下のような報告が見られる。  (1)育苗箱剤用の農薬の使用で、アカトンボの生息に影響がみられる。  (2)土壌くん蒸剤のクロルピクリンによる人の健康被害は、大気汚染とともに井戸水汚 染に被害がある。  [理由3]水系の底質中に残留している農薬(活性成分、不純物、補助成分を含む)やそ の代謝分解物について、特に、泥の中で生息する生き物への生物濃縮への影響評価が十 分でない。  [理由4]、界面活性剤の共存化で、魚介類への生物濃縮係数が高まる農薬があり、そ の評価が十分なされていない。 (5-2)水系登録保留基準が設定された農薬は、メーカーに環境汚染状況の調査を義務づけ、  2、3年以内に基準の見直しを実施する再評価の制度に役立てるべきである。  [理由]現行における公共用水域の農薬汚染調査が、1年に数回計測されるだけであ り、季節変動や時間変動などをとらえるには極端にサンプリング数が少ないことを鑑 み、また、地域での農薬使用状況や耕作時の用水使用量や、降雨状況などを十分考慮し て、科学的に水質汚染の実態を把握する調査を実施し、その結果を登録保留基準に反映 させることが重要である。 【意見6】個別生物に対する意見;ミツバチやポリネーターについて (6-1)花粉媒介昆虫への影響試験を義務づけ、毒性に応じて、ランク付けを行い 「蜜蜂等危害性農薬」(仮称)を指定する。  たとえば、ミツバチについては、以下のような試験や調査をして、ランク付けすべき である。。   (1)ミツバチの帰巣能力、社会性のある行動への影響、   (2)当該農薬に対する忌避能力、繁殖能力、免疫力への影響、   (3)直接被曝、経口摂取 致死量以下の農薬被曝による蜂群への影響   (4)フィールドでの花粉の農薬汚染、花蜜の農薬汚染、蜂の水場の農薬汚染、     溢液の農薬汚染、   (5)蜂蜜などの農薬汚染、巣箱の農薬汚染 (6-2)ミツバチをはじめ花粉媒介昆虫は、農作物の生産に大きな影響をあたえるにもかか わらず、その個体数減少を防止するための法令はない。「養蜂振興法」で農薬使用を規制 できるようにすべきである。  [理由1]1955年、最初に提案された養ほう振興法案には、第五条(農薬使用の規制) に『農林大臣は、農薬の使用がみつばちに著しい被害を与えるおそれがあると認めると きは、当該農薬を使用する者に対し、その使用を制限し又はその使用の時期、方法等に ついて必要な措置をとるべきことを命ずることができる。』とあったが、条文化されず に、今に到っている。  [理由2]2012年の養蜂振興法施行規則の改定のパブコメ意見募集の際に、毒性の強い 農薬の使用規制に関する条項を作るべきであるとしたが、実現しなかった。 【意見7】個別生物に対する意見;鳥類について (7-1)鳥類に関する試験を義務づけ、毒性に応じて、ランク付けを行い「鳥類等危 害性農薬」(仮称)を指定する。   (7-2)机上の想定とフィールドでの農薬汚染実態が異なることもあるので、新たに登録さ れた農薬について、生態系での農薬汚染調査を申請者に義務づけるとともに、既存の登 録農薬については、再評価制度において、期限きって、調査データを提出させるべきで ある。また、フィールドで異変が見られたときは、再評価制度により、使用禁止措置に つなげる必要がある。  [理由]環境省は2014年「鳥類の農薬リスク評価・管理手法マニュアル」を設定したが、 野生の鳥類への影響はこの評価法では、以下に示すように十分といえない。   (1)『鳥類の餌はもちろん、餌となる動植物、菌類などの 繁殖をも考慮した、生態 系全体の問題としてとらえる必要がある。』と指摘したが、マニュアルには折り込まれ ていない。   (2)鳥類の場合、経口だけでなく飛散による羽等への付着も問題になる。特に、空中 散布では、地上散布の場合の100倍以上の高濃度で散布される場合もあり、急性中毒によ る大量死につながる恐れもあるので、経口毒性だけでなく、経気、経皮についての毒性 試験が必要であり、鳥が飛翔中に被爆するだけでなく、ヒナ鳥や受精卵への影響を評価 する試験も必要である。   (3)鳥類毒性のランク付けにおいては、活性成分だけでなく、補助成分も含む製剤に ついても評価が必要である。   (4)農薬登録はないが、農薬と同じ成分を含む除草剤や衛生害虫用殺虫剤、畜舎で使 用される動物薬が、野鳥が活動する地域で使用される場合があり、農薬とともに、これ ら薬剤を含めた、総合的な被曝・摂取防止のための管理対策が必要である。   (5)鳥類が、農薬処理された種子や農薬が残留した餌作物・果実の摂取実態、さらに は、農薬により汚染された水系や土壌、餌となる動植物などからの摂取実態が不明であ る。 【意見8】個別生物に対する意見;土壌動植物、その他の陸域動植物 (8-1)陸域生物への影響評価の前に、現行の土壌残留の判定基準を改め、ヨーロッパ諸国 で実施している、土壌中半減期が3ヶ月以上、かつ90%消失期間1年以上の農薬を登録 しないことを、登録保留基準にすべきである (8-2)圃場の土壌残留試験は、土壌の性質・成分、土壌中の生態系・微生物相、天候、散 布むらなどの条件をどう評価するかが問題となるし、代謝分解物の残留もきちんと評価 されねばならない。土壌殺菌剤で処理し、生き物のいなくなった土での試験と試験農薬 のみを使用した土では、残留状況も異なる。また、生態系保護の視点からいえば、ミミ ズや土中の昆虫・微生物への影響も評価する必要がある。  そのため、以下の試験を義務付けるべきである。  (1)土壌残留について、人畜への影響だけでなく、土壌中の細菌やかびなど微生物や昆 虫類、ミミズらの生息への影響を評価する  (2)農薬成分だけでなく、その代謝分解物や不純物についての土壌残留性を調査して、 保留基準に反映さす  (3)寒冷地で使用される場合/多雨地で使用される場合/水田で使用される場合/   土壌処理剤で殺虫・殺菌した場合/マルチで被覆やハウス・温室での栽培の場合   など、すべての使用条件に適用できる保留基準を設定する (8-3)陸域動植物総体の生態系の影響の評価に資するため、土壌中の生物相調査の手法を 確立する(たとえば、土壌中の生物多様度指数の考えでもよい) (8-4)ヒトが病害虫とする個別の生き物を農薬で殺したり、繁殖を抑える最小濃度(a)と、 非対象生物が影響を受ける濃度(b)の関連を明確にしておくべきである。  [理由] (a)については、現行の薬効試験で得られた病害虫に対する毒性試験結果が利 用できるし、(b)については、有用生物や天敵に対する毒性試験結果が利用できるので、 農薬ごとに一覧表化しておけばいい。  新たに追加すべき、生き物の選定には、農薬を用いない地域の生物相調査などが役立 つであろう。 (8-5)土壌生物その他の陸域生物への影響に関する試験の結果に基づき、毒性に応じて、 ランク付けを行い「陸域生物等危害性農薬」(仮称)を指定する。  上記、(a)が(b)よりもあまりに大きい場合は、ランクの毒性順位は高くなり、指定す ることになる。 【意見9】個別生物に対する意見(意見5から8)については、以下のことを実現すべきである。 (9-1)ランク付けの場合、最も毒性が強い区分に該当する農薬は登録しないとする。  かわりに、農薬を使用しない耕種的防除、物理的防除及び生物的防除などを実践する。 ちなみに、農薬を使用しない有機農作物の栽培面積比率0.1%(国の目標は1%)というの が農業の現状であり、この比率を高めることが、根本にある。 (9-2)指定農薬については、以下の取締り体制を確率すべきである。  ・当該指定農薬の使用について、都道府県知事に届け、その許可を得る  ・許可なく当該農薬を使用した者に罰則を科する  ・登録後、当該農薬の使用によって、生活環境動植物・生態系被害が起これば、 再評価制度により、当該農薬の使用を規制したり、登録を取り消す (9-3)新たに登録される農薬については、メーカーに、圃場で使用後の一般環境汚染実態 やフィールドでの生物相調査を義務づけ、2,3年以内に登録保留基準の見直しができ るデータを収集して、再評価制度に役立てる。  [理由]クロチアニジンによる日本でのミツバチ被害が判明したのは、2003年5月に、 熊本県ミカン畑での散布、2005年8月に、岩手県水稲カメムシ駆除で、食用作物に同剤が 最初に登録されたのは、2002年4月であった。登録農薬が圃場で使用される初期に被害の 発生を把握することが重要である。 (9-4)既存農薬については、期限を限り、毒性試験を補充し、一般環境調査や生活環境動 植物・生態系への影響調査をメーカーに義務付け、期限までに、データを提出出来ない 場合は、登録を取消すことにする。 【意見10】今後の課題について  貴省は、見直し案の締めくくりに、下記の3項目があげている。   ・ばく露評価で用いた摂餌量(特に果実)及び農薬残留濃度(特に昆虫)に関す る知見の集積   ・鳥類への農薬のばく露量を確認するためのモニタリング方法の確立   ・慢性毒性(特に繁殖毒性)による被害防止に係る評価手法の検討  このような個別農薬の登録保留基準の強化一辺倒だけでは、生活環境動植物・生態系 への影響を防止しようとすることには限界がある、というのが、率直な感想である。  ヒトや環境に影響があることが懸念されている農薬は、その使用地域において、作物 への残留や大気・土壌・水系などの環境汚染、使用者やその家族、散布地域周辺の住民 などヒトの健康への影響、生態系への影響などが懸念されるが故、再評価制度が導入さ れたわけだが、実験室のデータだけでなく、環境中でのデータを収集することが第一に 求められる。  最後に、わたしたちが強調したい要望として、下記3項目をあげておく。  (1)新規登録農薬の登録申請者には、フィールド調査(環境汚染実態調査や生物相調査 など)を登録後2,3年以内に、既存登録農薬については、毒性に関する補充試験とフ ィールド調査を期限を限って実施させる。  (2)生活環境動植物・生態系への影響評価には、個々の生物種ごとの毒性試験データと ともに、一定面積以上の圃場で、圃場内の生物相を調査することを登録申請者に義務づ けるべきである。この際、農薬を使用しない圃場を対照区と、農薬使用圃場と比較できるようにする。。  (3)申請者が提出した生活環境動植物・生態系への影響試験データやその他の調査結果 は、国民が、メーカーの主張の正当性が検証できるよう、原則、データをすべて公表す る。  [理由1]生物相の調査のひとつである果樹への訪花昆虫調査事例が、信濃毎日新聞の   p19に、長野県園芸試験場のアンズでの調査として掲載されている。   農薬のない昭和29年と農薬使用される昭和37年の比較で、訪花昆虫は、この8年間に 20分の1に激減している。このような調査が、70年以上も前に行われているにも、拘わ らす、現在の登録申請の際には、生物相調査はもとめられていない。  <参照4> 信濃毎日新聞「新しい恐怖:農薬禍はしのびよる」(1965) p19   http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000754767-00  [理由2] 農薬のヒトや環境への負の作用は、アメリカのレイチェル・カーソンが、 1962年に出版した「沈黙の春」の中で、有機塩素系、有機リン系農薬について、その 毒性、浸透性や蓄積性による環境汚染を、また、除草剤の植物への影響により生態系が 破壊される危険性を警告したが、現実には、農薬の種類がかわったものの、生態系や 生物多様性が改善されたとはいいがたい。  カーソンの書(新潮社版 青樹簗一 「生と死の妙薬」)から、下記を引用しおく。  『草木に浸透性殺虫剤の処置をほどこす、やがて、蜜蜂がとんできて、毒の入った花   から蜜を集める。すると、どういうことになるだろうか。−中略− 薬品を散布し   たのは、まだ、花が咲くまえだったのに、花の蜜には毒が混じっていた。そして、   思ったとおり、蜜蜂がそこから集めた蜜にも、シュラーダンの残留物が検出された。                    (「沈黙の春」 三<死の霊薬>より)』  『ただ野生の花は美しい、という理由だけで、道ばたの草木を守れ、といっている   のではない。−中略− このような植物は、また、野生の蜂や、そのほかの授粉   昆虫の棲息場所だ。そして、私たちは、ふつう考えているよりも、どんなに多く   の授粉昆虫のおかげをこうむっていることか。農夫さえも、野生の蜂がどんなに   大きな働きをしているのかよく知らず、みずから自分の味方をほろぼすような愚   かなことをしている。野生の植物はもちろん、農作物でも、授粉昆虫のおかげを   こうむっているものがある。    <「沈黙の春」六<みどりの地表>より』  <参照5>レイチェル・カーソン 「生と死の妙薬」 青樹簗一訳(新潮社1964年) 以上