Genius155 下克上大好き / 海堂 薫


 手塚、部長の。
 彼だけの、彼だけが打つショットを、不完全ながらも越前が返してみせた時。
 憑きモノが落ちたというか、気が抜けたというか。悔しくて悔しくて悔しくて、ぐるぐると溜まっていた感情はフト消えた。
 残ったのは何とも言い表し難い思い。
 諦めた訳じゃない、負けを認めた訳じゃない。それでもさっきまでの暗くて苦いものとは違う、晴れた感じがした――決して、甘くはないが。一番基本の自分を取り戻した、と言ってもいいかもしれない。兎に角そんな感じだった。
 青学の行方が掛かった試合、一年という学年に似合わない責任を引っ被っているということをまるで分かっていないように、越前は酷く楽しげに試合を進めている。
 その姿を、心から応援できるのでは、勿論ないが。
 勝って貰わなければ、堪らない。



 手塚部長が負けた、そのことだけでもいい加減ショックだった。
 部長は決して負けないと、信じていたフシが、自分にはあったから――いま思えば、それは昨年の氷帝戦で手塚部長だけが試合に勝った時から始まった信仰かもしれない。部長は不敗のはずだった。それが崩れた。驚いた、こんな言葉では足りないのだが驚いた。
 それ、に、加えて。
 手塚部長と越前の、聞こえなかった会話。何も聞こえなかった。でも何か、何か大きなモノを含んでいるのはその場にいた誰にだって分かっただろう。そのことが悔しかった。
 オレは春に越前に負けた。今日の試合にも、負けた。
 今までの自分に悔いはない。自分にできる最大限を、それこそ恥も外聞もなくやってきた。だからどちらに負けた時も、もっと、と思っただけだ。もっと自分を強くしようと、ただそれだけを思った。
 しかし、それでも。部長が負けて、最後は越前に託された。部長が越前に寄せる思いが、どうしようもなく悔しかった。オレでも桃城でも、まして他の2年部員でもなく、部長が越前を選んだことが誰の目にも明らかだったから。
 学年とか、いわゆる年功序列といったもの、それは確かに下らないとオレも思っていた。歴然と実力が現れるジャンルなのだから、実力で順位付けするべきだと。今でも間違っていないと、部長の判断が正しいと思う。
 しかし、ソレは、自分が下の立場になってみれば、なんて辛い。
 自分の最大限の努力。それが、全て、無駄なものにすら思える。春に越前に負けて、今日のダブルスでも負けて。そして部長は何か大きなものを越前に託した。
 じゃあ、オレは、なんだろうって。
 何やってんだろうって。
 思わずには、いられなかった。




 越前が打った零式ドロップショット。
「ラケットヘッドが30センチも下がってたらバレバレだよ。二度目は通用しないな!」
 乾先輩のやけに大きな声が聞こえた。それはコート上の越前にも届いたのだろう、落ち着きまくったクソ生意気な顔が少し歪む。気持ちよくなかったと言ったら嘘だ。
 それでも、それ以上に気付くこともある。例えば越前の、部長に対する強烈なコンプレックスとか――手塚部長に対抗意識を持つこと自体、オレには考え付かないことだった。
 彼は不敗。きつく思い込んで(思い込みばかりではないと、今でも思うが)憧れていたヤツに、彼を超えることは出来ないのは当然。部長が越前を選んだのが、分からないでも、ないような気がした。だが、けっして諦めているのではなくて。

 もっと、と思う。もっと、もっと。
 もっと、強い自分を。

 目的であり前進のための手段である勝利と2回戦、そのために。
 越前に、勝ってもらわなくては、堪らない。




ええっと。
てめえが二代目襲名すんのは勝手だが薫さんの立場はどうんなんだよヲラ越前!!
ていうのが今週の主な感想。いや他にもあるんですが主なところはコレ。

実はワタシ、本編以上に煽り文句に非常に非常に腹が立っております。
カオルスキーのみならず2年スキーはそうだったのではないでしょうか。だって。
「私越前リョーマこの度訳あって二代目「青学の柱」を襲名しました!!」
「やっぱり「柱」ですから!ここは一発やっときました!!」
「共に両校の明日を担う身ここは一歩も譲れない!!」
……ああん?
舐めたこと言ってくれんじゃないのよ…泣。

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