the flower is U

 自分が拾った、薄幸美人。
 大好きだと思う。
 彼が泣くのは嫌だ。
 苦しむのも嫌だ。
 自己嫌悪で、綺麗な眼を翳らせるのも嫌だ。
 自分が出来ることなら何でもしてやりたいと思った。
 (尤も出来ることなんて、本当に高が知れてるのだが。)
 だから、抱き締めた。
 雨の日はいつも、自分をどこかにやってしまいそうになる彼を引き止めるために。
 体温は、彼の大切な人を思い出させるらしかった。
 彼の、彼女への愛を、溢れるほどに聴いた。
 そして、気付いてしまった。
 自分はヒトを愛した事がない。
 自分が酷くケツラクした事物のように感じた。
 今更だけれども。

 また、雨。
 彼の告白の日。
 自分は、繕った優しさで彼を抱き締める。
 与えてるような顔で与えられている。
 吐き出される彼の突き刺さる愛を受け止めて。
 アイシテルアイシテルアイシテル。
 どろどろになった彼が最後に言うのはコレダケ。
 イタイ。
 酷くストレート、酷く単純。それだけに解る。
 肋骨が軋む程に彼が抱き締めているのは、彼のファムファタル。
 いたい。
 ぱたぱたと屋根に打ち付ける雨粒。
 灯りを点けない部屋の中、二人ソファの上でお互いを抱き締める。
 痛い。
 ぼそりぼそりと落ちる彼の言葉。
 嗚咽がそれを遮る度、流れる涙を舐め取る。
 居たい。
 御免ね。御免なさい。
 本当は俺がこんな事しちゃ、いけないんだ。
 コレはきっと彼が墓場に持ってくつもりだった物達。
 彼女以外触れちゃいけない物達。
 御免。本当に御免。
 でも俺は拾ってしまったから。
 彼の堰を切ってしまったから。
 彼をコウ仕向けたのは自分だから。
 そう言い訳して本当はただ聴きたいだけ。
 体温を分け与えて中途半端に彼を慰めて。
 御免ね。
 でもね知りたかった。
 お前の愛って何なのか。
 いたいいたいいたい。
 コレが愛なのかな。
 かあさんは俺を愛していたのかな、それじゃ。

 やがて止む雨。
 彼は平穏を取り戻していく。
 吐き出すだけ吐き出して。
 そして。
 俺はと言えば。
 茶化すように笑って、彼から離れて。
 彼が撒き散らしたもう居ない彼女への愛を掻っ攫う。
 一人密かに取り出して、ひとつひとつを反芻する。
 これが愛か。
 これが愛か。
 これが愛か。
 こんな行為に、何の意味もないと解っていても。

 だってじぶんににはなんにもないんだよ?
 どうしたらいいかわからないじゃないか。
 せめてなにかをしってるふりぐらいしたいじゃないか。
 いいんだよいみなんてなくたって。
 あったらそれはすてきだけれども。

悟浄さんの依存を書きたかった、モノです。
タイトルは平井堅より。彼の詩は大変大好き。

2002.02.05
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