GMJを辞するにあたって
元をたどれば、昨年リストラの時に辞めたいと思いました。 安易に従業員を犠牲にする会社の方針に憤りを感じたからです。 但し、すぐに辞めることもままならず、東京モーターショーがあり、製品が次々に導入されるなかで、一年近くやってきました。 この間、なんとか再生に向け頑張ろうと、自分自身を鼓舞してきましたが、自分でやれることの限界を感じていたのも事実です。 人もお金もない中で、自転車操業しても全く追いつかない焦燥感。 売れなくても、それは販売チャネルのせい、予算のないせい、と言い訳している毎日。 栄養が足りないのか、この難局を乗り切っていくパワーが湧いてこない。 次第に自分が立ち枯れていくように感じます。 ここはいっそ接木をし、transplantすることによって、もう一度自分の精神を再生させたほうが良い、そう思っていたところにちょうど良い機会にも恵まれ、今回転職を決断しました。
GMJが昨年秋に新たに作ったビジョンは、小さくても「profitable
company」になるというものですが、我々は一体顧客の方を向いているのでしょうか。 現に19万台ものカーパークを持つオペルのお客は、拠点が次々に閉鎖され行き場を失っています。 我々のビジョンは、この日本という市場を向いていて、ミッションは納得できるものでしょうか。 日本の顧客に何を提供できるのか、その視点があやふやで、利益など出るでしょうか。 顧客はそんなに甘くはないと思います。 厳しい競争の中で、顧客のために汗を一杯かくことが当たり前なのに、このYGPの27階にいるとそれを次第に忘れてしまいます。
サターン時代のディーラーや顧客との一体感、そこで突きつけられた厳しい言葉。そうしたものに立ち返らなければいけないのではないでしょうか。 自分にその変革を起こす気力と能力がないことを悔やみながらも、私はこの会社を去ることにします。
私達が愛してやまないサターンがアメリカでも苦境に陥っているのは、とても残念です。 サターンの設立時から、テネシーのスプリングヒルで広報を担当していたBillが最近サターンの近況を伝えてくれました。
Yasuo san:
Saturn is not doing well. Recently the union
voted to abandon the special partnership
with Saturn, and workers in the plant will
be employed under terms of the U.S. national
UAW contract. That marks a formal end to
a move away from the special Saturn-UAW partnership
that has been evolving over many years. All
workers became GM employees about a month
ago, trading their red Saturn badges for
Blue GM badges. Saturn sales are not good.
The VUE SUV is selling well, but not the
ION or S-Series. Quality and reliability
have declined. There are efforts to improve
the products and introduce a new sports car
and a small van in the next two years. GM
will not let the Saturn brand die, but it
will be integrated into the global GM product
plan.
The Saturn you and I knew is gone. On the
positive side, much of the good lessons learned
at Saturn about partnership with the union,
customer enthusiasm, and teamwork have become
part of the GM way of doing business.
Best regards,
Bill
今や、スプリングヒルを訪れても手を振ってくれるワーカーはいないのでしょうか。 サターンは、まさにアメリカの良心が凝縮した会社だったと思います。 サターンのバリューを思い出してください。
Committement to Customer enthusiasum,
Committement to Excellence,
Trust and respect for individuals,
Teamwork,
Continuous improvement.
なぜ、このような素晴らしい組織文化を持った会社がアメリカでも苦境に陥っているのか。 Lシリーズが売れなかったせいもありましょう。 新型のIONのポジショニングが間違っていたのかもしれません。 Billの言うように、サターンがGMに再吸収されるのは、クルマ作りがグローバル化した中では、不可避な流れなのかもしれません。 サターンは、その歴史的使命を今や終え、その組織文化はGMの中に生きていくので善しとすべきなのかもしれません。
サターンの「ミッション」は、以下のようなものでした。 何かが欠けていたのでしょうか。
Market vehicles developed and manufactured
in the US that are world leaders in quality,
cost and customer enthusiasm through the
integration of people, technology and business
systems and to exchange knowledge, technology
and experience throughout General Motors.
単に、アメリカで競争力のあるクルマというだけでは、ホンダやトヨタのベンチマーキングで終わってしまう。 Lシリーズのスタイルの凡庸やIONの内装の貧弱さは、その弱点が出たのかもしれません。 ローエンドのセグメントに目を取られすぎて、ブランドと商品の付加価値を高めていくことを怠ったのか、 また知的でリベラルで国際的なアメリカ人を顧客とすべくブランドを進化させる必要があったのかもしれません。 トヨタ、ホンダに対抗するには、そのような一種プレミアム感が必要なのではないでしょうか。 また、サターンは、その売り方や組織文化と同じ革新性を商品開発にも持つべきだった。 サターンが、例えばルノーのようなスタイルの革新を行ったらおもしろかった(4ドアクーペはありますが。) もし、サターンが日本に根付いていたら、日本発の商品開発の発想やミッションの書き直しが実現したかもしれない。 しかし、死んだ子の年を数えるようなことはこの辺で止めましょう。
完全にGMの一部となったサターンが、これからブランドと商品を革新して、成長を続けることができるかどうか。 それには、GMの中でサターンの存在理由が明確であり、GMのサポートがあれば可能でしょう。 それに、GMのマネジメントが気付いているかどうか。 Relayのような凡庸なスタイルのミニバンやカーブのようなスポーツカーだけではそれは難しいような気がします。 それは、アルコキーを開発したサーブのような知性であり、Vueハイブリッドや(なくなってしまいましたが)EV1のようなのようなクルマの持つ未来性、社会性でありましょう。 日本でやったチャイルドシートの無料レンタルのようなプログラムは、アメリカのサターンにも逆影響をもち得たと思います。
そのような多くの素晴らしい可能性を、GMはいとも簡単に捨て去ってしまったのか。GMJで芽吹いたサターンの小さな苗を我々は育てられなかった。 子供と同じように、大切なものをはぐくみ育てるのは時間と多くの愛情を必要とします。 今のGMに感じる最大の違和感は、あまりに利益優先で、そのような視点が欠けていることです。 いわばGMは、あまりに巨大になりすぎて、ちょっと油断すると体の部位に血(キャッシュ)が回らなくなる。突然死しかねないのです。 壊死を起こしたところは、切断したり、他人の手を持ってきてくっつけたりしないと全体が死んでしまう。 GMのトップは、そのような巨大組織を、なんとか壊死させずに心臓のポンプを押しつづける大変な芸当をやっているかのようです。
「自動車最終戦争の地 中国」の激烈な販売合戦は今幕を開けたばかりですが、それが一段落すればGMは今度は一体どこにその血の供給を求めるのでしょうか。 それは、燃料電池という石油に代るエネルギー体系かもしれません。 企業を存続させることは、重要なことだ。しかし、一部の富裕なマネジャーを養うために、随分なお金を浪費しているのではないか。 そのような贅肉を落として、真にローカルな市場のニーズに眼を向け、その国の人と向きあい、共に笑い泣くような文化を育てない限り、GMはトヨタにいずれ敗れる日が来るような思えてなりません。 グローバル化とは、単にアメリカの市場経済原理主義を推し進めるだけなのか。 万里の長城の国でも、マックを食べ、ウェスティンに泊まり、ロータスノーツを打っているだけでは、その国のことはわかりはしない。 日本でうまくいかないのは、基本的にここのマネジメントの失敗としても、それを容認し学習していないのは本社の責任でしょう。
旧サターンの同志の方々に、私の今の気持ちをシェアしたくこの駄文をしたためました。 会社はあくまで自分を生かす場だと割り切って、最後は、一人一人が、自分の道を選択していくしかないと思います。(2004.7.8)