第三部 閉ざされた性 あらすじ

@ 年が明けると暮れに風邪で倒れていた希理子も元気に稔の所へ来る。稔は仕事を口実に奥多摩へ誘う。

A 進行性筋萎縮症、勝矢青年の性に卒直な詩。帰路、新宿で食事をしたら、詩集を希理子が見せる。障害者と性問題。

BC 次の日曜の夜、二人は原宿へ。稔が希理子の性愛の遍歴をきく。

DE その夜稔は希理子に一夜の性愛を求める。あっけなく稔の情念を許諾する希理子と稔は一週の旅を約す。その間にはCPの吉沢との出逢いの約も希理子は持っていた。

F 旅の前の七日、稔は綿密に計画を立てた。留守中の仕事。家庭内にまで彼らしい計算である。久美もうすうす感じていたらしい。出発の直前に稔は久美に旅に出ると紙片を渡した。「バカ」と云う叫びを後にして稔はブレーキを引く。

G 湖南の海辺に仮泊した二人。稔は父親にでも自慢気に話す様は希理子の「吉沢と寝た」と云う言葉を聞いて、ショックを受ける。希理子は驚く稔を尻目に一糸まとわぬ姿となった。稔は宝物が外気に触れるのをいとう様に抱いた。   

H 翌朝、車は砂浜にはまり込んでいた。漁師に助けられる。箱根を越えて伊東のあるホテルヘ宿泊、夕食のアトラクションに歌う過去の流行歌手にわけもなく、稔は涙を流した。

I 二人の性愛。  

J 翌朝、ホテルを出た希理子は帰ると云い出す。稔に久美の影がさすのを知ってたが、稔に押しとどめられ南伊豆へと旅を続ける。    

K伊豆の宿で他愛なくトランプ遊びを続ける二人。    

L旅の最後、熱海から初島へと。    

M 稔の計算通りの帰宅。旅からの希理子との別れ。最後に前原の美術展を見る。    

N いみじくも希理子か云い当てたように稔の生活には変化がない。夜は久美の狂気とも云える挑みせ受けた。稔はその身を同じCPの吉沢に置き換える。そしてあえいだ。   

O 翌週、稔は久美にせがまれ湯河原。希理子は仲間と再び伊豆。メキシコ行きが迫る希理子に久美は原稿筆記を黙認する。日曜、希理子から出逢いの時間変更の電話がかかる。かっとなる久美。断念した稔のつまらぬそうな顔に久美の母性愛は稔の外出を許す。    

P いつとはなしにニ人を乗せた車は東京湾沿いの埋立地に出る。そこで三週間ぶりに求め合い希理子は赤ちゃんか産みたいと云い出す。突然の事とて稔も驚き自重を求めるが、希理子もあっさり引込めた。    

Q 三日後原稿筆記でもいらだつ希理子、その日は早く帰った。それでも次の出逢いには機嫌を直す。稔の愛はいよいよ深まる。希理子のメキシコ行きも出発日がきまり、二人は最後の外泊へ。    

R 相模湖のモーテル泊まる予定の二人もついに機をいっして裏高尾の山中で夜を明かしてしまう。    

(20) 出発日と科料の期限が重なり、希理子の労役場行きは不能となった。残念がる希理予。翌日、二人は紙袋に爆弾ならぬ一円玉三千枚を抱えて高検へ。    

(21) メキシコヘの出発日、稔は希理子と荷物を乗せ羽田まで送る。田井に頼まれたのか、あまりの荷物量に稔は気づかう。    

(22) 無事着いたの電報を待つ稔だか、毎日家でも電話が鳴る度にそわそわ。あの送った日にも、羽田でガス欠を起こしJAFを呼ぶ。    

(23) 台湾から帰っても稔は落着かぬ。心理研究会の資料集めをしていても。スキーに三週間帰って来なかった次男を見ても、夫婦仲よく保健省のニュース映画の撮影に協力していても。    

(24) メキシコからの手紙を待つ稔。ペラコルスのママから「宜しく」との伝言を聞いて、血が登った稔は国際電話を掛けるがどうしても通じない。泥沼に落ち込んでもがく稔。やっと十日目、連絡はついたが希理子は旅に出ていた。ほっとした翌朝、田井女史からの手紙も着いた。    

(25) 歯科医でなやむ稔が安部に相談する。安部は捕導所を退任して、新設で都から委託経営の運動を続けていた「不二養護園」の園長となっていた。稔は就任七日目の園長から早速呼出しを受ける。まだ職員も四分の三は美きまっていない。    

(26) 田井の手紙、稔を「奥方大明神の手のひらでとんだりはねたり」と批評した。稔の心は乱れる。家では唯一人の障害者。稔にとって健常者ばかりの家を捨てられるとすれは唯一無二の機会だった。しかし結局、稔は安部に手紙を書く。最後に「今、小生原爆ならぬダイナマイトを抱えて……」と結んだ。    

(27) 希理子からの電話、その夜にはコレクティブヘ最初の手紙を取りに行く。井村が唯一人いた。メキシコで田井のため、資金作りに奔走する希理子。稔も送金を決意し、また米国まで希理子を迎えに行こうと思い立つ。    

(28) キシコヘの送金。米国行航空券の予約する。希理子からの電報で渡航を察知し、逆上する久美。    

(29) 希理子の手紙、白砂の音のするユカタンから。メキシコ行を押止める久美に機嫌を取る稔。〆切り間際やっとの事で米国行のビザは取ったがパスポートは久美に没収された。    

(30) 希理子からメキシコガイドの長文の手紙が届く。久美を稔のかくし味と評した。    

(31) 出発が迫って稔もメキシコヘ最後の手紙を書いた。一旦言い出したら手を変え品を変え最後まで迫るわがままな夫に久美も折れていた。ロスヘ出発する稔を羽田まで次男の和宏が送った。