第一部 晒された名画 あらすじ

@ 石油ショック。インフレ。中年夫婦の稔と久美には来るべきものがの感がある。トイレットペーパーの買いだめもさることながら、稔はかねてから夢の海外旅行へと志した。    

A だが妻の久美は全くその気がない。国内ならば、例え不様に歩く不具な夫であっても厭うものではないが、海外に出てそれも不得意な外国語で全ての負担が自分に掛かると思うと舅、姑に頭を下げられても応とは云えない。    

B 田井奈津は二年程前から、稔のアパートに住むウーマンリブのリーダー。脳性マヒの体ながらWの大学院まで卒えて、生業を営む稔と、むしろそれより健常な体で稔と結ばれ、繁雑な生業と家事の一切を切盛りしている久美に興味をもつ。稔が個人史を書きたいと思っているのを久美から聞いて援助を申し出たり、週刊誌の記者を紹介したりする。        

C 糸崎希理子、奈津の子分で同じ仲間のリブの女。富裕な家の娘だが、三才の時ポリオとなり左肢は萎縮して補装具なしでは歩けない。有名私立高校、美大を出たが障害故に孤独。リブとの出会いが彼女の新たな人生の活路と衣る。週刊誌の記者と稔を訪れた。      

D 田井の薦めで新宿のバーのホステスとなった希理子の手記、リブ機関誌で読んだ稔は久美にも見せて夫婦間に異状なまでの興奮を呼ぶ。    

E 春、免許を取ったばかりの稔はドライブずいているが誰も乗ってくれる相手はない。一人、日本最初の養護学校。同級生、竹内優子を訪れてみようと思う。    

F 稔より重度で脳手術も受け、今は言語疎通もままならず四肢の機能も完全に近いまで奪われた同じ脳性マヒの優子の家を25年ぶりに訪問。    

G 世の中で最も人騒がせな絵の話。この通俗名画が成上り趣味のT首相の口利きで日本へやって来た。通俗美術マニアの稔も見たいと思う。長男の昭宏にマヒには見せてくれないよ、と憎まれ口を利かせたが本気にしない。元社員でポリオの山田に開会初日にこの絵のガラスケースに赤いスプレーをかけた身障女性がいたと聞く。開会から十日近くTVニュースは犯人の名前を糸崎某と告げた。夫婦はきっと希理子に違いないと顔を見合わせる。    

H 世論を気にした当局は障害者デーを催した。稔も見物に。博物館の門前で差別反対を叫ぶ障害者の一群を見て後めたさを感じる。しばらくして稔は始めて田井たちのコレクティブを訪れる。性に悩む脳性マヒ者を或施設で去精したと云う記事をもって。    

I 稔の申し込んであった欧州旅行の拒否。竹内優子の突然の死。先日貰った歌集を拡げまた葬儀に出て、同じ身障女性として良家育ちの優子と希理子の対照的な生かされ方を思う。

K アテネからローマ。稔の不自由な体を気にする添乗員の岡本は何かと稔の行動に制約を付ける。

L 岡本がオプショナルな旅行に出発した留守、稔は始めて自由な外出を楽しむ。博物館では特別に業務用エレベーターに乗せてもらう。

M 各国を巡りパリヘ。

N パリでは元養護学校教員でWの後輩でもある管沼千枝と一日を過ごす。閉館間際の印象派美術館でも無理やりエレベーターに乗せられた。

   

O 一箇月近い視察旅行から帰った稔はすぐに希理子からコレクティブに呼はれた。軽犯罪法違反で起訴され、裁判闘争中の希理子から博物館など公共建造物の障害者対策の状態を聞きたいと云う。      

P 脳性マヒの金木君がついに自動車運転試験を受けられず、六万キロの無免許運転で起訴され、高裁まで支援に行った回想。有罪判決、免許取得は断念したが、稔が取得してみて彼の闘争が無駄だったとは思えない。    

Q 簡易裁判所へ傍聴。(モナリザ裁判)    

R 次の公判。ちょっと二度目は面映い。希理子の陳述が終るとすぐ外へ。四・五日後、稔夫婦は田井から希理子か金木君を都営住宅へ入居させるために、戸籍上の婚姻を結んだと聞いておどろく。    

S 田井たちリブの女、アメリカ遠征を計画。希理子に予想以上の判決。拘留25日。求刑罰金三千円。上告すれは希理子のアメリカ行きは無理。    

(21)翌年春、稔夫婦は田井たちの送別会をかねたリブの女たちのミュージカル「女の解放」を見物、モナリザ裁判の上告審も始まり、稔の家へ闘争仲間の若い女性と希理子が訪問。    

(22)稔も積極的に希理子の裁判を支援、二回目の公判では、稔だけが公判中ただ一人の証人として立つ事になる。英人も呼んで裁判闘争の集会へ。大英博物館について聞く。    

(23)希理子のアピール。健常者化を目指す障害者。ロンドンでの回想。    

(24)稔は野暮用と云ったが、自立更生者として国から表彰される事になっていた。八年前都知事から表彰された時も、安部から福祉行政の貧困と手厳しい批判を受けている。稔も同感と思うが、無性に喜ぶ年老いた両親を思えば皇居へと。    

(25)国立補導所の技官で稔も尊敬する安部。戦時中、予備学生だった安部の個人史と負い目。田井や希理子を以前から安部に紹介したいと思っていた。    

(26)安部と山田医師との障害者問題についての執念。 「いこい園」の設立、補導所騒動。今は閑職にある安部の所へ希理子を連れて行く。    

(27)安部の希理子の裁判と、稔の表彰に対する批判。最初、予定していた「いこい園」には行かれず、山田医師の友愛病院に寄っただけで希理子と別れる。