シネマ大全 さ行・サ

 THE 有頂天ホテル 2005年 日本

物語の舞台は大晦日の大ホテル。そこに集ったそれぞれの人々に起こるそれぞれのハプニング。彼らに、幸せな新年は訪れるのだろうか?“ホテルアバンティ”の副支配人である平吉は、何とか今日、大晦日を無事に終えたいと願っていた。
しかし、何故だか総支配人は行方知れずになり、ホテルにはワケありの人物たちが続々集結。彼の願いもむなしく、トラブルばかりが発生していく。おまけに別れた妻と遭遇。働いていると言えなかった平吉は、授賞式に呼ばれて来たのだと嘘を付いてしまうのだった…。


非常に面白かった。三谷幸喜監督のマトリョーシカ・ワールドを堪能し、満足した。
映画のタイトル&タイトル・バックも、なかなかシャレている。だけど…。
以前、映画「ウォーター・ボーイズ」の時にも書いたが、かなり面白い映画を観ている観客というのは、途中から、“さあ、これから終盤にかけて、もっともっともっと楽しませてくれるに違いない!”と、更に貪欲になるものなのだ。私も、例外ではない。

リアリティなんか、この際どうでも良いし、途中で“肩すかし”を食わされた訳でもない。三谷監督は、出て来る俳優の全てを愛しているし、出演俳優は監督の期待に十二分に応えている。ある部分、“21世紀の伊丹十三の誕生”と言っても過言でないと思う。しかし…。

この映画には、残念な事に“踊り場”がないのだ。映画の中の“休憩所”、次のシーン、次の段階へ行く為の“小さなスポット”があれば、濃い〜役者達が繰り広げる“身勝手さの大パノラマ”が、更に際立ったのに…。つまり、全体の仕上げがイマイチ立体的でないのだ。そこが非常に惜しい。それから…。

逃げ惑うアヒルの動きが、ストーリーに反して機敏でない。それから…。
大社長・津川雅彦は、映画の最後まで顔の包帯を取るべきではなかった。すでに日本中の観客が彼の顔をよく知っているので、その方が洒落ていたと思う。それから…。

議員秘書のケイタイと売春婦・篠原涼子のケイタイが似ていて、“同じストラップですねェ”という台詞が出て来るなら、やはり、この二つがちょっとしたアクシデントで、いつの間にか交換され、満座の記者会見で、“金銭授受の決定的シーン”公表!のつもりが、大先生・角野卓造の“クネクネ踊り”のマスコミ披露!という、“お約束的展開”にして欲しかった。何故そうしなかったのか、解らない。今度、三谷監督に会う機会があったら、絶対に訊いてみようと思う。でも…。

この映画は、大ヒットしている。公開2ヶ月、平日の昼間だったが、客席は老若男女でいっぱいだった。思えば、こういう感じの大人の映画は久しくなかった気がする。しかし…。

大晦日の夜の話なので、やはり、せめて12月中に公開して欲しかったなぁ。その方が、観客は来るべき新年に希望を持って劇場を出て来られたと思う。

2006.3.18)