シネマ大全 あ行・オ

 オアシス   2002年 韓国

ひき逃げで男性を死なせてしまったジョンドゥが、刑期を終えた。
家へ帰るも、アパートには違う人が住んでいる。途方にくれ、無銭飲食で警察に連行された彼を、弟が迎えにきた。ある日ジョンドゥは、被害者の家を訪ねるが、息子夫婦は脳性麻痺の妹コンジュを残し、大きな家へ引っ越してしまう。
コンジュに興味を持ったジョンドゥは、花束を持って再び彼女を訪ねるが、行き過ぎた行動からコンジュを失神させてしまった。
この日から、ジョンドゥとコンジュはデートを重ねるようになるのだが…。

一人で部屋で過ごす事の多いコンジュは、日光を鏡で反射させて、遊んでいる。
その光は、時に鳩や蝶々になり、コンジュをかすかに慰める。
“想像する事の楽しさ”に溢れた映画でもある。
二人の初デートの最中、電車の中のシーンで、コンジュは突如、健常者になり、いつもの歪んだ顔ではなく、素晴らしい笑顔で、カラッポのペット・ボトルで、ジョンドゥの頭を殴り付ける。
ああ、幸せ! 想像する事の幸せ。コンジュの美しさは、宇宙一だ。

この世で最も素晴らしい事は、愛する人がいるという事だ。
“愛している”と口に出して言うより、キスよりもセックスよりも、素敵な愛の表現は、恋人を怖がらせる枯れ木によじ登る事であり、ラジカセを大音量にして窓に近付ける事だ。
こんなに切なく素晴らしいラブシーンは、見た事がない。

歪んでいたのは、オレの心の方だった。
我々は皆、ジョンドゥとコンジュなんだ。だから皆、幸せになる権利を持っているんだ。
二人を見る監督の目線が、中途半端なヒューマニズム等と無縁である所がいい。
時々、これが劇映画である事を忘れてしまっていた。それくらい、自分の中に沁み込んでいた。
サンキュー、イ・チャンドン監督!

2005.1.30)