シネマ大全 か行・ケ

 解夏 2003年 日本

東京の小学校で教師をする隆之は、突然ベーチェット病に倒れた。それは、徐々に視力を失っていく原因不明の難病。隆之は、研究のためモンゴルにいる恋人・陽子の未来を思い、ひとり、故郷の長崎へ戻ること。しかし、隆之の病気を知った陽子は、長崎へ追いかけてきた。隆之は、生まれ育った長崎の景色を目に焼き付けようと、陽子と2人で坂の町を歩き始める。日を追うごとに曇っていく隆之の視界。光を失う恐怖のなか、やがて隆之に「解夏」の時がやってくる…。

大好きな映画「がんばっていきまっしょい」の磯村一路監督の最新作。個人的には、“少しワザとらしい”“イマドキありかよ!”“んな、アホな!”という様なシーンがなくはないが、途中から、そんな事はどうでも良くなって来た。長崎の街と同じく、生きて行く事は、幾つもの小さな坂道を登ったり降りたりして行く事なんだ、と思えて来る。

この映画と、同じ大沢たかお主演の「世界の中心で、愛をさけぶ」や韓国ドラマ「冬のソナタ」は、どれも大ヒット。ここに、今の日本人が求めているものの一端が確実に現れていると思う。137分に及ぶ特典映像を観ると、更に登場人物に愛情が持てる様になって来る。ロング・インタビューの中、大沢たかおの、“自分等は目先の事ばかりを考えて芝居してしまいがちだが、松村達雄さんは、もっと作品全体を考えて、とても大きな芝居をしている”という発言は、大きい。

漫才師・星セントさんの告別式が行われた。
ある時期、同じ事務所に所属していたし、同じ作品に出演した事もある。’70年代の演劇界の寵児・つかこうへいの芝居や、ウディ・アレンと呼応する芸風だった。

インテレクチュアルな切れ味鋭い一言、捨てゼリフ、スピード感は、他の追随を許さなかった。あの“冷たさ”の成功は、当時の関東の漫才師=たけしに、とても大きな影響を与えたと思う。星セント・ルイスは、’80年代のあの漫才ブーム・初期の関東勢の真ん中にいた。

彼らが、当時、売り出し中のツービートの目の上のタンコブだったのは間違いない。たけしがビッグネームになってからも、そのインタビューで何度もセントルイスの名前を出していた事を良く覚えている。この辺りの事を唯一語れる生き証人・ビートたけしに、どこの放送局もインタビューしていない怠慢を、オレは責めたいね。現在に至る芸能の系譜を、地上波のテレビでキチンと語らないから、受け手も送り手も堕落する一方なんだ。葬式に来た人・数人のインタビューだけを流して、何が“芸能コーナー”だ。リスペクト無きこの国の、“過去の偉大な功労者に冷たい”夏は、更に続く…。

(2004.7.29)