私が観た映画 年間ベスト10 1996年〜1998年


1996年

フランキー・スターライト
第2次大戦下、小人症の息子・フランキーと様々な恋にめぐり逢う母親の数奇な運命。大河ドラマのスケールを持っていながら、タッチが大仰でない所がアイルランド映画らしい。

天使の涙
殺し屋が一仕事終えたバスの中で、かつての同級生と再会、保険に入ってくれないかと頼まれるシーンが最高。人を食った様なムードの中にあるユーモア&温かさと握手したい。

デッド・マン・ウォーキング
盗んでもいい。殴ってもいい。裏切ってもいい。しかし、絶対に殺してはならない。死刑問題を真正面から捉えた力作。“ガラス越しの心の交流”は、人間の不寛容さの副産物か。

レオン・完全版
人物のキャラと構成の計算が完璧。追いつめられてレオンの部屋の扉に逃げて来たN・ポートマンの顔のアップ、G・オールドマン刑事の異常さ。全てはラストに向かっている。

オセロ
激情的な愛は、エゴイズムと表裏一体だ。若き将軍・オセロのデズデモーナに対する思いも同じ。現代でも同じ。イアーゴ役のケネス・ブラナーが、段々と香川照之に見えて来た。

恋の力学
オペラの歌姫を夢見るヒロインが幸せを掴むまでを描いたシンデレラ・ストーリー。願っていた事が、善意の人々の協力で実現して行く喜び。「アメリ」に通じる楽しさがある。

12モンキーズ
人類絶滅の危機を救うべく22世紀から現代にやって来た男。“もしも、50億人の命と引き換えなら、自分は死んでも良い”かもしれない。真の英雄とは何かを考えさせられた。

アンカーウーマン
小さなローカル局のお天気お姉さんだったミシェル・ファイファーが、出世と共に洗練されて行く過程が見事。サクセス恋物語でありながら、報道の現場の厳しさも伝わって来る。

イル・ポスティーノ
“詩は書いた人間のものではなく、必要としている人間のものだ”と詩の本質を突き、偉大な亡命詩人を唸らせてしまう郵便配達夫。何処か、寅さんシリーズを思い出させる佳作。

10

ヒート
R・デ・ニーロとA・パチーノの初共演が嬉しいが、何故か二人の2ショットがないのが残念。171分は人物をキチンと描くのに必要な尺だった。ラスト近くの大銃撃戦も見物。


1997年

秘密と嘘
脚本はなく、シチュエーションとシーンの羅列を記した簡単なメモから、監督と俳優との長期リハーサルでドラマが作られた傑作。“雲を見ていたわ”あの一言が、忘れられない。

もののけ姫
“一緒にセル・アニメの地獄を見ましょう”メイキングでの宮崎駿監督の言葉だ。タタラ場で、サンがハンセン氏病の労働者とさりげなく食べ物を分け合うシーンが感動的だった。

コーリャ・愛のプラハ
冷戦の終結は、本当に大事件だったのだ。旧・チェコスロヴァキアの気ままな独身中年チェリストと、5歳の少年の心の交流。本気で信じれば、銀紙の月も本当のお月様に変わる。

ブエノスアイレス
W・カーウァイ監督、レスリー・チャンとトニー・レオン、撮影監督のC・ドイル、そして南米。アンサンブルがうまく化学反応している。人を愛するというのは、切ない事だね。

キュア
カラッポの洗濯機を何度も回す低い音、人の話を全く聞いていない萩原聖人、廃屋、普通のファミレス… 何でもないシーンに何とも言えない不安を感じさせる演出が凄い。

コンタクト
地球外の生命とのコンタクトを求める事は、“なぜ私達は此処にいるのか。私達は何者なのか”という疑問の答えを求める事だ。科学と宗教、頭脳と心。物語の多面性が素晴らしい。

マルタイの女
ラスト近く、裁判所に向かう宮本信子の雄々しさと“アメリカ映画的スッキリ感”は、他の追随を許さない。完成披露試写会で最後に会った時の伊丹監督の満面の笑顔を思い出す。

世界中がアイ・ラブ・ユー
恋人がレストランのデザートに隠した婚約指輪を指輪ごと食べてしまうオモシロサ。全体に漂う幸福感は、W・アレンが達した境地そのものだ。オレもセーヌ河畔で歌い踊りたい。

ロング・キス・グッド・ナイト
平凡な主婦が、スパイだった自分の記憶と感覚をフラッシュバックさせながら取り戻すまでの演出が冴えている。記憶喪失は、お約束だが冒険&恋愛映画の永遠のアイテムなのだ。

10

すべてをあなたに
恋人のバンドのレコードが初めてラジオでかかり、嬉しさのあまり、街中を走り回るリヴ・タイラーの可愛らしさ。監督であるトム・ハンクスの演技も控えめで、実に好感が持てる。


1998年

桜桃の味
自殺しようとする中年男。それに協力しながらも止めようとする老人。生きるよすが、楽しい事は、無限にあるよ。さくらんぼの美味しさ、夜明けの美しさ、映画を観ること…。

ガタカ
SFに、アメリカの黄金の50年代に建てられたビルが使われているのは、映画の対位法だ。既に遺伝子操作が当たり前になっているという近未来は、それほど冷えびえとしている。

トゥルーマン・ショー
超消費社会、過剰広告時代を痛烈に皮肉った快作。ジム・キャリーのキャラが生きた。劇場型犯罪が増えた昨今、すべての人は24時間、何かを演じ続けているのかもしれない。

悪魔を憐れむ歌
劇中に出てくる“悪霊”を“悪意”と置き換えてみるとわかり易く、かつ恐ろしい。一人称の語り口が、非常にうまい。デンゼル・ワシントンは、アメリカの役所広司か。

ハムレット
新旧オールスター・キャストで絢爛豪華に描く人間の業の深さ、浅はかさ、悲しさ…。「タイタニック」のケイト・ウィンスレットもなかなか良く、ジャック・レモンはさすが。

ディープ・インパクト
“真の危機管理とは何か?”を考えさせる佳作。アメリカ大統領役のモーガン・フリーマンの存在感が、作品全体の重しになっている。こういう大統領が現実にも居たらなぁ…。

キューブ
立方体の中に閉じ込められて脱出できない6人の男女。どこか60年代っぽいが、余計な説明が一切ないから、余計に怖さが増し、俳優陣の演技が光る。カナダ映画の新しい波。

愛を乞うひと
あの母親がなぜ自分の娘をあんなに殴るのか、最後まで解らない所がいい。人は誰でも、本当は“愛を乞う人”。みんな誰かに愛されたいと思っているんだ。

恋愛小説家
ジャック・ニコルソンはどうしても小説家には見えないが、古き良き時代のビリー・ワイルダー作品のようなムードを持った心温まるラブ・コメディ。ヘレン・ハントも魅力的だ。

10

ワイルドマン・ブルース
ウディ・アレンのヨーロッパ・ツアーを撮ったドキュメンタリー作品。彼は、いつも何処か自虐的だ。ラスト近くに現れる彼の両親の倣岸さと、あの気まず〜い終わり方は圧巻。