岡 村 |
映画「砂と霧の家」の監督でいらっしゃいます、ヴァディム・パールマンさんです。ようこそいらっしゃいました。 |
パールマン |
どうもありがとう。 |
★ホームレスに近い日々を送ったこともある監督
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岡 村 |
パールマン監督は、今年41歳になられるんですが、波乱万丈の人生経験をお持ちです。
ウクライナのキエフに生まれて、西ヨーロッパに来て、ウィーンやローマに住みました。
その後、カナダやアメリカを拠点に、CMやミュージック・クリップ等いろいろな仕事をしながら、今回、遂に映画の監督としてデビューされました。
この番組は若い方がたくさん聴いているので、大変恐縮ですが辛い時代の事を伺います。
ウィーンやローマでお母様と共に大変に苦労された、ホームレスに近いその日暮らしの生活をされたと伺っているんですが、そういう時、どんな事を毎日考えていらっしゃったのでしょうか。いつも希望を持っていたのでしょうか? |
パールマン |
その頃の希望は、やはり生き延びる事、サバイバルでした。
不確かな毎日でしたし、翌日何処へ行くのかもわからない、食事も明日食べられるかわからない、というような生活だったので、とてもタフだったし大変にストレスも溜まりました。
母と共に、お互いに手をとりながらただ頑張った、という感じですね。 |
岡 村 |
その時に、“自分は将来何かをやってやろう!”という様な希望を持っていましたか? |
パールマン |
将来に対しての希望というと… 母と共に落ち着ける場所を見つける事、そして何とか幸せを見つけるという事だけでしたね。 |
岡 村 |
僕はパールマンさんの経歴を拝見して、何だかチャップリンの子供時代みたいだなぁ、チャップリンみたいな人かなぁと思って、今日ここへ来ました。 |
パールマン |
それは大変面白いですね。
聴いていらっしゃる方はわからないと思いますが、僕はチャップリンにそっくりなんです。
同じ様な帽子もかぶっていますし、悲劇的なピエロのような人間なんですよ。 |
岡 村 |
小さい頃から、映画監督という仕事には興味があったのですか? |
パールマン |
子供の頃は、映画監督になるなんて全く思っていませんでした。
元々、4歳ぐらいの頃から本を読む事を覚えて、本というものがずっと友達であり、自分を救ってくれたのです。
特に苦労した時代、ダークな時代に私の救いとなってくれたのは、いつも本でした。
“映画監督になりたい”と心に決めたのは、25歳になってからです。 |
★「砂と霧の家」は、新ジャンル“エモーショナル・スリラー”
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岡 村 |
そして、遂に、劇場映画デビュー作「砂と霧の家」がいよいよ公開になります。僕はこの映画を見終わった時、シェークスピアの「マクベス」みたいな悲劇を見終わったような感じを抱いて、ドスンと胸に来ました。 |
パールマン |
そういう風に言って頂いて、とても嬉しいです。
この作品には、シェークスピアあるいはギリシャ悲劇的な要素が確かにあります。でも、ご覧になって落ち込むような作品ではないと思うんですね。
むしろ、見終わった後に何か希望を感じてくれるようなポジティブな面もすごくあると思います。
同時に、娯楽性もあると思うんです。次の展開が全く読めない。
“どうなるんだろう、どうなるんだろう?”と、二人の主人公がある一つの目的をお互いに果たす為に死闘を繰り広げるという様なね。
そういう風にも楽しんで頂ける作品だと思っています。 |
岡 村 |
誤解を恐れずに言うと、ミステリーなんだけど、アクション・ムービーの様な感じがしました。死闘を繰り広げる“バトル”。 |
パールマン |
その通り!
自分としては、新しいジャンルを作ってしまったので、“エモーショナル・スリラー”と名付けているんです。 |
岡 村 |
“エモーショナル・スリラー”? |
パールマン |
アクション大作を観る時の、“まるでジェット・コースターに乗った感じで、何が起きるのかわからない。このキャラクター達は一体どうなるんだろう?”という風に思われるのと同じ様な感覚が味わえます。
まるで感情の洗濯機に放り込まれたみたいな感じで観て頂いて…。
更には、泣けるし、怖い思いをする場面もあります。
でも、これら全てはやはり原作が素晴らしかったからだと思うんです。
美しいストーリーと、強烈な登場人物が描かれた作品でしたので。
私自身は、この映画をいわゆるアート・フィルム、単館系の作品という風には全く思ってないんですね。
この物語は、とてもシンプルで直接的な物語だと思います。 |
岡 村 |
エンターテインメントですよ。
ちょっと細かいストーリーは言えませんが、“ここに出てくる人が、皆、最後には幸せになって欲しいなぁ”と思いながら映画を観ていました。 |
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映画の1シーンより
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パールマン |
残念ながら、最後には誰も幸せにはならない。
でも、一人だけ希望を持って終わるんです。ヒントはここまでにしましょう。
それが誰かは、皆さん、映画をご覧になって下さい。 |
★「砂と霧の家」製作時の気持ちは、黒澤明監督と同じ
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岡 村 |
パールマンさんは、黒澤明監督の映画をご覧になった事がありますか? |
パールマン |
黒澤監督の作品、大好きです!
特に「生きる」。もちろん、「七人の侍」も大好きです。 |
岡 村 |
黒澤監督が、“あなたは何故、映画を撮るのか?”という、非常に難しい質問に対して、こういう風に答えているんです。
“それは答えにくい質問だが、あえて言うと、人間はどうしてもうちょっと上手く他人とやって行けないのだろうか?というのが、僕のテーマです”。
この映画を観て、久しぶりにその事を思い出しました。 |
パールマン |
それは… 素晴らしい。
「砂と霧の家」という作品を作った時の気持ちは、正にその通りなので、黒澤明監督のそのお答えをこれから自分でも使いたいと思います。 |
岡 村 |
この映画もそうですが、もう少し話を発展させますと…。
今、世界中で起こっているテロリズムや様々な宗教的な対立がありますね。
それらは本当は、元々はちょっとした小さなミステイク、誤解から発してると思うんです。
“本当はもっと最初の段階で、ちょっと話し合えば、少なくとも誰も死なずに済んだのに…”と、いつも思っているのですが、その基というか一番の原型がこの映画の中にある気がします。
監督は、それを映画の中で指し示してくれました。 |
パールマン |
うん。おっしゃる通りだと思います。
そういう意図がありました。映画の企画として、最初から思っていた訳ではないのですが、確かに結果的にそういう形にはなっていますね。
詰まるところ、他者の事を理解するためには、やはり自分が心を開かなければいけないのです。
戦争とか軋轢というものは、なかなかなくなりません。
それでも、“他人も自分と同じような夢や希望を抱えているんだ。その人が何処から来て、肌の色がどんなものであろうとも、同じような希望や夢を持っているんだ”という事を理解しない限り、戦争や軋轢といったものは永久になくならないのだ、と言う事を伝えたいと思いました。
この作品は、そういう意味で、“理解し合う事 = コミュニケーション”についての作品でもあります。
映画の中で、登場人物たちは何度も何度も一緒に仲良くなって行く、お互い理解し合えるチャンスを得ます。
そして、瞬間的には理解しようとするのですが、運命によって、あるいはそれぞれの持っている夢や希望によって、上手く行かなくなってしまって、最終的には、崩壊の道を辿るんですよね…。 |
岡 村 |
この映画をご覧になった方が、“ああ、人間って愚かだな!”と思うか、ここから何か一つのメッセージ、あるいは教訓みたいなものを受け取るか、二つに分かれるのではないかと思います。 |
パールマン |
登場人物は、現実の人間と同じ様に、必ずしもこの人は良い人間だ、または悪い人間だと言い切れないキャラクターたちばかりです。
ご覧になって頂ければ判りますが、あるシーンでは、“うわっ、何てバカなんだろう” “何て厳しい事をこの人はするんだろう”と思うのですが、その数シーン後で、また同じその人の行動を見ていると、素晴らしい人物だなって思ったりする訳です。それは、正に現実と一緒だと思います。 |
★映画は世界を変えられる!
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岡 村 |
“本当に完全に悪い人間はいないし、完全に良い人間もいなんだ”という、監督の人間観が伝わって来ました。
(間)
僕は、映画というものは、物凄い力を持っていると思います。
そして、人間、一人一人が変わって行けば、本当に世界が変わって行くと信じています。
監督は… ちょっと大袈裟な言い方ですが、映画によって世界が変わりうると思っていますか? |
パールマン |
映画は世界を変えられると思います。
ひいては、情報は世界を変えると思うんです。実際に私の出身国であったソ連は情報によって変わりました。
また中国も、情報というものによって変わりつつあると思うんです。
情報がもたらされる事によって、急に世界が見える窓が出来る。
それによって、“自分たちは孤立している訳ではないんだ。自分たちだけが違うのではないんだ”と判る訳ですよね。
そこから変わって行く。
だから、この映画を観て頂いて、人の振り見て我が振り直しましょう。
まずは、人の振りを見てね。
そういった形で、何か見て取って頂ければなと思うんですよね。 |
岡 村 |
もう僕は、あなたの次の作品が観たくてたまらないのです。 |
パールマン |
僕も早く観たいです(笑)。
今、次の作品の企画中なんですが、本当にエキサイティングな時期です。
「砂と霧の家」に恋に落ちた様に、そんな企画にまた出逢って恋に落ちたいなぁと思っております。 |
岡 村 |
本当に楽しみにしております。ヴァディム・パールマン監督でした。
どうもありがとうございました。 |
パールマン |
こちらこそ、どうもありがとう。 |
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(了) |