ロバート・ベントン監督との対話
映画『白いカラス』によせて

2004年6月2日(水) 午後1時半 ホテル西洋銀座にて  6月14日(月)放送

  

         
「白いカラス」プレスシートより

岡 村

今日のゲストは、映画「白いカラス」のロバート・ベントン監督です。
Nice to meet you.

ベントン Nice to meet you.
岡 村 僕が、ベントン監督の映画で、今までで一番好きだったのは、「プレイス・イン・ザ・ハート」です。
サリー・フィールドの娘の、あの小さな女の子がね、綿を摘む時に、棘が刺さって、指に血が滲む。それで、今度は違う指を使って、また摘み続けるっていう所があるでしょう?
あのシーンがすごく好きで、夢にも何度か出て来ました。
あれは、本当に素晴らしい映画でしたね。
ベントン あの映画は、私自身も、撮っていて本当に楽しめた作品ですね。今、おっしゃったあの少女、あの子役。そしてあの少年も。
本当に2人がいたから出来た映画だと思います。
とっても素晴らしい子役達でした。
岡 村 あと、もちろんMs.サリー・フィールドも!
ベントン もちろん!
ジョン・マルコヴィッチも出ていましたし、ダニー・グローヴァー、そしてエド・ハリス、リンゼイ・クローズという、本当に素晴らしいアンサブル・キャストでしたね。
岡 村 ベントンさんは、ごく早い段階で、素晴らしい俳優さんを発見する名人じゃないかなと、今にして思うのですが…。
ベントン まあ名人と言えるかどうか分からないですけど、実は私、いつもあまり大きな予算は貰えていないので、なかなかビッグ・スターを起用出来ない、というのが、本当の理由なんです。
だから、ギャラは高くないけれど、本物の才能を持っている、素晴らしい俳優さん達をたまたま起用する事が出来た、という事だと思います。
岡 村 今回の「白いカラス」を拝見して、もしかすると、ベントンさんの作品の中での僕の好きな映画の順番が変わったかもしれません。
ベントン ありがとうございます。
この「白いカラス」は、私の中でも非常に誇りに思っている作品なのですが、今回も素晴らしいキャストを揃えられたと思っています。
アンソニー・ホプキンス、ニコール・キッドマンをはじめ、エド・ハリス、ゲイリー・シニーズ、そして2人の若手の俳優達、あの2人が素晴らしかったと思います。
岡 村 本当にそうですね。
僕が、どうしてベントンさんの映画が好きなのかというと、アメリカの抱えている様々な問題を、何か声高に叫ぶのではなくて、“辛い問題を抱えながらも、淡々と生きている人間”というのをじっくり描いていて、そこが僕は凄いと思います。
ベントン 私の映画には、本当にいろんな人物が出て来ますが、いつも心掛けているのは、その人達に対して、“この人は良い人、この人は悪い人”という様な判断をしない事ですね。
岡 村 ええ、ええ。
ベントン パートナーと組んで、私にとって最初の映画である「俺たちに明日はない」の脚本を書いた時から、中心人物がギャングなんですよ。
彼らは、まあ犯罪者なのですが、彼らをギャングや悪者として見るのではなくて、人間として見て頂きたい、というのが、脚本を書く上で非常に留意した点ですね。
彼らの事を本当に人間として理解して欲しいし、あまり道徳的な判断を下して欲しくない、というのが当時から、すごくありました。
岡 村 そこがね、僕はすごく好きなんです。今のお話のアーサー・ペン監督の“ボニーとクライド”にしても、彼らは、やっぱり悪い人、犯罪者ですよ。
犯罪者なんだけど、映画を観ている人が最後まで、“悪い奴なので、嫌だな”等とは思わずに、“何とか、あの人達、生き延びられないのかな…”と思ってしまうんです。
何というか、最後の最後まで、あの2人が愛おしく思えてしまう。
そう、ベントン監督は、登場人物を非常に愛していらっしゃるという事。
今度の「白いカラス」でも、そういう事を感じました。
ベントン 私は、映画の中の登場人物に対して、とっても共感が出来る、同情が出来る、非常に感情移入が出来る… そういう風に作って行きたいと常に心掛けているつもりです。
今回の「白いカラス」の中でも、エド・ハリスの演じているレスター・ファーリーという役は、下手をすると、これは非常に嫌われてしまう様な、感情移入出来ないキャラクターだと思います。
しかし、単なる気が狂ったベトナム帰還兵ではなくて、本当に人間的にいろんな苦労、いろんな悲しみを背負っている人物なのだという事に焦点を当てたかったのです。
岡 村 あのエド・ハリスの彼は、“アメリカの痛み”そのものだと思いました。
ベントン うん、うん。
映画の中で、トラックに乗った彼が、主人公2人の車と接するシーン。
衝突しそうになる所ですけど、撮影中、本当はそこで私は“カット!”と叫ぶはずだったんです。
しかし、エド・ハリスの演技に見入ってしまい、思わず“カット!”と言うのを忘れてしまって、ずっとカメラを回し続けてしまいました。
その時の彼の演技…。
一言も発していませんが、ものすごく多くを語っているのです。
ですから、それを全部、映画本編に使いました。

 プレスシートに頂いた監督のサイン

岡 村 さて、この「白いカラス」という映画は、人種問題という非常にデリケートな問題を扱っている映画ですけれども…。
人種という名の、一つの概念。
これが世界の諸問題の原因になっている事が多いのですが、僕は本当の本当を言うと、“人種という概念は、妄想に過ぎない”と思っています。
ベントン監督は、どう思われますか?
ベントン 確かに…。 あなたが今おっしゃった様に、私も妄想だと思いますね。
でもね、残念ながら、人種的な問題、そして民族的な紛争というのは、もう絶えないと思います。今、この瞬間も、本当に世界中で起こっています。
私は、アメリカの南部の育ちです。
20世紀の半ば、私が9歳だった頃の話をしましょうか?
当時は、あらゆる場所で、もう完全に人種を分けていました。
例えば、バスに乗っても、70歳の黒人のご夫人が座っている近くに、9歳の少年の私が近づくと、彼女は私に席を譲らなければならなかった。
そういう、本当に恥ずかしい社会、世界でした。
私は、まだ9歳でしたが、“何か間違っている。これは正しくない”と、強く思いました。
岡 村 映画とアジテイションが違う事は解っているのですが、僕は、映画というのは、社会を変えうる力を持っていると思っています。
そう信じて、こういう仕事をさせて頂いているんですけれども…。
是非、今後も、監督独特の視点で人間を描いて、色々な事を私たちに教えて頂きたいと思います。
ベントン 本当ですね。
この後も、ずっと映画作りを続けて行きたいと思っています。
でも、あなたが今、おっしゃったくらい、良い映画が出来ればいいのですが。
岡 村 次は、トム・ハンクスさんと仕事をされるそうですね。
日本人は、トム・ハンクスが大好きですョ。すごく楽しみです。
ベントン 二年後に、またお会いしましょう。
岡 村

ロバート・ベントン監督でした。また近い内に、是非! 
ありがとうございました。

ベントン ありがとう。すごくいい気分になれました。 
とっても、エネルギーを頂きました。
岡 村 こちらこそ、最高でした。 
(了)