ギリシャの島々 [アンドロス島]
やっとのことでミコノスを脱出できる!
私たちの乗った船はもはやパロスに向うものではなく、予定を変更して、アテネに戻る便だった。
待ちあわせまでにはあと一日あったけど、パロスは遠回りになるし、アテネからも遠い。それならば一日早くアテネに入ってあとの三人を待っていたほうが安心なので、泣く泣くパロス行きはあきらめた。
その船は、数日前ヒロくんが乗ったものと同じ航路でシロス島に立ち寄った。二つの山の上にびっしり家が立ち並び、その頂上にはそれぞれカテドラルがそびえている。
シロスを出ると、次はまたアンドロスという島に止まると船内アナウンスが言っている。
そこで急に私の頭に閃いた!事は、残った一日を、この名も耳慣れない島で過ごすことだった。
船内のフロントに行き、翌日もそこからアテネ行きの船が出る事を確認した。距離的にもアテネから遠くはないはずだ。るみこさんともすぐに意見がまとまり、急いで身支度をととのえ、とうとうアンドロス島で降りてしまった。
この島で下船する人は当然のように少なかった。 そのわずかな人達も、迎えにきていたバスに乗り、あっという間に消えて二人きり、取り残されてしまった。
先のミコノス島とは違い、客引きのおじさん、おばさんどころか人通りもない。 まずは落ち着くホテルを探そうにも、インフォメーション(観光案内所)すらない。
たまたま立っていたお巡りさんに聞いてみるが、英語が通じない。でも、ホテルという言葉は理解してくれ、港の広場に面
したこざっぱりした気持ちの良いホテルを紹介してくれた。
たった一日の滞在だから、荷をほどくやいなや、さっそく海の方向を目指して散歩を始めた。ホテルのある通
りがメインストリートで、あとは羊や山羊がいる牧草地だけだ。道伝いに歩いて行くと、下方に延々と続く砂浜が見えてきた。
海の色は濃いコバルトブルー。
そしてこの広〜い砂浜に私たちだけ。
壮大な海を独占できるなんてすごい!
陽が沈み、あたりが暗くなる前にそこを引き上げ、再び港のメインストリートに戻ってきた。
道行く人々はあからさまに好奇の目でこちらを見ている。そして、あちこちのおじさんから思いがけず、日本語で挨拶された。夜だというのに『オハヨウデゴザイマス!』なんて言われたり・・・。
こんな日本から遠い地で日本語を聞くとは・・・。おじさんたちは若いころ、船員をしていて、日本の港に立ち寄ったらしい。
通りで唯一のおみやげ屋さんは、オーナー兼店番兼アーティストのおじさん手作りの陶器や布製の小物たちが並べられ、どれもセンスが良くて素敵だ。
そこで私たちがゆっくりおしゃべりしていると、おじさんは裏のガソリンスタンドの、元船員で、日本を訪れたことのあるおにいさん(ほんの数年前まで船員をしていたらしい。)を連れてきた。
よっぽど日本人が珍しかったようで、おじさんは私たちの事を
『まるで空から舞い降りた天使のようだ!』
なんて今どき誰も言ってくれないようなセリフでなごませてくれた。
なんかエーゲ海にぽつんと残されたようなこの島は、まだ何かが残っている宝の島のように思われた。偶然に来ただけの場所だが、この島に出会えたことを大事にしたい。ここは私たちが天使になれる、唯一の島だから、
