涼宮ハルヒの婚約

 うだるような暑さが続くある日のこと、俺の携帯に電話がかかってきた。
 着信を見れば、相手はハルヒということになる。夏バテ寸前の俺は、その名前を見ただけで気力を根こそぎ奪い取られた。このままシカトしたほうがいい気もするが、しかし今の気分だけでスルーしちまうと、あとの処理が大変だ。
 これは出るしかあるまい。
『遅い』
 もうちょいマシな挨拶はないのか?
『うっさいわね。明日14時にいつもの公園に来なさい。それと、格好はラフなものじゃダメよ。フォーマルな格好できなさい』
 言うだけ言って切っちまいやがった。アイツは電話が嫌いなのかね? そういや中学時代の告白は全部電話だったと憤慨してたが、それで電話嫌いになったのか? それにしたって必要最小限のマナーがあるだろうが。
 だいたい、明日14時に集合ってなんだよ。急に言われても、俺にだって予定が……ないけどさ。
 それよりも、フォーマルな格好ってなんだ? わざわざこんなクソ暑いのにスーツっぽいものを着ていけというのか? だいたい、俺はそんなもん持ってないぞ。古泉の普段着みたいなもんでいいのか、悩むところだ。
「ったく、仕方ねぇなぁ……」
 古泉主催の孤島合宿から数日後。お盆前のまったりした一時に、夏休みの課題もすっかり忘れてのんびりしていたんだがな。
 まぁ、朝比奈さんに会えるなら安いもんだ。


 マズイ。かなりマズイ。時間がギリギリだ。
 連日の熱帯夜で寝不足気味だったのが敗因か、と自己分析している場合でもない。
 いつもの罰金程度の遅刻と今日の遅刻は、ちと違う。いつもは集合9時のところ、10分前にたどり着いて最後になってるわけだから、厳密に言えば遅刻とさえ言えないはずだ。
 だが今日はマズイ。時計を見れば、残り時間1分もない。どうしてこんな暑い中を走らねばならんのかさっぱりだが、何故か俺は走っていた。しかも、着慣れないジャケットにネクタイまで締めてるんだぜ? どこのドジっ子サラリーマンだよ、とセルフツッコミを入れたくなるほど滑稽に見えただろうさ。
 息せき切って北口改札前に出ると、ハルヒの姿が目に入った。いつもより小綺麗な格好をしているな。どっかのパーティにでも連れて行くつもりなのかね。
「あたしも無慈悲なわけではありません。異議申し立てがあるのなら聞きましょう」
 あー……こりゃあ本気で怒ってるな。その長門顔負けの能面じみた表情を見れば、誰だってすぐにピンと来るだろうさ。今のハルヒを見て機嫌がいいと思うヤツがいたら、そいつはよっぽど脳天気で楽天家なんだろうな。その図太さをわけてもらいたいもんだ。
「実は、途中で車にひかれそうな猫を助けた上に産気づいた妊婦さんを病院に運んで信号前でオロオロしていたお婆さんを背負って来たところなんだ」
「へぇ」
 ああ、瞬く間に眉毛が45度につり上がる。ユーモアを理解する心の余裕がほしいとこだ。
「端的に言うと、遅れてすいませんでした、ってことになるわけだが」
 ええい、俺が情けないわけじゃないぞ。今のハルヒを前にしてみろ、ヒクソン・グレイシーだって泣き出すってもんさ。
「次にくだらないこと言ったら、鉄板の上にくぐりつけて直射日光で丸焼きにしてやるからね」
「悪かったよ」
 ま、理由はどうあれ遅刻したのは事実だしな。ここは素直に謝っておくさ。
「ほんっとに、あたしを待たせるなんていい度胸だわ」
「それを言うなら他の連中もだな。まだ来てないじゃないか」
「え?」
 え? ってなんだ。聞いてるのは俺だぞ。
「あ〜……みんな、どうしてもはずせない急用が入ったんだって。夏休みだもんね。仕方ないでしょ」
 あの連中がハルヒの呼び出し以上に優先させる急用だって? そりゃ確かに、朝比奈さんや古泉あたりは社交性もあるので、他のクラスメイトと遊びに行くことだってあるかもしれない。いつもいつもSOS団の集まりに集合できないかもしれないさ。だが、長門までそうだとはとても思えんのだが。
「男のクセに愚痴愚痴言わない! さっさと行くわよ!」
 そういう性別で差別するのはよくないと思うんだ。そもそもどこに連れて行くつもりだ? 気がつけばマグロ漁船ってのは勘弁してくれよ。
「今日は、とにかく黙っていてよ」
 手首を掴まれて、ぐいぐい引っ張られて突き進むハルヒは、こちらをチラリとも見ずに口を開いた。
「それと、いつものマヌケ面はしないように。シャキッとしてなさい」
 つまり俺は木偶の坊のようにボーッとしてりゃいいのか? こいつの奇行は今に始まったことじゃないが、今日はいつにも増してわけがわからん。熱波で脳細胞がフラダンスでも踊ってるのかね?
 それに、妙なことと言えばもうひとつある。
 化粧をしているのだ。香水まで付けている。そんなどぎついものじゃないが、見た目の魅力を引き出すには十分なメイクだ。口を閉じてりゃ、まぁ言い寄る男もいるだろう、そんな容姿だから、カワイイっちゃカワイイ。
 そんなハルヒに連れられてやってきたのは……ホテルだった。いやいや、ホテルといってもラブホ(最近はファッションホテルって言うんだっけ?)じゃない。どこぞの金持ちが旅行で訪れた際に泊まるような高級ホテルだ。
「ほらキョン、ボーッとしない。ちゃんと立ちなさい」
 ホテルの入り口前で、ハルヒは俺を頭のてっぺんから足のつま先まで品定めをするように眺めると「ネクタイ曲がってる」「シャツはズボンの中に入れて」「ジャケットにちゃんとブラシかけなきゃダメじゃない!」などと言いながら、身だしなみチェックを行った。
 なんなんだ。これはアレか、ドッキリか何かなのか? 脚本古泉のカメラマン長門で、看板もって現れるのは朝比奈さんか?
「ほら、行くわよ」
 茫然自失していると、ハルヒはさっさとホテルの中に入っていく。外の熱波とは裏腹のほどよい涼やかな気温に、吹き出していた汗も一気に引いた。なるほど、夏場のうだるような暑さをしのぐには、こういう場所が最適だ。静かだし、何よりロビーでくつろぐだけならタダだ。
 などと、自分でも「貧乏くさいなー」なんて思うようなことを考えていると、ハルヒはどこか目的地があるかのように、俺の手を取ってずんずん進んでいく。
「お待たせいたしました」
 一瞬、おまえ誰だ? と言いたくなるような物腰と口調で挨拶をするハルヒ。目の前には、俺たちより年上だがそんなに老けているわけでもない青年が1人。
「こちらが、きょ……こほん」
 軽く咳払いをして、俺のことを本名で紹介した。そういやコイツに本名で呼ばれるのは初めてかもしれん。しかも「さん」付けだ。貴重な体験だから覚えておこうかと思ったが、最後に付け足した一言で全部吹っ飛んだね。
「私の最愛の人で、将来を誓い合った方です」
 最近のホテルは、汗を引かせるだけじゃなくて血の気も引かせるくらい冷房が効いてるんだな。


 人間、脳の処理機能の許容範囲をオーバーすると、ブレーカーが落ちるようだ。初めて知ったよ。できることなら、生涯知りたくもなかったがね。
 茫然自失状態からなんとか復帰した俺だが、その間、予備バッテリーで動いていたのか、そつなくこなしていたようだ。状況把握ができていないが。
「……くん?」
「え? あ、はい?」
「あ、彼のことは『キョン』と呼んであげてください。本人も気に入ってるみたいですし、学友もそう呼んでいますので」
 おい、ハルヒ。おまえは本当に俺が知ってるハルヒか? そもそも『キョン』なんて呼び名を俺が気に入ってるとでも思っているとは驚きだ。妹が面白がって呼んで、それで広まっただけじゃないか。
 いやいや、今はそんなつまらんことをピンポイントでツッコンでる場合じゃないだろ。
「済みません、ちょっと失礼します。はr……涼宮さん、少しいいですか?」
 今、心内で舌打ちしただろ。それよりも、これはいったいどういうことなのか、しっかり説明してもらわにゃならん。でなけりゃ、俺の身が保たない。
 半ば無理矢理ハルヒを連れ出して、あの爽やか青年の姿が見えないところで問いただすことにした。あの人の前で騒ぐのはヤバイってことくらいわかる。こう見えても空気は読めるんだ。
「どういうことか説明してもらおうか」
「なによ」
 腕を組み、アヒル口で視線を合わせないようにしているハルヒは、やはり俺の知っているハルヒだ。また時間が改変されたのかと思ってヒヤヒヤしたぜ。
「あんたは黙って座ってればいいの。あとはあたしが上手くやるから」
「帰ってもいいならそうするがな」
 うぐっ、とマンガみたいに言葉を詰まらせる。
「……荻窪さん……あたしの許嫁なの」
 そうか、彼の名前は荻窪と言うのか。最初に聞いた気がするが、さっぱり覚えて……なんだって?
「なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんのよ。許嫁っつったって、親が勝手に決めたことよ。それにあたし、まだ16でしょ? それで将来を決められても『ふざけんな!』って感じ。ぜんっぜん乗り気じゃないし、いい迷惑なの。ただ、あの人自身にもいろいろお世話になってるからさ、そんな嫌いってわけじゃないのよ。だから穏便に済ませるためにあんたに来てもらったってわけ。早い話が、好きな人がいます、ってことで諦めてもらおうってこと。ホントはあんたじゃなくて古泉くんのほうが適役かと思ったんだけど、急用があってダメだったから、あんたにしたのよ」
 予め用意していた原稿を読み上げるみたいな言い訳だが、状況はよくわかった。
 そもそも、ハルヒの性格を知っていれば普通の男なら引くだろ。マリアナ海溝より深い懐の広さと慈悲の心を持っていたって、お付き合いしようなんて思うわけがない。
 もし、ハルヒの奇行を知っている上で、それでもハルヒがいい、って言うなら、そりゃもう二度と現れないかもしれない貴重な存在だ。宇宙人や未来人、超能力者より希少価値がある。悪い人じゃないとハルヒ自身も言ってるわけだし、付き合っちまえばいいだろうが。
「冗談じゃないわよ」
 にもかかわらず、ハルヒはご機嫌斜めだ。
「確かにいい人だけどさ、普通に結婚して子供作って余生を過ごす人生なんて、こっちから願い下げよ。ぜんっぜん面白くないじゃない!」
 俺はそういう平凡な未来が是非とも来て欲しいんだがな……などとは口が裂けても言えない。この雰囲気じゃ、とても言えやしない。
「とにかく、今日一日は余計なこと言わずに座ってりゃいいのよ。わかったわね!」
 今の俺に、どんな口出しをしろと言うんだ。むしろ、アホらしくてさっさと帰りたい気分なんだ──などとはとても言えず、ハルヒの許嫁という、ケツアルコアトルに心臓を捧げる生け贄と同義な立場である荻窪さんの前に戻ってきた俺とハルヒは、どういうわけか腕を組んでのご登場だ。
 ハルヒ曰く「このくらいアタリマエのように見せつけなきゃダメでしょ」と言われたが、そういうもんなんだろうか。
 状況を把握して戻ってきた俺がやるべきことは……ハルヒに言われたようにただ座って、ちょっと話を振られたら「はい」か「いいえ」を言うだけ。つまり、状況を把握してもしなくても、何も変わらなかったわけだ。ま、田圃のカカシみたいなもんさ。返事ができるだけカカシよりはマシか。


 それにしても、あのハルヒにここまでの社交性があるとは正直意外だった。相手の話の内容をちゃんと汲み取り、答えるべきところは的確に、返答に困りそうな話はそれとなく逸らし、俺に振られた話には巧みにフォローを入れつつ、自分への質問として返事をしている。
 まるで、どこぞのやり手経営者みたいだ。こういうことができるなら、普段から是非ともそうしてもらいたい。そうすりゃもうちょっとマシな高校生活を送れるってもんさ。
(とは言ってもなぁ……)
 俺は隣のハルヒを盗み見る。こういう『普通』の対応は、コイツにとっちゃ苦痛以外の何ものでもないだろう。ここが学校で、相手がクラスメイトだったらすでに暴走していてもおかしくない頃合いだ。今だって、下手すりゃ閉鎖空間が出来ていて、古泉が後始末に奔走しているかもしれん。あいつが嫌味な笑み以外の表情を見せているなら、それはそれで見てみたいもんだが、そういうわけにもいかないんだろうが……今の俺に何ができるってんだ?
「わかったよ、涼宮さん」
 俺がいろいろ考えているうちに、ハルヒと荻窪さんの話は決着の様子を見せたようだ。諦めたように肩をすくめている様子を見るに、ハルヒの思い通りの展開になっていたみたいだな。俺の考えも杞憂で終わr……。
「キミとの婚約は解消しよう。僕の両親にもその旨、伝えておくよ。ただ、少しキョンくんと2人で話をさせてもらえないかな?」
 正直、この展開は考えていなかった。ハルヒもそうだろう。
「あの、それは……」
「いいじゃないか。男同士、話し合いたいこともあるんだよ」
 ニッコリ微笑んで、けれどその目はハルヒが何を言っても聞き入れなさそうな輝きを宿している。ここで意固地になって拒否するのは、それはそれで不自然だ。
 それはハルヒも分かっているのか、「余計なこと口走ったら死刑よ!」と言わんばかりに俺の方を睨む。
「わかりました。それでは私は先に失礼いたします」
 おいおい、メインが先に引っ込んでどうする? 俺は脇役だぞ。脇役に主役並の活躍を期待されてもらっても困るんだ。
「それにしても」
 俺が軽くパニクってると、荻窪さんはニコニコと笑顔を見せながら話しかけてきた。
 その表情に、俺は違和感を覚える。婚約解消した直後だってのに、よく笑っていられるものだ。
「あの涼宮さんにあそこまで言わせるとはね。キミはよくよく愛されているようだ」
 そ、そうだったのか? 話はほとんど聞いていなかったから、ハルヒが何を言ったのかさっぱり覚えていないんだ。逆に考えると、ハルヒにそこまでべた褒めされてたってのは、怖いことなのかもしれん。
「それで、キミ自身は涼宮さんのことはどう思っているんだい? 彼女は強引なところもあるからね」
「それは……」
 まぁ、この状況なら「愛してます」としか言えないな。無論、演技だ。演技なんだよ。
「おっ……と、失礼」
 俺が口を開きかけた矢先、荻窪さんは携帯を取り出した。彼の知り合いだろうか、いいタイミングだ。余計なことを言わずに済んだぜ。
 それにしても荻窪さん、俺に聞かれてもいい話なのか、普通に話してる……と思ったら、俺に携帯を差しだしてきた。
「え?」
「キミにかわってほしいそうだ」
「はぃ!?」
「出ればわかるよ」
 荻窪さんの電話にかけてきた相手が、俺に話しがあるだと?
 ……何故だろう、もの凄く嫌な予感がする。脳裏に浮かぶのは、ニヤケ顔の男が1人。
『どうも、ご苦労さまです』
 やっぱりか……。
「古泉……貴様の差し金か」
『ええ、そうです』
 臆面もなくあっさり白状しやがった……。電話越しでも、あいつの満面の笑みが手に取るようにわかる。
 何を考えてるんだ、コイツは!?
『合宿のときにも言いましたが、涼宮さんを飽きさせないためですよ。夏休みですし、合宿からそれなりに日にちも経ってしまいましたからね。婚約、なんて非日常的な香りがするでしょう?』
「どこまでがおまえのシナリオなんだ? 荻窪さんとハルヒは昔からの知り合いだったみたいだが」
『その通りです。ただ、『機関』の人間はそれなりの数、彼女の周りにいるともお話したはずです』
 そんな身近にまで『機関』の人間がいるのかよ……。
『この程度で驚かれては、意外な人物が『機関』の人間だった、というときに卒倒してしまいますよ』
 まだ次から次に『機関』関係者が出てくるっていうのか。あまり関わり合いになりたくない気もするんだがな。
『ともかく、僕の描いたシナリオはここまで。あとは……そうですね、涼宮さんとデートでも楽しんだら如何でしょう? ひと夏のアバンチュールですよ』
 何がアバンチュールだ、アホか。
「ひとつ聞かせろ。もしハルヒがこの婚約を受け入れてたらどーするつもりだったんだ?」
『…………』
 しばしの沈黙。
『涼宮さんの性格を考えればそれはなさそうですが、そうですね、もし彼女がそれを受け入れるのであれば、それはそれで追加シナリオでも用意したことでしょう。あなたのためにも。それでは、また』
 もう、ため息しか出ないね。


 その後、荻窪さんには謝罪され、軽く世間話をしてホテルを出た。古泉の茶番には呆れるしかないが、荻窪さん自身はそんなに悪い人じゃなかったのが、せめてもの救いか。まったく、無駄な一日を過ごしたもんだ。
「遅かったじゃない」
 ホテルから出ると、夜の帳が東の空を覆い始めている頃合いだった。にもかかわらず、コイツは待っていたのか。意外っちゃ意外だ。
「そりゃね、巻き込んだのはあたしだし、先にさっさと帰るわけにはいかないでしょ。で、どんな話をしてたの?」
「おまえのことをよろしく、だってさ」
 もちろん、そんな話じゃなかったがな。
「あんたに何をよろしくされればいいのかしらね。それと……今日の話はみんなにはナイショよ。あと、荻窪さんとの会話もさっさと忘れること!」
 何を話してたのかさっぱり覚えてないんだがな。ただ、心なしか顔が赤くなってるのは気のせいか?
「何よ。言いたいことあるなら言えばいいでしょ」
 殺気だったハルヒの視線に、俺は肩をすくめた。
「別に。なぁ〜んも」
 ハルヒは鼻を鳴らし、俺の背中を思いっきり叩きやがった。遠慮なしの一撃だな、おい。
「ああ、もう、お腹空いたわ。キョン、ご飯でも食べにいきましょ。もちろん、あんたの奢りね」
「はぁ? なんで俺が奢らなきゃならないんだ。今日はおまえの用事に付き合ってやったんだから、たまには金出せよ」
「あんた、遅刻したクセにナマイキなこと言ってるわね」
 ……覚えてたのか。
「ファーストフードとかファミレスじゃダメよ。せっかくこんな格好してるんだから、マシなとこに連れていきなさい。あと、ついでに何か買ってもらおうかしら。そうね、ちょっと考えておくわ」
 喋りながら、徐々に部室で見せるような100ワットの笑顔になるハルヒ。こいつにしかわからん頭の中のスイッチが入ったようだ。このまま暴走されると、俺の財布が壊滅的な被害を受けるかもしれん。
「なんでそこまでしなきゃならないんだよ」
「何言ってるのよ。今日一日はあたしの彼氏なんでしょ。イヤだとか言ったらあんた、死刑だからね!」
 俺の腕にガッチリしがみつき、ぐいぐい引っ張るハルヒの瞳は燦然と輝き、その表情はストロボ並みに輝いていた。
 この展開も古泉のシナリオ通りなのか? とも思ったが、ハルヒのこの顔を見れば、もうどっちでもいい気がしてきた。
 今日一日は残り少ないが、もうちょっと付き合ってやるか。