その日の朝、いつもよりどこか沈んだ表情を浮かべている朝比奈みくるは、いつも以上に多く、ため息をついていた。
「どーしたぃ、みくるっ! 朝から元気ないねぇ〜。また厄介事でも舞い込んできたのかいっ!?」
そんなみくるを見かねてか、鶴屋が口全体で笑いながら声をかけてきた。その笑顔にどれほど救われてきただろう。アンニュイな表情を浮かべていたみくるの顔にも、自然と笑みが浮かぶ。
「厄介事とは違うんですけど……ちょっと困ったことがあって」
「んんー? ああ、なるほどねっ! またラブレターかい?」
「そうなんです……」
ふぅっ、と再びため息。鶴屋はみくるの前の席にどっかりと腰を下ろした。
「お安くないねぇ〜、あたしもあやかりたいってもんさっ! でも、めがっさいいことだよ! イヤじゃなければ付き合っちゃえばいいっさっ! 命短し恋せよ乙女ってねっ」
「ふぇ!? だっ、ダメです! あたしは……その、男の人とお付き合いするのは……」
真っ赤になって語尾をすぼめるみくるを見て、鶴屋は肩を震わせて笑いを堪えていた。
みくるがラブレターを受け取り、こうやって困惑するのは今に始まったことではない。最低でも月に1度、こういう事態は発生している。
そしてその都度、鶴屋が似たようなニュアンスのことを言えば、みくるは真っ赤になって首を横に振る──そんなやりとりが繰り広げられている。
「んっもーう、みくるは可愛いなぁっ!」
「わわわっ! つ、鶴屋さん!?」
抱き寄せられ、子犬がされるように頭を撫でられたみくるは、ますます真っ赤になっていた。
「でもさっ、ラブレターもらって困っちゃうなら、もうキョンくんと付き合っちゃえばいいのにさっ! あっ、でもそうなったらハルにゃんのご機嫌がナナメっちゃうかな?」
「えぇぇえっ! そ、そんなあたしはキョンくんとは……」
「あれあれ? 古泉くんの方かな?」
「だ、だからそういうのじゃないですよぅ。もーっ、鶴屋さん!」
「あははは! 分かってるっさ。わけがアリアリなんだねっ! 今から、そのラブレターの主に断りに行くにょろ? だったらあたしも付き合っちゃうよっ!」
「それはダメですっ。思いは受け入れられませんけど、ちょっと……やっぱり嬉しいですから。だからちゃんと、あたし1人でお断りしてきます」
みくるがそう言うことは、鶴屋にも分かっていた。それも、いつものこと。
「うーん、やっぱみくるはカワイイなぁ。おねーさん、ここで待ってるから、ちゃちゃーっと行ってらっしゃいな!」
「はーい」
パタパタと小走りで教室から出て行くみくるを見送って、それでも少し心配になって鶴屋がこっそりついて行くのも──また、いつもの光景だった。
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