「ねえ、がーさまぁ」
「なに?」
「疲れちゃったの…。お休みしない?」

二人は、ただただ広い、高原に来ていた。
一体どのくらい歩いたのか、太陽はもう大分西の空に傾いている。

「そうだね。休もうか」
「わーい!」

旅、とはいっても、何が目的というわけではない。
ガランにとって、それは…居辛くなった町からの逃避だったかもしれない。
しかし、同行人が居るという事で、少しはそんなことも忘れられるような気がしていた。

「ねえ、がーさま?今日はどこまで行くの?」

クレアは、相変わらずのんびりしている。
ガランは、荷物の中から地図を取り出して、眺め始めた。
少し後に、クレアに、ある町を指さして見せた。

「ここ。後少し歩けばつくからね」
「ホント?じゃあ、頑張る〜♪」

クレアは、まるで遠足を楽しむかのように、ひょい。と立ち上がった。
その腰に下げている大きな剣を、ガランは始めて見つけた。

「クレア…それは何?」
「これ?」

クレアは首をかしげて、鞘ごと剣をガランに渡した。
その剣は、随分大きな刃渡りの割に軽く、ひ弱そうなクレアにでも使いこなせるのではないかと思われた。
ガランは黙って、剣を鞘から抜く。
…日に翳して見ても欠け一つ見つからない、新品そのものだ。

「がーさま?」
「っ?!…あぁ、ごめん…」

ガランは、慌てて剣を鞘に収め、クレアに差し出した。
クレアは、不思議そうにガランを見ている。

「この剣が、どうかしたの?」
「いや、なんでもない。なんでもないよ…。それより!早く行かないと日が暮れちゃうよ」
「…?うん…」

ガランは一瞬、クレアの事を疑った…。

……そんな訳ない。クレアに、そんなこと…。

ガランは、町につくまで口を開かなかった…。

◆◇◆

「あの剣はねぇ、にいさまがくれた、護身用の剣なんだよ」

町の宿で、クレアはそんなことをいった。
…護身用という割には、いかにも「これを持つ人は剣の達人です」という感じの剣だった。
よく、山賊が使っているような、先の太い…どんな物でも切れてしまいそうな。

「クレアの住んでたのって、どんな所だった?」
「ん?皆ね、いいひとたちばっかりだったよ」

歳幼い少女の割に、昔を懐かしむような顔でクレアは育った村について話し始めた。

「にいさまはね、毎朝畑を耕してたの。
 あんまりいい暮らしじゃなかったから、自給自足だったんだけどね、皆がにいさまを助けてあげてたの。
 にいさまがオイラの事拾ってくれた時も、皆でオイラの面倒見てくれて」

にこにこしながら、クレアは話した。
彼女は、一体何故、その村を出たのだろう?
こんな弱々しい少女が、剣以外何も持たずに。

「クレアの村は…一体どこ?」

意識外に、ガランはクレアに訊ねていた。
クレアの顔が、一瞬 ふ と歪んだのを、見逃せばよかった…。

「オイラの、村は…」

クレアが言いかけたところで、急に部屋のドアが開け放たれた。
中に滑り込んできたのは宿主で、かなり慌てた様子だ。

「何かあったの?」
「町の中で、魔物が暴れてるんだ!誰か、戦力になる者は…?!」
「…わかった。私がいく」

ガランは、すぐに町の中心へと向かった。


ガランが現場へついた頃には、町の人々は皆、家の中に非難していて、街道には人ひとり見当たらない。
そして、町の真ん中には、巨大な昆虫のような魔物がいる。

「大人しく、住処に帰ったら?痛い目見るよ…!!

伽藍の言葉が通じるはずもなく、巨大虫はガランに襲いかかった。
すんでのところで、ガランは風に乗って敵の攻撃をかわした。
しかし、間髪いれずに繰り出される相手に、自分は攻撃を仕掛ける事が出来ない。

「くっ…!!」

一瞬、地面のぬかるみに脚を取られ、ガランは敵の触手に捕まった。
身体に絡みつく触手は、徐々にこめる力を増す。
身体が軋み、必要な酸素の循環が悪くなり、段々と視界がかすれる。
そんなガランの視界に、見覚えのある顔が映った。…クレアだった。

「く、れあ…っ?!」
「がーさま!!」
「っ、き、来ちゃ…だめ!!」

ガランは、残りの力を振り絞って、クレアに逃げるように言う。
が、クレアは一歩も引こうとしない。

「がーさま…オイラ…オイラ…」

クレアは、目に涙をいっぱい溜めて、剣に手を添えた。

……もうこれ以上、大事な人を失いたくない。

ガランの目に映ったクレアは、風のようなスピードで攻撃を繰り出す。
そう、まるで…戦いを楽しむかのように。