菅井えり レビュー 2000年12月9日
吉岡一政と菅井えりが、Stella Mirusのもとアルバム『Air』(Pacific Garden: Japan CHCB-30003, 2000)を共同プロデュースした。
菅井えりは言う。「これはいわゆるアジ アン・スタイルのCDではないんです。吉岡さんの言うとおり、クラシック音楽を作るつ もりで取り組んだの。それはそのまま、私自身のスタイルでもあったわ」
Miriam Stockley、Enya、Adiemusの音楽、そして菅井えりのアルバム『Mai(舞)』などが好き な人であれば、このアルバムもきっと気に入るに違いない。 あるトラックなどは、伝説の Julee Cruiseの作品をしのばせる出来ばえだ。 菅井えりは、その透明感のある声をよく引き立てる素晴らしいヴォーカル・アレンジを編 み出した
。彼女がアレンジを手がけた9曲中5曲は、バッハ、サティ、ベートーベン、フ ォーレ、ムソルグスキーなどのクラシックをもとに作られたもので、耳にしたその瞬間か らAdiemus、Enya、そしてAnnie Haslamの "Still Live" などを思い起こさせた。オー プニングはバッハの作品をもとにしたタイトルトラックの "Air"。優しく流れるヴォーカ ルが幾層にも重なり、それを静かなキーボードの伴奏が引き立てる。
またエリック・サティの "Gymnopedie No.1"(ジムノペディ 第1番)を菅井流に愛ら しくアレンジしたトラックは、ほとんどすべてヴォーカリーズの、ヴォーカル・アレンジ とキーボードで作られたナンバーで、曲の構成自体もEnyaの最新アルバム『A Day Without Rain』を思わせる。
また "Aquamarin" は情感あふれるヴォーカルと幅広い音 域を自在に操るキーボードとが相まって、非常に雰囲気のある作品に仕上がっており、こ れもまたEnyaを思い出させる。このような類似性は非常に好ましいものであり、菅井え りの声質はこのスタイルにうってつけだ。
菅井えりの澄み切ったヴォーカルは、"Stella" のアカペラ・アレンジでも冴えわたる。ア ルバム『Mai(舞)』で確立された彼女独自のスタイルで曲が進行する間ずっと、重なり合 うコーラスのハーモニーがリードヴォーカルを支え、絶妙なバランスで寄りそう。
このス タイルを持続したまま、さらにフォーレの "Siciliania-Pel Leas Et Melisande Op.80" (ペレアスとメリザンド)をアレンジした作品のイントロが続き、収録曲の中でもかなり の大作となるこのナンバーではキーボードがリードヴォーカルとバックコーラスのハーモ ニーを支えている。
クラシックのアレンジナンバーとして最後に登場するのは、ムソルグ スキーの "Pictures at an Exhibition"(展覧会の絵)の一部をアカペラに編曲し多重録 音したナンバー。中盤でヴォーカルがしだいにペースを上げ、Adiemus風のスタイルが 徐々に現れ出てくるにつれオーケストラ風の伴奏部分なども際立ってくる。
そしてクロージングナンバーの "Silent Love" では、これまで見てきたスタイルのすべて が見事に溶けあう。キーボードのアレンジはとりわけ素晴らしく、クラシックの雰囲気に 満ちている。ヴォーカルの面では、Enya、Julee Cruiseが確立したスタイルにAdiemus の作風を取り入れており、それらの絶妙なブレンドがアルバムの印象をより美しいものに している。
菅井えりは紛れもなく素晴らしい才能を持っており、何度もくり返し聴きたく なる種類のヴォーカリストだ。レーベルのウェブサイトには、アルバムジャケットをクリ ックして試聴のできるサウンドバイトが4つ用意されている。
アルバム『Air』は何度も じっくり聴きかえす価値のある作品であり、はるか海を越えて手に入れるべき、まさに必 聴の一枚だ。現在輸入盤でのみ入手可能となっているので、ご注文してみてはいかがだろ うか。