ケイ国王の映画感想文21 VOL.46

ヴィドック

「ヴィドック」(監督/ピトフ 出演/ジェラール・ドパルデュー ギヨーム・カネ)

ストーリー〜19世紀のフランスのとある町で起こる連続殺人。事件の鍵を握る「鏡の怪人」を追うのはフランスでは伝説的な人物である私立探偵ヴィドック(ジェラール・ドパルデュー)。が、ヴィドックは鏡の怪人との戦いの末、殺されてしまう。その事件の謎を辿っていく伝記作家(ギヨーム・カネ)が辿り着いた事件の真実とは?

 ビジュアルは素晴らしいと思うが……

 
全編最新のデジタルビデオカメラで撮影され、背景や人物を何枚もデジタル加工で貼り付けたような奥行きのない映像……この作品の独自の世界観を醸し出していてなかなか刺激的だ。色使いといい手法といいまるで「デジタルの技法を用いた油絵」のようだ。
 そんな手法で描かれる幻想的なシーンは一見の価値があると思われるが、アップを多用するテレビ的な演出は非常に暑苦しく、ストーリー(謎解き)も陳腐過ぎ。最初と最後のSFX満載のアクションシーンを先に作っちゃって、後から長編映画としての時間を埋めるためにくっつけただけのスカスカの本編。退屈でした。謎解きも観客の意表をつく事を優先した、ただ突拍子がないだけの種明かし。しかもそのオチのせいでせっかく圧倒的に強くて神秘的で恐ろしい存在であった「鏡の怪人」の存在が非常に陳腐な存在に格下げされてしまう。この脚本家「クリムゾン・リバー」の人と同じ人なんだけど、「クリムゾン〜」の時も同じ事やってるんだよね。突拍子がないだけのしょうもない奴が犯人なので最後の対決が盛り上がらない。駄目じゃん!みたいな。
 
 じゃあ、最初と最後のアクションシーンだけでも見る価値はあるのか?

 
と言われると、ないとは言わんが「体格はがっちりとしてるが一応普通の人間(ヴィトック)」と「様々な超能力を使いこなす謎の怪人」とがそれなりに渡り合っちゃっている、しかも肉弾戦って言うのがねえ〜。怪人の恐怖とか神秘とかがここでもどんどんこそぎ落とされて行く訳ですよ。人間の力が及ばない存在、ってのがやっぱり恐怖の本質だと思う訳で、何故その設定をわざわざ崩しに行くのかな、と。変な電撃みたいな遠隔攻撃やテレポーテーションみたいなのが使えるのに、わざわざ体貼って肉弾戦を仕掛ける怪人に「?」みたいな。お互いの技を受け合うプロレス的な戦いをされても、ねえ?
 
 「殺し屋1」の戦いのシーンみたいに「お互いちょっとの油断で体の一部は確実に持ってかれる!」みたいなのがなくてさ。アマッちょろいんだよね。「チェッ(舌打ち)」みたいな。あと技の攻防が御都合主義なんだよね。あくまでも魅せる為だけの闘い。そうこの映画、良い意味でも悪い意味でも「ビジュアル系」。見た目だけの映画(と俺には思われた)。

 なんでもいいけど「クリムゾン・リバー」といいこの映画と言い、ジャンルや世界観と関係なく唐突に今風のカンフー(っぽい)アクションシーンを入れるのはフランスの若手監督の間では流行りなのか? 子供っぽいので止めた方がいいと思うんだけど。ジェット・リーみたいな本物や、(国は違うけども)異世界、あるいは近未来であると言う事で、あえて奇妙な味わいの(香港風の)アクションシーンに意味を持たせてる「マトリックス」や「修羅雪姫」なんかはちゃんとそれに必然性があるから良いと思うんだけれども。

 結論としては、単純にお話が面白くなかったので(☆☆)と言う事で。お粗末様でした。

('02・1月劇場公開)
('02/3/21 書き下ろし)

>BACK