ケイ国王の映画感想文21 VOL.27

アンチェインUNCHAIN

「アンチェイン」(監督/豊田利晃 出演/アンチェイン梶、ガルーダ・テツ、西林誠一郎、永石磨 ナレーション:千原浩史)

・今年見た映画の中でナンバーワン!(洋邦問わず)
 
現役時代、一度も勝てなかったボクサーの物語(ドキュメンタリー)。

 
アンチェイン梶というボクサーがいた。
 リングネームの"アンチェイン"はレイ・チャールズの名曲『Unchain my Heart』から取った。"心の鎖を解き放て!"、まさにその歌のように梶は生きた。
 ボクサーとしての戦績は6敗1引き分け。たった1度も勝てなかった。
 引退後、梶は大阪の釜ケ崎で『とんち商会』という会社を設立する。労働者に仕事を紹介する手配師をおもに、探偵でも迷子のペット探しでも、殺し以外ならなんでもやった。だが仕事はうまくいかず、浴びるように飲む酒とボクシングの後遺症で梶の奇行はどんどんエスカレートしていく。
 1995年5月5日、ある労働者から、賃金を支払ってもらってないと、とんち商会の事務所に脅迫まがいの電話が何度もかかる。激高した梶は黄色いペンキを頭からかぶり、タクシーに箱乗りして、釜ケ崎のあいりんセンターへ殴り込む。たった一人の暴動。手にレンチとトンカチを持って、叫びながら。「おまえら、起きて働け! そこのオッサン、立ちションすな!」
 殴り込みに行く前、梶は3人のボクサーに電話した。
 ガルーダ・テツ、
 永石磨、
 西林誠一郎。
 『アンチェイン』はこの4人のボクサーを5年間ほど追いかけた青春映画だ。(公式ホームページより)

 最初にも述べたが、ドキュメンタリー、である。
 監督はひょんな事から知り合った彼らの生き様が映画の題材になりうる事を確信し、五年間の長期取材で彼らを追い続ける。
 膨大な取材テープを編集し、大阪で主に活動をしているソウル・フラワー・ユニオンにレイ・チャールズの「Unchain my Heart」のカバーと劇中の音楽を依頼。監督と公私とも仲の良い、千原兄弟の千原Jrこと、監督のデビュー作「ポルノスター」で主役を演じた千原浩史がナレーションを担当し、作品は完成。
 
・凄いわ、この映画!
 リングと言う場所で、栄光を掴む事なく、散って行った4人の男達(それぞれ、ボクシング、キックボクシング、シュートボクシングのリングに身を投じる)の生きざまが、なんのてらいもなく、ただそこにゴロリと転がっている。監督はそれを器用に、そして的確につなぎ合わせ、フィルムと言う形で観客に提示してみせる。
 ただただ、そこには生きざまだけがある。
 あまりにも不格好で、あまりにもぶざまで、あまりにも不器用すぎる。
 
 しかし、そこには、
 「何かが突然光を放って、燃え盛る瞬間」
が、間違いなく映し出されている。鎖から放たれた男達。狂える魂。日常とのギャップ。ただただ、そこに映し出される物を見つめ続ける観客。
 前半、ややこしい説明を分かりやすくする為に入っていた、千原Jrのナレーションも後半、まったく影を潜め、
 関係者や当事者の生の声が、
 試合が、
 リングが、
 汗が、
 パンチが、
 蹴りが、
 血が、
 タオルが、
 闘いが、
 何かをずっと映し出し続ける。
 途中何度も背筋がぞくぞくっとした。生きるとはなんなんだろう?
 
 この作品は傑作だ!
 
 エンドクレジットを見ながら、心の中で叫んでみた。凄い映画だ……
 
・壮絶で、笑えて、悲惨で、バカで、切実で、そして羨ましい……
 
豊田監督は1991年、阪本順治監督『王手』の脚本家として映画界に登場。その後、『ビリケン』('96 阪本順治監督)の脚本を手掛けたほか、演劇台本や劇画の原作なども手掛ける。1998年、『ポルノスター』で監督デビュー。その年の日本監督協会新人賞、みちのく国際ミステリー映画祭`99新人監督奨励賞を受賞する。『UNCHAIN』は監督第2作目である。

 
釜ケ崎のあいりんセンターへ殴り込みの後、第1級障害者認定を受けて精神病院に入っていた(!)梶本人は映画の後半に登場する。すっかり完治し、当時の出来事をすっかり明るい表情でさばさばと振り返るアンチェイン梶。「鎖に縛られない」生き方を実践した梶の人懐っこい笑顔。仲間達との再会。それぞれが様々な事情を抱えつつも、肉親のようなつながりを持つ彼らが旧交を温めるシーンは微笑ましくも羨ましい。
 そして梶以外の三人も非常に魅力的なのだが、何度かインサートされるガルーダ・テツと宿命のライバル小野瀬邦英(現・日本キック・ボクシング連盟ウェルター級王者)との4度の死闘も感動的である。ガルーダの戦いっぷり。熱すぎる! 倒れても倒れても立ち上がるガルーダ・テツ……最高!

 見てくれとしか言い様がない。七月中旬までテアトル新宿他でレイトショー。順次全国での公開。見逃すな!

 ☆評価?(☆☆☆☆☆)に決まってんでしょ! 
 
 心の鎖を解き放て! UNCHAIN!
 
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('01・5月劇場公開)
('01/6/23書き下ろし)