ケイ国王の映画感想文21 VOL.17

ザ・セル

「ザ・セル」(監督/ターセム 出演/ジェニファー・ロぺス)

 連続殺人犯に捕われた被害者の行方を追う為、殺人犯の脳の中にサイコダイブする女性心理学者(ロぺス)・・・

セル〜連続猟奇殺人犯が誘拐した若い女性を閉じ込める為に作ったガラス張りの独房。40時間で水が満たされるように設計されている一種の「殺人ショーケース」である。被害者が溺れ死ぬ様子は克明にビデオに記録され、犯人はそれを見て歪んだ性的妄想に耽り、溺死体を犯しては、川に投げ捨てていた。

 主人公は元々、分裂症の患者の治療用に開発された患者の脳(潜在意識)に入り込む為の特殊な装置で、とある少年の精神世界に入り込み治療を行っていたのだが、警察の依頼で、捕らわれた女性の行方を探し出す為に、昏睡状態で発見されたサイコ殺人鬼の脳(精神世界)に潜り込む事になる。

 そして潜り込んだ殺人鬼の精神世界は・・・とてつもなく幻想的で、刺激的で、そしてとても恐ろしく危険な世界であった・・・

 と、まあ、非常に魅力的なあらすじで、向こう(アメリカ)でも非常に話題になった作品であったので、非常に期待して見に行った訳だ。売りは殺人鬼の精神世界のビジュアル・・・非常に独創的で刺激的な映像が見れるという触れ込みだったのだが、はてさて・・・

 で、感想である。一言で言うと「サイコサスペンス+アートフィルム」と言うのが、この作品の独創性であると思われるのだが・・・

 まず「サイコサスペンス」の部分。

・サイコ殺人犯を見つけだす経緯。
・手がかりを見つけだし、被害者の居場所を見つけだす経緯。
・主人公と殺人犯の対決

・・・等がこの手の映画の見せ場と言うか見せ所になる訳じゃないですか。それが・・・とりあえず観てみて下さい。呆れました。監督、物語に興味がないにも程があり過ぎる!(笑) 中学生が書いた出来損ないの小説じゃないんだから、全く・・・
 しかも主人公が、殺人犯の「少年時代」を精神世界の中で垣間見て、殺人犯に同情を寄せる訳ですが、同情の余地あるかい! 快楽殺人でしょ? しかも同情寄せといてあの結末かい!(見れば分かる) 被害者の居場所が分かった時点で主人公がとる行動自体がそもそも・・・なんなんだかなあ〜(すいません分かりにくい文章で・・・)

 え? 「アートフィルム」なら物語のつじつまには多少目をつぶってもいいんじゃないかって? 魅力的な映像イメージを見せてくれたら、劇映画としての欠陥も帳消しになるのではないかと・・・んむ、その通り。

 確かに、殺人鬼の精神世界のビジュアル・・・単純に楽しめます。だけど・・・全部現代アートからのパクりってのはどうなん?(サンプリング?) でも最後のクレジットでそれについて何の言及もないってのはまずいんちゃうん?(ちなみにこの事はあとで知った事ですが・・・)。それに目をつぶるとしても、やっぱりそのイメージシーンには「世界の拡がり」のような物はあまり感じられず、単なるイメージの羅列にしか見えないな、という風に感じられた。アート系の映画なんてそんなに観てないけどさ、これをアートフィルムだ、と言い張られるともっと凄いのありますぜ、って事になる。いや、魅せてくれるのよ。だけど、ひれふしたりはしない。コマーシャル映像的。もともとプロモーションビデオ出身の監督だからね・・・驚きはしても心を動かされたりはしないなあ〜。ま、この辺は、個人差もあるかな。やっぱり物語にうまく融合しないってのはもったいない。っていうか、融合させる技術がない&する気がないんだろうなあ・・・
 つまりですな、殺人犯の精神世界のイメージ・・・たとえば彼が殺人犯になるきっかけとしての少年時代のある強烈な出来事が元になっているとか、たとえば、精神医学的なアプローチで、このイメージが精神医学的にはこれに対応している、とか、そう言うのがあればまた違うんだけど・・・全くないのね。ただ監督が映像化したいイメージを垂れ流していると言うか・・・しかも監督オリジナルじゃなくて、よそから戴いたイメージって事だから・・・なんだかなあ。
 たとえば「マルコヴィッチの穴」なんてのは、監督の描きたい世界を脚本と映像が切っても切り離せない形で、極めて独創的な形でそれをきっちり描いて見せてたりするし、たとえば「マトリックス」は、映像自体はよそからのイメージの寄せ集め的な部分もあるし、もしかしたら本当は新しいSFX技術を見せたいだけで、ストーリーはあと付けなのかも知れないけど、それでも「効果的に映像(SFX)を見せる為のストーリー」であると同時に「効果的にストーリーを見せる為の映像(SFX)」だったりすると思うのだ。
 「ザ・セル」の場合、「サイコサスペンスとしては物足りないのでアートフィルム的映像を付け足した」もしくは「アートフィルムとしては弱いし、客も呼べないから便宜上サイコサスペンスを付け足した」と言う事にしかならないと思うのだ。
 「サスペンス」と言う制約があった上で楽しめるジャンルと「アート的な映像」と言う制約を離れた部分で表現した方が評価されるジャンル。それをそのまま継ぎ足して作った映像を斬新と思うか、無理があると思うか・・・僕は後者だった訳ですが、さて皆さんはどう思われるでしょうか?
(☆☆1/2)と言う事にしときます・・・が、他の人の感想も凄く気になりますなあ。
 観て損はない気がする・・・これを「ザ・セル」体験と名付けよう! 刺激的な作品である事は確かです・・・是非覚悟を決めて(?)御覧あれ! 
 
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('01・3月劇場公開)
('01/4/6書き下ろし)