ケイ国王の映画感想文21 VOL.20

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(監督/原恵一 声の出演/矢島晶子)(アニメーション作品)

 ストーリー〜しんちゃん達の住む、埼玉県春日部市では「20世紀博」と言う20世紀の懐かしいTV番組や漫画を追体験出来るアトラクションを網羅したテーマパークが開催されていた。
 大人達は自分達が昔見た懐かしい70年代の世界に浸り、夢中になっていた。しんちゃんの父・ひろし、母・みさえもその例外ではない。しんちゃんはそれを見ながら、親達がいつもの親ではない事にいちまつの不安を覚えている。そしてその不安は適中。「20世紀博」の裏にはおそろしい陰謀が隠されていた……

 「20世紀の世界」に囚われたオトナ達を救い出す為のしんちゃんとその仲間達の戦いが始まる!

 大・大・大傑作!
 
以前から劇場版のクレヨンしんちゃんが回を重ねるごとにクォリティを高めていると言う事はしんちゃんファンやアニメファンのみならず、映画ファンの間でも取りざたされてました。で、ここ数年の識者の選ぶ年間の邦画ベストテンでも劇場版クレヨンしんちゃんの名をあげる人は少なくなかったのです(知ってました?)。それでも僕は第一作をTV放映した時以外は全くの劇場版のシリーズ(もちろんTV版も)を見ておらず、「なかなか面白いらしい」ぐらいにしか認識していませんでした。
 
 ところがどうでしょう。今回の最新作「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」、どこの雑誌やネット上の映画評を見ても

「本年度日本映画ナンバーワン!」
「しんちゃんシリーズの最高傑作!」、
の文字が踊っており、それだけならまだしも、

 けなしてる記事をいまだにひとつも見ていない!

 結構辛口な映画評で有名な某映画批評サイトではトップページを急遽、しんちゃんの似顔絵に換え、劇場版しんちゃんの猛プッシュを始めるわでお祭り騒ぎ状態!
 これは何かのっぴきならない事件が起きている!と悟った私は急遽しんちゃんを見に某劇場に馳せ参じた訳です。GWも終った平日の劇場は驚くほどの人の少なさでしたが、僕は一人でわくわくしながらスクリーンに相対した訳です。
 そして……そこで見たものは……

宮崎駿、押井守を超えましたね

 もうぼろぼろです。熱く込み上げるものを何度堪えた事か。もし僕が子を持つ親ならもっとはまっていたでしょう。そう、この映画の製作者達は子供たちよりもその親達にびんびんメッセージを飛ばしています。完全に大人対応。
 もちろん子供達が見てめちゃめちゃ面白いんですが……これを涙なしで見られる大人がいるんだろうか……
 未来を取り戻そうとするしんちゃんの頑張り、すんでの所で正気を取り戻し(いかにもしんちゃんらしいやり方→映画を見て確認してね!)、居心地のいいノスタルジィの世界から自分達の本来の未来に向かおうとするひろしとみさえの姿にジーン……
 監督・原恵一は宮崎駿、押井守を超えました(断言)。もちろん大友克洋や庵野秀明もまったく足下に及びません。十年に一つの傑作と僕も太鼓判を押します。 
 宮崎駿と言えば「耳をすませば」で今時の大人達のノスタルジィを扱っていましたが(監督は高畑勲でしたが製作・原作が宮崎駿なので、これは宮崎さんの映画と言ってもいいでしょう)、しょせん「昔は良かった話」……過去を美化している、一つ上の世代の人の昔話に過ぎないなあと言う感を拭えなかったんですが、今回の「クレしん」はあっさりそこを突き抜けています。
 そして、「武力的な手段に頼らずこの世界を転覆させようとする勢力との戦いを描いた作品」と言えば押井守の大傑作「劇場版・機動警察パトレイバー2」がありますが、「20世紀の臭い」でオトナ達を腑抜けにし、「70年代に理想と思われていた未来」の中にオトナ達を閉じ込め、理想世界を築こうと言うフォーク世代の生き残りみたいなケンとチャコの姿(ファッションも70年代ファッション)……クレヨンしんちゃんの世界を壊さずに、これだけのものを作り上げたスタッフにあらためて拍手を送りたいと思います。この作品を見れて良かった……

 正気を取り戻したひろしが、この世界からの脱出を図る為、車を飛ばしながら、しかしふと周りを囲む70年代の懐かしい風景に気づき、涙を零します。
 「ちくしょう!懐かしくてこのままだとおかしくなりそうだ!」
 
 ひろしが正気を取り戻す時に一瞬にして、ひろしの今までの人生がフラッシュバックするんだよね。あそこでもう……グッと来ちゃって。うわ、思い出しただけで……う〜(泣)。

 5月11日(金)までの上映。見れなかった人はビデオで是非見てね。
 あ、あと小堺一機と関根勤も声のゲスト出演しています。コサキン世代には堪りません。どのシーンで出るかチェックして見てね。

 と、言う事で「マグノリア」以来の(☆☆☆☆☆)!
 
 う〜もう一回見てえ〜!


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('01・4月劇場公開)
('01/5/9書き下ろし)