ケイ国王の映画感想文21 VOL.14
ケイ君のビデオ観賞記21その六(「日本黒社会/LEY LINES」)

「日本黒社会/LEY LINES」(監督/三池崇史 出演/北村一輝 柏谷享助 田口トモロヲ 李丹 哀川翔 竹中直人)

あらすじ
〜呂龍一(北村)は中国人の父親と中国残留孤児の日本人の母親との間に生まれたハーフである。弟・俊霖(柏谷)と共に幼い頃苛められて育った彼は、不良仲間と喝上げやドラッグに勤しみながら、とある小さな田舎町で明日の見えない毎日を送っている。
 ある日、龍一は仲間達と共にベトナム人が経営する工場を襲い、金を奪う。そしてこの小さな町を出て「ここではないどこか」に旅立つ事を決意する。無人駅で列車に乗る寸前で仲間達は次々と怖気づき、親友の張(田口)だけが同行に同意する。走り出す列車の窓の外に見えて来たのは、列車を追い掛けて走って来るバイク。乗っていたのは大人しくて真面目な性格の弟・俊霖だった・・・
 3人が到着したのは外国人犯罪者や中国人マフィアらが跋扈する犯罪都市・新宿。 そこで繰り広げられていたのは、強い者・金のある者が弱者からむしり取る犯罪者の論理だけがまかり通る世界。そしてその中で必死に逞しく生きる続ける人々の姿であった。
 中国人娼婦アニタ(李丹)との出会い。そして、トルエン売りの黒人バービー(サムエル・ポップ・エニング)の紹介で、トルエン売りの元締め池田(哀川)から卸されたトルエンを売り、溜めた金で外国に行こうと計画する龍一達。しかし、偽造パスポートを手に入れるには膨大な金が必要だった。そして無気味に立ちはだかる上海マフィアのボス・ウォン(竹中)の影・・・
 果たして龍一達は、「自由の土地」、「見えない明日」、「ここではないどこか」を手に入れる事が出来るのだろうか・・・

 三池監督がこの後に撮った「漂流街」に非常に物語が似てるんだよね。「漂流街」は非常に娯楽色溢れる面白い作品だったのだが、監督が「日本黒社会」の物足りない部分をリカバーした作品だと思えば納得が行く。

 そう、非常に良く出来た映画なのだが、物足りないのだ。「日本黒社会」って。

 三池監督の作風として、「ぶっとんでいる」、「行き過ぎている」っていうのは、傑作「DEAD OR ALIVE」以降、観客の間で定着された見方だと思う。が、濃いバイオレンス色を残しながら、それでも「現実に地に足のついたドラマ」を描いた作品も彼には実は何本もあって、「今までのパターンを外しさえすれば面白い」のだと勘違いして愚作を連発する何人かの新鋭若手監督とは違い、「ぶっとんだものとは別に、かっちりパターンにはまった物でもちゃんとした物を撮れる」と言うのを見せつけてくれるのが三池監督である、という風に僕は評価している。
 で、今回の「日本黒社会/LEY LINES」・・・もちろん水準以上の物を見せつけてくれたのだが、一方で、「今回はちょっと踏み込みが甘いかな」と言う気がしてしまった。ぶっとんだ描写の事ではない。登場人物の心理描写、観客が感情移入する為の色々な要素を今回はちょっと端折り過ぎたのではないか、と言う事・・・

 龍一達、3人の仲間が終始、基本的に仲が良い・・・やっぱり一度壊れそうになった友情が再構築されると強い絆がより一層、観客に認識されるし、ドラマ的にも盛り上がる筈だ。
 そして主人公達が竹中直人演じるボスと売春婦アニタを挟んで対立するシーンも出て来るのだが(人間的な感情を失った冷血なボスと言う設定)、
 「何を考えているか分からない不気味さ(感情を見せない)」と、
 「(ボスが)アニタにだけ感情を許していると言う部分」を、
どう両立させて客に見せるのかと言う問題(しかもラストでボスはあっさりアニタに銃を向けたりするので心の葛藤は見えにくい)の処理の仕方。結局ボスがアニタに心を許したのは束の間の出来事だった・・・と言う事なのだと思うが(結局は誰にも心を許していない孤独な存在だと言う描写はあった)、やっぱり中途半端感は否めない。
 で、敵側が「心の見えにくい存在」なら、なおさら、主人公の方は、
 「(主人公が)心を許した存在であるアニタが殺され、感情を爆発させる主人公」で、分かりやすくいった方が、容易に観客は感情移入がしやすいのではないか、と思ってみたりなんかするのだが。なんか淡々としちゃってるような・・・
 「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」、「極道黒社会 RAINY DOG」に続く「黒社会」シリーズ三作目と言う事だったのだが(三作品は「黒社会」と言うタイトルがついている以外は物語上の関連性は全くない。ただ、「アジアの中の日本」、「日本の中のアジア」と言う部分をバイオレンスや裏社会を舞台にしたドラマを通して描くと言う部分では共通点を持っている・・・と言うか、他の三池作品にもほとんどこのテーマが共通して描かれるのだが)、今回はちょっとなあ・・・
 
 アニタ役の李丹は良かった。なかなか日本人の女優さんであの雰囲気を出せる人はいないだろうなあ。なので逆に勿体無いと言う感じ。全体的に出て来る登場人物のキャラクターの膨らませ方が足りないんだよなあ・・・
 
 と言う事で、「ドラマ性の希薄さ」がこの作品の欠点、という結論になりました。
 が、相変わらず「画面から立ちのぼる、並々ならぬ雰囲気の漂わせ方」は大したものです。んむ、密度の濃い映像と言うか、ね。
 今回は三池作品の中では「標準作」と言った所でしょうか。それだけに「このレベルで『標準作』かよ!」と思わせる平均値の高さ、まだまだいけると言う未知数な部分、それを相変わらず感じさせてくれる監督であるなと言う評価は、未だ僕の中で変わってない部分ですね。「極道戦国志 不動」、面白かったもんなあ・・・
 さて、次回作はどんな感じなのだろうか・・・(もう撮り終えて公開を控えている作品が二作品もある)楽しみでやんす!

(☆☆☆)

('99・5月劇場公開)
('01/3/16書き下ろし)

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