ケイ国王の映画感想文21 VOL.11
回路

「回路」(監督/黒澤清 出演/加藤晴彦 麻生久美子 小雪)

 もしこの世と向こう側の世界がインターネットで繋がっていたら?
 
 今っぽい設定のホラーである。これを黒澤清監督(「CURE」、「ニンゲン合格」、「カリスマ」)がいったいどう料理したのか?
 いわゆる「リング」のようなホラーを期待して行った人はどのように感じたのだろう?
 これは黒澤清の「リング」へのアンサーであり、日本のホラー描写の新たなる可能性を提示し、そしてホラーと言うジャンルに収まらないとてつもない傑作である! と言って置こう。
 今世界で一番ホラー描写の最先端を行ってるのがジャパニーズホラー(以下J・ホラー)であると断言して構わないと思う。
 ようは限られた予算内でどれだけ効果的な怖さを演出できるのか、とその部分だけ、黙々と最近のJ・ホラーは研究に研究を重ねて来た……と言う事なのだけれども。
 傑作Vシネ「本当にあった怖い話」シリーズの鶴田法男監督が最初に始めたその研究は、鶴田監督の影響を自ら認める「リング」、「リング2」の中田秀夫監督や黒澤清監督、脚本家の高橋洋らに受け継がれ、そして更にパワーアップした形で最近「呪怨」の清水崇監督が今それをやっている最中だ。こんな国はたぶん日本だけだと思う。大いに胸を張るべき事に違いない(?)。この独特のJ・ホラーのスタイルはもう世界的に拡がる徴候を見せている。嘘だと思う人は「TATARI」(感想文参照)と言う最近のハリウッド映画を見てみるといい。如実にJ・ホラー描写の影響がうかがえるから。
 そして更にニュースタイルを打ち出して来たのが「回路」と言う事だ。さてその実態は……

・怪談+侵略SF+ボーイミーツガール=映画「回路」!
 
 ホラー映画、特に怪談映画って日常の個人レベルのちまちました所をうまく掬って作ると、結構こじんまりとまとまった、標準的ないいホラーになると思う。しかしそうじゃないものを作ろうとしたのがこの映画「回路」であったのだ。黒澤清が「回路」でしでかした事。それは、

「日本的な怪談のスタイルから侵略SFに話を発展させ、そして世界の崩壊を描いて見せる(見せた)事」

である。スケールでかっ!。しかもその発想が凄いと思う。
 この世がじわじわと別の世界に侵食されて行くと言う恐怖……その辺を面白がれないとこの映画ちっとも面白くない筈(断言)。分かりやすい怖さ(殺人鬼が襲ってくる!)とかのが好きな人は逆にパスして貰っていい。
 ネットを媒介に向こう側からやってくる「幽霊」をめちゃくちゃ怖がれるか全然怖くないと思うか、この映画の場合は極端である。怖い人はめちゃくちゃ怖いはず。そうじゃない人は全く「何これ?」状態であろう。(そう言う感想の人にはどうやら評判が悪いようだ)。
 つまり
 「ただそこにいるだけで幽霊は怖い」と思う人と、
 「幽霊に命を脅かされるシーンがあってこそ怖い」と思う人
によって感想は異なると言う事だ。
 で、実は私は後者の方だったのだが(そんなには怖くない)……しかし、そんな私が無条件に面白いと思ってしまったんだよねえ。
 例えば……この手の映画が普通なら崩壊を暗示させて終るのに対して(まさしく「リング」がそうだよねえ)、崩壊するまで一気に描いて見せる所と、そしてそんな世界でも僕らは生きて行けると言い切ってしまう凄さ。「若者」ならば絶対をそれを受け入れつつ、乗り越えていけるに違いないと言うポジティブ・メッセージに物凄い感銘を受けたりする。変化を認めて取り込んで行く事を恐れない……確かに「CURE」でも「カリスマ」でもこの監督は同じようなテーマを扱ってはいたのだけど、にしても、うーん……凄いわ。
 因みに、見せ場になりそうな大事な設定やテーマを簡単にセリフで処理してしまうのと、そのセリフを出すタイミングが悪かったりするのは「カリスマ」などでも感じていた事だが、確かに「回路」にもその傾向はある。しかし、そんな些細な部分が気にならないほど圧倒的に面白い! 確かに最先端に行き過ぎなんだよね。だからとっつきが悪い事は認める。だがこんなにスケールのでかい話をきっちり描いて見せるだけで、凄い!としか言い様がない。さりげないCGの使い方もうまいんだ。全然そう言う風に見えない人なのに……
 世界規模の崩壊を描いたホラーの傑作と言えば「ゾンビ」が超有名だが、この映画が黒澤清版「ゾンビ」である事は他の人も指摘しているし、本人も認めている(別に腐った死体が蘇ったり、人をバリバリ喰う訳じゃないよ)。この世から生きてる人が消え、ただ静かに……ただ静かに幽霊に侵食され崩壊して行く世界。それを面白がれるか、なにそれと思うか……これを読んで何言ってるの?と思った人は見ない方がいい。変な意味ではなくて。

 で、さっきもいったように黒澤清映画では珍しく若者が主人公の映画なのだが、加藤晴彦、麻生久美子、小雪……若い役者陣が抜群にいいんだよねえ。あ、有坂来瞳ちゃんも出てた。彼女も凄く良かったと思う。
 加藤晴彦と小雪のやりとり、なんかいいんだよね。あ、ボーイミーツガールやってんじゃん黒澤さん!とひとりでにこにこしてしまった。あんまり男女の恋愛とかを描かない黒澤さんだから、控えめな感じだけど、それだけでとても楽しかった。で、加藤君も麻生久美子も凛々しいんだよね。小雪ちゃんもいいなあ色っぽいし。
 監督が「若者」を肯定的に描くのには物凄く共感出来る。それは「バトルロワイアル」の深作監督の目線にも通じるな、と思ったりもする。黒澤清監督自身も40代だからまだまだ若いんだけれどもね。
 すっかりダメになったこの世界でも「若者」なら乗り切って行ける! そんなメッセージを一ホラー映画から感じる事が出来ようとは見る前は全く思いもしなかった事だ。まったく、これだから邦画からは目がはなせない。嬉しい悲鳴。 

(☆☆☆☆)

('01/2月劇場公開)
('01/2/16書き下ろし)

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