ケイ国王の映画感想文21 VOL.26

JSA

「JSA」(監督/パク・チャヌク 出演/ソン・ガンホ イ・ビョンホン イ・ヨンエ)

 南北を分断する38度線……その共同警備区域(JSA)で起った射殺事件。北と南の兵士の証言は食い違い、事件の解明は両国の合意の元、スイスとスウェーデンからなる中立国監督委員会に委ねられた。捜査にあたったのは韓国籍の父を持つ韓国系スイス人、スイス軍女性将校のソフィー・チャン(イ・ヨンエ)であった。
 事件の当事者達と面会を重ねながら事件の真相に迫って行くソフィー。が、その裏に隠されていたのは全く予想を超えた「真実」であった……

 国境を隔てた境界線上で、ふとしたきっかけで芽生えた心の交流。もともと同じ民族同士が不幸な歴史の流れで、銃を向けあう現実。

 小さな誤解。
 隠された友情。
 真実を明かす事の是非。
 罪と贖罪。
 止まらない悲劇。
 正義とは何なのか。
 
 個人レベルでの心の交流こそが、政治的対立を超える第一歩であるのは間違いない事なのだ。しかしこの映画ではそれが真実であると訴えつつも、それは易しい事ではないのだと言う、あまりにもクールな主張を観客にぶつけて来る。もちろんいくばくかの希望を込めつつ、ではあるのだが。
 そこまで悲観的にならなくても……と思うのはつい最近まで実現しないと思っていた歴史的な北と南の国家元首同士の会談を見てしまっているからだろうか。
 ちなみにこの映画が作られたのは、その会談が実現する少し前であった。この作品が製作されるにあたっても、政治的に微妙な問題を扱っている事から、常に完成そのものが危ぶまれていたらしい。
 しかし、困難を乗り越え、出来上がったこの作品は、韓国の興行成績宸Pの記録を塗り替え、韓国映画の歴史をこれから語って行くにあたって、内容的にも質的にも非常に重要な位置を占めて行くのだろうと思われる。
 僕個人的にも「韓国映画もなかなかやるじゃん!」と思わせた、眼からウロコ的作品であった。
 って言うか、今年見た外国映画の中のドラマ部門トップなのでは……(俺的にはね。今の所……)

・近年稀に見る密度の濃いドラマ性を感じさせる作品
 もちろんその「濃いドラマ性」とは、北と南が永年蓄積して抱えている「分断された民族」と言う名のあまりにも重い、しかも「現在進行形のなまなましい現実のドラマ」がそのまま作品にぶち込まれているからに他ならない。言うまでもない事ではあるのだが。
 現実とリンクしたドラマ……しかも現実にある国と国の運命をもストーリーに組み込んだこの物語は、「所詮はフィクションだから……」と言う観客の最後の逃げ場さえ用意してくれない。
 「JSA」が語っている物語は「架空の国の絵空事」でも、「遠い過去に起こった事実」でもなく、「まかり間違えば、近い未来に起るかも知れない、限り無く現実に近い出来事」なのだ。しかもその分断の歴史に大きく影響をおよぼした上に、非常に地理的にも近い、とある国に住んでいるわしらみたいなもんにとっては、余りにも遠いようで実は身近な出来事であると言う事の衝撃。
 
 そして、この作品の物語が、非常に個人レベルで見る人が共感出来る、

 「個人の友情・心の交流が、『抗えない力・運命』によって引き裂かれる事の恐怖、悲劇」

という普遍的なテーマを含んでいる為、朝鮮半島の問題に明るくない人でも、容易に感情移入が出来る筈である(と思われる)。
  
 非常に骨太で力強いこの作品だが、洗練された印象を受けるのは、韓国映画界でも非常にインテリで、「JSA」以前には、むしろ玄人受けのする芸術肌の作品を作って来た監督パク・チャヌクの功績による所が大きいと思われる。
 個人的に好きなシーン。南の兵士(イ・ビョンホン)が、月夜の灯りの中だけの暗闇の中、一人DMZ(非武装地帯)に取り残され、やがてある出会いが起こるまでの、風がそよぐ森の中での一連のシーン。なんでもないこういうシーンに弱かったりする。詩的な映像。そしてやっぱり一枚の写真に集約される例の……アレ、かな。
……ジーンとした。グッと来る演出。
 見てない人で、一部の香港映画に代表される、がさつなイメージを頭に描いてる人はすぐにそれを取り払った方がいい。監督が過去、そして最近の映画からインスパイアされた(と思われる)、あらゆる映像の演出の技法が、洗練された形で、さりげなく取り入れられている。大人の映画ファンを自認する人であるなら、是非見ておくべき作品であろう。
  
 監督は言う。
 
 (最近海外の映画祭で引っ張りだこの日本映画の事を引き合いに出して)こういう作品(JSA)が大きなバジェット(予算)で作れる、韓国映画界を羨ましいと言う日本の映画関係者は多いようだが、むしろ、芸術性、作家性の強いバラエティに富んだ作品を多く作れる日本の現状の方が羨ましい。早く韓国でもそういった環境で多くの映画製作者が作品を作れるようになれたらいいと思う……
 
 パク監督なら、これから韓国映画界に新しい波を起こして行けると思う。パク監督の過去の作品もモーレツに見たくてしょうがないのだが……
 
・そして魅力的な役者陣
について、触れない訳には行かないだろう。
 北朝鮮軍士官役のソン・ガンホ。誰かが言っていたが、「男たちの挽歌」のティ・ロンにつぐ、「見ているだけで泣けてくる役者」と呼んでもあげてもいいだろう。男気溢れる上官役、最高過ぎ!
 熱いぜ! 渋いぜ! かっこいいぜ! 泣かせるぜ! 旨すぎるぜ!!
 そしてソフィー役のイ・ヨンエ。「韓国のCM女王」「韓国の松嶋菜々子」的な存在。今年30歳?信じられんよ。
 
 あの……今迄見てきた映画女優の中で「一番可愛い」んですけど!(俺的には)

              ……もちろん別格のある人をのぞいて(フォロー) 

 で、この映画に彼女が出て来るのにはちゃんと必然性があるんだよね。もちろん男くさい物語の中の「華」としてのキャスティングの部分もあるとは思うのだが、設定として「一見、きれいなだけで、実務的には対した事が出来無さそうな、女性の士官が派遣されると言う事」にちゃんと理由付けがあるんだよね。つまり、「いかにもバリバリ出来そうで信頼感のあるやり手の男」を派遣しない方がよいと言う判断……これ以上は書かない方がいいね。そう言う所もこの作品、良く出来てるなと思った次第である。
 そして彼女の演技力! この作品の前半と後半で明らかに(役柄としての)彼女にある変化が起こっていて、別人かと思うような成長を見せるんだよね。そう言う見せ方の部分も含めて、素晴らしい女優さんだと思う。
 もっとたくさん見たいので、香港のジョイ・ウォンやケリー・チャンみたいに日本のCMとかに出てくれないかな、ほんとに。
 あとは原田泰造似のイ・ビョンホンね(笑)。南の若い兵士役、純粋な部分と男らしい部分、良く演じていたと思います。彼も韓国では人気もんなんだろうなあ……
 
 北朝鮮と韓国との歴史的背景、あえてここで書き記そうとは思いません。むしろ何も知らずに見に行った人がそれを機に隣国の歴史に関心を持つってのがいい流れなのかも知れない。
 お説教めいた物語ではないので、是非安心して見に行って欲しい。
 イ・ヨンエ、是非スクリーンで見た方がいいと思うのだけれど……(結局それかい!笑)
 でも、これホント! そう言う意味でも……必見!

 と言う事で……(☆☆☆☆)

>BACK 

('01・5月劇場公開)
('01/6/13書き下ろし)