ケイ国王の映画感想文21 VOL.7
EUREKA(ユリイカ)

EUREKA(ユリイカ)」(監督/青山真治 出演/役所広司 宮崎あおい 宮崎将)

あらすじ〜九州のとある地方都市。偶然遭遇してしまったバスジャック事件で生き残ったバス運転手(役所)と小さな兄妹(宮崎あおい、宮崎将)。事件から二年後に再会した彼らは疑似家族を築き、バスに乗って心に負った傷を拭う為の再生の旅に出る……
 
 三時間三十七分の(!)の長篇である。この作品は2000年カンヌ映画祭コンペティション部門に正式出品され、「国際批評家連盟賞」と「エキュメニック賞(全キリスト協会賞)」をW受賞している。監督はこの作品が長篇7作目、九州出身で本作品の脚本・編集・音楽も手掛けている俊英・青山真治(1964年生まれの三十六歳だ。若い!)
 この映画は撮影をモノクロフィルムで行い、現像時にカラーポジにプリントすると言う独自の方法を採用、「クロマティックB&W(ブラック&ホワイト)」称される、独特の色調で描かれている。色味を帯びたモノクロ映像と言ったところだろうか。九州の美しい景色とも相まって、素晴らしい効果を醸し出している。

 さてなぜ三時間三十七分なのか? それは登場人物の心の再生の時間を描く為にどうしても必要な時間だったと監督は語る。過去に受けた傷にもがく過程の部分と、再生の旅の部分、二つの映画を合わせたような映画になるであろうと。人生のゆるやかに流れる時間をスクリーンを通して描く為に必然的に選ばれた上映時間であると。
 結論から言うと……素晴らしい映画だった。それは静かに押し寄せる波のような……ある意味、あっさり目な所が好感を持てる。驚くべき事に、三時間三十七分、一時も退屈する事がなかった。監督の言う所の、巨きな大木の幹のような雄大な映画………こんな作品を撮れる人が日本にいる事だけでも感動である。世界でもいるだろうか? ましてやそれが36歳の若手監督の作品であるとは!

 青山真治監督の知名度はどれほどの物なのだろう? 告白せねばなるまい。監督の劇場デビュー作「Helpless」を新宿テアトルのレイトショーで見てから、僕はこの監督の大ファンであったのだ。作品はほぼ全部見ている。「北野武ショック」後に出て来た監督の中でも抜きん出た映画の知識、空間の描き方の旨さで「恐るべき新人」であるとその当時から認識をしていた。唐突に訪れるバイオレンス、銃が出てくるシーンの演出のうまさ、哲学的なテーマなどそれだけでニコニコしてしまう。ちなみに同じ九州を舞台にした「Helpless」と「EUREKA」は斉藤陽一郎扮する「秋彦」が同じ役柄として登場する地続きの物語である(もちろん見ていなくても観賞に支障はない)。閉ざされた九州の地方都市で、ある事件をきっかけに感情を爆発させ、あっけなく暴力に踏み込む主人公を浅野忠信が演じた「Helpless」と言う作品、ダビングしてあるテープを何回も見直す程、大好きな作品である。ぶっきらぼうで無気味な余韻を残し、ちっともカタルシスを味合わせてくれない、それでいて魅力的なこう言った作品を撮ったかと思うと、トレンディドラマか?と思わせる「SHADY GROVE(シェイディー・グローブ)」で今時の若者の恋愛物を撮ってみたりする。もちろん個人的にいまいちだった「冷たい血」とか「EM/エンバーミング」なんて言うはずれもあったりするが、そう言う若さ故の失敗も含めて、この人の作品には好感を持っている。「チンピラ」、「ワイルドライフ」も面白いんだ。ほんとにもう。

 気難しいお芸術な映画ではなく、TVドラマを普通に見るような、丁寧な演出なので、変に先入観を持たずに見て頂けたらと思う。九州弁の心地よいリズムの中、しかし描かれるのは今時の社会的メッセージを含んだ、若い監督なりの誠実な問題定義、そして前向きな再生へのメッセージである。その青臭さも含めて、まっすぐな映画を撮り、そして圧倒的な完成度でそれを描き切った監督には脱帽せざるをえない。 この映画を見ずに今年の日本映画を語って欲しくない。ちなみに「EUREKA」とはギリシャ語で「我、発見せり」と言う意味である。僕は「EUREKA」を「発見した」! 見てない人には早くこの素晴らしい体験を味わって頂きたい……今はそう強く願うのみである。(☆☆☆☆)
('01/1月劇場公開)
('01/1/29書き下ろし)

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