ケイ国王の映画感想文21 VOL.51

Dolls(ドールズ)

「Dolls」(ドールズ)(監督/北野武 出演/菅野美穂 西島秀俊)

・(↓まずはインタビューの文章からどうぞ)

北野武(監督)
「ヨウジさんに『全てお任せします』って言って出て来たのがあの衣装。ヤラレたって感じだね。(中略)衣装合わせにいったら菅野美穂さんがあの真っ赤なドレスで出て来た。椅子から飛び上がったよね。(中略)ホームレスの衣装をお願いしたわけだからさ、アディダスのジャージの擦り切れたヤツとか、ボロボロのスカートとか予想してたわけだから。(中略)でも、そこで腹をくくったというか。もともと『人形が語る』ってコンセプトだったのを、もっとはっきり「人間が人形に操られている物語」にすればいいわけだから。衣装のおかげで『日本の四季』を舞台芸術そのものだ、っていうふうに撮ろうという方向性が決まった。それはうまくいったと思うよ。
だからヨウジさんの衣装じゃなきゃ成立していないんだよね。もうヨウジさんの圧勝。」

山本耀司(衣装)
「正式に話が来る前後に、どうやら文楽を絡ませるらしいって話が聞こえて来て、「やばいなあ」と思いました。それが一番最初の反応でしたね。
(中略〜で、実際文楽を見に行き、熟練した遣い手の手によって人形に魂が吹き込まれるのを見て衝撃を受け)
そんなものを先に写してしまったら、いかな女優であれ男優であれ、生身の人間が登場するときにどんな服を着せればいいんだって。どうやったって勝てないじゃないかって。文楽を出すのはやめてくれないかなって思いました。
最初は、だから、やけっぱちな気分もあったんです(笑)。早い段階の打ち合わせのとき、武さんに『ファッションショーをやらせてもらう』って言ったのも、そんな気分も入ってたんですね。
(中略〜そしてファッションショーとは自分のファッションショーではなく、例えば前回衣装を担当した『BROTHER』」では匿名でのデザインである事を心掛けたと言う事、映画では衣装に対するデザイナーのメッセージ等邪魔なだけであると言う事を踏まえた上で、監督の『日本の四季を撮りたい』と言う意向を聞いた時に)
『だったら歌舞伎って事じゃないか』と。それでまるで歌舞伎の一コマ一コマみたいな、架空の作り物のカップルのファッションショーにしようと考えていったわけです。(中略)文楽って、フランス語で言えば、デフォルマシオンって事ですよね。強調というか変形というか、だってあんなプロポーションはありえないわけですし。つまり簡単に言えば、もともと作り話であるものを、もっともっと作り話っぽくしていく方向だったわけです、今回は。」

「ドールズ」パンフレットより
北野武、山本耀司インタビューより抜粋。()は筆者の補足。


・んーむ、あのねえ〜
 出て来る登場人物、エキストラを覗くほぼ全員がインパクトの強いヨージ・ヤマモトデザインの衣装で登場する。
 つながり乞食(監督が昔浅草で実際にそう呼ばれて実在したお互いを赤い紐で繋ぎ合った夫婦の乞食をモチーフにしている)である主人公二人、ヤクザ、ちんぴら、アイドルオタク、車椅子の障害者(障害者で芸人のホーキング青山が実際に演じる)、工事現場の作業服……全員ヨージ・ヤマモト……

 んーむ……。

 僕はこのインタビューを読む前に映画を見た訳だが、正直、この「ファッションショー状態」が気になって、どうしても作品に入り込めなかった。
 監督はその用意された衣装を見て、いつものリアリティ重視の方向ではなく、作り物めいた方向で撮る事を腹を括ったとの事なのだが、正直、「有りは有りだが、出来ればリアリティ重視の本来の演出意図で作ったこの作品を見てみたかった」
 今回の衣装によって監督の頭の中にあった作品のディティールの部分は本当に大きく変わって行ったんだろうと思う。
 俺はやっぱりキレイキレイより、ざらっとした感じのいつものたけし節で展開しながらところどころで作り物めいた(いわゆる文楽をモチーフにした)シーンを入れた方が効果的だったのではと思う。「ソナチネ」の相撲のシーンみたいなあんな感じでね。(あの相撲のシーンは良かったよなあ……)
 今回のパターンも有りは有りだけどなあ。んーむ……

 美しい日本の四季を撮ろうとしたのも、今までのキタノブルーやモノトーンの世界から卒業してきちんと色を描きたいと言う事なのだが、それはそれでやりたい事は分かるし、素晴らしい成果をあげているとは思う。しかしどうやらそっちに気を取られ過ぎて、ストーリーやシーンの演出は淡白になってしまった感は否めない(もともとそう言う人ではあるが)。
 3つのエピソードを織りまぜた構成にしても一つ一つのエピソードの掘り下げが浅く、積み重なって行かないので、いつもの武のお得意の突然ストーンと突き落とされる感じが全然無い(ように感じられた。特にラスト)。
 それから今回は目に見える直接的な残酷な描写もあえて外している。そう撮りたくない意図は分かるが、いままでの北野作品の特有の緊張感とメリハリがなく、大変物足りなく思った。その分、女性には見やすい映画にはなってるんだろうけど。事実、劇場は女性客が多かったように思う。彼女達はこの作品をどのように見たんだろうか。

 役者陣は全員素晴らしい。特に菅野美穂は大変素晴らしい! 作品の点数をここで明かすとずばり俺的には75点くらい(他の北野作品は全部90点台を超えている→「みんなやってるか〜」を除く。あれは50点くらい。ちなみにハリウッドのヌル目の大作が60点〜70点くらいなので、それなりに良い点数ではある)なのだが、ところどころ菅野美穂が120点級のお芝居を見せ(!)、シーンのメリハリの少ない(と個人的に思う)この作品で、突然観客の感情のメーターの針が振り切れる箇所があり、そこが全て菅野ちゃんが見せるいくつかの見せ場のシーンなのだ。そうこの映画は菅野ちゃんを見に行くだけでも充分価値がある。そして突然襲った悲劇で芸能界を引退した元アイドル役の深田恭子、彼女も良い感じだった。菅野美穂に深田恭子。彼女達の姿をまさか北野映画の中で見られるとは思ってなかったし、たけしの世界観に合うのか、彼女らの魅力をスクリーンでたけしが引き出せるのかと言う事に非常に関心があったのだが、なんちゅうんだろう、「こんなに魅力的にフィルムに映っている菅野美穂と深田恭子を俺は他に知らない!」ファンは激必見!である。
 
 もちろん女性の内面と言う所にたけしと言う人は踏み込んで行かない人なので、そう言う女性の描かれ方を期待している人には不満もあるだろうが、でも「所詮男に女は分からない」と言うのは「(女性の事を)分かったふり」よりは誠実であるという風に思うので、俺はそれはそれで正しいとは思っている。

 人の女性の趣味にとやかく言ってもしょうがないのだが、音無美紀子とか岸本加世子とか石田ゆり子とか「あの夏一番静かな海」のヒロイン(名前忘れた)だったりとか、演技力や映画の中での存在感はともかく、個人的な(あくまでも個人的な←強調)イチ男性としての好みの部分では、たけしの女性観、女性キャスティングのセンスに「たけしの女性の好みって……それともあえて色気の無い人を選んでるのか?(←すいません)」とか失礼な事を思ってたのだが、しかし今回、「初めてたけし映画に出て来た女性キャストが、自分の好みと一致し(笑)、しかも素直に可愛く魅力的に映っている事にびっくりした」(←われながらアホコメントだなあ〜。苦笑)
 菅野美穂も深田恭子も元々好きなんで……(笑)。だからこそ彼女らがスクリーンで輝いていた事は非常に喜ばしい。ましてそれが自分の好きな北野作品の中であれば尚更……ね。

(↓ネタバレ……か?)



 あ、もう一つ言いたい事があった。そんな魅力的な役者さん達が、魅力的な佇まいやお芝居で魅せてくれるのだが(西島秀俊君も良かったですよ)、結局出だしは文楽人形で始まり、終わりは文楽人形のアップで終って行く。
 役者二人のアップではなく人形の映像で終って行くラストは、結局おいしい所を人形に取られてしまうような感じで、せっかく生身の人間の主役二人が頑張っていたのに非常に可哀相に感じられた。
 文楽人形の世界は確かに素晴らしい。でも「人形>人間(役者)」では可愛そうだ。そう言う残酷さも監督の意図であるならしょうがないけれども。

(↑ネタバレ……か?終り)

 あ、それから今回物足りなく思った理由が分かった。今回、北野映画の常連の寺島進が出てない!(大杉漣は出てる!)。やっぱ寺島の兄貴がいないと物足りないっすよ!(笑)
 
 あとあれだね。今回、
「俺たちもう終っちゃったのかなあ」、
 「バカヤロウ、まだはじまっちゃいねえよ!」(「キッズ・リターン」)、
「ありがとう……ごめんね」(「HANA-BI」)、
「ファッキンジャップぐらい分かるよバカヤロウ」(「BROTHER」)
 に匹敵する名セリフがなかったんだよね。これも多分物足りなかった理由の一つだと思う。
 元々、名セリフを作ろう、なんて意識しながらセリフとか書いてないだろうけどね。そんなんばっかり意識されてももちろん嫌だけれども。

 と言う事で作品の星評価は(☆☆☆1/2)なのだが、見る価値のある作品ではあるので是非劇場で見て頂けたらと思う。ちなみにこの作品の菅野美穂は(☆☆☆☆☆)。今年の最優秀主演女優賞は是非彼女に差し上げたい(←早いな、おい!)。
 そして思う事……彼女は「Dolls」のこの役が頂点ではない! 今回以上に彼女の魅力を引き出せる役や作品がある筈だ。そしてそんな作品に出ている彼女を早く見てみたい。ブラウン管ではなく出来ればスクリーンで。

 あとタケちゃんは次回は絶対リアル路線で是非。と言う事で……

('02・10月劇場公開)
('02/10/13書き下ろし)

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