ケイ国王の映画感想文21 VOL.32

美脚迷路

「美脚迷路」(監督/広木隆一 出演/迫英雄 ひふみかおり)

 多分この映画の存在すら知らなかった人の方が多いであろう。殆どパブを打ってなかったのではないか。新宿で単館レイトショー。招待券が当らなければ僕も劇場で見ていたかどうか……

 広木隆一監督の事は知っている。山本直樹原作の「君といつまでも」、その年の映画賞を幾つか受賞している「800 two lap runners」は両方とも好きな作品である。去年は「東京ゴミ女」(未見)が識者の高い評価を得た。「東京ゴミ女」はいつか見ようと思っている。
 ピンク映画出身で独特の透明感と痛みを伴った映像が魅力的である。もう少し世間の注目を浴びてもいい監督だと思われるのだが……

 さて「美脚迷路」と言うタイトルも、内容が一見、想像しやすそうに見えて想像しにくいと思われる。
 ので、以下、あらすじを記して見ようと思う……

STORY
 
 加藤、七緒子、竹内の物語は、ネット上のかたすみで、いまなお語りつがれている―――。

 下っ端刑事の加藤(迫英雄)を、10年ぶりに幼なじみの竹内(大浦龍宇一)が訪ねて来た。
 いまや竹内は、年商何十億というネット・ビジネスの成功者である。
 二人は同窓会へと向う。場所は、彼ら共通の幼な友達・七緒子(渡辺真起子)が経営する小ジャレたバー。しかし、酔った竹内は妙に荒れているのだった。

 “辞めろよ警察なんか。辞めて昔みたいに俺とツルんでくれないか”。
 竹内は加藤に「MAZE」と書かれた会員カードを渡した。
 そして、数日後に焼身自殺する―――。
 “竹内君は、あなたに助けて欲しかったのよ”。七緒子は加藤を抱きしめた―――。

 加藤は、以前、覚醒剤で補導した少女・じゅん(ひふみかおり)の面倒をみていた。
 加藤に好意を持つじゅんは、中華料理屋でバイトしながら、クラブ・シンガーのオーディションを受けていたが、「MAZE」というクラブに採用された。
 フロアにじゅんの美しい歌声がヴァイブレートする。
 そこは、脚フェチ・マニアの為の秘密クラブ―――。

 加藤の前に、本庁のエリート・伏木(野村祐人)が現われる。
 政界から裏社会まで巻き込み、悪質なのし上がり方をした竹内を追っていたと言う。
 その矢先の自殺。そして行きあたった「MAZE」。
 “あそこって妖しい噂が多いんですよ。麻薬、売春……殺人ビデオ”
 ―――渡された一本のビデオ。ふるいつきたくなるような美脚をボンテージに包んだ女のピンヒールが、拘束された男の肌を裂く。
 美脚のシルエットは、七緒子―――!?
(以上公式ホームページより)

 そして加藤は文字通り迷路(メイズ)の世界に迷い込んで行く。
 表向きはエロティックサスペンスってとこだと思う。しかし、いわゆるエロティックな場面、フェティッシュなシーン、変態じみたシーンはあまりにも表面的で、監督自身もあまりのめり込んだ風には見えない。主人公の加藤も最後までこの世界の傍観者で居続ける。正直、ピンク映画出身の監督とは思えぬ程、あっさりとした感じ。
 美脚の女性がたくさん出て来て視覚的に楽しませてくれるが、ある意味健康的。退廃的な感じは見た目程感じない。表面的になぞっただけのフェティシズム。正直、そっち方面を期待した人はちょっと肩透かし気味だと思う。

 サスペンスだっておざなりな感じだし、どこかで見たようなお話と言ってもいいように思う。いわゆるサスペンスファンが唸るようなシーンは全くないと言って置こう。
 “MAZE”の女達を売り出し中のセクシーユニット「LUCKY LEGS」のメンバーが演じている。彼女達のプロモーションの映画としては、余りにもマイナーっぽい作風だし、健康的なセクシーユニットの彼女らを売り出すには、内容があまりにもアンダーグラウンド過ぎる。
 好感が持てるのは、そんな彼女らが作品の一登場人物として真摯に参加している様子が見て取れるところ。それにこの秘密クラブの設定上、そこにいる女性は美しく魅力的でなければ説得力がなくなってしまう所だが、幸いな事に、彼女らは「この手のB級セクシーユニットとは思えぬ程(笑)」、恐ろしく、ルックス&スタイル共に非常に魅力的であると言う事……

 で、結局どやねん、ってとこだと思うが、ズバリ……良かったのですよ!
 どこが?

・30代を過ぎた優しすぎる男と女の『安っぽかっこいい』青春もの
 
なんちゅうか……この映画の良さは、役者と映像と音楽。さり気なくていいんだよね。映像と音楽に「シズル感」があるんですよ。なんか冷たくて気持ちいい夏のシーツのような……
 
登場人物と画面からかもし出される空気感が……なんかいいんだよね。
 そして、何と言っても、クラブ歌手を目指す女の子を演じるひふみかおり!
 この子はもともとアーティストで文字通り歌手が歌手を演じているわけだけど、彼女が歌う歌(もちろん彼女の持ち唄)……いいんだよねえ〜。歌声と彼女自身と曲とが独特の世界をつくり出している。この子はこれから売れるかも! 役者としてもアーティストとしても(女優としてはこの作品以外にも二、三作出ている)。
 洗いざらしのTシャツとジーンズが良く似合うこざっぱりした感じ。ルックスもそして音楽も……

 そして作品全体が「佐野元春」とか「浜田省吾」チック。この路線って邦画では意外とないでしょう? ちょっと古びてるけどなんかかっこいい。この題名からは想像もつかない世界(笑)。特に後半、その雰囲気が顕著です。これは監督の作風と思われる。80年代チックなんだよね。つまり30代以上の人がハマれる世界ではないかと。
 Missile Girl Scootってグループの曲がラスト流れてくるんだけどむちゃくちゃかっこいいんですわ。ちなみにこのMissile Girl Scootってグループは今時のグループのようだ。是非この曲買いたいと思った。もちろんひふみかおりのアルバムとセットで……ってな感じですかね。

 全体的に安っぽいです。でもかっこいい。それを「安っぽかっこいい」と形容したいと思います(笑)。

 あとは……知る人ぞ知るカルト芸人、鳥肌実がクラブの常連客役で出ています。彼の怪演もチェックして見て下さい。んむ。

 さて☆評価ですが……普通なら(☆☆1/2)くらいでしょうね(え?)。
 が、しかし、これがわての好みと言う要素が加わる事によって……(☆☆☆1/2)にまで上昇します(満点じゃないんかい! 笑)。ていうか☆をわざわざ付けたくない感じ。えー一年を振り返るわての個人的なベストテンの時にしかるべき順位には入る事でしょう……う〜サントラ欲しい〜。

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('01・8月劇場公開)
('01/9/1書き下ろし)