「カリスマ」(監督/黒沢清 出演/役所公司)
 
周囲の木を枯らしてしまう一本の木「カリスマ」とそれを守ろうとする勢力、倒そうとする勢力、その闘いを見守る男(役所)……。粗筋だけ、聞いてもピンと来ないだろうし、どういう映画なの? と思う人も多い筈。みんなはどう思う? 周囲の木を枯らしてしまう存在でも生き物である以上生きる権利があるだろうし、それを人間が守ろうと思うのも倒そうと思うのも人間の勝手な都合だ。だからと言ってほっとこうというのも……異なる勢力同士の争いは、やがて人の生き死に関する血腥い事態に発展していくし、ある勢力の中では粛正の儀式が行なわれたりしている。果たして一番恐ろしい物はなんだろう? 人は言う。 「立場の弱い物(人間)の権利を優先的に守るべきだ」。しかし、その主義主張が果てしなく広がっていったとき、それが新しい力を持ち人々を律する制度にまで発展していったら?……立場の弱いものほど、過激な手段で自分たちを「保護」しようとする。そして自分たちの手段の正当性を訴えたりする。こう言う人もいるだろう。「なるようにしかならない。自然のままが一番」。しかし、そのせいで増長されていく事態の悪化にたいして、彼らは絶対に自分で責任をとったりはしないだろう。哲学的な内容をホラー風味あふれる活劇タッチで描いていく黒沢清の異才ぶりはとっくにあるレベルを超えてしまっている。結構見終ったあと「困ってしまった」映画(部分的に分からなくて)。ビデオでもう一度見ることにしよう。でも評価は☆四つ! しかし、たかが一本の「木」を怪物に仕立て上げるとは……黒沢清おそるべしですなあ。
('00・2月劇場公開)

'00・2月 メール・掲示板機能付きFAX「mojico」掲示板にて初出
'00・12/7 加筆修正

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