「バッファロー'66」(監督、脚本、主演、音楽/ヴィンセント・ギャロ)

 1966年、ニューヨーク州バッファローに生まれたビリー(ギャロ)が、五年振りに刑務所から出てくる。刑務所にいた事を両親に偽っているビリーは、母親との電話での口論で、「女房を連れて実家に帰る」と啖呵を切ってしまう。ビリーはたまたま立ち寄ったダンススクールにいたレイラ(クリスティーナ・リッチ)を拉致して(!)、女房を演じる事を強要し――
 何か殺伐としたクライム・ムービーの導入部のようだが、愛すべき駄目男ビリーと、粗雑で乱暴なビリーの優しさと純粋さを見抜いて魅かれていくレイラの、おかし、可愛らしく、そしてポップなラブストーリーである。そして、俳優としての顔だけでなく、画家、写真家、ミュージシャン、モデル等、マルチアーチストとも言えるギャロの才能が爆発した、アーティスティックな堂々たる初監督作品である。この作品の監督の分身とも言えるエキセントリックな主人公ビリーにとてつもなく愛しさを感じ、彼に寄り沿うレイラの大らかな母性に、強烈に魅きつけられる。計算されながらも、強烈な個性の持ち主として画面の中でナチュラルに《生きている》ギャロの圧倒的な存在感! ポッチャリ体型で愛くるしい幼女のような外見ながら、孤独を抱えたレイラの内面を表情だけで見事に語ってみせる、C・リッチ――「アダムス・ファミリー」のあの少女が大人の(?)女を演じるようになったのだ!――の素晴らしい演技! 女性は駄目男ギャロにフェロモンを刺激され、男はリッチにメロメロになる。好きな人と手と手を繋ぎ合うだけで幸せになれる、デートに最適の映画ですね。そして、うるさがたの映画マニアのあなたも、ギャロの独創的な演出アイデア(テクニックを見せる為のそれではなく、この物語を映像として語る上で、必然的に監督の中で湧き出てきたアイデアに違いない)に脱帽し、唸らされるでしょう(少なくとも僕はそれに「感動」した)。私が今年(’99)見た映画の中の今の所ナンバーワン! 期待した以上に良かったです。皆さん是非見て欲しい! しばらく僕は役者ギャロ、女優リッチの過去の作品をビデオで追っかけて行くでしょう。
 音楽も良い! あと脇役にも注目! これだけ書いても語り尽くせぬ。Kでした。(☆☆☆☆)
('99・7月劇場公開)

'99・9月 メール・掲示板機能付きFAX「mojico」掲示板にて初出
'00・12/7 加筆修正

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