「リング」(監督/中田秀夫 出演/松嶋菜々子 真田広之)

 中田秀夫監督デビュー作「女優霊」は一部で高い評価を得たが私は余り感心しなかった。理由は――
 日常に浸食する非日常の恐怖という意味で『撮影所』という空間に日常を見出だせなかった。
 因果関係のはっきりしない恐怖――つまり必然性もなく殺された(らしい)主人公と、撮影スタッフ数名(ほとんどは生き残った。なんで彼らが特定されて死んだのか分からない)――に感情移入が出来なかった。
 人が死ぬ瞬間を曖昧にぼやかしているので、命を奪われる恐怖が感じられなかった。
――等である。ビックリするシーン、気持ち悪いシーンはあったが怖くはなかった。それが「女優霊」を見ての私の感想であった。
 よって「リング」を見るにあたってはその辺がクリア出来ているかどうかが私の関心の的であったのだが……
相変わらず気持ち悪いシーン、ビックリさせるシーンに関しては感心させられた。特に主人公を写したポラロイド写真の顔が歪んでいたシーン、あそこが一番怖かった。中田演出の一番冴えたシーンだと思う。ラストどんでん返しで、ある主要人物が襲われるシーンだってなかなか悪くない。だが……
 原作と変えた部分、例えば主人公が男から女に、そして、別れた夫婦が息子の為に力を合わせて……という設定の変更はむしろ旨い具合に変えたなと思ったが、そのわりに彼らのドラマ部分があまり描かれないのは「?」と思ったし、井戸のシーンの時計を使ったサスペンスの部分もいまいちだった。謎を解決していく手段が一種の超能力という部分も、個人的にはちょっと安易な気がした。(監督はインタビューで物語をシンプル化する為にあえてそういう設定にしたと言っていた。まあ、ホラー的な仕掛けを盛り込むのに夢中で、謎解きの部分、ドラマ部分は邪魔くさかったのかなあ、と言う気はした。だけど……)やっぱりこの手の超常現象には科学的な調査、分析で対抗していって欲しかった。そして、すべてが解決したと思ったのに実は……という部分がこの手の物語の王道ではなかろうか。そういう意味では比較的原作に忠実な「らせん」の方にその楽しみがあったがこっちの方はショック描写が物足りない……と、まさに対照的な二作品ではあった。
 劇場に客もよく入っていた。ちなみに今回一番の成功要因はあのコマーシャルスポットではないだろうか。「くぅるぅー〜きっとくるぅー〜」あの歌、怖すぎ(笑)。
(☆☆☆)
('98・1月劇場公開)

'98・2月 メール・掲示板機能付きFAX「mojico」掲示板にて初出
'00・12/7 加筆修正

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