水の館クリスマス記念Novel
by
暁鈴様聖なる夜の贈り物
クリスマス。
地上では今年も白い妖精たちが舞い踊るのかしら。
暗闇の中、はらはらと舞い踊る妖精の姿を窓越しに見つめるのが楽しかった。
クリスマスツリーを囲んで、蝋燭の灯りを灯して聖なる夜に捧げる祈りの歌を
一晩中奏で続けるの。
それぞれの想いを胸に抱きながら。
そして・・・そこには必ず笑顔が零れるの。
お父様とお母様。婆や・・・そして訪れてくださったお客様の楽しそうな笑顔が。
もう決して戻ることのない時間。
そう・・・私が自ら選んだことなのだから・・・。
「ロザリア。お休みのところごめんね。少しお邪魔してもいいかしら?」
「えぇ。アンジェリーク、宜しくてよ」
執務が終わり奥の私室で寛いでいる私のもとにアンジェリークが姿を見せる。
「あのねロザリア、急なお願いがあるの」
「お願い?どうかしたのアンジェリーク?」
「クリスマスイヴの日。ロザリア主星に公務に出かけて欲しいの。時期が時期だからいつもは断
わるのだけど今年は有能な補佐官と水の守護聖をむかわせますって先方に先にお返事しちゃっ
た。ロザリア・・・行って貰えるよね。ねっ、ねっ・・・お願い」
クリスマスイヴの公務。
そんなものあったかしら。私が目を通した種類にはそんなものはなかったわよ。
けれど・・・何故、私なの?
公務というのを疎かにしては駄目よ。
アンジェリーク、まだまだね。本当に・・・。
「アンジェリーク。私はまだしも、リュミエールのスケジュールはどうなの」
「大丈夫。その点はクリア済み。リュミエールはその日、予定がないもの。プライベートの予定も
いざとなったら女王命令ですって言って都合つけさせるんだから。えへっ」
アンジェリークは先方の都合も考えずに、無敵の微笑で答える。
「それで私が参加しないといけない公務とはどんなものなのかしら?」
公務として参加するのだから、その行事の主旨から何から何まで把握しておかないといけない。
SPの手配とかも来客人数に合わせて動員させないと行けないわ。
しかもイヴの日が明後日。もう日にちがないじゃないの。
「えっとね。パーティの名前が『天上に捧げる祈り』音楽祭なの。主催は・・・」
「アンジェリーク・・・それって・・・」
「うん。ロザリアのお家。カタルヘナ家が主催しているパーティだよ」
「・・・・・・」
「クリスマスイヴの日、一泊二日だけど里帰りをあげる。でも公務だからね。表向きには・・・。
大切な人を両親に紹介したいって居たわよね。だから・・・」
「アンジェリーク・・・。貴方・・・」
「行ってくれるわよね。ロザリア、私からのクリスマスプレゼント受け取ってもらえるかしら」
「えぇ。とても嬉しいわ。アンジェリーク」
「っで・・・私もロザリアからのクリスマスプレゼントが欲しいの。クリスマスって言えばホワイトクリ
スマスが理想でしょ。朝にほんのりと雪化粧を施した景色がとても素敵なの」
「そうね。私も好きよ・・・って・・・まさか・・・」
「当たり。聖地は女王のサクリアの力で年中常春状態でしょ。でもその日だけは雪を降らせたい
の。チョコチョコっと・・・ね・・・」
アンジェリーク・・・。まぁ、想像はしてましたけど・・・本当に・・・。
「って事は私の役目はさしずめジュリアスを説得することですのね」
思ったことを言葉にするとアンジェリークはにっこりと頷いた。
聖地に雪。
それも良いかも知れませんわ。
ジュリアスには・・・そうですわね。聖地に雪を降らす為の許可がいただけないようでしたら
アンジェリークは聖地を脱走して雪を見に行ってしまうわよっとでも行っておきましょうかしら。
そして私が不在中のアンジェリークのことを首座の守護聖にしっかりと頼んでおかないと
いけないわ。
「じゃあ、ロザリアお願いね。明日は準備とかいろいろあって大変だと思うけど明後日は実家で
リュミエールと家族の方と楽しい時間を。私も私で此処で好きにさせて貰うから」
アンジェリークは私にそう言い残して部屋を出ていく。
そして翌日の早朝、朝一に公務の為のSPの手配・ジュリアスの説得を早々におえて
2日間出来なくなってしまった執務を先にこなしてしまう。
− 当日 カタルヘナ家 −
アンジェリークの事をジュリアスに重ね重ねお願いして、聖地をリュミエールと共に発った私は
お昼前には実家であるカタルヘナ家に到着していた。
聖地で過ごす時間と地上の時間は違う。
頭では理解していたのにこうして現実を目の前にしてしまうと、困惑の色が隠せない。
でも今は感慨にふけるわけには行かない。
ただの里帰りではないのですもの。
これは公務。聖地から公務として参加しているのですから。
「お嬢様。ご立派になられて・・・。水の守護聖リュミエール様もお嬢様共にご来訪いただけて
とても光栄でございます」
SPに守られながら実家に辿り付いた私は、婆やに出迎えられ・・・そして両親と対面した。
「本日は私どもを聖地よりお招きいただき有難うございます。素敵なパーティーになりますことを
お祈りさせて頂きます」
私の隣でリュミエールが挨拶をする。
「お嬢様、旦那様と奥様からの贈り物がございます。アンジェリークさま、今は女王陛下でござい
ましたね。聖地からお嬢様のお帰りのご連絡を頂いた旦那様が本日の為にお嬢様のドレスを
お作りになられました。是非、着替えてくださいませ。ですが・・・本日はご公務でしたね。
聖地の正装以外は着装は禁じられているのでしょうか」
手にドレスを抱えて、婆やが問う。
お父様・お母様。
毎年、私がクリスマスを過ごした夜もこの日は新しいドレスをお仕立てしてくださっていたわね。
けれど・・・
「ロザリア。ご両親の願いを聞き届けておあげなさい。それに・・・私も拝見させて頂きたいですか
ら」
リュミエール様の一言で私は着替える旨を承諾する。
本当は私自身も袖を通したかった。
まだまだ私も子供ね・・・。
こんなに懐かしく思えるなんて・・・。こんなにお父様やお母様に甘えたいと思うなんて・・・。
隣の部屋で婆やに着付けをして貰いながら、この家で育った日のことを振り返る。
私自身の感覚ではそんなに長い時間が過ぎたような気がしないのに・・・此処ではかなりの時間
が過ぎてしまっている。
両親の見立てたドレスに袖を通して、リュミエールと共にパーティ会場の控え室に向かう。
会場内にはお客様もすでにお集まりになられて、雰囲気も全てあの頃のまま。
ただ違うのは・・・あの頃とは顔ぶれが変ってしまった。
控え室の椅子に腰掛けて、私は窓から外を見つめる。
辺りが暗闇に閉ざされ、庭園のクリスマスツリーに光が灯される。
あの頃と何も変っていない。
「ロザリア。本日は私もお招きに預かれてとても光栄です。陛下にお礼申し上げないといけません
ね」
「えぇ。そうですわね、リュミエール」
「ロザリアは幼い頃、いつもこのようにクリスマスを過ごしていたのですね。今の貴方はとても
懐かしい眼差しで見つめられています」
「私のクリスマスは毎年、今と何も変っていません。これがカタルヘナ家に伝えられるクリスマス
なのです。ですが・・・顔ぶれが変ってしまいました。正直、私・・・今は戸惑いの色が隠せません」
私の中に眠る本当の心をリュミエールに零してしまう。
「私も故郷に帰りたいと願う心とそれに反する心が常に存在しています。家族の者の生命が
閉ざされる前に一目でもお会いする方が幸せなのか、会わずに過ごして行くほうが幸せなのか
正直私にもわかりません。ですが・・・私が今、故郷の地を訪れたとしても私は私の家族と再び
言葉を交わす事はないでしょう。ですから・・・今のこの時間を私は貴方にとても大切にしていただ
きたいと思うのです。ロザリア・・・私からのクリスマスプレゼントを聴いていただけますか?
今宵、貴方の為にだけ奏でる私の竪琴の調べを・・・」
私が静かに頷くと、リュミエールは竪琴を静かにかまえて指先から天上の調べを紡ぎだす。
その調べに惹かれるように窓の外では、白い妖精たちが舞い踊り始めていた。
静かで
懐かしさに温盛に包まれていた調べが静かに部屋に響く。
音色は空間に融けて、私のもとに流れ込んでくる。
その調べが終わった時、婆やが私とリュミエールを迎えに姿を見せる。
私はリュミエールにエスコートをされて、パーティーの来客の前に姿を見せる。
次々に奏でられていく天上に捧げる祈りの調べ。
その音色の中に、私も私の全てを込めて・・・ヴァイオリンの調べと共に・・・。
聖夜。
今宵、共に過ごせる歓び
宇宙へ舞い上がる、祈り
生誕の歓びとともに
全ての感謝を込めて・・・。
そして・・・私がただ一人愛した彼を
お父様に・・・伝えたい・・・。
白い妖精が舞い踊る夜、天上の調べは広い宇宙へと融け込んで行く。
メリークリスマス。
白い妖精が舞い踊る聖なる夜に・・・。
The End
− あとがき −
メリークリスマス。
Love Gate<水の館>Novel。リュミ×ロザリア編。
今回はロザリアサイドでお届けいたしました。
いかがでしたでしょうか。
一度は書いてみたかった、ロザリアの実家に行くリュミ様。
やっぱり大切な人の事はどんな形であっても、家族に知っていて欲しいから。
でもでも・・・ロザリアの為だけに奏でられたリュミ様の竪琴の調べ。
さぞかし素敵でしょうね。
貴方の中には・・・その音色が届けられましたか?
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水鳴琴の庭 水の宝石箱 ****