水の館クリスマス記念Novel
by
暁鈴様聖なる夜の贈り物
リュミエール×ロザリア
本日、謁見の際女王陛下から明日の公務のお知らせがございました。
明日、私は補佐官であり恋人でもあるロザリア共に主星に赴く事となりました。
公務と言えども、ロザリアと共にひとときを過ごせる事はとても嬉しい事なのです。
ですが・・・長い間、私は様々な公務をこなしてまいりましたがこの度の公務ほど緊張を
ようするものはございませんでした。
今回、公務のために訪れる場所は・・・ロザリアの生家。
本来、故郷を離れた私たちは生家に帰ることなど出来ないのです。
私たち守護聖一同も、聖地に召されてから今日に至るまで故郷に里帰りをしたものなど
一人も居ないのです。
それをこともなげに実現させてしまう現陛下。
その優しさがロザリアにとって良いものであるか悪いものであるかは正直私には答えかねるので
すが・・・その事が原因で私自身の心も揺れていることも確かなのです。
私には決して守護聖の任を解かれるまで、経験する事のない心だと思っていました。
私がロザリアの生家に訪れると言う事は、私はロザリアのご両親との対面を果たすという事なの
です。
私の心に走る緊張。
この緊張は心地よいもの・・・なのでしょうか・・・。
「おいっ。リュミエール。ロザリアの生家に行くんだな。行ってちゃんと伝えて来るんだぜ。
ロザリアは守るってな。両親にとっちゃ、おまえは大切な娘を奪う者かも知れんが
ちゃんと伝えてこいよ。アンジェリークが渡したせっかくのチャンスだ。俺も叶うなら、アンジェリー
クの家族の前で堂々と誓約をしたい。俺が守って見せる。だから何も心配はいらないと伝えたい
ぜ」
背後から私に声をかけるオスカー。
貴方は昔からとてもお強い。
そして眩しい・・・。
その眩しさは何一つ変らないのですね。
私もロザリアを精一杯お守りしたいと思うのです。
ですが・・・私はいまだに自分に自信が持てないでいる事も確かなのです。
貴方のような強さが今の私にあればどれほど救われるのでしょうか。
「オスカー。貴方は陛下と聖地で過ごされるのでしたね。今年のクリスマスには聖地にも雪が
降り積もるのでしたね」
「あぁ。アンジェリークも人が悪い。雪を降らすことを俺は何もきかされていなかった」
「ふふっ。雪が陛下から私ども全員への贈り物なのかもしれませんね」
「そうだな。それよりリュミエール、プレゼントは決定したか?」
「はい。お気に召していただけるかどうかはわかりかねますが、私はロザリアの為に
竪琴を奏でようと思うのです。ただ一曲、聖夜のひとときだけに奏でる曲を・・・」
「そうか。竪琴を奏でるか。いいかも知れん。俺もおまえの竪琴の腕は良く知っている。
今回の公務は音楽祭だったな。補佐官殿もヴァイオリンを嗜まれる。共に聖地からの代表で
演奏してきたらどうだ?」
「えぇ。そのようなことが叶うならとても素敵な事だと思いますね。オスカーは?」
「そうだなぁー。さしずめ、俺の場合は・・・正装して馬車に乗って・・・」
赤い薔薇の花束を抱えて・・・。
「オスカー・・・いつもと同じではありませんか・・・」
「鋭いな。いやっ、実際いろいろと俺もアンジェリークを喜ばせようと計画していたんだが
計画が狂った。クリスマスイヴから一泊二日でアンジェリークと共にパカンスに出かけようと
思っていたんだが、聖地に残る事になった。補佐官殿が外出となればアンジェリークが執務のた
めに聖地に滞在するのは当然のことだからな」
「オスカー・・・。申し訳ございまん」
「何を謝罪するんだ?おまえは公務で出かけるんだ。気兼ねする事はないぜ」
「そうですか。それよりオスカー、陛下に相応しいアクセサリーなどをアロマキャンドルに隠して
みると言うのはいかがでしょうか?」
幼い頃、クリスマスの夜のテーブルの上に並べられていた数本のアロマキャンドル。
暖かく懐かしい温盛に満ちた炎の灯りは、その場に居た私たちをとても暖かく包み込んでくれま
した。
そしてそのキャンドルがその身を焦がして燃え尽きた後、中から素敵なアクセサリーが姿を
覗かせたのです。
私の家に伝わる、暖かい習慣。
今も・・・故郷では続けられているのでしょうか。
ふと昔を思い出しながら、オスカーに想い出の一部をお話する。
「アロマキャンドルか。アンジェリークが喜びそうだな。とりあえず俺は明日に備えていろいろと仕
度がある。じゃあな」
オスカーは慌しくマントを翻して宮殿を後にする。
私もゆっくりと宮殿を後にした。
− 当日 −
昨夜は緊張が続いて眠れませんでしたが、日中私とロザリアは公務の為に聖地を後にしました。
お昼頃、私はロザリアの生家に到着いたしました。
聖地を離れてからと言う者、鼓動が早くそして確実に音を増しているような錯覚に捕らわれつづ
けていました。
挨拶を済ませ、ロザリアの実家にお邪魔する。
すると飛空都市で女王選出試験の折に何度かお会いした、婆やさんの姿を見つける。
腕には新しいドレスを抱える。
淡いラベンダーの生地で仕立てられたドレス。
真っ先に、ロザリアの為にご家族の方が仕立てられたものだと思い浮かぶ。
私の隣で戸惑うロザリア。
職務と言う言葉が足枷となっているのですね。
「ロザリア。ご両親の願いを聞き届けておあげなさい。それに・・・私も拝見させて頂きたいですか
ら」
私の言葉に頷いたロザリアは婆やさんと共に別室で着替えを始めました。
ソファーに腰掛け、ハーブティを頂きながら窓の外を見つめる。
雪・・・。
暗くなった空間に、雪が舞い降りてくる。
遠い故郷の空の下で私の血縁のものもこうして雪を眺めているのでしょうか。
竪琴を見つめながら考える。
「お待たせいたしました。リュミエール・・・似合っているかしら?」
着替えを済ませて私の前に姿を見せたロザリアは照れくさそうに微笑んで問い掛ける。
ご家族の愛情に包まれたロザリアの笑顔は、とても柔らかい。
「ロザリア。本日は私もお招きに預かれてとても光栄です。陛下にお礼申し上げないといけません
ね」
「えぇ。そうですわね、リュミエール」
「ロザリアは幼い頃、いつもこのようにクリスマスを過ごしていたのですね。今の貴方はとても
懐かしい眼差しで見つめられています」
「私のクリスマスは毎年、今と何も変っていません。これがカタルヘナ家に伝えられるクリスマス
なのです。ですが・・・顔ぶれが変ってしまいました。正直、私・・・今は戸惑いの色が隠せません」
この家に訪れた時、ロザリアの戸惑う表情を私は見てしまったから・・・・。
「私も故郷に帰りたいと願う心とそれに反する心が常に存在しています。家族の者の生命が
閉ざされる前に一目でもお会いする方が幸せなのか、会わずに過ごして行くほうが幸せなのか
正直私にもわかりません。ですが・・・私が今、故郷の地を訪れたとしても私は私の家族と再び
言葉を交わす事はないでしょう。ですから・・・今のこの時間を私は貴方にとても大切にしていただ
きたいと思うのです。ロザリア・・・私からのクリスマスプレゼントを聴いていただけますか?
今宵、貴方の為にだけ奏でる私の竪琴の調べを・・・」
私は竪琴を優しくかまえて、弦を指先で爪弾いていく。
今宵は私の故郷を音色に・・・。
私の想いを音色に・・・。
たった一人 私が生涯を共に過ごしたいと思えた女性
ロザリア、貴方の為に・・・
聖なる夜に私は誓いましょう。
この先・・・私は貴方の傍で精一杯貴方をお守りする事を・・・。
ロザリア。
私は貴方を・・・・・・・。
The End
− あとがき −
リュミ×ロザのリュミエール様SIDEでした。
いかがでしたでしょうか?
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