峠への招待 > 峠の資料室




日本全国、数えきれないほどの峠を訪れた。

歩いて越えた峠、自転車で越えた峠、バイクで越えた峠、車で越えた峠。

それぞれの峠には歴史があり、物語りがあり、そして人々の暮らしがある。

峠を知り、峠越えを楽しむために、これまで集めた峠に関する本や雑誌、図書館で手に入れた資料を紹介します。


      本日の おすすめ


 


地域から選択
( 全タイトル数 : 235  完成 : 230 作成中 : 5    最終更新日 2024/10/20 (更新記録へ)

(完成 3/3冊) (完成 20/20冊) (完成 35/35冊) (完成 42/42冊) (完成 30/30冊)
(完成 6/6冊) (完成 16/21冊) (完成 5/5冊) (完成 72/73冊)

 

北海道

 


所有

 

北海道の峠物語
三浦宏 編著  ・北海道開発技術センター  ・1992.3  ・ 332p  ・ 21cm 
北海道の峠に関する書籍はほとんどない。この本が唯一の本と言ってもいいだろう。著者は北海道開発局に従事していた方なので、専門的な見地から峠を分析している。巻頭のカラー写真、巻末の峠一覧表も貴重な資料だ。紹介されている峠は29峠。道路の歴史、峠の歴史を詳細に記した貴重な一冊だ。北海道に行った人も、行ったことがない人にもおすすめの本だ。

所有

国鉄時代(北海道の峠)
ネコ・パブリッシング  ・2016.5  ・146p  ・30cm   
1970年代のSLの雄姿を紹介している雑誌だ。北海道の峠を調べているときにこの本を見つけた。雪景色の狩勝峠を越えるSLの姿が、モノクロ写真で何枚も紹介されている。SLファン、鉄道ファンにはたまらない写真だろう。「北海道の国鉄線峠越え区間一覧」には細かなデータが掲載されている。自転車での峠越えとは違う世界だが、北海道の峠に関する貴重な資料だ。

北海道100峠
・Amebaブログ  ・2019.10〜 連載中 
https://ameblo.jp/chizumania/theme-10110843640.html

北海道の峠を紹介している貴重なサイトだ。2017年に亡くなった地図研究家・エッセイストの堀淳一さんを記念したブログと書かれている。サイト管理者が実際に訪れた峠のレポートの詳細がまとめられている。地図と写真で語られる峠の物語は知らない峠が多いだけに貴重だ。管理人は、峠のみならず鉄道や地理、自然分野など実に活動が広い。北海道100峠と題したこのブログだが、今現在52峠だ。まだまだこの先続くということだろう。なかなか行く機会がない北海道だが、チャンスが来たらぜひ参考にさせていただきたいサイトだ。


 
東北
(青森・秋田・岩手・山形・宮城・福島)
 


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会津の峠 (上)
・会津史学会 編  ・歴史春秋社  ・1975.10  ・258p  ・21cm  
帯タイトルより 「会津盆地に入る130余りの峠路は、会津の歴史を物語るものである。昔より今なお生き続けている峠、すっかり秘められたまの峠、ロマン多い峠、悲情の峠と会津を物語るにふさわしい峠物語は、会津の歴史に新たな一頁を飾る一大史書。」「会津史学会の一大事業として二カ年の歳月を過て、史料調査、分析、三〇余人の熱情が物語る会津の一大裏面史」 会津には約130の峠があると言われている。この(上)(下)二冊で、約100の峠を紹介している。この当時にこれだけ充実した峠の調査をした本もないのではないだろうか。会津の峠と歴史を知るには、まずこの本であろう。これだけ多くの峠があるにもかかわらず、自転車で越えたことがあるのはほんのわずかだ。まだまだ行くべき峠は数多い。

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会津の峠 (下)
・会津史学会 編  ・歴史春秋社  ・1976.1  ・274p  ・21cm  
知っている峠の昔の写真が貴重だ。今と変わっていない峠もわずかにあるが、ほとんどの峠が姿を変えてしまっている。さすがに50年近く前ともなると、様々な状況が変わってしまう。もう、こうした本でしか昔の様子が伺えない。(下)巻の最初は八十里越えから始まる。以前、大変な苦労して越えたことがあるが、あらためて読んでみると、やはりこの峠の歴史上の重要性がよくわかる。これだけ多くの峠を調査し、こうしてまとめあげた関係者の努力は大変な物であっただろう。すでに消えてしまった峠もあるだろう。そういう意味では本当に貴重な本である。

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やまがたの峠
・読売新聞山形支局 編  ・高陽堂書店  ・1978.1  ・350p  ・22cm  
巻頭より 「峠を地形としてみれば、二つの風景の綴じ目であるが、心情の地図としては、未知の世界への旅を限りなく誘う出会いと冒険の路すじである。この書 『やまがたの峠』ほど、その魅力を感じさせてくれる本はまだなかったのではないか。(真壁仁)」
あとがきより 「この「やまがたの峠」は、読売新聞の山形版に、昭和五十年二月十五日から五十二年九月十七日まで、週一回、「峠」の題で、百二十四回にわたって連載された。取り上げた峠は六十五個所、県下の峠のほとんどを網羅した。」
ニ口峠、山刀伐峠、六十里越え、大里峠、黒沢峠、堀切峠、雷峠、越路峠、笠取峠 など、自分の訪れた峠の物語が語られている。どの峠も思い出深い峠ばかりだ。掲載されている峠には、まだまだ知らない峠が数多い。自転車で越えられそうな峠を探して、またのんびり山形の峠巡りをしてみたい。

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ふくしまの峠
・誉田宏 著  ・福島中央テレビ  ・1978.4  ・226p  ・18cm  

福島県内の峠は実に多いが、この本は「会津の峠」(上・下巻)に登場した峠は省き、県境の峠、阿武隈山地の峠、中通りから会津に入る奥羽山脈の峠を中心に記述している。そして峠越えについて次の様に語っている。「よく峠越えを人の一生にたとえるが、嶮しい峠路を苦労して登り、やがて頂上をきわめた者こそ、眼下にすばらしい眺めを一望することができ、さらにもっと進もうという気概がおのずとわいてくる。こうした峠越えこそ、まさに人生そのもので、苦しさに耐え忍び、たゆまぬ努力を続けてこそ、はじめて幸せをつかむことができるということを教えてくれるのである。」とある。確かにその通りだ。多くの峠に多くの物語と感動がある。福島の峠も魅力ある峠が実に多い。小さな本であるが、中身は相当充実している。昔の白黒写真が懐かしい。 第一章は県内の主な峠の紹介、第二章は峠路散策〜峠・人・歴史〜を語っている。

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やまがた生活風土誌
・木村正太郎 著  ・中央書院  ・1982.6  ・250p  ・22cm  
一冊すべてが山形県の紹介である。これを読めば山形県のすべてがわかる、といってもいいぐらい様々なことが語られている。目次は15の章に分かれていて、その中に「峠と街道」という章がある。最初にこう書かれている。「山形県は、日本海に面した西側を除いて、三方を山で囲まれているが、県内の四地域もまたそれぞれ山に囲まれている。従って、県外に出るにも県内の他地域に行くにも、峠を利用するよりほかはなかったのである」。そして「山形県の土木事業は、まさに峠と雪との戦いであった」と書かれている。これが山形県の峠の特徴だ。県内には100近い峠があるという。そして「峠」という駅もある。自分も峠駅には二度行ったことがあるが、本当に山深い所である。「峠と街道」の章だけでも相当楽しめるが、すべてを読み終えると、きっと今すぐ山形に行きたくなってきそうだ。あとがきに、著者はこう記している。
「私は、山形県が好きである。山形県の山河のたたずまいもいいし、素朴な人間性も好きである。好きであるから、県内をほとんどくまなく旅行をした」 著者は、自分で歩き、訪ね、見てきたことをメモに残してきた。そして40年にもわたる資料をまとめあげたのがこの一冊である。自分も山形県はツーリングで何度も走っているが、何度行っても終わりがない。一度行ってもまた行きたくなる。東北の中でも、他県とはちょっと違う魅力があるように感じている。

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沼田街道(六十里越・八十里越・銀山街道)「歴史の道」調査報告書
・福島県教育委員会 編  ・1986.3  ・ 194p  ・30cm  
「本報告書は、福島県が文化庁から国庫補助を受けて、「歴史の道」の調査を実施したものである」と書かれている。昭和57年度から4年継続で県内に残る歴史の道を調査し、本年度は、沼田街道・六十里越・八十里越・銀山街道を調査することになった。国家事業であるため、よくある峠や街道の紹介本とは訳が違う。内容はさすがにお堅い内容だが、その詳細な報告はさすがである。八十里越えは自分も死闘を繰り広げた峠だけに、その歴史と現状の解説は実に貴重だ。同様に六十里越えも何度か走っているだけに、とても勉強になる資料である。銀山街道については、2023年秋にクラブランで計画したが、残念ながら走ることができなかった。この資料には銀山街道についてかなりのページ数を使用して解説している。再びクラブランで銀山街道を走る際には、この資料がいろいろと役に立ちそうだ。

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岩手の峠
・那須光吉 著  ・ トリョーコム  ・1991.4  ・ 277p  ・19cm  
著者は岩手県一関生まれ。消えかかる地元の峠を訪ね歩き、一冊にまとめたのがこの本だ。紹介している峠は36峠。巻末には岩手県の峠一覧表が掲載されている。とにかく徹底的に自分の足で調べ上げただけに、詳細な報告がなされている。モノクロの写真が当時の様子を伝えている。ツーリングでこの地域を訪れる際、峠の様子や歴史を事前に知るのに役に立つ。こうした熱心な峠愛好家のおかげで、貴重な資料が残っている。実にありがたいことだ。

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ふるさとの峠
・福島民友編集局  ・福島民友新聞社  ・1991.5  ・ 157p  ・26cm  
《この本について》
この本は、平成二年五月二十一日から同三年三月二十五日まで福島民友新聞に連載した「ふるさとの峠」の記事を加筆補正、また写真も追加するなどしてまとめたものである。
よくもまあ、こんな貴重な本に出会えたものだ。国会図書館にも所蔵されていない。唯一、福島県立図書館に所蔵されているだけの本だ。タイトルからは、とても素晴らし峠の紹介本の感じがする。新聞社の発行ともなれば、中身は相当充実しているだろう。 なんとか入手したいと願っていた時に奇跡が起きた。会津の古書店が売りに出しているのを見つけて飛び上がった!かなり高価な価格になっていたが、迷いもせずに購入した。そして手元に届いた実物を開いてみると・・・
全編フルカラーによる、35の峠の大作だ。一つの峠にふんだんにページを使い、写真、地図、メモ、見所、案内と、いった充実ぶりだ。担当記者は次の様に述べている。「いままで知らなかった、あるいは見過ごしてきた”ふるさとの峠”の歴史の重みを知った。と同時にふるさとの良さを知った。」 福島民友新聞創刊九十五周年記念としてまとめられたこの一冊は、峠探訪の名著である。

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東北100峠(今峠の頂は)
・小野寺寅雄 著  ・1992.8   ・21cm  
「峠の頂には何かがある。」 この言葉で始まるこの本は、小野寺氏による自費出版だ。表紙の次ぎ、「はじめに」を読んだだけで、著者の峠に対する愛情が伝わってくる。やはり、次々と荒廃してく峠、消えゆく峠に対しての危機感からだろう。この本は、とにかく内容は文句なしの完成度だ。100の峠を ●徒歩の峠 ●砂利道の峠 ●舗装路の峠 ●国道の峠 と分類している。一つ一つの峠がカラー写真とともに紹介されている。とにかく見やすい本である。表、地図、解説が充実している。豊富な写真がより峠の表情を伝えてくれる。自分はこの100峠の中でいくつ越えたことがあるのかと数えてみると、たったの12峠であった。まだまだ魅力ある峠がたくさん残されている。この本は国会図書館でしか見ることはできない。なんとか入手方法がないものだろうか。直接著者に連絡してみようかと考えている。 (2024/7 その後、日本の古本屋サイトで購入することができた。文句なしの1冊である。)

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秋田の峠歩き(歴史の道をアウトドアマンが行く)
・藤原優太郎 著  ・無明舎出版  ・1992.10  ・301p  ・19cm  
秋田の43峠を6つのコースに分けて紹介している。(1.ドライブコース 2.散策コース 3.歴史探訪コース 4.アウトドアコース 5.ハイキングコース 6.冒険コース) どのコースも詳細な紹介がされていて、読み物としても楽しめる。簡単に越えられる峠から、小さな山中の峠までバラエティに富んだ峠の紹介だ。クマの話やマタギとの出会い、地元の方とのやりとりなど、秋田ならではの話が面白い。歴史に基づいた解説はすばらしく、かなり調査、研究をされたのだと感じる。

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米沢街道峠紀行(含関川村の峠)
・関川村立関小学校 大滝友和  ・1998.2  ・135p  ・26cm  
プロローグより。
「時代は定かではないが、 風が通る 「径」 (みち)があり、 けものが歩いてつくった径があった。 その径を人が通り、 物が運ばれ、 そして 「道」 ができていった。 その後、人と物の往来が道の幅を広げ、 長さを伸ばし 「街道」 となった。その街道を参勤交代の大名たちが通り、 戦いに敗れた武士が逃げ落ち、知識人が文化を携えて歩き、商人が物資が運搬した。歴史が街道をつくり 街道が歴史をつくった。 だから 街道には数々のロマンが秘められている。」 著者の大滝氏は、赴任先の関川村立関小学校の社会科授業で「地域素材の教材化」を実践テーマとしてきた。その活動の中で自費出版したのがこの本である。「第1章 米沢街道の峠(十三峠)」では、13の峠を紹介している。「第2章 米沢街道の峠の資料」では、良寛、越後街道、大里峠に関しての記述だ。「第3章 関川村の峠」では、6つの峠を紹介している。自分も越えたことがある峠がいくつか登場するので、実に親しみが沸いてくる。越後十三峠を歩くコースは、この資料が多大な影響を与えているという。この資料は手に入れることができず、国会図書館で読むことしかできない。運よく古本で見つけられないかと願っている。

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東北の街道(道の文化史いまむかし)
・渡辺信夫 監修  ・東北建設協会  ・1998.7  ・237p  ・27cm  
3章で構成される豪華本だ。とにかく内容が充実していて完璧だ。
1.街道の歴史(古代の道 中世の道 近世の道)
2.東北の街道(奥州街道 羽州街道 東北を支えた諸街道)
3.街道の旅へのいざない(宿場の里を訪ねる 東北の峠 古典文学と文人の旅)
この本一冊で、東北の旅を満喫できるほどの内容だ。街道好きな人にはたまらない一冊であろう。そして東北の峠と題して、21の峠がカラー写真で紹介されている。街道、宿場町、峠はいつも繋がっている。旅をする道中で、必ずこの三つは登場してくる。現代のツーリングと全く同じだ。峠越えの楽しみは、こうした昔の歴史とともに今も続いている。あらためて東北の街道、峠を巡って旅をしたくなる一冊である。

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みやぎの峠
・小野寺寅雄 文・写真  ・河北新報社  ・1999.2  ・224p  ・21cm  
帯タイトルより
「山越え道に昔日の面影求めて」「車が走る峠道、草木に埋もれた古峠。昔はみんな息を切らして、 この坂を越えた。悲喜こもごもの思いを胸に・・・。峠道に人々のぬくもり求めて、ひたすら歩いた宮城県内73峠探訪の全記録。オールカラー版。」素晴らしい本だ。オールカラー版の本はこれほど見やすいのかとあらためて感じる。内容も素晴らしく、写真、地図、解説全ての完成度が高い。東北の峠を知るために欠かせない本である。さらに、著者の自費出版「東北100峠 今 峠の頂は」も気になる。

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横手盆地周辺の峠
・斎藤實則  ・秋田県地誌研究会  ・2000.6  ・205p  ・27cm  
ハードカバーの立派な本でずっしりと重たい。どんな内容なのか期待していたのだが、残念ながら自転車で峠越えをするためのヒントになる本ではない。峠にまつわる歴史研究家向けの本だ。峠の概説に始まり、登場する峠は11峠。・雄勝峠 有屋峠 ・鬼首峠 ・花山峠 ・須川越 ・柏峠 ・白木峠 ・松坂峠 ・仙岩峠 ・ 松ノ木峠 ・大沢峠  それぞれ峠の概況を述べた後は、歴史事象が詳細に書かれている。写真、地図は少なく、圧倒的な文字量の歴史書だ。

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岩手の峠路(地図から消えた旧道)
・那須光吉 著  ・熊谷印刷出版部  ・2001.11  ・210p  ・21cm  
前著「岩手の峠」(1991年4月)のリニューアル版である。新たな峠を加え、40峠を紹介している。著者は夫婦で峠を訪ねているようで、その熱意は素晴らしいものである。本の内容は前作にも増して充実していて、写真、地図も豊富で実に読みやすい。岩手に限ってこれだけ集中して調べ上げた本は他になく、とても貴重な資料である。2019年3月には「岩手の峠路を歩く」というレポートも発表していて、継続的な活動をされている。

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東北の峠歩き
・藤原優太郎 著  ・無明舎出版  ・2004.4  ・133p  ・21cm  
帯タイトルより
「歴史のブナ街道を行く! 谷間のせせらぎ、梢をわたる風、木々や石仏と語らいながら、歴史のパズルを解くように東北三〇カ所の峠を訪ね歩く。」 多くの峠が存在する東北の峠から、厳選して30峠を紹介している。よくまとまった本であり、多くのカラー写真が峠の魅力を伝えている。著者は人気のアウトドアマンであり、峠以外にも街道に関する著作も有名だ。峠の紹介文の中にあるワンポイントコメントが役に立つ。

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新版 会津の峠(上)
・笹川壽夫 編著  ・歴史春秋出版  ・2006.7  ・267p  ・21cm  
まえがきより
「会津は山国である。 会津の町や村に出入りするには、必ず山を越さなければならない。峠の存在が大きくなってくる。 交通が徒歩と牛馬とに頼っていた頃までは、峠は一つの文化であった。 そこは憩いの場であり、祈りの場であり、交流の場であったのだ。会津の人々にとって、峠は山を越えて村と村とを結ぶ生活の大切な道であった。それは文化を伝える道であり、その土地の風俗をつくる縁ともなったのである。」 まさか新版が出るとは思ってもいなかったので、この上下巻は驚きであった。旧版も文句なしの完成度であったが、峠の荒廃、消滅が進み、あらためて会津の峠をまとめあげたのがこの2冊だ。とにかくその情熱に頭が下がる思いである。やはり、こうして同じように峠を愛し、記録に残したいと思う人がいるということだ。こうしてまた、本当に素晴らしい
書物が出来上がった。感謝、感謝である。

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新版 会津の峠(下)
・笹川壽夫 編著  ・歴史春秋出版  ・2006.7  ・290p  ・21cm + 図1枚  
あとがきには次のように書かれている。「この「新版 会津の峠」は単なる峠のガイドブックには敢えてしませんでした。 峠の文化への啓蒙と、峠の変貌、風物・伝説などを読み物として広く読んでいただけるようにと配慮したのです。 そして、名も知られず、ひそやかにその役割を終えようとしている会津の峠道への愛着がこの書を出す基底になっているのです。」  収録された峠の数は118に及ぶ。これだけ多くの峠を再度調べ上げ、30年の歳月を経て新たに蘇らせた功績は計り知れない。会津は大好きなエリアだ。出かけやすくて、静かで、道がいい。多くの峠と多くのフィールドがツーリングへと誘う。まだまだ知らない峠が沢山ある。あといくつ越えられるだろうか? 年に一度は訪れたい会津地方だ。

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山刀伐峠越 俳聖の足跡(おくのほそ道)
おくのほそ道山刀伐峠保全整備協議会  ・2018  ・8p  ・21cm   
パンフレットより 「峠名は、峠の形状がかつて山仕事や狩りの際にかぶった「なたぎり」という冠り物の形に似ていることに由来すると言われています。元禄二年(一六八九)、門人の曾良をともない最上町堺田にある封人の家に逗留した芭蕉は、「おくのほそ道」でも最大の難所と言われているこの山刀伐峠を越えて尾花沢へ向かいました。」
このパンフレットは「やまがたの峠」を古本で購入したら一緒に入っていたものだ。一つの峠に観光パンフレットが用意されているなんて初めてだ。とても立派なパンフレットなので紹介したい。2013年6月にこの山刀伐峠を訪れた。芭蕉の越えたこの峠は、とにかく素晴らしい雰囲気の峠であった。峠には静かな東屋があって、ランチタイムに最適だ。またぜひ行きたい峠だ。

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岩手の峠路を歩く(赤羽根峠・蕨峠・荷沢峠を訪ねて)
・那須 光吉  ・盛岡 : 岩手県国民健康保険団体連合会  ・掲載誌 岩手の保健 (222)  ・2019.3  ・10p  
2023年6月に、ここに紹介されている蕨峠を越えた。小さな峠だったが、実に雰囲気のいい峠であった。紹介されている通り、車が通るのも大変な所もある峠であった。こうした東北の小さな峠を紹介してくれる方がいるおかげで、旅のプランニング段階から貴重な情報を得ることができる。著者は、岩手の峠に関してはすでに詳しい本を出されていて、その情熱と気力に敬服するばかりである。山から海へ、岩手の峠越えはそうした景観の変化を感じる事ができる。また機会があれば、こうした小さな峠を訪ねてみたいものである。

 

関東

(栃木・群馬・茨城・千葉・埼玉・東京・神奈川)
 


峠. 関東篇(サイクリング・コースガイド・シリーズ)
・山田ノ雄 篇著  ・サイクル時報社  ・1958.5  ・165p  ・18cm  

・山田ノ雄 1920年東京生 ・職業 洋服店主 ・NCTC理事 ・JCA常任理事 
今のサイクリング界を築いてきたのは、この山田氏をはじめとする多くの先輩方のおかげだ。自分が生まれたころ、すでにこうした書籍まで作り上げている。その内容は驚くべきレベルだ。今現役のサイクリストの皆さん、ぜひこの本を読んで欲しい。冒頭から頭をガーンと殴られたような衝撃だろう。この時代に、何もない時代に、どうしてこれほどまでサイクリングに情熱を注ぐことができたのだろうか? サイクリングに対するアドバイスは、もうとにかくお見事。なんと山岳サイクリングやナイトランに至るまで細かく忠告している。凄い一冊だ。さすが日本を代表するサイクリストだ。この本は入手ほぼ不可能である。国会図書館でデジタルデータを見ることができるだけだ。それにしても、1ページ1ページ、語られる言葉の重みが物凄い。自分みたいな小僧は、まだまだだと痛感する。紹介されている峠は32の峠。関東の大小様々な峠を紹介している。すでに半世紀以上も昔の内容だが、そこに書かれていることは時代を越えた「サイクリング」への変わらぬ思いだ。この本、なんとか入手したい。切に願う。

忘れられた峠
・内山雨海 著  ・池田書店  ・1961.5  ・292p  ・19cm

内山雨海氏は、書と墨画の作家である。
序より
「武蔵野の奥に連らなる山々には、無数の峠がある。これらの峠は、昔の人たちが通った路で――秩父の方へぬけたり、部落から部落へ通って行く、これは、当時の通路だった。バスが通り、電車が出来、鉄道の敷けた今日では、もはやこれらの峠もいらなくなった。日増しに峠の路は、どれもほそくなりつつあって、名実ともに、「忘れられた峠」となった。」「歩かねばならない気持ちが私を歩かせた−−これは「峠の画日記」であり、草枕なのだ。」
カメラを嫌い、スケッチブックを持って歩いた著者。「閑寂」という言葉を峠に探した。峠に求めるものがしっかりと心にある著者の言葉は心に刺さる。「哀愁」なのか、それとも「思慕」なのか。素敵な本だ。こうした文章を残す人がいなくなった。古い本であるが、34の峠にまつわる愛と、憧れがしっかりと刻まれている。古典的な名著である。

群馬の峠(西北の 道・三山の地)
・岩佐徹道 著  ・三共電器  ・1971.6  ・172p (図共)  ・27cm  

自分が峠に関する本を集めるきっかけになったのがこの本だ。「群馬の峠」2冊組。専用のケースに入った豪華な書物だ。立派な表紙をめくると、素晴らしいタイトルとイラストが現れる。そして群馬県知事の「岩佐氏の発刊に寄せて」というメッセージが続く。県知事自らがメッセージを寄せるなどまず考えられない。いったいこの本はどういう経緯で作られ、どれほどの功績を残したのかと驚く。内容も完璧だ。群馬の峠、約150のほぼ全てを、詳しく丁寧に紹介している。写真がとにかく素晴らしい。この本は岩佐氏が仲間とともに越えた峠の紀行文であるが、まだ峠本が少なかった時代に、これだけ完成度の高い作品を作り上げたことに敬服する。サイクリストにとって群馬の峠は身近だ。ページをめくるたびに知っている峠が次々現れる。とにかく素晴らしい作品である。

群馬の峠(北東の山・南西の峡)
・岩佐徹道 著  ・三共電器  ・1971.11  ・271p   ・27cm  
岩佐氏が勤めていた三共電器とはどんな会社なのかと調べたら、現在の「サンデン」の前身であった。1943年に三共電器株式会社を設立。1948年には、なんと自転車用の発電ランプを生産開始している。驚いたことに自転車関連の会社ではないか。岩佐氏は執筆当時、取締役総務部長という立場である。そんな方が、どういう経緯でこれほど素晴らしい「群馬の峠」を作ることになったのかは不明だ。よっぽど群馬県に多大な功績を残した方なのだろう、と想像できる。それにしても、この2冊は峠ファン垂涎の作品だろう。まだまだ入手することは可能だ。古い写真が多数掲載されているが、自分が昔撮った写真と同じ物も数多い。懐かしい、とにかく懐かしい写真と記事で埋めつくされている。

秩父多摩丹沢
・直良信夫 著  ・武蔵書房  ・1972.8  ・324p   ・19cm  

この本は秩父・多摩・丹沢地域の自然や風景、訪ねた回想などが綴られていて、その中に「武蔵と相模の峠路」という章がある。登場する峠は、・武相の峠路 ・足柄峠 ・ヅナ坂峠 ・浅間峠 ・津古久峠 ・出牛峠 ・飯盛峠 ・大谷ガ原 ・保福寺峠 である。よく知っている峠もあれば、初めて聞く峠もある。すっかり周囲の状況は変わってしまって、もはや辿った道筋も残っていないかもしれない。それでも昔の写真と記述は当時の様子をしっかり伝えている。
あとがきで筆者は次の様に語っている。
「年来、私は世相のあわただしい変転を託ちながらも、こうした山村僻地をめぐり歩いた。目的はそこで暮している人たちと自然とのかかわりあいをさぐり、時にはまたその地にしみ込んでいる、昔の人のことなどを、深く考えてみたいと思ったからである。」すでにこの時代から、開発による山村の変わりようが激しかったようだ。消えつつあるこうした風景を残そうとこの本をまとめあげたようだ。 当時の人びとの生活や暮らしを知るのに役立つ貴重な本である。

浅間周辺の峠道
・地理23(5)  ・1978.5  ・21cm  

月刊「地理」に掲載された資料である。
浅間周辺の峠は、関東のサイクリストにとっては馴染みが深く、一度や二度は必ず訪れている峠だろう。紹介されている峠は著名な峠ばかりだ。「歴史の刻まれた碓氷峠」「中馬の通った入山峠・和美峠」「信仰の峠、鳥居峠・地蔵峠」「奥上州と小諸を結ぶ車坂峠」というタイトルで、峠の歴史的な変遷を解説している。歴史上の人物がどう利用したか、道路開通、鉄道開通による交通革命などを詳しく解説している。あらためてこうした資料を読んでみると、いかにこの地の峠が重要な意味をなしていることが分かる。

箱根周辺の峠道
・地理24(3)  ・1979.3  ・21cm  

月刊「地理」に掲載された資料である。
箱根周辺にまつわる峠に関しての歴史的考察と、峠の詳細が詳しく記載されている。かなり古い資料であるが、昔の写真や地図を見ると、峠の長い歴史を感じる。さすがに箱根の峠だけあって、歴史上の人物が多く登場してくる。箱根峠、乙女峠、足柄峠にまつわる物語は数多い。日本武尊に始まる伝説を始め、箱根越えの歴史が細かく解説されている。自分も何度か箱根周辺の峠越えを経験しているが、やはりどの峠も皆厳しい。石畳みもあれば、勾配のきつい峠もある。しかし、その頑張った先には富士山の絶景が必ず待っていてくれる。これが箱根周辺の峠の魅力だ。今でも峠越えの魅力は変わらないが、できればこうした昔の歴史を学んでから訪れてみるのもいいだろう。

坂東の峠路(古代・中世の古道を行く)
・蜂矢敬啓 著  ・高文堂出版社  ・1979.7  ・221p   ・18cm

目次には10の峠が紹介されているが、これを読んだだけで魅了されてしまう。1.「碓氷峠−東国への入口−」 2.「出牛峠−上州から秩父へ−」 3.「妻坂峠−秩父党畠山重忠の道−」 4.「梅ガ谷峠−青梅三田氏の興亡−」 5.「駒繁石峠−消えゆく中世の土豪−」 6.「鑓水峠−武相産業道路の残影−」 7.「三増峠−桁はずれに強かった風林火山−」 8.「津古久峠−そっとしておきたい峠道−」 9.「善波峠−いまも生きている矢倉沢往還−」 10.「足柄峠−征きて帰れぬ峠みち−」 そして、あとがきに素晴らしい言葉があったので紹介したい。「峠への道にはつねに人々の生活がある。そして人々の生活の積み重ねと拡がりが、私たちの歴史であり道の歴史なのである。そんな歴史をたずねて訪れたとき、峠はいつも私たちをやさしく迎え、そして温かく送り出してくれた。そして峠にはいつも小さな物語りがあった。」 峠の魅力を知った人でしか表現できないような文章だ。峠には日本の歴史が刻まれている。道がどう変わろうと、どう変化しようとその歴史はしっかり刻まれている。こうしてしっかりと峠を語れる人が今いないのかもしれない。簡単にトンネル一つで峠を越えてばかりではいけないと思うばかりだ。

秩父の峠道
・日下部朝一郎 著  ・木馬書館  ・1981.4  ・270p  ・19cm  

「歴史をつらぬく秩父路41コース 失われゆく峠道と古道がここによみがえる」と帯に書かれている。この本は秩父の峠道をめぐるハイキングガイドだ。この本には数多くの峠が登場する。詳細な地図と所要時間などがシンプルにまとめられている。こんなに峠があるのかと驚かされるが、ほとんど自転車では越えられそうもない峠だろう。古い本だけに、すでに道路事情が変わってしまった峠も多い。昔の秩父の山々を振り返るにはいい本かもしれない。

西上州の山と峠
佐藤節 著  ・新ハイキング社  ・1982.7  ・363p  ・19cm  
西上州に絞った山歩き紀行だ。地域が限定されているだけに、内容も詳細で徹底している。西上州概念図に始まり、各エリアの山、峠歩きのレポートを掲載している。著者は女性なので、文章も非常に柔らかく読みやすい。「神流川南稜編」「南稜派出尾根編」「神流川北稜編」「神流川源流編」「佐久編」「牧川編」と地域を分けて紹介している。レポートごとに踏破日もしっかりと記録されている。363ぺージという大作だ。かなりの数の活動が記録されている。自分が訪れた峠も数多く登場する。最後には宿の紹介があるが、この写真が実に懐かしい。いくつか泊ったことのある宿だ。当時を思い出す。

峠と路(八王子とその周辺)
・馬場喜信 著  ・かたくら書店  ・1987.3  ・164p  ・19cm  
 「第一部 八王子の峠と坂」 「第二部 多摩川流域をかこむ峠と山」という構成の本である。あまりに狭い範囲に絞って書かれた内容になっているため、相当詳しい解説がされている。自分にとっても身近なエリアだけに、一つ一つの峠や坂の紹介は実に興味がある。登場する峠は約50。小さな峠ばかりだが、生活と密着した峠が多い。一つ一つ読んでいくと、気軽に行けそうな気がしてくる。コンパクトにまとめられた、そしてエリアを絞ったおかげで内容の濃い本になっている。

秩父の峠
・大久根茂 著  ・さきたま出版会  ・1988.4  ・226p  ・19cm  
秩父の峠を知るにはまずこの本であろう。実は著者の大久根氏とは知り合いである。実際に著者とお会いしセミナーを聞いてきた。すでに発表された本を持参し、愛読してますと伝え喜んでいただいた。また自分のホームページを紹介したところ、さっそく見ていただき、「実に多くの峠を訪れてますね」と驚いていらした。この本は、実際に歩いた記録、撮影した写真がいい味を出している。「素敵な写真が多いですね」と言うと、「普通のカメラですよ」とのこと。実に親しみやすい方である。この本以降も秩父の峠に関しての著書が続いている。

小さな旅(西上州・神流川流域の山と峠 )
・三宅伴子 著  ・白山書房  ・1988.6  ・202p  ・19cm  
このエリアは、サイクリストにとってとても馴染みのあるエリアだ。ニューサイ誌では何度も取り上げられた定番の地域。数々の著名な峠が存在し、ツーリングレポートも数多い。この本は、女性ハイカーの小さな旅日記といったところだろうか。優しい口調の語りと、わかりやすい地図が添えられて読みやすい。訪れた峠も多く、あらためて読み直すと思い出の情景が浮かんでくる。西上州エリアの山と峠を味わうのに最適な一冊だ。

茨城の峠
・岡村 青 著  ・筑波書林  ・1988.11  ・175p  ・19cm  
「はじめに」に書かれていた文章が気に入った。以下に紹介したい。
−−−峠という言葉から私がまず連想するのは希望である。峠の向こう側には何かがきっとあるだろう、あるいはあるはずだという未知なるものへのそれだ。峠にはさまざまな人が往還する。 してみれば、そこにはそれだけの人間ドラマに織りなされ、エピソードが生まれるにちがいない。峠は必ずしも頂上にあるとは限らないし、またそれを意味しない。ちょっと低目な、そのちょっと低目なところが、二番目ぐらいがちょうどいいという私の人生観になぜか符合する。 四十を超える茨城県内の峠―。風俗、景観、伝承、地理的要素などを織りまぜながら峠にまつわる軽い紀行文にしたい。−−− なかなかの名文である。峠をいくつも越えた人でしか言えない言葉かもしれない。茨城県には低山地帯が多く、峠も標高の低い峠が多い。自分も峠越えで茨城県に行くことはほとんどない。関東の中でも、茨城県、千葉県は峠越えの対象から外れていた。しかし、この本にはなんと43もの峠が紹介されている。なんと、ひとつも越えたことがない峠ばかりだ。自転車で越えられる峠なのか不明だが、同じ関東に暮らしていて、ひとつも知らないという のは情けない。機会を見つけてぜひ訪れてみたいと思う。

山村と峠道(山ぐに・秩父を巡る)
・飯野頼治 著  ・エンタプライズ  ・1990.2  ・274p  ・20cm  
著者は峠の山旅の魅力を次の様に書いている。
「峠の山旅には、いろいろな魅力がある。その中で私が最も興味をそそるのは、峠と人との関わりである。特に初めてたどる峠道は、期待で胸が高なる。 途中の路傍には、どんな道標や石仏などがあるだろうか。峠の頂にそびえる老木は松、杉、樅か、その根元には古い社などがあるだろうか、展望はどうであろうか等々、あれこれ想像しながらたどるのも楽しい。峠に立つと、峠の尾根をはさんでまったく景観が異なる場合が多い。吹きぬける風の匂いも心なしか異なる。今は少なくなったが、峠道で地元の人に出会うこともある。そんな時には声をかけて峠道の話など聞くと、峠の旅の忘れ得ぬ思い出となる。このように峠の山旅には、はかり知れない魅力があり、日常の生活に疲れた現代人の心を癒してくれる何かがある。しかし現在は、多くの峠道は林道開発などで寸断され廃道に帰してしまった。往時の人々のことを思いながら、じっくりたどれる峠道が少なくなってしまったことは、まことに残念である。」 自分もまさにこのような気持ちで峠越えを楽しんでいる。峠の登りは辛い。しかしなぜそんな辛い思いをしてまで峠を越えたいのかといえば、こうした峠の魅力があるからだ。この本にはそうした著者の思いが込められた紀行文が収められている。登場する峠は実に多い。目次には48の峠が並んでいる。訪れた峠も数多い。地図が詳細で見やすい。秩父の峠を堪能できる素晴らしい本である。

秩父の低山(奥武蔵・比企・秩父41コース)
・守屋竜男 著  ・けやき出版  ・1990.7  ・241p  ・19cm  
帯タイトルより
「ロマンにみちた峠、信仰の道、歴史の道をあるく。ロングセラー「多摩の低山」に続く第2弾!」
秩父も都心から短時間で行ける山々が多い。ツーリングコースとしても、非常にバラエティに富んだコースが色々ある。代表的な奥武蔵グリーンラインを始め、本格的な峠越えから山岳サイクリングを楽しめる所まである。この本は低山のハイキングガイドなので、自転車向きのコースではない。しかし、車道のコースとハイキングコースをうまくつなげると、さらに充実したコースを考えられる。魅力ある要素がギュッと詰まったエリアだけに、アイデアしだいで楽しいツーリングを計画できる。

峠 秩父への道
・大久根茂 著  ・さきたま出版会  ・1995.4  ・190p  ・19cm  
前著「秩父の峠」に続く続編である。秩父と言えば大久根氏の名前が真っ先にあがる。今回も埼玉の峠の中から、16峠を取り上げている。一つの峠に15ページ程割り当てるという丁寧さである。単なる峠越えガイドではなく、訪れた際の多くの方との触れ合いもまた大切にしている。秩父は「峠の国」だと書かれている。たしかに実に多くの峠が存在し、人や村と結びついている。自分のツーリング人生の中で、秩父地方は実に奥深く関わっている。巻末には「峠の役割」と題して、4つの役割を紹介している。「政治の道」「経済の道」「信仰の道」「生活の道」 納得である。

群馬の峠(連載12回)
・柳田芳武  ・群馬経済研究所  ・1996.1〜1996.12  
1996年に12回連載された「群馬の峠」シリーズ。登場する峠は ・碓氷峠 ・暮坂峠 ・和美峠 ・やせおね峠 ・内山峠 ・金精峠 ・三国峠 ・渋峠 ・志賀坂峠 ・清水峠 ・赤城の峠 関東の代表する峠ばかりを1枚の写真と簡単な文章で紹介している。古い資料だが、長い歴史を持った峠はさすがに魅力がある。あらためてこうした昔の資料を目にしてから峠越えを楽しむのもいいだろう。

かながわの峠
・植木知司 著  ・神奈川新聞社  ・1999.3  ・201p  ・15cm  
 神奈川県だけで一冊の峠本ができるとは思ってもいなかったので、この本に出会った時は少々驚いた。さらに文庫本サイズの小さな本だ。いったいどんな内容なのかと思っていたら、結構充実した素晴らしい本であった。・湘南の峠 ・鎌倉の峠 ・三浦の峠 ・箱根の峠 ・丹沢の峠 ・県北の峠 と分類されていて、なんと80を越える峠が紹介されている。神奈川と言えば丹沢、箱根ぐらいしか峠は思いつかないが、小さな峠まで丁寧に紹介している。自転車向きの峠が多く、標高もそれほど高くないので、気軽に越えられそうな感じがする。適度なハイキングコースとして人気がありそうなコースばかりだ。

新多摩の低山(ようこそ65の山へ)
・守屋竜男 著  ・けやき出版  ・1999.7  ・241p  ・19cm  
帯に「日帰りで訪ねる東京の自然」と書いてある。著者は低山シリーズで有名な守屋竜男氏だ。いわゆる登山・ ハイキングガイドであるが、対象が東京周辺の低山なので親しみがある。コース上には峠がいろいろと出てくるので、ツーリングプランの参考にもなる。紹介されているコースはいくつか走ったことがあり、条件によっては自転車を持ち込んでも問題ない所もある。詳細な地図とアドバイスがよくできているので、比較的経験の浅い方向けかもしれない。実に読みやすい本である。

峠 幻視行(上州の峠でみたもの)
・吉永哲郎 著  ・上毛新聞社  ・2000.5  ・155p  ・19cm  
「幻視」とは、他人には見えないもの(人、動物、虫など)が見えるという症状、だそうだ。この本のタイトルは、峠での「幻視」体験を綴った、事実とフィクションのストーリーである。まあ、この説明だけでも理解が難しいが、読み終えて実に不思議な世界に連れて行っていただいた、という感想だ。「峠行 はじめに代えて」 「三国峠」 「和美峠」 「渋峠・山田峠」 「入山峠・碓氷峠」 という章で構成されているが、どの峠も著名な峠で、自分も 全て訪れている。まず、「峠行 はじめに代えて」を読むだけで、峠に対する奥深い解説に心打たれる。まさに著者の語る通りの世界が峠の本質だと共感する。素晴らしい、初めからこんな内容の本なのかと思って「三国峠」を読み始めると・・・ そこから展開される本編は、ちょっとこれまでの峠本とは趣が違う。ひとつひとつの峠の歴史的考察は見事である。そしてそこに「幻視」が登場する。歴史的な人物が峠に登場し、そこで語られる物語に心奪われる。どこまでが事実で、どこまでがフィクションだかわからない。しかし、そこで展開されるストーリーは、峠を愛する人たちの心からの景色だ。こんな思いを持って峠を越えたこともなければ、峠に向き合ったこともなかった。「渋峠・山田峠」内の、私のお気に入りの「芳ケ平」に関する文章も文句なしだ。何だろう、こんな峠本があるんだと、実に不思議な感覚に包まれる一冊だ。

群馬の峠を歩く(連載43回)
・須田茂  ・2004.2〜2007.9  ・月刊上州路   
月刊「上州路」とは、いったいどんな書物なのだろうかと調べてみた。
「上州路の内容 郷土・群馬を深く掘り下げる月刊誌:あさを社の『上州路』は、群馬とその周辺地域のさまざまな物事を取り上げ、探求し続ける月刊郷土文化誌です。 1974年6月の創刊より、歴史、文化、自然、産業、まちづくり等、独自の視点で特集を組み、「郷土・群馬」を探り紹介しています。」
現在は休刊になっているようだが、その中身は素晴らしい。本当に地域に特化した郷土誌だ。上州を愛する気持ちがひしひしと伝わってくる。表紙から何もかも立派な出来栄えだ。こんな素敵な郷土誌があるなんて、上州の方は幸せだ。自分の郷土がこれだけ詳しく紹介されている物も珍しいだろう。「群馬の峠を歩く」シリーズは、須田茂氏が、約4年近くに渡って連載してきた力作だ。群馬の峠を一つ一つ、これほど丁寧に紹介した方もいないだろう。徹底した調査、歴史的な面からの考察、そして数々の問題提起。ちょっと一般の峠本とは視点が違う研究図書の感じもする。とにかく著者の情熱を熱く感じる次第だ。上州路の峠はなんて魅力があるのだろうと再認識する。訪れた峠も数多い。あらためて読むと、本当の峠の魅力がわかってくる。この資料は国会図書館で全巻を手に取り、43回分の記事を入手してきた。43回分の記事は相当なボリュームであるが、これをなんとか自分用に一冊にまとめるのが究極の楽しみだ。

群馬の峠
・須田茂 著  ・みやま文庫  ・2005.8  ・221p  ・19cm  
群馬を知る百科事典、「みやま文庫」の第179巻である。表紙の美しい写真にまず感動する(蓬峠の遠望)。峠の由来、変遷などの知識がなければ、歴史・文化・信仰などを知ることができない。そう考える筆者がまとめあげたのがこの本である。古道、交通史、郷土史の調査・研究、峠歩き、山歩きの助けになることを願う、とある。峠越えのガイドブックというより、歴史を学ぶ教科書的な内容である。巻末には、群馬の峠に関する豊富な資料、参考文献が数多く掲載されている。

房総  山と峠の物語
・内田栄一 著   ・崙書房出版   ・2009.4   ・244p  ・18cm  
千葉県には峠はほとんどないのかと思っていたら大きな間違いであった。この本を見つけてなんとか入手しようと思ったが、ありえないような価格で売られている。内容もわからず買うこともできないので、まずは国会図書館へ行ってみようと出向いた。実物は小さな本だった。なんでこの本があれほど高価な金額なのか? 著者のことはよく知らないが、千葉県、房総の山や峠に詳しい方だ。峠はどこにあるのかと思っていたが、歴史を辿るとあちこちに峠の名前を見つけることができる。これには驚いた。峠の歴史考察も丁寧だ。機会があれば、こうした小さな峠を訪ねてみたい気がする。

藤野町の峠
・2009.10  ・37p   
この資料は、かつて「峠のむこうへ」というサイトがあった時に、そこでダウンロードしたものだと記憶している。すでにそのサイトは消滅しており、その後の経緯は不明だ。このサイトは峠本の紹介では有名だった。自分もこのサイトから得た情報はかなり多い。著者の名前も経歴も全く不明だ。この資料には神奈川県北西部に位置する藤野町の峠を紹介している。A.陣馬山周辺(7峠)、B.生藤山南方尾根・小渕丘陵(10峠)、C.相模川南岸(15峠) 1ページ1峠、写真と地図の簡単な紹介だが雰囲気はよくわかる。写真からは自転車で越えられる峠もありそうなので、手軽な峠越えを楽しむには良さそうだ。あとがきには、将来的には「神奈川県の峠」に発展できれば、と書かれているが、その後の活動は不明だ。

栃木の峠(峠でたどる暮らしと文化)
・桑野正光 著  ・随想舎  ・2010.3  ・215p  ・21cm  
帯タイトルより
「峠は歴史の証人である。「ふるさと栃木」の歴史と先人の思いをたどった峠の記録。 人々の記憶から消えようとしている人と峠との関わりを、丹念に歩き聞き書きしまとめた初めての一冊。」消えかかる峠を記録して残そうと踏破した記録である。栃木の峠を8つのエリアに分類し、62の峠を紹介している。著者の丹念な聞き歩きにより、地元の「今」がしっかりと残されている。こうした大変な尽力によって、後世に残る偉大な資料が残される。紹介されている峠は、自転車で越えられそうな峠が多く、実に参考になる。意外と知らない峠が多いことに驚くばかりで、新たな発見につながる。

ふじのの峠
・杉本憲昭  ・NPO法人北丹沢山岳センター  ・2010.8  ・12p  ・26cm  
NPO法人北丹沢山岳センターに直接連絡して入手したものである。現在は販売されていないようで、「藤野の山と峠」というガイドブックが販売されている。「ふじのの峠」は12ページの薄いパンフレットであるが、概略図と18の峠がコンパクトに紹介されている。中央線の藤野駅を挟んで北側と南側に点在する峠を紹介している。限られたエリアの峠だけに、集中して巡ることも可能だろう。都心から近いだけに、手軽に峠越えを楽しめる所だろう。

歴史の中の峠道
・大久根 茂  ・埼玉県文化財保護協会  ・埼玉の文化財54号 2014年2月  ・2014.2  ・21cm  
埼玉の峠はこの方が第一人者であろう。「秩父の峠」「続秩父の峠」「奥武蔵・秩父 峠歩きガイド」と執筆し、現在でも「峠の履歴書」を連載している。この資料は、埼玉県における峠の位置づけや、歴史的な事象を具体的な峠と結び付けて解説している。書き出しは「”峠の国”秩父」と題し、なぜ秩父には峠が多いのかを説明している。次に「峠の役割」として、1.政治の道、2.経済の道、3.信仰の道、4.生活の道と続く。さらに「峠と文学」、「歴史に登場する峠」、「峠道の今」と解説が続く。多くの峠を例にして、峠の本質をするどく説明している。詳細な地図と、わかりやすい文章により、秩父の峠の奥深さをしっかり学ぶことができる。これだけ詳しく秩父の峠を語れる方もなかなかいない。著者は時々セミナーで講師を勤めることがあり、私も以前、荒川に関する講義を受けたことがある。それ以来、「峠」を通じての知り合いである。

常陽藝文(特集いばらきの峠)
・公益財団法人 常陽藝文センター  ・2014.12  ・72p  ・22×20cm  

 
以下のような説明が書かれている。「平坦地に恵まれているといわれる茨城県でも山地に属す土地はかなりの面積を占め、そこに少なからぬ峠が存在する。それらの中から2014年秋の時点で実体のあるもの39峠を選んで紹介する。」 茨城県にこれほど多くの峠があるとは知らなかった。あまりツーリングで峠越えをする地域ではないので再発見の喜びだ。1ページ1峠の紹介で、カラーの写真とともにわかりやすい解説が書かれていて、とても読みやすい。22cm x 21cm という変形サイズの本。

奥武蔵・秩父 峠歩きガイド
・大久根茂 写真  ・文さきたま出版会  ・2015.3  ・126p  ・20cm  
帯タイトルより 「23コース・37の峠道を徹底ガイド 古くより人が行き交い、物資が運ばれた峠道。使われることの少なくなった旧道をたどる峠歩きの魅力を、土地の歴史や暮らしの記憶を綴ったコラム〈峠のあれこれ〉とともに紹介。ルート設定、見どころなどのワンポイントアドバイスも充実!」  大久根氏の第3弾である。今回はフルカラーになってさらに充実している。峠の紹介はもちろん、〈峠のあれこれ〉のコラムが実にいい。地図も写真も素晴らしく、全編を 通して見やすい一冊になっている。

奥武蔵水源の峠道(入間川水系を行く 前編・後編)
・飯野 頼治  ・さいたま : 山村民俗の会   ・2015.6(前編) ・2015.10(後編) ・6p(前編) ・4p(後編)  
山村民俗の会 雑誌「あしなか」に掲載された峠越の記録である。
前編目次 ・中藤川から豆口峠 ・穴沢から穴沢峠 ・名栗川から鳥首峠
後編目次 ・入間川源流から妻坂峠 
何度も訪れている奥武蔵であるが、水系を辿った峠巡りは初めてだ。主に車道を走るばかりなので、こうしたレポートはなかなか興味深い。登場する峠は、豆口峠、穴沢峠、鳥首峠、妻坂峠、山伏峠

高麗川水系の峠道
・飯野 頼治  ・さいたま : 山村民俗の会  ・掲載誌 あしなか  ・2017.6  
i「奥武蔵」エリアの峠を訪ねた報告だ。高麗川水系の峠として、「刈場坂峠」「ぶな峠」「傘杉峠」「顔振峠」「正丸峠」が紹介されている。あまりにポピュラーな峠なので、何度も訪れたことがある。しかし自転車とハイキングではルートも違えば、出会う対象も違ってくる。あらためて読み直してみると、新しい発見につながる。

関東激坂イラストレイテッド
・GEIBUN MOOKS  ・2018.1  ・95p 
・26cm  
ちょっと異色の本ですが、このように紹介されています。「激坂と萌えイラストという組み合わせで、坂道を紹介することで、体育会系マニアックなものではなく、軽く気軽に読める坂道紹介本です。」マニア向けのアニメ本かと思えるが、開いてみると関東の有名な峠や坂などが、素敵なイラストとともに紹介されている。本文の内容は簡単なコースの紹介だが、1ページをフルに使ったイラストが素晴らしい出来だ。峠の本と言えば、お堅い内容ばかりだが、この本はちょっと趣向をかえたムック本だ。意外と凄いコースまで紹介されていて驚く。「大弛峠」も「小熊山林道」も紹介されている。ちょっとした峠越えのきっかけになる一冊かもしれない。

埼玉峠ガイ ド85
・小川哲周、オゾングラフィックス 著  ・Kindle版  ・2018.7  ・64p  
三重の峠(自転車でめぐる峠の魅力)という本が、唯一のサイクリストが書いた本かと思ったら、もう一人この方がいた。電子版の書籍で、アマゾンで入手できる。実に素敵に作られた書籍で、デザイン、レイアウト、色使いなど完璧だ。デザイン地図、図版、ガイドブックなどを制作している会社だそうなので、さすがの完成度である。登場する峠は、これでもかってぐらいの85峠。舗装路で行ける峠ということで安心だ。写真も素晴らしく、埼玉の峠越えには非常に役に立つ一冊だ。

峠の履歴書(山の本)(連載中)
大久根茂  ・山の本  ・白山書房  ・2022.春〜   
白山書房「山の本」2022年春号から、大久根茂氏が連載している峠の紹介だ。埼玉の峠の紹介では有名な著者の、最新の執筆だ。毎回一つの峠に関しての詳しい解説がされている。写真も著者が自分で撮影したものだ。2022年夏には、日本山岳会埼玉支部にて「峠歩きは面白い!!」という講演があったので参加してきた。多くの峠の写真を紹介しながらの講演はなかなか楽しいものであった。引き続き今後の連載を楽しみにしている。

 

中部

(新潟・長野・山梨・静岡・岐阜・愛知・福井・石川・富山)
 


遠駿 峠の古道
・内藤亀文 著  ・明文堂  ・1971.10  ・260p  ・18cm
「旧東海道で最も情緒的な部分は、遠江から駿河にかけて連衝する峠道である。姫街道、佐夜の中山、宇津谷峠、薩埵峠。これらの峠は、峠とは言い条、たかが百メートル内外の丘陵で、旅人達は嶮しい高山に登るような、切っぱつまった気持ちを持つ必要はなかった。そしてこの気持ちの上にゆとりがあったことが、これらの峠の旅を情緒的ならしめた原因だったのである。」
冒頭、こういう書き出しで始まる。なるほど、そういうことかとうなずく。実際に峠を訪れると、確かにそれほど嶮しさを感じる峠ではないが、周囲の風景、風情がたまらない。そんな事を紹介してくれる1冊だ。

越中の峠
・橋本広 著  ・北日本新聞社  ・1972.10  ・159p  ・19cm  
この本は、昭和46年7月から9月にかけ、北日本新聞朝刊に「ふるさとの峠」と題して連載したものをまとめたものだ。登場する峠は50峠。 越えたことがあるのは、なんと細尾峠だけだ。とにかく素晴らしいイラストに魅了される本である。そしてその文章の巧みなること、なんとも言えぬ旅愁がある。こんな語りのホームページを作りたかった、と思わせる文章である。表紙から何もかもが自分の大好きな世界が広がっている。素晴らしい本だ。あらためて読むと、いろいろと学ぶことが多い。 いい、素晴らしい。

新版 あゝ野麦峠
・山本茂美 著  ・朝日新聞社  ・1972.12  ・396p  ・20cm  
2022年11月に二度目の野麦峠へ行った。泊った宿の廊下には、映画「あゝ野麦峠 」のパネルが飾ってあった。これだけ有名な物語なのに、映画も見たことがなければ、原作も読んだことがない。ただ峠を越えるだけで満足していた。こりゃだめだ、とすぐに映画を見た。あまりの衝撃にショックを受け、原作を読まねばとすぐに手に入れた。小さな字の長編であるが、全て読み通した。とにかく凄い作品だ。こんな時代が本当にあったのかと、とにかく驚いた。そしてこうした事実を詳しく知らずに二度も峠を越えていた自分が恥ずかしくなった。やはり、この峠を越えるときは、映画、原作を見るべきだ。

信州の峠
・市川健夫 著  ・第一法規出版  ・1972.12  ・230p 図  ・18cm  
表紙をめくると、白黒写真と以下のメッセージから始まる。
「峠って何だろう。古い歴史が踏み固められているところ。人びとのうらみつらみが折り重なっているところ。さまざまの妖精たちがうごめいている。旅人は祈りをささげ、お許しを乞うて通過した・・・・・・ 信州最古の神坂峠。」1枚1枚の写真に添えられてメッセージが心に刺さる。登場する峠はすべてが信州を代表する峠と言ってもいいだろう。豊富な写真と簡単な地図が峠へと導いてくれる。実に渋い本だ。内容も素晴らしい。古い本であるが、誰もが知っている信州の峠をあらためて知るのに欠かせない本である。

木曽の鳥居峠
・木祖村教育委員会  ・1973.1  ・219p 図  ・21cm  
 一冊すべてが、鳥居峠の「歴史・民俗」について書かれた本である。一つの峠に関してこれだけ詳細な内容の本は見たことがない。巻頭には白黒の写真が10数枚掲載されている。古い写真だが、今でも同じような雰囲気を感じられる。この峠を越えたのは2006年11月。紅葉が美しい晩秋の峠路に魅了された。奈良井宿から自然歩道を行くと、きれいに整備された山道が続く。この本は、そんな美しい鳥居峠の全てを歴史を辿って書かれている。越えたことがあればより一層深く峠の魅力がわかるだろう。全てを読むには相当な気力が必要だ。それにしても、これはもう専門書である。

峠と路(埋もれた峠−失われた路)
・藤森栄一 著  ・学生社  ・1973.9  ・256p  ・19cm  
帯タイトルより 「遠くはるかな歴史の中に埋もれた峠、いまなお破壊され失われていく峠路。そこを舞台に数々の人間ドラマがくりひろげられてきている。」
信濃を愛してやまない著者の信濃四部作めの作品である。「蓼科の土笛」「遥かなる信濃」「信濃の美篤」という三冊の随筆集に次ぐ作品だ。著者の信濃に対する思いは物凄く深い。諏訪市に生まれた著者の郷土愛は物凄い。よって、その表現、文章は実に愛がこもっている。「峠と路」というタイトルだが、峠を紹介する内容ではない。信濃に対する尊敬の念である。峠の紹介もいろいろ登場するが、最後に野麦峠を語る章がある。実際に自分で辿った記録である。自分も「あゝ野麦峠」を読んで、同じ道を辿ってみたい思った。著者はすでにこの時代に実行していた。深い歴史と、様々な思い。峠越えは単なる通過点ではない。人間ドラマが交差する人生の重要な境でもある。やはりこうした本が心に響く。峠越えは奥深いと感じるばかりだ。

信濃の峠路
・茂木住平 編著  ・社団法人 信濃教育会  ・1975.5  ・391p  ・22cm  
 発行された1975年当時に、定価3200円という高額な一冊である。その金額通り、中身は完璧だ。信州の峠を知るにはこの本を読むべきであろう。合計100の峠が紹介されているが、数えてみたら自分が越えたことがあるのはちょうど半分だ。それほど信州は峠の宝庫だ。古い写真が実にいい。知っている峠はこんな様子だったのか、と驚くばかりだ。入手できるうちに手に入れたほうがいい。古くて役に立たないなんてことは全くない。峠好きのサイクリストのバイブルであろう。

木曽の峠道(一)(二)
・川崎 敏  ・東京 : 古今書院   ・掲載雑誌:地理 第21巻5号、6号  ・1976.5〜1976.6 ・8p、9p  
木曽の峠道の歴史を紹介した内容であるが、昔の様子が伺える貴重な資料だ。昔の地図、写真は過去を知るのに役立つ。
「峠道の哀愁」と題してこんな名文があったので紹介しておこう。
木曽十一宿の道筋には、鳥居峠・馬籠峠・十曲峠の三つがあるが、木曾から伊那地方を結ぶ峠には、 神坂峠・清内路峠・大平峠・権兵衛峠があり、飛騨を結ぶ峠には、境峠・長峰峠がある。
峠は村と村を結び、人と人を結ぶ。 ある時にはこの峠が物資交流の場となり、ある時はここが防禦地点となった。 しかしそれよりも峠は人間の感情がこびりついている。峠は喜びも悲しみも、多くの人間の歴史を知っている。 峠に登ると峠にまつわるさまざまの人間の姿を思い出すことがある。 峠が哀愁を感ずるのはそのためだろうか。

越前・若狭 山々のルーツ(復刻版)
・上杉喜寿  ・安田書店  ・1995.1  ・354p  ・21cm  
上杉喜寿氏による、「ルーツ」シリーズの1冊である。他に「峠のルーツ」「河川のルーツ」などがある。この本は復刻版とあるように、1980年1月に福井新聞社より発刊されたが、好評のため品切れとなり、こうして復刻版になった。越前・若狭エリアに関する山の本は珍しく、この本はとても貴重な一冊だ。山の紹介がほとんどであるが、訪れたことのある山、峠が多少登場してくる。なかなか行く機会がないエリアだけに、未知の魅力を感じる。読み応え十分の一冊だけに「峠のルーツ」とともに楽しみたい。

新版 続あゝ野麦峠
・山本茂美 著  ・角川書店  ・1980.4  ・363p  ・20cm  
前編を読んで、やはり続編も読みたくなって手に入れた。前編発表後、様々な資料や証言が多数寄せられ、さらに取材を重ねて、書ききれなかったエピソードをまとめている。続編も圧倒的な情報量で構成されていて、二冊を読まないとやはりドラマは完結しない気がする。二冊を読むと、飛騨から野麦街道、野麦峠を越えて岡谷へ至る道を同じように辿ってみたくなる。ツーリングプランとしてはなかなか面白いだろう。すっかり道路事情は変わってしまったが、見える景色は当時と変わっていないだろう。機会があればこんなツーリングもいいと思う。

佐久の交通史
・菊池清人 編著  ・檪  ・1981.2  ・202p  ・19cm  
交通の歴史という観点から、街道と峠を調べた資料である。「第三節 北国街道と峠の道」では、一つ一つの峠が写真とともに解説されている。紹介されている峠は、碓氷峠 、入山峠、和美峠、矢川峠、香坂峠、内山峠、星尾峠、余地峠、田口峠、十石峠、武道峠、栂峠、十文字峠、三国峠、大弛峠、信州峠、大石峠、麦草峠、大河原峠、雨境峠、大門峠 、平沢峠、夏沢峠 など、著名な峠が数多く登場する。それぞれの峠がどのような歴史を経てきたのか、これを読むと時代背景がよくわかる。

越前・若狭 峠のルーツ
・上杉喜寿  ・福井郷土誌出版研究会  ・1983.7  ・413p  ・22cm  
最初に福井県知事の言葉があり、次に福井新聞社社長の次のメッセージがある。「”山"といえば、信仰、神といった思いが浮かぶが、”峠”となるといささか事情が異なる。人間くさい感情がつきまとう。 山は人を寄せつけない厳しさの上に立つが、峠は人が利用する目的で、造られた優しさがあるように思う。生活に密着している点では、山の比ではない。」 凄い本である。上杉喜寿氏の三部作、「山々のルーツ」「河川のルーツ」に次ぐ「峠のルーツ」である。圧倒的なボリュームを誇る、413ページに 渡る大作である。収録されている峠も約100に及ぶ。全ての峠に詳細な、丁寧な解説が書かれている。自分にはあまり縁のない地域だが、これほど多くの未知の峠があるなんて信じがたい。数えてみたら、越えたことがある峠はなんと一つしかなかった。越前・若狭エリアはほとんど知らない地域。読むだけでも大変な一冊だが、少しづつこの地域に近づきたいと思っている。

甲斐路(峠特集号)
・山梨郷土研究会  ・1986.2  ・68p  ・21cm  
山梨郷土研究会の発行という郷土資料のため、実に細かく峠の内容が記されている。訪れた峠も多く、詳細な文章を読んでいくと、峠の光景が浮かんでくる。実に貴重な資料である。 以下目次より 
・峠の民俗についての若干の考察 ・甲州の峠 小考 ・峠と郵便 ・大菩薩峠の無人交易 ・笹子峠 ・御坂峠 ・”峠”随想 ・夜叉神峠 ・太良峠 ・山梨の峠二例 −割石峠・安部峠−  ・史書にみえる二つの峠 ・加吉(古)駅と籠坂峠 ・信州峠(川上峠) ・関原峠 ・野背坂峠 ・峠民俗談 ・大鹿峠の今昔 ・阿難坂と迦葉坂
 

市町村で見る福井県の歴史
・印牧邦雄 監修  ・東京書籍  ・1986.7  ・1165p  ・22cm  
1165ページもある福井県の郷土資料だ。その中に「越前国境の峠」という章が8ページある。国会図書館のデジタルデータで見つけたので資料を集めてきた。●峠の歴史的背景 ●江越国境の峠 ●信仰と峠 ●越美国境の峠 ●加越国境の峠 という内容で紹介されているが、なんといってもまずは「越前国」の歴史を学ぶことが重要だ。長い歴史の中で、越前国の存在、峠の役割が変化してきた。「越前のもつ経済力が中央政権にとって重視されるためには、中央と直結する交通路の確保が必須である。このために、越前国境の峠が注目された」 とある。日本の歴史、政治の流れの中で越前国の峠は変化してきた。ここの峠を訪れるとき、必ずこの歴史を感じることになる。自分もこの地域を走った時、必ず長い歴史物語に出会った。神社・仏閣、遺跡など歴史遺産が実に多い。改めて勉強し直し、再びじっくりと訪れてみたい所である。

甲斐の山山
・小林経雄 著  ・新ハイキング社  ・1992.2  ・358p  ・19cm  
 この本は、甲州の山、峠などを徹底的に調べ上げ、事典的な感じで1冊にまとめあげている。甲州の山を15のブロックに分けている。1.山中湖周辺の山々 2.道志・秋山の山々 3.権現山周辺の山々 4.多摩水源の山々 5.大菩薩の山々 6.笛吹川流域の山々 7.金峰山・茅ケ岳周辺の山々 8.御坂山塊 9.芦川流域の山々 10.天子山塊 11.八ヶ岳 12.南アルプスT 13.南アルプスU 14.身延山塊 15.富士山  甲斐の峠はかなり多く越えているので、ページをめくると次々と 越えた峠が登場してくる。説明は数行〜1ページ程度なので、あまり詳しい事は書かれていないが、とにかく掲載されている山、峠の数が膨大だ。ちょっと調べたい時にこの本を開けばきっと見つかるだろう。

丸子町誌(歴史編 /上)
・丸子町誌編纂委員会 編纂   ・1992.3  
Wikipediaより
「丸子町(まるこまち)は、かつて長野県小県郡に存在した町。2006年(平成18年)3月6日、(旧)上田市、真田町、武石村と合併し、(新)上田市となった。」
丸子町誌の「第四節 交通と旅」に以下のように説明されている。
「丸子は周囲を山でかこまれたような地である。そのため近隣の村々へ行くのに、最短距離の峠道がよく使われた。丸子の周囲をめぐる峠道には次のようなものがある。保福寺峠・豆石峠・三十坂峠・市峠・梅木峠・平井寺峠・砂原峠・二ツ木峠・久保峠・箱畳峠・深山峠・勝見峠・鳥屋峠・所沢峠・熊沢峠・霊泉寺峠・武石峠・三才山峠である。これらの中には、相当に古い時代から使われたと思われる峠道も多い。」
10ページほどの資料だが、この地域の峠との関りを詳しい地図と、歴史的な検証とともに解説している。実際の地図を見ると、ほとんどが登山道である。自転車を持ち込める峠は少ないだろう。こうした小さな峠の情報も探せば見つかるものだ。

東海道宇津ノ谷峠(道に咲いた文化)
・企画、監修:建設省静岡国道工事事務所   ・発行:中部建設協会 静岡支所   ・1993.2   ・191p   ・26cm  
「遙かな昔から、東海道は最も活力のある「道」の一つだった。古事記や日本書紀には、日本武尊が東海道を通ったことが記されている。旅の難所として知られた宇津ノ谷峠は、永きにわたって、東海道の東と西の文化の接点となってきた。」巻頭の紹介にはこのように書かれている。「東海道ルネッサンス」シリーズの企画であり、他に「薩埵峠」「小夜の中山」の二冊がある。歴史的な考察が物凄く充実していて、峠にまつわる全てのことを解説している。豊富な写真と図、絵、資料により完全に網羅された歴史書となっている。すばらしいシリーズ企画に拍手をささげたい。

静岡県のとうげ
・自費出版 文化洞印刷 ・金子昌彦、西畑武  ・1993.3  ・368p  ・18cm  
圧倒的な情報量を誇る一冊だ。とにかく静岡の峠に関してはこの本を越えるものはないだろう。368ページという枚数も凄いが、1ページ辺りの文字数も相当だ。一つの県だけでこれだけの本をまとめあげた功績は計り知れない。詳細な地図、多くの写真、イラスト、巻末の収録データ。もうこれ以上掲載するものはないだろうというぐらいの完成度だ。さらに、峠の書籍の紹介が物凄い。紹介された多くの書籍はすでに所有しているが、やはりその選択も素晴らしい。静岡の峠を知りたいのなら、この本を見るべきだろう。辞書と言ってもいいぐらいの本だ。

歴史の道調査報告書. 35 (日影新道)
・長野県教育委員会   ・1993.3  ・24p  ・30cm  
「信州佐久郡と上州を結ぶ道筋は総て峠越えの道である」 冒頭の書き出しはこうして始まる。このエリアには数多くの峠が集中していて、自分もいくつもの峠越えをしている。この資料を読むと、新たな地理的情報を得ることができる。志賀越えの道は「米の道」、香坂峠を通る道筋は「日影新道」と呼ばれ、「麻の道」といわれる。日影新道とははじめて聞く名称であり、添付の地図と現在の地図を見比べると、地名は残っているが、昔の道筋は完全には残っていない。昔は交通の要所であり、多くの物資が行きかったようである。さらに交通をめぐっての争いも起きたようで、この資料には地域の生活や物流の詳細が詳しく書かれている。この道の役割は、信越線の開通によって終えることになる。それ以降日影新道は衰退していくことになる。豊富な資料と写真によって調査が行われていて、とても興味深い。やはり、こうした歴史を知って峠越えをしたいものである。

東海道薩埵峠(東と西の出会う道)
・企画、監修:建設省静岡国道工事事務所  ・発行:中部建設協会 静岡支所  ・1994.2  ・239p  ・26cm  
薩埵峠へ行ったのは、2001年2月の真冬だった。浜石岳へ登った後この峠へやってきた。富士の眺めが素晴らしいことで有名な峠。一度自分の目で見たいと思っていた。確かに絶景の峠だ。海と富士と、そして近代的な道路が織りなす風景が何とも言えぬ世界を物語っている。この本は、そんな薩埵峠を徹底的に解説した専門書だ。豪華な装飾、フルカラーの内容。百科事典かと思うほどの完成度だ。ほんの小さな峠だが、長い歴史に刻まれた由緒ある峠だ。

定本 信州百峠
・監修:井出孫六、市川健夫  ・郷土出版社  ・1994.7  ・227p  ・31cm  
帯タイトルより 「信州の名だたる140の峠に秘められた歴史とロマンを初めて集大成!ふるさとの峠にまつわる文化と自然を伝える待望の“信州の峠百科"」  桁違いの大型本である。定価も1万円を越える豪華版だ。大きさも重さも、もはや本ではなく百科事典並みだ。ここまで徹底的に作り上げたその尽力に敬服する。さすが大型本である。写真の迫力、美しさは別次元だ。信州の峠だけあって、訪れた峠も数多い。ページをめくるたびに、知っている峠が次々登場する。巻末には井出孫六氏の寄稿文、市川健夫氏の総論、カメラマンのエッセイが寄せられている。最後は信州の峠一覧データと地図が添えられている。とにかく信州の峠を知りたければこの本である。あまりに豪華で大きい本だけに、気軽に取り出して読めないのが唯一の難点かもしれない。

東海道小夜の中山(命を再生する峠)
・企画、監修:建設省浜松工事事務所  ・発行:中部建設協会 浜松支所  ・1995.3  ・203p  ・26cm  
「東海道薩埵峠(東と西の出会う道)」と同様、 建設省が企画、中部建設協会の発行となっている。他に、「東海道宇津ノ谷峠(道に咲いた文化)」という本もある。この企画は、東海道に刻まれた歴史や文化を再発見し、その心を継承しながら地域の活性化を図り、未来に向けた人の心が通う「ニュー東海道」をつくりあげることを掲げ、「道」を一つのテーマに1991年より2001年を目指し「東海道ルネッサンス」と称して活動している事業だ。どの本も完璧な仕上がりだ。この一冊で全てが理解できるほどの充実度だ。この地を訪れる際の資料としてはこれ以上のものはないだろう。素晴らしい企画だ。

塩の道500景(千国街道を歩く)
・田中欣一, 田中省三 著  ・信濃毎日新聞社  ・1997.5  ・206p  ・21cm  
千国街道、塩の道を紹介するガイドブックであるが、ツーリングのプランにとても役立つ一冊だ。信濃毎日新聞社の書籍はどれも皆私の心に突き刺さる。何と言ってもフルカラーの美しい写真と構成、そしてデザインが素晴らしい。この本に登場する峠は少ないが、500景にものぼる写真を見ていると、ああ、やっぱり旅に出たい、それもやはりこの地域だ、と思いが募る。何度も訪れているにもかかわらず、いつまでたっても満足しないそんな魅力溢れる塩の道だ。

越後佐渡の峠を歩く
・羽賀一蔵 著  ・新潟日報事業社  ・1998.4  ・306p  ・21cm  
●帯タイトルより 「20万分の1地形図に記載されている越後・佐渡すべての峠を訪ねよう・・・思い立って足かけ5年。 時の流れとともに消えゆく峠を旅した筆者が、優しい眼差しでつづる峠紀行。」
●はじめにより 「私の手元にある国土地理院旧版(昭和五十八年版) 二十万分の一の地図に載っているおよそ八十峠を、北から一つひとつ辿ることに決めた。以前に歩いた峠も含めて、改めて再訪三訪しながら、足掛け五年でようやく思いを達した。その一つ一つの登りきった所では、お茶なりと一服の時間をとって、安らぎを味わい、先人の苦労を偲び、そして、我が郷土越後と佐渡の美しさの中に浸る幸せに満足した。」 
この本に出会ってすっかりこの著者のファンになってしまった。1930年生まれ、雷(いかづち)小・中学校の校長を勤めた後、定年で退職。そこから5年かけて峠を歩き通している。定年後の楽しみとして、20万図の峠を訪ねるなんてなんて素敵なプランなのだろう。この本の最初に登場してくる「雷峠」っていったいどんな峠なのだろう? 校長を勤めた小・中学校ってどんな学校だろう? ということで、この本がきっかけで1999年8月にツーリングを計画した。訪れた雷の集落は本に書いてある通りであった。そして小さな学校が目の前に現れた。こんな小さな学校の校長先生が、あの本を書き上げたのか、と思うとしばらくじっと校舎を眺めて動けなかった。そして雷峠はそこからすぐだった。素晴らしい本である。知らない峠がたくさんある。また機会を作って著者の歩いた峠を訪ねてみたくなった。

飛騨の峠
・建設省中部地方建設局 高山国道工事事務所  ・峠の道調査会 ・1999.3  ・CD-ROM  ・31cm  
まさかこんな立派な出版物があるなんて想像もしていなかった。「飛騨の峠」「美濃の峠」というサイトは存在するが、それが出版物になっているとは驚いた。さらに豪華なパッケージに入れられ、CD-ROMにデータが収められている。まるで昔の「NC峠ガイド」みたいだ。PCのソフト販売みたいな綺麗な箱に入れられており、CD-ROMとそれを印刷した冊子が入っている。収録峠数はなんと120にのぼる。徹底した調査に驚くばかりである。

美濃の峠
・建設省中部地方建設局 岐阜国道工事事務所  ・美濃の峠調査会 ・1999.3  ・CD-ROM  ・31cm  
「飛騨の峠」と同様に構成されている。収録峠数は98。こちらも徹底した調査が行われている。ふたつとも定価も印字されておらず、一般には販売されなかったのかもしれない。何の目的で制作されたのか定かではないが、その完成度と充実さには脱帽だ。実にいい仕事をしていると感じる。両者を手に入れるには古本サイトを検索するしかないだろう。峠好きとしては手元に置いておきたい書籍だ。1ページ1峠という紹介で読みやすい。簡単な概況と説明、写真が添えられている。

北陸の峠
・北陸電力  ・チューエツ メディア制作室出版部  ・1993.3  ・103p  ・26cm  
ああ、なんて素敵な1冊なんだろう・・・。こういう本を求めていた。何もかも洗練されていて、写真も言葉も、何もかも素晴らしい。デザイン、レイアウト、構成、全てが満点だ。紹介されている峠はいったいいくつあるのか、数えるだけでも大変だ。ざっと数えただけで50前後だろうか。その他にも特集、コラムなども充実している。1ページ1ページめくるたびに旅心が掻き立てられる。峠越えはやはりイメージが大切。素敵な写真と紹介文、そして全体のまとまり。この1冊はぜひお手元に置いておくべきだ。

峠への挽歌(信州の峠をたずねて )
・滝沢忠義 著  ・ほおずき書籍  ・1999.4  ・203p  ・21cm  
峠の宝庫、信州の峠に対する著者の深い愛情が伝わってくる一冊だ。巻頭の「変わりゆく信州の峠」に著者の思いが込められている。この本で知った「信州峠会」は現在でもホームページは存在するが、果たして活動しているのだろうか?紹介されている峠のほとんどを訪れたことがある。あらためて紹介文を読むと、より一層理解が深まる。実に丁寧に作られた本である。本の最後に著者のこんな言葉がある。「タイトルを峠への挽歌"としたのは、ほとんど本来の役割を終わった峠に対する哀惜の念である。と同時に、廃れた峠を再生させ、人間性回復のシンボルとして大いに活用すべきだという願いもある。歴史の遺産だと思うからだ。」こうした情熱のある方のおかげで、貴重な資料が残されている。

神岡の峠(ふるさと調べ 第十一集)
・ふるさと神岡を語る会  ・ 2004.3  ・94p  ・26cm  
神岡町(かみおかちょう)は、かつて岐阜県吉城郡にあった町。神岡鉱山の町として栄えた。1950年(昭和25年)6月10日、吉城郡船津町、阿曽布村、袖川村が合併して誕生した。2004年(平成16年)2月1日、吉城郡古川町、宮川村、河合村と合併して飛騨市が発足し、神岡町は廃止された。(ウィキペディアより)
岐阜県飛騨地方の小さな峠を紹介した郷土資料だ。旧神岡町辺りは、ほとんど訪れたことがない。知らない峠が数多く掲載されているが、地図上にも名前のない峠ばかりだ。昔からの言い伝えや、その土地独自の呼び名など様々な事情があるのかもしれない。道路の整備と車社会の発展により、峠の消滅もかなり進んでいる。そうした忘れ去られようとしている峠を記録に残そうとこの資料は作成された。こうした資料が無くなってしまうと、峠の存在も歴史から消え去ってしまう。そういう点からもこの資料は実に貴重である。調査された峠は42におよぶ。

遠州の山と峠
山岡元弘 著  ・ひくまの出版  ・ 2004.10  ・ 323p  ・ 21cm  
遠州地方の山を中心に紹介したガイドブックだ。峠もいくつか登場してくるが、圧倒的に山の紹介が多い。300ページを越える立派な本であり、著者の山登りの記録が細かく掲載されている。残念ながら自転車で走れそうなエリアは少なく、サイクリング向けとしては分野が違うかもしれない。しかし、実に多くの山々が連なっているエリアだ。40年かけて歩いた124の山、30の峠の記録と思い出が書かれている。

峠で訪ねる信州
・川崎史郎 文, 小林敬一 写真  ・信濃毎日新聞社  ・2006.5  ・207p  ・21cm  
サブタイトルに「峠からの招待状」とある。信濃毎日新聞社の本は、なんて素敵なのだろうといつも思う。この本も全てのページが美しさに満ち溢れている。目次が素敵だ。そしてページをめくるたびに感動に包まれる。著者の川崎氏は長野県飯山の出身。近くの富倉峠を何度も越えたことがあるのだろう。富倉峠だけはページ数が多いのは、やはり思い出深いからなのであろう。紹介されている峠は55。さすがにこのエリアは自分も多くの峠を越えている。あらためて読み返すと、自分のツーリングの歴史を思い返すようだ。一つ一つの峠に思い出が蘇る。なんて素晴らしい本なのであろう。写真も文章も完璧だ。

東山道の峠の祭祀・神坂峠遺跡(シリーズ「遺跡を学ぶ」  44)
・市澤英利 著  ・新泉社  ・2008.3  ・93p  ・21cm  
表紙より。
「信濃国と美濃国の国境の神坂峠は、都からはるか遠い東国へとつづく古代東山道随一の難所であった。頂から東を望めば、けわしい山々が幾重にも連なる。この峠こそは、東国へのきびしい旅の始まりであった。旅の成就を願って峠の神に捧げた人びとの祈りの形を追う。」 この本は5章から構成されている。「第1章 東と西を分ける神坂峠」 「第2章 峠は祭祀遺跡」 「第3章 峠のふもとの里」 「第4章 神坂峠越えの道の歴史」 「第5章 古道の復活」  この峠を越えたのは一度だけしかない。ニューサイで紹介されていたレポートに魅かれ訪れた。荒れた山道、厳しい登り、峠からの絶景、カモシカとの対面、など多くの思い出が心に刻まれている。これまでの多くの峠越えの中でも、とりわけ神秘的な雰囲気を感じる峠であった。はじめてこの本を読んでみて、なるほどそういう歴史だったのか、と納得した。峠一つにこれだけ深い歴史が刻まれているとは驚きだ。1987年5月にこの峠を越えた時には、とにかく峠に立つことだけが目的だった。こうした「神坂峠遺跡」の存在など全く知らなかった。あれから37年、もう一度じっくりと峠越えをしてみたいと思うばかりだ。

伊那谷の峠(一)天龍村竜東地区の峠
・久保田賀津男 著  ・秀文社  ・2009.5  ・263p  ・30cm  
この本の存在を友人に教えてもらった。「伊那谷の峠」というタイトルが実に興味をそそる。この本は自費出版の本であり、一般には入手不可能だ。国会図書館のデータベースにも存在しない。友人から直接著者に連絡すれば入手可能と教えてもらい、さっそく電話したところ、かなり感激され、そして感謝された。本の内容は相当詳しい調査に基づく内容が書かれている。相当な時間と情熱をかけて作り上げた資料だ。この本以外にも伊那谷の峠を調べた資料が存在するようであるが、都内の図書館では調査不可能だった。ところが飯田市立中央図書館のデータベースからは、著者の多くの作品が検索できた。徹底的に調べるには、直接こちらの図書館へ出向くしかない。ツーリングがてら、一日図書館で調べるというのもいいかもしれない。機会があったら、計画してみよう。それにしても、これだけ峠に情熱を持った人がいることに驚くばかりである。これからも今後の活躍に期待したい。

瞽女と七つの峠
・国見修二 著  ・玲風書房  ・2013.12  ・133p  ・21cm  
瞽女(ごぜ)は、日本の女性の盲人芸能者を意味する歴史的名称。この本は高田瞽女杉本キクエさんの通った信州への峠を、詩とエッセイにしている。登場する峠は、・関田峠 ・富倉峠 ・平丸峠 ・樽本峠 ・牧峠 ・小玉峠 ・小谷峠 の七つ。どの峠も雪深い峠であり、今でさえ越えることがなかなか大変な峠である。富倉峠、平丸峠を越えたことがあるが、峠に立つと 信州側の展望が大きく広がる景色に圧倒される。添えられた詩を読むと、その光景と苦労が同じように浮かんでくる。峠に関する書籍としては、違う面から歴史を学ぶことのできる本である。

悠久を旅する 信州の街道
・信濃毎日新聞社  ・2014.10  ・163p  ・26cm  
帯タイトルより
「善光寺参りの庶民でにぎわい、 戦国武将が軍勢を率い、参勤交代の長い行列が続き、多くの品物が馬の背に揺られていった道々。旅人たちの原風景が誘う 信濃路紀行」 登場する街道は、
中山道 ・北国街道(松代道、戸隠道、善光寺道、保福寺道、野麦街道) ・千国街道 ・伊那街道、秋葉街道(杖突街道、大平街道、清內路道) ・佐久甲州街道、甲州街道 信濃毎日新聞社による、それは見事な美しい街道写真集だ。説明は不要だ。ただただページをめくれば、多くのツーリングで記憶してきた光景に出会える。峠も数多く登場する。とにかく絶景の連続だ。見事な写真集だ!

消えゆく飛騨の峠道を歩く(連載中)
・木下 喜代男  ・[高山] : 飛騨学の会  ・掲載誌 斐太紀  ・2015.春〜   
2015年春季号から続いているシリーズだ。現在、2023年春季号(その5)が最新号になっている。冒頭、次のような書き出しから始まっている。”「山の国」飛騨は「峠の国」でもある。他国へ行くためだけではなく、飛騨国内の移動でも峠を越えねばならず、昔から多くの峠があった。”あまり馴染みのない地域だけに、この資料は実に貴重だ。訪れた峠はほんのわずかしかなく、実際に歩いた詳細データは役に立つ。自転車で越えられそうな峠は少ないかもしれないが、多くの写真と地図のおかげで峠へのルートがわかりやすく記されている。現在も連載中であり、今後の作品が楽しみだ。

下田街道 ・忘れられた峠道(二本杉峠・小鍋峠・広尾峠)
・鷲頭 隆   ・さいたま : 山村民俗の会  ・掲載誌 あしなか  ・2016.2  
2016年2月、6月に「あしなか」に掲載された。伊豆半島(南伊豆)の峠を訪ねたレポートだ。紹介する峠は、「二本杉峠」 「小鍋峠」 「広尾峠」。南伊豆の地理的状況や歴史の解説に始まり、 「旧天城トンネル」「伊豆の踊子」にまつわる解説も書かれている。多くの写真が掲載されていて、非常に丁寧に書かれたレポートだ。この地域は2000年2月に訪れたことがあり、人命救助の思い出がある エリアだけに、読んでいると当時の状況が思い出される。

ぎふ 峠ものがたり
・岐阜新聞社 編著  ・岐阜新聞社総合メディア局出版室  ・2016.12  ・187p  ・26cm  
「飛騨の峠」「美濃の峠」の中から厳選した43の峠を取り上げている。素敵な表紙にまず心を奪われる。ページをめくるとフルカラーの写真が満載の、読みやすく質感の高い峠案内が繰り広げられる。紙質も素晴らしく、持っていることの喜びを感じる1冊だ。まるで写真集のような出来栄えで、ページをめくることがたまらない快感だ。素晴らしい本だ。峠につけられたサブタイトルがまたにくい。例えば神坂峠には、「古代の旅人、疲れ癒す」。天生峠には、「ブナ原生林、幽谷の風情」とある。いい、とってもいい。

信州再発見の旅(信州は峠の国  連載6回)
・田中 欣一   ・掲載誌:信州自治  ・信州自治研究会  ・2020.6  
 「信州自治」とは、昭和23年4月創刊/毎月1回発行 「地域振興」 「行財政運営」・「職員の資質向上」 に資する記事を1冊に凝縮した、県と市町村の連絡機関誌である。「信州再発見の旅(信州は峠の国)」という特集で、6回に渡って峠越えの話が連載された。内容は、1.十文字峠を歩く 2.碓氷峠を歩く 3.渋峠越え 4.関田峠越え 5.地蔵峠・三坂峠越え 6.野麦峠越え となっている。どれも著名な峠ばかりだが、これまで知らなかった新たな解説がされていてとても興味深い内容だ。峠の宝庫信州は、一つの峠、山脈に様々な物語がある。「峠は異文化交流の接点だった」と書かれている。

消えゆく飛騨の峠道
・木下 喜代男   ・岐阜新聞社  ・2023.12  ・317p   ・21cm   

1944年12月飛騨市生まれ。前岐阜県山岳連盟会長。著者の経歴は物凄い。今でも現役で山岳活動をされている。登山ばかりでなく、スキー、MTBで山を楽しんでいる。自転車のみの自分とは世界の違う方である。 この本は「斐太紀」に掲載されている内容の改稿とあらたな調査記録が掲載されている。飛騨の峠に関しては、たぶんこの本の右に出るものはないだろう。徹底的な調査・分析がされており、豊富な写真と見やすい地図が峠への魅力を高めている。ご自身のブログでもこの本の紹介をしている。
『消えゆく飛騨の峠道』を出版しました。(http://hidanoyama.jugem.jp/?cid=4) とにかくいつまでも活動的で素晴らしい登山家である。他にも「飛驒の乗鞍岳」という本も出版されている。何から何まで尊敬の念で一杯である。本人はそろそろ年齢を考えているようだが、まだまだ活躍を期待したい。

越佐ふるさと峠みち
・関田雅弘   ・新潟日報社  ・2024.4  ・255p    ・21cm   
私のホームページファンの方からメールを頂いて、紹介されたのがこの本である。全く知らなかった本である。2024年4月の発刊という新しい本である。近年、こうした峠を特集した本も少なくなっており、昔の書籍を探すばかりだったので、非常にありがたい情報であった。中身は絶賛に値するほどの完成度だ。文句なしの完成度と言っていいだろう。表紙の写真から、巻頭を飾る数々のカラー写真に魅了される。紹介されている峠は全部で38峠。上越の峠みち(9峠)、中越の峠みち(12峠)、下越の峠みち(13峠)、佐渡の峠みち(4峠)となっている。数えてみたら、自分が越えたことがあるのは13峠であった。どの峠も思い出が深い峠ばかりだ。本の中では一つ一つの峠を丁寧に紹介している。素敵なイラスト地図、歴史的な考察を読んでいると、あらためて自分の訪れた峠の再確認になる。この本は新潟日報文化面に2022年1月から2023年8月まで連載されたものを加筆して発刊された本である。こうして貴重な資料を残していただいて、本当に感謝するばかりである。新潟地方の峠を知るには欠かせない一冊である。

塩の道 千国街道(散策ガイドブック)
・小谷村観光連盟   ・21cm   
 このパンフレットは2022年5月に、宿泊した温泉宿に置いてあったものだが、実によく出来ているので紹介したい。作成年度が全く記載されていないので不明だが、今でも利用できる内容だ。千国街道は多くの書籍で紹介されているが、このパンフレットが無料で手に入るのは魅力だ。千国街道全コースを7つに分けて紹介している。1.千国越えコース 2.石坂越えコース 3.天神道越えコース 4.大網峠越えコース 5.大峯峠越えコース 6.高町越えコース 7.地蔵峠越えコース どのコースも詳細な地図と所要時間、豊富な写真でコースを紹介している。自転車で走る際にも役に立つ情報が満載だ。観光地へ行くと、こうしたルートマップや小冊子が置かれているが、中にはこうしてツーリングに役に立つものもある。小谷村観光連盟のホームページにもPDFファイルがあるが、このガイドブックはみつからなかった。今となっては貴重な物を手に入れたと思っている。

 

近畿

(三重・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)
 


近江の峠
・伏木貞三 著  ・白川書院  ・1972.4  ・285p 図16枚 地図  ・19cm  
帯タイトルより
「峠の歴史と文学と伝説を訪ねて」
限りなき人間の哀歓と、ロマンチックな物語、そして原始以来の素朴な文化を秘めた峠。 山を愛する著者は、雪をわけ、 雨をおかして、一歩々々自分の足でこれを踏破、峠の喜びと悲しみを描き出出してくれた・・・・
琵琶湖周辺の峠を網羅した素晴らしい本である。かなり古い本だが、豊富な写真が峠の歴史を物語っている。紹介されている峠の数も60を越える。知らない峠も数多く、近江を訪れる際にはとても参考になる本である。

兵庫の峠
・兵庫県民サービスセンター  ・1978.3  ・ 222p  ・18cm  
独特の表紙にまず驚かされる。兵庫県の峠に関する資料は非常に少ない。その中でもこの本は実に「味」のある内容になっている。小さな本であるが、紹介されている峠のモノクロ写真が実にいい雰囲気を醸し出している。紹介されている36峠のうち、越えたことがあるのはひとつもない。いまだ未踏の地と言ってもいい。圧巻は巻末の峠一覧の資料だ。簡単な概要が添えられているが、これだけでも価値のある資料だ。また、巻頭のメッセージも実にいい。峠越えの神髄を表現しているかもしれない。

北山の峠(上)(京都から若狭へ)
・金久昌業 著  ・ナカニシヤ出版  ・1978.11  ・238p  ・22cm  
圧巻の(上)(中)(下)三部作である。専用のケースに入れられた「北山の峠」は、他に類を見ないほどの完成度と徹底さが貫かれている。私はいつもケースを開くたびに、特別の思いを抱いて手に取っている。著者の金久昌業氏のことは、この本に出会うまでは何も知らなかった。しかし、あまりに偉大なこの著作を手にいれて、あらためてこの人の事を調べるようになった。大正11年2月16日生まれ。京都生まれ京都育ち。中学生の頃から北山を愛し、昭和32年に北山クラブを創設。とにかく、この方を師と仰ぐ方が多く、峠に関する書籍に金久昌業氏の名前が時々登場する。とにかく、(上)巻を読むだけで物凄さがわかる。

北山の峠(中)(京都から若狭へ)
・金久昌業 著  ・ナカニシヤ出版  ・1979.11  ・230p  ・22cm  
(上)巻の「はじめに」と、巻末の「峠のロマン」に、著者の全ての思いが語られていると言ってもいい。峠に対する情熱の凄さ、思いの深さを痛烈に感じる。北山の魅力を徹底的に解説し、地理的な状況、歴史的な解説なども素晴らしい。本の内容に関して言えば、巻頭のカラー写真、文章も秀逸ながら、本文の写真の使い方がとにかくいい。1ページをフルに使ったモノクロの写真は、峠の様子しか写っていない。人の姿や建物など、峠以外の物はほとんど写っていない。峠の姿、形、様子だけを1枚の写真で伝えている。全部で100にもなる峠の写真全てがこの表現で貫かれている。その1枚の写真を見ていると、峠の様々な風景が浮かんでくる。さらに、独特のタッチの手書きの地図が何とも言えぬ雰囲気を醸し出している。

北山の峠(下)(京都から若狭・丹後へ)
・金久昌業 著  ・ナカニシヤ出版  ・1980.11  ・246p  ・22cm  
最初は2巻で収める予定だったそうだが、収まり切れず3巻という大作になってしまったそうだ。それにしてもこれだけのボリュームだ。その果てしない努力を考えただけでも頭が下がる思いである。過去にも先にも、これを越える峠のバイブルは存在しないだろう。消えゆく峠に対して、著者も「今」を残したいという気持ちが強かった。その集大成がこの三部作につながったのだと思う。とにかく貴重な本である。自分は、この北山・若狭エリアにはあまり縁がないが、この本だけは持つことに価値がある。古い本であり、次第に入手が難しくなる。峠ファンであるならば、ぜひ手に入れたほうがいい。

京・近江の峠
・京都新聞社 編著  ・京都新聞社  ・1980.7  ・214p  ・17×19cm  
素晴らしい一冊だ。1980年7月の発行と、すでに43年も前の本になるが、昔の様子を伝える貴重な本だ。紹介している峠は全部で50峠。最初に登場するのは、自分も越えたことがある「京見峠」。今や峠の茶屋は営業してないが、当時の様子を伝える写真が掲載されている。なかなか訪れる機会が少ないエリアだけに、50峠のうち越えたことがあるのはこの「京見峠」だけだ。17cmx19cmの変形本だが、モノクロの写真が実にいい味を出している。峠の地図も見やすく、ついついページをめくって読みたくなる本だ。

紀州の峠路をゆく
・寒川萬七 著  ・創樹社美術出版  ・1983.11  ・170p  ・22cm  
あとがきより 「今回歩いた峠路のいくつかは、すでに五万分の一地図からは消え去っていた。人びとはその古道さえ忘れ、古道もまた雑草が生い茂り、時には天災や人災によって寸断され、数多くのロマンに満ちた峠路はいま、まさに消え去ろうとしている。なんとも言いようのない寂しさが身に迫ってくる。」 古い本である。紹介されている峠を現在の地図で探したが、名前もなく道筋も見つけられなかった。あとがきに書かれている通りである。和歌山県のど真ん中、まず行くことのないエリアだ。この地域の峠が紹介されることも無ければ、ツーリングのコースとして考えるのも難しい。それだけに、この本を見ているとまったく知らない「秘境」を感じる。熊野古道で訪れたことはあるが、和歌山の峠を意識したことはない。この本をきっかけに、今後研究してみたい。

和泉山脈の峠
・田中米雄 編著  ・[田中米雄]  ・1984.6  ・115p  ・19cm  
和泉山脈とはいったいどのあたりか? とまず悩む。関東の人間にとって、まずなかなか行くことのないエリアだ。和歌山付近は自分にとってもツーリングで最も訪れる機会が少なかった。よって、この本に登場する56の峠はひとつも越えたことがない。この本は小さなガイドブックのようだが、中身は著者の情熱が溢れた一冊だ。とにかく峠に対する思いを強く感じる。第1部は和泉山脈の峠の紹介。第2部は峠とは何か、ということを熱く語っている。またあとがきでは峠を次の様に表現している。「峠は離愁の漂う訣別の場所ではなくて、明日に生命をつなぐ出発の地点である」 なかなかの名言である。

歴史の道調査報告書(美濃街道・濃州道・八風道・菰野道・巡見道・巡礼道・鈴鹿の峠道)
・三重県教育委員会 編   ・三重県教育委員会  ・1985.10  
この資料は街道を中心に作成されているが、最後に「鈴鹿の峠道」という項目があり、約40ページにわたって詳しく解説されている。鈴鹿地方の峠の資料は少なく、非常に貴重な資料だ。次のタイトルで紹介されている。●中世の峠越 ●安楽越 ●武平越 ●千草越 ●八風越 ●石榑越 ●治田越 ●鞍掛越 となっている。各峠路を実際に歩いた方が紀行文風にまとめて報告している。峠道の詳しい状況を、歴史を交えながら解説している。ハイキングガイド的な内容だが、実際に訪れるときは役に立つだろう。自転車を持ち込める状況かどうかは不明だ。あまり詳しくない地域だけに、なかなか挑戦する機会はない。

近畿民俗(No.112)
・近畿民俗学会  ・1987.8   
近畿民俗学会のはじまりは昭和9年11月11日となっており、実に歴史のある団体である。そこで発行されている会誌が「近畿民俗」である。峠の資料を探していたら、第112号に一つの資料を発見した。目次の最初に登場するのが、「南と北との二つの嫁越峠  十津川谷と北山谷とを結ぶ大峯山脈の峠路」という内容だ。ほとんど土地勘のない奈良県の最奥部だ。嫁越峠といわれても、いったいどこなのかさっぱりわからない。説明によると、「嫁越峠は大峯山連山が女人禁制の昔、この峠を越えるため幅一間の間隔だけ通過の許を得て、婦人は北山、十津川両 村を往来することが出来たのでこの名が起ったのである。」と書かれている。実際に地図を見てみると、実に険しい山中にある峠である。本当にこんな所を通って隣の村まで歩いたのかと、驚きでしかない。標高は1370mあり、歩きで越えるだけでも大変な峠だ。この峠を越えた記録も紹介されている。また、この峠以外にも「笠捨峠」「不動峠」の様子も解説されている。とにかく、大峰山脈を越えるにはこうした峠を行くしかなく、大変な難所であったようだ。ほとんど縁のない地域であり、まず訪れることのない峠であるが、こうした峠までが重要な交通路であったことに驚くばかりだ。

京都 北山百山 レポート集
・北山クラブ 著  ・金久千津子  ・1989.3  ・495p  ・22cm  
この本は、金久昌業氏が創設した、北山クラブ創立30周年記念のレポート集である。私は北山クラブという団体をほとんど知らないが、京都地方の山岳グループのようである。1987年秋で創立30周年と書いてあるので、創立1957年という歴史のある集まりだ。その記念に出版されたこのレポート集は、500ページ近い大作である。多くのメンバーの活動記録が収められている。多くが山歩きの記録だが、峠歩きもいくつか登場してくる。残念ながら自分はこのエリアにほとんど縁がないため、北山の雰囲気も状況もよくわからない。しかしこれだけ多くの方に愛される北山をぜひ訪れてみたいものである。

紀州路の歴史ロマンを歩く
・寒川萬七 著  ・創樹社美術出版  ・1989.7  ・223p  ・22cm  
前著「紀州の峠路をゆく」から6年が経過し、この本は続編である。郷土愛に溢れる著者が、さらに範囲を広げて歩き、訪ねてきた峠、古道巡りだ。その変わらぬ情熱、信念はまことに見事である。和歌山県も南部の地域に対象が広がって、ようやく自分も訪れたことがある峠が2、3登場してきた。やはり自分が越えたことがある峠は格別だ。思いも深い。まえがきには。この本は喜寿の記念出版と書いてある。自分も同じ歳になった時、はたしてこれだけの情熱を持ち続けていられるだろうか、とふと考える。一貫して郷土愛をつらぬく姿勢に、ただただ感動するばかりだ。

京阪神 峠の山旅
・大阪府社会体育研究所 編  ・七賢出版  ・1996.4  ・190p  ・19cm  
この本は、関西のよく知られた峠を中心に、風情豊かな山村風景や秘めたる歴史のあとを追い、古くからの文化がしのばれる静かな峠の山旅31コースを紹介している。ハイキングガイドといった感じの本であるが、峠の紹介が実にわかりやすく書かれている。峠の簡単な紹介文がわかりやすく、写真と詳細な地図が峠へのルートを正確に伝えている。コースは難易度分けされているが、どのコースも歩いてみたくなる。紹介されているコースのいくつかは訪れたことがある。京見峠の茶屋の写真などは、今となっては貴重な一枚だ。

和泉山脈の峠道について(和歌山地理20巻)
・長谷 正紀  ・和歌山地理学会   ・2000.12   ・26cm  
和歌山県の峠に関する資料は非常に珍しい。自転車関係の世界でも、このエリアの情報を発信している方はほとんどいない。以前のニューサイでは、近畿地方の重鎮が時々フォトレポートを発表していたけれど、今やこの地域の情報は皆無と言っていいほどだ。自分もまず訪れることがない、いや、そう簡単に行けない地域だけに、これまでほとんど触れてこなかったところだ。数年前にようやく自分も機会を得て和歌山県に足を踏み入れてみたが、まあ、とにかく広大なところで手の付けようがないといった感じだ。交通の便も決してよくない。走りだせば広すぎる。もう、手のつけようのない、難しいところ、という印象だ。この資料は、簡単ではあるが20程の峠が紹介されている。奥深い、距離のある、一筋縄ではいかない和歌山の峠である。東京に住む自分にとって、日本で一番訪れにくいところがこの地方だと感じている。それだけに、魅力も、神秘さも、謎も多く感じている。最低1週間は滞在したいところだ。

奈良大和の峠物語
・中田紀子 著  ・東方出版  ・2001.11  ・161p  ・21cm  
奈良地方を訪れる機会はほとんどない。地理的にも時間的にもなかなか計画することができない。しかし、奈良地方には実に多くの峠が存在していて、じっと眺めているしかなかった。ニューサイ誌で時々紹介される写真を見ていると、関東の峠とはまた違う魅力があるな、と感じていた。この本はそんな思いを理解してくれたような1冊だ。NHKリポーターでもあった著者の峠越えの記録である。紹介されている峠はなんと74にものぼる。ひとつひとつの峠に対する丁寧な記述が読者をひきつける。行って見たい峠が次々と現れる。完成度の高い1冊だ。

熊野古道を歩く
・東紀州地域活性化事業推進協議会  ・2002.11  ・144p  ・21cm  
2004年7月に熊野古道が世界遺産に登録された。その年の9月に、いつものように遅い夏休みをとって紀伊半島のツーリングに出かけた。その時の参考資料としてこの本を手に入れた。熊野古道は自転車で走れるのか? という疑問から始まったが、そもそもそんな考えは非常識であることがよくわかった。ここは歩いて巡るところだ。しかし、ガイドブックを読んでみると、多くの峠が存在している。一つでも二つでも越えたいといろいろプランニングしてみた。しかし、自転車で直接越えられる峠はなさそうだ。自転車を置いて、歩いて峠へ向かうのが常識的だ。紀伊半島は非常に広く、熊野古道を辿るのも時間がかかる。こうしたガイドブックで、まずは紀伊半島の全体図を把握してから計画するのが良いだろう。

近江の峠 歩く・見る・撮る
・草川啓三 著  ・青山舎  ・2003.4  ・118p  ・21cm  
 近江の峠を紹介する本は実に多い。それだけ魅力に溢れる地域なのだろう。この著者も京都に生まれ、近江地方の山々を歩いてきた方だ。残念ながら自分はここに紹介されている峠をひとつも越えたことがない。自転車には不向きな峠も多いかもしれないが、美しいカラー写真と詳細な地図を見ているとゆっくりと歩いてみたくなる峠ばかりだ。この本の特徴は、最後にあの北山クラブの創設者、金久昌業氏と「北山の峠」について語っている部分である。故金久昌業氏(1922-1982)が残した「北山の峠」(上・中・下)は、今でも語り継がれる名著である。金久昌業氏の功績をたたえる著者もまた、こうして心に残る本を残してくれた。

三重の峠(自転車でめぐる峠の魅力)
・庄山剛史 著  ・風媒社  ・ 2005.4  ・258p  ・19cm  
私の知る限り、サイクリストの書いた唯一の峠本だと思う。実際に全ての峠を自転車で越えているので、安心できる面がある。多くの峠本は、自転車に不向きな峠も数多い。その点では自転車と一緒の写真も掲載されていて峠の様子も確認できる。三重県の峠にはあまり縁がない。紹介されている38峠の中で、訪れたことがあるのは「風伝峠」だけだ。あとの峠は全く知らない。紹介された峠は、比較的狭い範囲に集中しているので、うまく計画すればまとめて峠を越えられるかもしれない。

ふるさとの古い峠道(伊勢・志摩地方)
・大井昌次 著  ・2005.10  ・168p  ・21cm  
自費出版の本であるため、なかなか目にすることもできない。先日国会図書館へ行って見つけてきた。1937年 三重県南伊勢町に生まれた著者は、「角川日本地名大辞典」「三重県風土記」の執筆にも携わっている。伊勢志摩の山々には、古い歴史を刻んだ峠越えの道がある。この本では5つのエリアに分けて多くの峠道を紹介している。「1.岳まいり(朝熊ケ岳 )の古い峠道」「2.伊勢から鳥羽・志摩への古い峠道」「3.伊勢から五ケ所湾岸(旧南伊勢町)への古い峠道」「4.伊勢から熊野灘沿岸(旧南島町)への古い峠道」「5.伊勢志摩と熊野の境の峠道」 伊勢志摩地方の峠を紹介した本は少なく、50以上のコースを実地調査した記録は実に貴重だ。入手可能であれば、手に入れたい1冊だ。

峠の地蔵(京都北山に捧ぐ)
・井垣章二 著  ・ミネルヴァ出版企画  ・2006.10  ・194p  ・20cm  
京都に生まれ、京都で育ち、北山をこよなく愛する著者が、峠の地蔵に注目してまとめた本だ。1992年から8年間に渡って、月刊新聞「つくも」に掲載された記事をまとめたものだ。なかなかユニークな視点の本である。峠の紹介は色々あるが、お地蔵様を取り上げた紹介は珍しい。しかし、どの峠もお地蔵様が良く似合う。この本を読むと、峠を越えるときには、こうした視点からも楽しみたいと思うばかりである。本当に北山が好きな著者なのだろう。それが伝わってくる。

近江の峠道(その歴史と文化)
・木村至宏 編著  ・サンライズ出版  ・2007.11  ・187p 図版8p  ・19cm  
あとがきには以下のように書かれている。
「近江の地が、地形的に東日本と西日本を結ぶ要所に位置していることから、峠の発達が古代からみられた。そのために近江の地理的背景によって、山を越える峠道が東西南北いずれの方向にも数多くみることができる。」
巻頭の美しいカラー写真が峠へと誘う。一つ一つの峠を丁寧に、歴史とともに解説している。琵琶湖周辺の38峠を紹介しているが、残念ながらひとつも越えたことがない。近江の峠を紹介している書籍は数多い。それだけ魅力あふれる峠が多いのだろう。行ってみたくなるばかりである。

 

紀州・熊野の峠道
・小板橋淳 著  ・風媒社  ・2010.1  ・237p  ・21cm  
和歌山出身の著者が、自分の足で歩いた峠の記録である。次第に消えかかる古道を残そうと努力され、こうした本になった。収録されている峠の数は50。なかなか行くことのできない和歌山地方であるが、2004年に訪れた時にいくつかの峠を越えている。紀州・熊野の道はとても歴史があり、一つ一つの峠に重みがある。簡単に峠めぐりができるだろう、なんて思っていると大間違いだ。和歌山はとても広く、一つの峠を越えるだけでも大変だ。このエリアの峠にはまるとなかなか抜け出せない。

丹波の坂と峠(「丹波志」と明治の旧版地図で歩く 第一巻)
・小谷良道 著  ・丹波新聞社  ・2011.11  ・232p +補遺10p  ・21cm  
この本の存在を知って入手しようと調べたが 、入手手段が全くない、というか情報がない。ようやく見つけた丹波新聞の記事から辿っていくが、販売店の書店も閉店。万事休すかと思ったが、諦めずに丹波新聞に電話してみると、著者の連絡先を教えてくれた。そうして直接本人に連絡して手に入れたのがこの本だ。自費出版であるため、入手ルートは限られる。一般にはまず手に入らない本だ。連絡すると相当感激されていた。いろいろとお話しすると、どれだけ丹波の峠に熱心なのかが伝わってくる。よくある峠の紹介本とはまるで違う。人生をこれにささげている、といってもいいぐらいの気合の入った本である。兵庫県丹波市には6つの町があるが、この本はその中の春日町の坂と峠を調べ上げた記録だ。とにかくこの限られた範囲を完璧に調査、踏破している。
1ページ1ページ、物凄い情報量である。一冊読み終えることはまずできないのではないだろうか。昔の地図を元に、様々な資料を参考にして、消えてしまった峠への道筋を辿っている。まるで、探検家のような推理と行動力で峠へのルートを解明していく。実走データを細かく記録し、これ以上示すものはないだろう、というぐらいの報告を記している。この本は、本当に興味のある人しか買わないだろう。在庫がたくさん残っていると著者も言っていた。それだけ徹底しているということだ。紹介されている峠は、自転車で行くことはほとんどが難しそうだ。今の地図にも載っていない峠や坂が多い。それでも、こうした本がなければ過去の歴史は全くわからなかったということだ。とにかく、凄い本だ。専門書である。

播磨の峠ものがたり
・須磨岡輯 著  ・神戸新聞総合出版センター  ・2012.12  ・159p  ・21cm  
2022年4月に播磨地方を走った時に参考にした本である。66の峠を紹介している。ほとんど走ったことのないエリアだったので、まずは66の峠をグーグルマップにプロットして全体像を把握した。そこから自転車で越えられそうなルートを計画し、2泊3日のツーリングを楽しんだ。一つ一つの峠の紹介を参考に、現地で実地検証することまで行った。コンパクトにまとめられた峠の紹介と詳細な地図が実に役に立った。播磨の峠紹介は珍しく、この本はとても貴重である。

丹波のおすぎ(峠のお地蔵さんからたどる江戸中期の秘話)
・小谷良道 著  ・丹波新聞社  ・2014.9  ・137  ・21cm  
裏表紙より 【但馬の男に狂ったあげく、 雪の峠で息を引き取る娘 「おすぎ」。丹波に残るこの伝承は、村人のつくりばなしだった。但馬に嫁いだ実在の 「おすぎ」は、一揆をひとり戦う夫を支えるが・・・・代官所に追われる途中に四女を亡くし、一家離散の果てに亡くなる。歴史の裏側で見つけた「おすぎ」の活躍と、一家のものがたり。】
まるで推理小説を読んでいるかのような展開で話は進んでいく。峠の地蔵に隠された真実。一家逃亡の記録。当時の時代背景を見事に解説し、伝えられてきた伝承の真実を見極める著者。刑事ドラマでも見ているかのような展開にどんどん引き込まれてしまった。峠の本を紹介してきたら、ついにこんな歴史を変えるような内容の本に辿り着いた。峠にはこんな隠された真実があったのか・・・小さなお地蔵さまには、こんな悲しい過去があったのか・・・著者の丹念な調査と、見事な推理、考察により隠されてきた事実が解明されたようである。凄い一冊である。もうお見事というしかない。
この本の詳細は、「丹波のおすぎ」でネット検索すると、丹波新聞の記事に書かれている(2014.12.14 記事) 

丹波の坂と峠(「丹波志」と明治の旧版地図で歩く 第ニ巻)
・小谷良道 著  ・丹波新聞社  ・2017.10  ・253  ・21cm  
兵庫県丹波市には6つの町がある(青垣町、市島町、柏原町、春日町、山南町、氷上町) 。第一巻は春日町の坂と峠を紹介していたが、第二巻は青垣町の紹介である。今回も同じように徹底的な調査、分析、実地走破による壮大な物語である。どれほど山歩きが好きなのか。どれほど丹波市が好きなのか。その情熱と行動力には敬服するばかりである。残りの4つの町も全て調べ上げたいと言われている。まだまだ続巻が出てくるということらしい。もうすでに「予約」してあるので、近いうちに第三巻を手にすることができそうだ。それにしても、兵庫県丹波市は走ったことがない。ごく近くまでは行ったことがあるが、ここは未知のエリアだ。これほど著者がほれ込んだ地ということに興味がそそられる。自転車では無理かもしれないが、少しでも可能性があれば峠越えを体験してみたくなる。本には、ありとあらゆる著者のノウハウが満載だ。読んでいて、本物の登山家だと実感する。地理、地形、歴史。推理力、考察力、探求心、そして情熱。何もかもが卓越している。峠好きの中でも相当なレベルである。

峠越え−西の鯖街道
・小畑 登 著  ・小畑正彦 編  ・一般財団法人 京都ゼミナールハウス  ・2017.11  ・174p  ・21cm  
自転車仲間に教えていただき、この本を入手した。まったく知らなかった本であり、入手方法も限定されているためとても貴重な本である。「鯖街道」は関東の人間には縁がなく、その詳細をほとんど知ることがなかった。こうして、一冊の本になるほど、奥の深い歴史が続いている。この本は実に丁寧に作られている。詳しい地図と、徹底的に解説された街道の詳細が細かく記載されている。著者の小畑登氏と小畑正彦氏の情熱と功績は素晴らしく、価値のある一冊に仕上がっている。「序章 北山の峠道と西の鯖街道」を読むだけで、峠の魅力、街道の歴史に引き込まれていく。名文である。あとがきにはこの本にまつわる苦労話が書かれている。とにかく、情熱が無ければこうした調査は続かなかっただろう。この地域を訪れるための素晴らしい道案内だ。

西の鯖街道読本(文化の来た道 逃れた道)
・西の鯖街道協議会  ・2021  ・51p  ・26cm  
「峠越え−西の鯖街道」を購入した際に、一緒に送ってきてくれた小冊子である。中身は詳細なルートガイドだ。見やすい地図と写真がフルカラーで掲載されている。地図には要所ポイントが図解されていて、まるで「秘蔵版MTBツーリングブック」並みのわかりやすさだ。表紙には自転車のイラストも書かれているということは、サイクリスト向けの資料であるのかもしれない。山岳仕様で行けば、結構走れそうなところが多そうな感じがするが、土地勘が全くないので行ってみないとわからない。それにしても、この小冊子はよくできている。プロフィールマップまで付いていてサイクリストにはありがたい。登場する峠も詳しく紹介されていて、地形図はいらないほどの出来栄えだ。

BanCul(西国街道を歩く)
・公益財団法人 姫路市文化国際交流団  ・2023.3  ・112p  ・26cm  
「播磨」地方に特化した地域雑誌だ。季刊誌であるが、毎号素敵な表紙と、充実した紙面で埋めつくされている。見た目、ニューサイ誌のような雰囲気で、とても親しみがわく。今回の特集は「西国街道を歩く 姫路から船坂峠へ」となっている。知らない地域だけに頭の中に地図を描くだけでも大変だ。2022年4月に播磨の峠を巡ったが、その時のエリアには入ってない。内容は実に細かな記事が沢山書かれている。さすが専門誌だけのことはある。時々街道や峠の特集が組まれるので今後も注目だ。なお、この表紙は「 笹峠」と言って、同じ場所から写真を撮ったのですぐに場所が分かった。

丹波の坂と峠(「丹波志」と明治の旧版地図で歩く 第三巻)
・小谷良道 著  ・丹波新聞社  ・2024.3  ・205p  ・21cm  
シリーズ三作目が発刊された。前作から6年半かけて完成された。完成と同時に著者より連絡をいただき、手にすることができた。今回は丹波市の柏原町と山南町の坂と峠を巡っている。これまでの作品と同様、著者の実踏破による調査、分析である。とにかく、完璧なデータと豊富な写真、そして詳細な解説に脱帽する。これだけ一つ一つの峠や坂を調査・分析した方はいないだろう。写真を見ているだけで、その場所を歩いているような気持ちにもなってくる。コース上の重要かつ大切なポイントを的確に写真に収めている。もし自分で歩くことになったら、最強のガイドになるだろう。今回は合計46の峠や坂を紹介している。残念ながらひとつも訪れたことがない。ほとんどが山道であり、サイクルツーリングの対象としてはちょっと厳しい世界かもしれない。しかし、山岳仕様の準備を整えて、条件のいいタイミングで狙えば、意外と楽しめそうな峠も多い。いよいよ6つの町のうち、残すは2つとなた。ここまでくればあと2つ、ぜひとも完成していただきたいと願うばかりである。どうか無理せず頑張って頂きたい。

 

中国

(鳥取・岡山・島根・広島・山口)
 


岡山の山と峠
・宗田克巳 著  ・日本文教出版  ・1979.4  ・175p  ・15cm  
岡山県の百科事典、「岡山文庫」の一冊である(No.85)。現在330巻まで発行されているが、峠に関するのはこの巻だけである。一般的な、峠の一つ一つを紹介している本ではない。地理的な面、地学的な面、そして歴史の面から峠を分析している。よって、峠越えのハイキングガイド的な要素はなく、峠の写真や地図もほとんどない。それにしても岡山文庫の充実ぶりは物凄い。一覧をみるだけでもその充実ぶりがわかる。

おかやまの峠
・安東靖雄 [ほか]著  ・福武書店  ・1980.7  ・153p  ・22cm  
岡山県教育委員会の広報誌「教育時報」に掲載されていた記事をもとに再編集された本である。登場する峠は27。2023年3月に岡山の峠を巡る旅に出た際に参考にした本である。一つ一つの峠に添えられたイラストがとても雰囲気がいい。そして峠に関する歴史の検証が素晴らしい。その峠の地理的な意義、重要さ、文化、風習などをうまく伝えている。丁寧に作られた中身の濃い一冊である。

山彦の峠(ふるさとのくらしと伝承)
・加計町郷土史研究会  ・1993.2  ・26cm  
この資料は、加計町郷土史研究会の会誌「山彦の峠」である。
加計町(かけちょう)は、かつて広島県の西部にあった町。山県郡に属した。2004年10月1日、山県郡戸河内町および筒賀村と合併し安芸太田町に移行したことに伴い消滅した。(ウィキペディアより)
会誌の中に「十二曲り峠の昔語り」という会員からの投稿が掲載されている。さてこの峠はいったいどこにあるのかと、地図上で探してみるが峠の名前は記されていない。書かれている内容や地名から峠の場所を特定してみる。ふもとから峠まで十二回も道が折れているという記述から、ようやく峠の場所がわかった。会誌を読むと、のどかな、のんびりとした山村の景色が浮かんでくる。そして峠をとりまく人々の暮らしの様子がよく伝わってくる。加計町は山と河のまちと紹介されている。十二曲り峠は地図には載っていない峠だが、近くへ行く機会があればちょっと訪ねて見たい気がする。

ふるさとの峠と街道
・げいびグラフ編集部 編  ・菁文社  ・2002.12  ・204p  ・18cm  
第一部、「ふるさとの峠」は、1979.5から「げいびグラフ」誌上に「峠を語る」シリーズとして、第二部「ふるさとの街道」は、1974年秋の創刊号から「街道をゆく」のタイトルで連載されたものである。第一部の終章には、峠歩きの魅力について 次の様に書かれている。 「峠の与えてくれる感動である。峠は多くの場合、急峻な登りである。 時に樹木が茂り、草木に覆われていることすら多い。 昔の人の苦労体験を追いながら−峠には苦労話が多い−苦しさに耐えて汗をふきつつ、ついに頂上に至る。 その時の晴ればれとしたすがすがしさ、苦しさの後の喜びがあり、無比の感動である。これは人間の一生の生き方にも通じる。もう一つは、峠の頂上での思索である。身体を休めながら、今登って来た坂道の苦しさを思い返し、さらに、これから下って行くルート上の様々なことを想像し、 予測し、展望する。 これは来し方を振り返って反省し、行く末を読んで展望をもつという、人間の日常生活上の必須の思考作用にも通じるのである。いずれにしても、私の峠歩きは、私自身の日常生活の真剣な生きざまに深く根ざしていると自負している。なぜなら、峠は人間の一生の、いわば縮図のような気がしてならないからだ。」 素晴らしい!

広島県の峠を歩く
・大坂佳照 著  ・文芸社  ・2008.10  ・224p 図版4p  ・19cm  
著者は峠を4つに分類している。この本はその分類に従って、広島県の123の峠を紹介している。
@拡張発展型峠(国道が通り、舗装され拡張されて、多くは車の交通量の多い峠)
A生活道型峠(県道や市町道などが通り、多くは舗装され生活道となっている峠)
B懐古型峠(多くは土道で整備されないまま残り、地元の人などしか通らない峠)
C機能喪失型峠(尾根道がかすかに残るか、不明瞭で、峠に至る道も同様な峠)
一つ一つの峠の紹介は簡単なレポートだが、峠越え日記という感じで読みやすい。時には自転車を使うことも。広島県の峠を知るには最適の本である。

あの峠を越えて(広島県の二百峠を歩く )
・大坂佳照  ・著文芸社  ・2013.9  ・343p  ・15cm  
帯タイトルより
「峠を越えることは、人生にも似ている。いまや交通の主要な地点として機能している峠から、歴史の彼方に消え去ろうとしている、すでに道もなくなってしまった峠まで、広島県の二百の峠を歩いた記録。 昔の人達が、 どんな思いでどのようにこの峠を越えていったか思いを馳せながら、しばしのタイムスリップをご堪能ください。」
前作の「広島県の峠を歩く」からさらに峠の数が増え、今作は200の峠を紹介している。峠を4分類する手法は変わらず、小さな峠までくまなく調査している。これだけ徹底して踏破している苦労は並大抵ではない。広島県の峠を知るための貴重な本である。

 

四国

(香川・徳島・愛媛・高知)
 


讃岐の峠
・古市 寛 著  ・香川県国土建設推進協力会  ・1965.6  ・101p (図共)  ・22cm  
かなり古い本である。国会図書館のデジタル資料から手に入れることができた。著者、古市寛氏による、讃岐と阿波・伊予との国境に横たわる連山、その阿讃山脈を越す峠を遍路した記録である。「歴史と現況」に始まり、「峠の明暗」と続く。添付された写真も地図も実にいい。昔の峠の写真を見ていると、自分も峠越えを始めたころに見てきた峠の姿を思い出すようだ。どの道もダートで石ころが沢山転がっていた。舗装路の峠越えなんてまだまだ少なかった。この時代にこれだけの内容の本がまとめあげられていたとは驚きだ。この本の発刊によって、その後の古市氏の書籍が続く。四国の峠愛好家は相当凄いと感じる一冊である。

阿讃の峠
・峠の会 (香川県土木部内)  ・1971.6  ・67p (おもに図)   ・21cm  
1965年、「讃岐の峠」の発刊を契機に、「峠の会」が発足した。この本は、会のメンバーによる峠に対する賛歌であると記されている。素晴らしい写真に添えられた各人のエッセイが素晴らしい。写真も文章も本当に峠の魅力を知っているからこその仕上がりだ。本の最後には、俳句、短歌、川柳まで添えられている。そして阿讃の峠位置図で締められている。最後に「峠の会」の紹介があるが、本当に好きな人たちが集まってできた会であるということが分かる。

讃岐路
・山陽新聞社  ・1972.3  ・203p 図  ・22cm  
この本では讃岐路(香川県)を次の8つに分類している。1.高松みち 2.丸亀みち 3.多度津みち 4.伊予みち 5.阿波みち 6.塩江みち 7.志度みち 8.南海道 それぞれの路をなつかしい写真と地図で紹介している。かなり古い本であるが、昔の街並みにとても興味をひかれる。それぞれの路を見ていくと、一緒に旅をしている気分にもなってくる。峠もいくつか登場してくる。やはり峠や坂は昔から生活の難所。今なら簡単に越えられる峠も、この当時は大変だったようだ。「伊予見峠」には一里塚が立っているが、難所だったため。伊予では「讃岐の道は五里五里(こりこり)だ」と皮肉ったとの話もある、と書かれている。

讃岐の道
・峠の会 (香川県土木部内)  ・古市 寛   ・1974.1  ・158p 図  ・22cm
「峠の会」による、道に関しての記述であるが、最後に「讃岐の峠」という章がある。6ページの文章と、峠一覧表が掲載されている。丁寧に、詳細に調べたデータだ。峠の会の徹底さが伝わってくる。讃岐と阿波の”国境”には、日本民族の悲喜様々の長い歴史が温存されている。ある一本の道が横切るところに「峠」が存在する、と述べている。現代はいとも簡単に通過できる峠も、昔は命がけの峠越えだったのであろう。「道」と「峠」のかかわり、歴史を伝える内容になっている。

愛媛の峠
・愛媛新聞社編集局  ・1974.6  ・190p  ・18cm
あとがきより
「本書は、『峠はいま・・・・』のタイトルで愛媛新聞紙上に昭和四十七年七月から四十八年四月にかけて連載されたものである」
愛媛県の峠で探せる本は唯一この本だけである。非常に貴重な本である。登場する峠は30にもなるが、越えたことがあるのは「地芳峠」のみだ。残りの29峠は、名前も場所も知らない。滅多に四国の峠越えをすることはないので仕方ない。相当古い本なので、もはや状況はすっかり変わってしまっているだろうが、こうして峠の存在を知ると、一つでも多く訪れてみたくなる。きっと本州では味わえない峠の雰囲気を知ることができるのではないだろうか。まだまだ未踏の地が残されていることがよくわかった。

峠を行く
・峠の会  ・古市 寛  ・1981.9  ・67p  ・21cm  
峠の会による、「阿讃の峠」(1971)、 「讃岐の道」(1974)に続く三冊目。 峠の会会員による峠歩き紀行が27話収められている。会員それぞれの峠に対する思いや、感じ方、歩き方など色々だ。それにしてもこうして同じ趣味の仲間が集まって定期的に活動されていることが素晴らしい。そして、書籍まで発行するに至るまでのご苦労は相当なものだろう。自分はほとんど訪れたことのない峠ばかりであるが、添えられた写真が渋くていい。もう道路事情も様変わりだろうが、過去の峠の様子を伝える貴重な資料だ。 

四国の峠今昔物語
・四国の道路を考える会  ・1984  ・22p  ・26cm  
「昔の交通は、すべて徒歩交通でしたので、峠越えは、道中の難所でした。 しかしそこを通らなければ、目的地には行けません。したがって、旅ゆく人々の哀歓を峠はすべて知っています。そこでは人生の歓喜と哀愁が、背中あわせになっています。 」 
冒頭、こんな書き出しで始まっている。四国の峠の今と昔をカラーで紹介する冊子だ。登場する峠は10峠(桜三里、猪ノ鼻峠、根曳峠、赤土峠、三坂峠、法華津峠、犬寄峠、高研峠、佐多岬半島(堀切峠)、鵜の田尾峠)。残念ながらひとつも訪れたことがない。一つ一つの峠の「今」と「昔」を素敵な写真とイラスト地図で紹介している。ちょっと珍しい内容の冊子である。「四国の道路を考える会」という団体の発行だが、実に完成度の高い内容だ。とにかく表紙の写真から引き込まれてしまう。紹介されている峠は、四国全域に渡っているので、全てを巡るのはかなり大変だ。写真と文章が素晴らしいと、見ているだけで行きたくなってくる。こんな素敵な出版物が誰の目にも触れずに埋もれているなんて、実にもったいない。他にもシリーズはないのだろうか、と探したくなるほどだ。

阿波の峠みち(紀行編)
・岡 泰 著   ・1987.10  

土佐の峠風土記
・山崎清憲 著  ・高知新聞社  ・1991.11  ・267p  ・21cm  
本の表紙からすでに魅力あふれるデザインだ。ページをめくると、そこは待ってましたと言わんばかりの「峠ワールド」だ。素敵な本のタイトルにイラスト、カラー写真、そして目次へと続く。哀愁たっぷりの巻頭プロローグ。そして一つ一つの峠を丁寧に紹介していく。峠に対する情熱が伝わってくる。土佐地方はなかなか訪れる機会も少ないが、紹介されている57峠のうち、本のわずかだけ訪れたことがある。この本を読むと、全て越えてみたくなる。そんなうまい本作りがされている。写真と地図が実にいい。

予土の峠物語り
・妻鳥和教 著   ・1992.3  ・211p  ・19cm

阿波学会研究紀要(第39号〜)
・橘禎男 著 
  ・郷土研究発表会紀要  ・1993.3〜


香川県自然科学館研究報告( 阿讃の峠の沿革と現状(3))
・田中 直樹 
  ・1998.3


土佐の道(その歴史を歩く)
・山崎清憲 著 
  ・1998.4  ・高知新聞社  ・198p  ・20cm  

「土佐の峠風土記」に次ぐ書籍である。土佐地方における道、街道、峠に関して徹底的に調査した貴重な資料である。「はじめに」には次のように書かれている。「・・・道幅の狭い旧来の生活道や、峠越えの山道などは、新しい道路に衣替えするか、または見捨てられて、その姿は消されつつあります。こうした時代の波は自然の理であり、うち消すことはできませんし、むしろ歓迎さるべきでしょう。しかし、過ぎ去ったことがら、即ち歴史は尊重さるべきであり、道の消長も歴史のひとこまに加えるべきであると思われます。」道の歴史は貴重だ。人々の生活の歴史がそこに刻まれている。この本は、そうした著者の思いから書かれている。内容は、「原始」「縄文」「弥生」時代からの解説に始まり、「古代」「中世」「近世」へと続く。そして最後に「旧街道の今昔」で締めくくる。多くの写真と地図による歴史的な考察はとにかく素晴らしい。実に多くの道、街道、峠が登場してくる。土佐の道は、この本1冊ですべての歴史がわかるのではないかと思われる。多くの四国の書籍、資料を見てきて、四国の方々の情熱に心打たれるばかりである。

峠の石造民俗(民俗文化財集 17集)
徳島県文化振興財団民俗文化財編集委員会/編集  ・徳島県文化振興財団  ・2000.3  ・187p  ・27cm  

この本を入手できないかと直接発行元へ連絡してみたが、このシリーズすべて販売終了と連絡が来た。まことに残念だ。現物を国会図書館で見て、読み始めるとその世界に引き込まれた。峠にはなんでこれほどの石造物が多いのだろうか。お地蔵様を始め、道標、不動明王、常夜灯、庚申塚、板碑・・・そうした石仏にはすべて意味があり、歴史があり、物語がある。この本は、峠にまつわるそうした石造民俗を深く探求した一冊だ。これまでこうした視点から峠を語った本はなかった。多くは交通や物流、人の交わりの面からの考察であったが、この本は石造物に特化している点が素晴らしい。多くの写真で紹介されているが、いくつもの写真を眺めていると、次第に「その世界」に染まっていく。これまでただ通り過ぎていたこうした歴史的遺産に興味を持つようになった。どんな過去があって、どんな歴史があってここに鎮座しているのだろうか。知って走るのと、知らずに通り過ぎるのでは、峠越えの重みも変わってくる。阿波地方の峠愛好家の努力には敬服する。他の地域では絶対に企画することのない、本当に自然探求心に満ちている。素晴らしいシリーズの一冊だ。いつか入手できるよう、今後もそのチャンスを待つことにしよう。

阿波の峠歩き(ふるさとの峠50選)
・阿波の峠を歩く会 編  ・阿波の峠を歩く会  ・2001.10  ・225p  ・19cm  
はじめにより 「人は必要に迫られて山を越えた。何回も越えていると道が出来て、やがて名前が付けら峠道として知られるようになった。 峠は交通路の他に、物資の運搬や情報伝達路の役割も果たしたが、信仰や人々の交流の場としての機能も持っていた。」 阿波の峠を歩く会は、現在も活動されている。ブログには活動報告が丁寧に掲載されている。素敵な集まりである。こうして峠を愛する方のおかげで、消えかかりそうな峠も残っている。一つ一つの峠を4ページほどで簡単に紹介している。徳島県は何度か走っているが、残念ながらここに登場する峠はひとつも越えたことがない。これだけ多くの峠があるのに残念である。阿波地方は大変魅力がある所。次回訪れる際は、この本を参考にさせてもらおう。

神山の峠道
・神山町文化財保護審議会  ・神山町教育委員会   ・2004.3  ・88p  ・26cm
神山町は、徳島県の中部にある町。吉野川の南側に並行して流れる鮎喰川上流域に位置する。(ウィキペディアより)
消えゆく峠道を「神山町文化財保護審議会」のメンバーが二年をかけて調査した記録である。「峠」「垰(たお)」「越(こえ)」と分類され、7つの地域にまとめられている。1.上分の峠道(13) 2.下分の峠道(8) 3.左右内の峠道(8) 4.神領の峠道(13) 5.鬼籠野の峠道(12) 6.阿川の峠道(9) 7.広野の峠道(19) 1ページ1峠の簡単な紹介であるが、全部で80を越える峠が白黒の写真とともに解説されている。自転車で越えられそうな峠も数多く、徳島へ行った際はいくつか峠越えをしてみたいものだ。こうした地方の貴重な資料に出会えたことに感激だ。

予土の峠をゆく(改訂版)
・妻鳥和教 著   ・2004.4  ・218p  ・19cm

阿波の峠と里山歩き(続・ふるさとの峠50選)
・阿波の峠を歩く会 編  ・阿波の峠を歩く会  ・2006.1  ・221p  ・19cm  
前作「阿波の峠歩き(ふるさとの峠50選)」の続編である。阿波の峠を歩く会のメンバーによる峠歩きのガイドブックだ。一つ一つの峠を丁寧に紹介している。この本では比較的低い標高の峠を紹介しているという。50の峠は全く知らない峠ばかりだ。中には地図にも名前がない峠もある。今にも消えかかりそうな峠を、地元の人の協力で調べてまとめあげた。阿波の峠を歩く会は、定期的に活動しており、情熱と熱意によってこうした続編が完成した。訪れることの少ない地域であるが、これだけの峠があると知ると、なんとか一つでも越えてみたい気がする。乗車して越えられそうな峠はないかもしれない。行くとなれば山岳サイクリング仕様で行くべきだろう。

阿波の峠今昔
・橘禎男 著  ・徳島県教育印刷 (印刷)  ・2010.1  ・157p  ・26cm  
素晴らしい一冊を手に入れることができた。この本は、「消えゆく阿波の峠」80回分(昭和61年11月〜平成8年11月 徳島新聞)、「阿波ぶらり散歩」60回分(平成9年10月〜平成21年11月 毎日新聞徳島版) 合計140回分を編集したものである。登場する峠はなんと116にも及ぶ。1ページ1峠の紹介スタイルは、写真と地図がきれいにレイアウトされていてとても読みやすい。峠の紹介本としては最高の仕上がりではないかと思う。阿波地方の峠をこよなく愛する著者の人柄をふんだんに感じることができる本だ。この中で訪れたことがある峠は、「京柱峠」「落合峠」「桟敷峠」の3つしかない。その他多くの峠を見ていると、可能な峠はすべて行ってみたくなる。とにかく旅心をくすぐる、たまらない一冊だ。峠の紹介だけでなく、その土地の人との触れ合いが数多く紹介されている。単なる峠本ではないところが素晴らしい。この本は入手することは相当難しいが、ぜひとも手元においておきたい名著だ。なお、著者は「阿波の峠を歩く会」会長である。多くの著書を執筆してきた情熱に、尊敬の念を抱くばかりである。

阿波の峠歩き(続々・ふるさとの峠50選)
・阿波の峠を歩く会 編  ・阿波の峠を歩く会  ・2010.12  ・223p  ・19cm  
あとがきより
「山間部の多い阿波は峠だらけだ。古来より人々は、集落から集落への移動に、山の一番通りやすい所を往来した。そこが峠である。山が削られ、切り開かれ、穴が掘られ、いたる所に車道が付いた現在、交通手段は大きく変わり、峠を越して歩く人はまずいない。峠への道は消え、樹木が生い茂り、住む人がいなくなり、峠の名も所在も忘れ去られようとしている。「阿波の峠を歩く会」は、そんな峠を探し出し、月一度の例会を実施してきた。今回、その実績をまとめ、『阿波の峠歩き』第三弾を発刊することにした。」 シリーズ三作目である。今回も小さな峠、名もない峠を調べ上げまとめている。とにかく徹底した調査と努力に敬服する。メンバーの努力とまとめあげたリーダーの力量は素晴らしいの一言だ。この本が無ければ、こんなに峠があったことさえ気が付かなかっただろう。.実に歴史的に価値のある活動をされたと思う。もはやこの三部作を揃えるのさえ困難だ。貴重な作品だ。これを持って、阿波の峠を数日巡ってみたい気になった。

阿波の峠と民俗(続)
・橘禎男 著  ・橘茂樹  ・2014.11  ・180p  ・26cm  
まえがきより。
「今回刊行することになった 「阿波の峠と民俗 (続)」 は 阿波学会に所属する徳島民俗学会の一員として、 平成3年から22年間にわたって参加した県内市町村の民俗調査の結果を、阿波学会と徳島県立図書館が発行する 「阿波学会紀要」 や、 徳島県文化振興財団発行の「民俗文化財集』 などに発表したものを一冊にまとめたものである。」 著者 橘禎男氏の活動の集大成がこの本にまとめられている。実に貴重であり、実に希少な一冊だ。 「阿波学会紀要」は、徳島県立図書館のサイトからPDFの資料を読むことができるが、全てを見ることはできないので、やはりこの本が必要だ。それにしても著者の活動記録は素晴らしい。峠、民俗、石造物と次々調査対象が広がっていく。関連する本や資料も数多い。阿波の峠を調べるには必須の一冊であろう。

 

九州

(福岡・大分・佐賀・長崎・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄)
 


熊本の街道と峠
・岩本政教 編著  ・熊本日日新聞社  ・1980.4  ・223p  ・15cm  
熊本は大好きなエリア。とにかくスケールが大きく、そして絶景だらけの雄大な展望が広がる。何度か熊本を訪れたことがあるが、峠越えをメインに行ったことはない。この本は非常に珍しい熊本の街道と峠を取り上げている。小さな単行本サイズの本だが、豊富な写真が満載の道案内だ。どのページも未知の世界へつながるガイドのようで、こんな雰囲気のいい峠があるのかとあらためて気が付く。熊本というと阿蘇ばかりに注目してしまうが、その周辺には素敵な峠も数多い。

むらを歩く(久木野の事蹟と文化財)
・久木野村誌編纂委員会 編  ・久木野村教育委員会  ・1985.12  
久木野村(くぎのむら)は、熊本県阿蘇郡にあった村。2005年2月13日に白水村・長陽村と合併し、南阿蘇村となった。久木野と聞いて、さてどこだろうと悩んでしまった。聞いたことがない。調べてみれば阿蘇だという。大好きな九州熊本。そこの峠を語る資料に巡り合えたことがまず嬉しかった。この資料は村の記録を残した郷土資料だろう。その中に「久木野の峠道」という章がある。そこに10の峠が簡単に紹介されている。九州の峠を紹介する貴重な資料だ。著者は地元の小学校の校長を勤めた教育者である。峠の資料を読んでいくと、なぜか教育者が多いことに驚く。やはり、峠を愛する人たちの共通点なのだろうか。九州の峠はもっともっと紹介してほしい。数少ない資料の中で、これは貴重な存在だ。

九州の峠
・甲斐素純 [ほか]著  ・葦書房  ・1996.9  ・325p  ・19cm  
帯タイトルより
「今も生きる峠。忘れられた峠。九州・沖縄の70峠を踏査し、歴史の息吹を掘り起こした待望の労作。」
九州地方の峠を紹介した本はほとんどない。これほど多くの峠があるにもかかわらず、なぜ書籍が少ないのか不思議だ。たぶん、九州地方は広大なエリアに峠が存在しているため、なかなか詳細な調査が難しいのではないだろうか。この本では沖縄の峠(ヒラ)を一つ紹介しているが、沖縄の峠を紹介した本は他にお目にかかったことはない。九州・沖縄地方の峠を知る最良の本である。

筑豊の峠みち
・深町 純亮  ・掲載誌 エネルギー史研究 / 九州大学記録資料館産業経済資料部門 編 ・2005.3  
筑豊(ちくほう)は、福岡県の中央部をさす地域名である。福岡県にある峠の6割が筑豊に集中しているという。峠に関する多くの書籍、資料が存在する中で、「筑豊」という地域名が登場するのは始めてである。まずほとんど自転車で訪れることのない地域だけに、登場する12の峠はひとつも訪れたことがない。内容は地元に根付いた峠の歴史や様子を丁寧に伝えている。標高も低いので、手軽に越えられそうな峠が多い。しかし、山の関連ではなく、エネルギー関係の雑誌に取り上げられるのも珍しい。

九州の峠と境界祭祀
・海鳥社  ・鈴木 景二  ・海路 : 海からの視座で読み直す九州学 (通号13) 2017年12月  ・2017.12  ・21cm  
「古い峠路を訪ねると、地蔵石仏や石塔や祠を目にすることがある。ところによっては、鏡石あるいは鞍かけ石といった伝説を伴う石もある。 これらが示すように、峠路は宗教性を帯びた地帯である。」 こうした書き出しから始めるこの報告書は、ちょっと他の峠の案内資料とは視点が違う。古代の資料や現地の調査から、峠にまつわる「境界」「祭祀」の調査報告だ。典型的な峠が「神坂峠」だという。この峠路では、古墳時代以来の祭祀遺物が多数出土しているという。九州の峠に関しても、同じような祭祀が行われた可能性があるという。この資料は学術研究の論文のようで、ちょっと我々サイクリストの扱える範囲を越えているようだ。とはいえ、こうして「峠」に関して、別の視点から研究がされているということを知って驚いた次第だ。

 

その他・全国

 


峠に関する二、三の考察
・柳田国男  ・「太陽」  ・1910.3  
 手持ちの資料の中では最も古い資料になるが、現在は電子データで見ることができる。多くの峠の書籍を読んでいくと、必ず最後はこの柳田国男氏の「峠に関する、二、三の考察」に行きつく。それほど峠関連の方々に多大なる影響を与えた民俗学者だ。明治時代に発表された作品だが、今読んでも実に面白い。作品は6つの項目で書かれている。1.山の彼方 2.たわ・たを・たをり 3.昔の峠と今の峠 4.峠の衰亡 5.峠の裏と表 6.峠の趣味 特に「峠の裏と表」に関しては、見事な視点からの考察である。今読んでも全く古さを感じない峠の考察。やはり、まずは柳田国男から読むべきかもしれない。


・深田久弥 編  ・青木書店  ・1939.8   ・517p  ・20cm    
自転車仲間の先輩から、非常に貴重な本を頂いた。私なんかより、遥かに山に詳しく経験豊富な方である。
この本は、「峠」(ヤマケイ文庫 2022年3月)の原本にあたる本である。
「峠」(ヤマケイ文庫 2022年3月)には、巻末に以下のように紹介されている。

<深田久弥編『峠』は一九三九(昭和十四)年、青木書店から刊行されました。原書は、T峠一般に関する文章、U紀行文、V文学作品、随筆、考証等の三部構成で、本書ではU紀行文三十四篇の中から、戸川秋骨「十国峠・籠坂峠・長尾峠」(三つの峠を自動車で巡る)、大平晟「ビヤナン峠」(「台湾の山旅」の一部)、茂木槇雄 「美幌峠」(自動車で峠越え)の三編を除く三十一篇を収めました。各文末の解説は原書のままとし、各篇に地図、執筆者紹介を加えました。なお、割愛したT、Vの内容は、T・大島亮吉「峠」、柳田國男 「峠に関する二三の考察」、木暮理太郎「峠・坂・越え」、田部重治「峠の情趣」、森本次男「峠の小舎」、高橋文太郎「峠と山村」、細野重雄「峠の語源」の七篇、V・島崎藤村「和田峠の合戦」、結城哀草果「山の分教場」、入沢達吉「三国峠を楽しむ」、早川孝太郎「湯山峠にて」、岡本かの子「宇都の谷峠」、吉川秀雄「足柄と箱根」、斎藤茂吉「早坂新道」の七篇です。>

ヤマケイ文庫で掲載されなかった部分が非常に貴重な内容だ。特にT峠一般に関する文章は、峠というものの原点、魅力を理解するうえで避けては通れない文章である。峠巡りをする前に、まず「峠とは何か」を知ってから山に入るべきであろう。あまりにも簡単に山に入れる時代になり、トンネル一つで峠を越えてしまう時代において、こうした名著は峠越えの原点を教えてくれるようである。517ページもある圧巻の一冊である。少しづつ、少しづつ読み進めていきたいと考えている。

歴史の山旅
・安川茂雄 著  ・有紀書房  ・1961  ・254p  ・22cm  
所有している本の中で一番古いだろう。自分の人生そのものと言っていいぐらいの古書だ。古本で手に入れたが、まずまずの状態で維持されている。ページをめくると、独特の紙の臭いが漂ってくる。とにかく書かれていること、掲載されている写真が歴史的な価値がある。訪れたことのある峠の、見たこともない光景が写真として掲載されている。この峠はこんな様子だったのか。杖突峠の茶屋はこんなだったか・・・峠の本は新しければいいというものではない。古い物には哀愁が漂っている。

峠路 −その古えを尋ねて−
・直良信夫 著  ・校倉書房  ・1961.2  ・321p  ・19cm  
官道がはじめて整備された奈良・平安の頃、日本には七つの国道が設けられていた。近畿から東国に下る道には、太平洋岸を通っていた東海道と、山の官道であった東山道の二つがあった。東山道では、神坂峠、大門、雨境、碓氷峠、東海道では、足柄、箱根の山が難所であった。「私はそういう、いわれの深い峠をさぐり、古道をたずねて、そこにかつては咲きにおうていたであろう、いにしえ人の歴史的ないぶきをかぐことが好きだった。」と著者は記している。そうして書き溜めた原稿の中から選ばれたのがこの本である。内容は6つの道筋に分けられている。「東海道筋」「東山道筋」「山陽道筋」「秩父街道に沿うて」「上州街道のほとり」「宇都宮街道をゆく」 すでに相当古い内容になっているが、その古い歴史を知らなければ今の峠路を知ることはできない。冒頭、著者も現代の車社会の発展によって、忘れ去られる峠路を再認識しなければならないと述べている。じっくりと読みたい一冊だ。

旅38巻 あなたにすすめたい!ふるさとの峠
・新潮社  ・1964.9  ・250p  ・26cm  
相当古い本を手にいれた。ページをめくるたびに懐かしさに引き込まれてしまうが、この本で特集されているのが、「あなたにすすめたい!ふるさとの峠」だ。「日本は峠の国、まだまだバスの通わない峠が沢山ある−−話題の観光地は避けたいという人に贈る静かな旅情!」とある。本当にその通りだ。今の時代、観光地はどこへ行っても人だらけ。こんな古い時代にこうした峠の魅力を伝える本があったとは驚きだ。本は日焼けですっかり変色しているが、そこに書かれていることは今読むべきではないかと思うほどだ。時代は繰り返すということか?北海道の峠から紹介が始まる。一つの峠を愛読者が紹介するような内容だ。古いけれど、峠の紹介は意味がある。当時の状況も、当時の思いも伝わってくる。今では感じられない峠への情景が書かれている。紹介されている峠は18。知らない峠も多い。そして峠にまつわるコラムが貴重だ。モノクロの世界の時代だが、古い時代の峠の資料はとにかく「味」がある。心に響く魅力がある。紙の臭いとともに郷愁に駆られる。

峠 こころの旅
・岡部牧夫 編  ・大和書房  ・1968.3  ・240p (図版共)   ・18cm  
外箱タイトルより
「人里と人里とをつなぐ峠。峠には素朴な人間性があり、文化がある。そこには自然を愛し、峠を想う人の詩がある。−−新しい感覚で選んだ好篇の数々を収録」
この本は4つの章に分かれている。1.峠を思う 2.峠の物語 3.峠を歩く 4.峠の考察 著名な方たちの貴重なエッセイがふんだんに収められている。じっくり読み進めると、峠の情景が浮かんでくる。そして今どうなっているのかと訪れてみたくなる。峠の持つ魅力、意味、役割をなんとなく教えてくれるような1冊である。そしてあとがきにこう記してあった。
「峠は文化の隔離者であると同時に、その媒介者でもある。この矛盾した二つの役割を、峠はそれ自身のうちにあわせ持っている。その微妙なバランスのうえに、二つの坂道のもっとも高い位置に峠は懸かっている。」 深い言葉だ。峠の本質を実によく表した表現だと思う。こんなことを感じながら峠を越える人が今の時代はたしているだろうか? 自分は少しでもこうした思いを胸に抱きながら峠越えを続けたいと思うばかりである。

旅47巻 (558)特集/峠と街道
・新潮社  ・1973.11  
1973年11月といえば、ニューサイでいえばNo.108号にあたる。そして自分が自転車の世界に入り込んだのもこのころである。そういう意味では自分には思いで深い時代の雑誌である。この1冊はほとんどが峠と街道で埋め尽くされている。今の時代にはありえないような贅沢な特集が組まれている。ページをめくるとまずは野麦街道のモノクロ写真から始まる。そして暮坂峠、朴峠、犬挾峠と続く。実に味のある素晴らしいグラビア写真だ。そして多くの人のエッセイが何本も続く。どれもみな素晴らしい内容のエッセイだ。半世紀前とはいえ、そこで語られる情景は今と変わらない。峠に至る道筋はすっかり変わってしまったが、峠からの眺めは昔のままだ。この雑誌の後半には「全国60の峠と街道の詩情」と題して全国の峠が紹介されている。この峠特集だけでも価値のある内容だ。(登場するのは62峠) ●展望のよい峠 ●紅葉が見事な峠 ●歴史と伝説の峠 ●文学と味覚の峠 に分類されている。ちなみに自分が訪れたことのある峠はこの中で32峠であった。この雑誌は今でも手元に置いておきたい一冊であるが、すでに入手は困難だ。国会図書館のデジタルデータを見るしかない。それにしても、素晴らしい特集を企画してくれたものだ。

峠の四季
・新妻喜永 著  ・中日新聞東京本社東京新聞出版局  ・1974.10  ・188p (図共)  ・22cm
かなり昔、大学生の頃に入手した写真集だ。ツーリングへ行けば必ず写真を撮る。撮れば撮るほどカメラにはまり、写真にはまる。挙句の果てには自分たちで現像から焼き付けまで行うようになった。白黒フィルムならそれほど難しくない。部屋の電気を消して、暗室ライトを点けて、押し入れに入って白黒フィルムを リールに装填。台所で温度を測りながら、現像液を注ぐ。フィルム現像が出来上がったら、引き伸ばし機で焼き付けだ。あーだ、こーだ、絞りだ、秒数だと思考錯誤しながらやっと一枚出来上がる。白黒パネルも沢山作った。とにかく、こんな面白い物はないというぐらいはまった。そんな時、この写真集がいつもお手本だった。この本では17の峠を紹介している。モノクロ写真の持つ表現力は素晴らしい。訴える力が圧倒的だ。峠の別の魅力を伝えてくれる写真集だ。こうした峠の写真集を最近見たことがない。実に貴重な一冊である。

旅の随筆集 わが峠路
・真壁仁 著  ・東北出版企画  ・1975.6  ・194p  ・19cm
帯タイトルより
「旅を愛し、 旅の中でたえず感性と思考を養ってきた著者が、はじめて世に問う珠玉の随筆集。 旅とはそも何かを語りかけながら、 自然と人間の出会いを求めて歩きつずける旅びとの心の風土誌がここにある。」
ページをめくると、素敵なスケッチとこんな言葉が待っている。
「峠は決定をしいるところだ  峠には訣別のためのあかるい憂愁がながれている」 強烈な言葉だ。
「峠にたつとき すぎ来しみちはなつかしく ひらけくるみちはたのしい」 これは「峠」という詩の一部だが、美幌峠へ行った時のものらしい。実際に峠で感じる思いが見事に表現されている。いきなり引き込まれてしまう本であるが、随筆集とあるように峠をいくつも紹介する内容ではない。旅のエッセイ集とでもいう感じだ。

峠と人生
・直良信夫 著  ・日本放送出版協会  ・1976.5  ・230p  ・19cm
帯タイトルより
「峠歩きをこよなく愛してきた著者が、 各地の峠の歴史を探索して、そこに生きた民衆の哀歓に深く想いを寄せたエッセイ」「 "峠”は太古から日本人の生活と密接に結びついている。 考古学界の長老、 直良信夫氏は若き日より峠歩きをこよなく愛してきた。本書は、丹沢・甲駿・信濃・播磨・臼杵など、各地の峠の歴史を探索し、 そこに生きてきた民衆の哀歓に深く想いを寄せたエッセイ。 」 実に奥の深い本である。峠に対する著者の様々な思いが綴られている。三部構成になっていて、「1.峠の文化」では 峠という字の解説、峠の型、峠の景観、峠の茶屋などの解説に引き込まれる。「2.峠あるき」では、訪れた峠の詳細な解説が述べられている。 「3.峠への道」では、伝説、歴史、信仰、民俗といったかかわりから峠を解説している。一冊すべてが峠に対する分析・解説といった内容だ。単なるガイドブックではなく、学術書的な重みのある良書である。

山と渓谷(458)特集ふるさとの峠
・山と渓谷社  ・1976.11 458号  ・296p  ・26cm
貴重な「峠」特集号だ。カラー写真、モノクロ写真、峠のエッセイ、峠番付など、盛りだくさんの内容だ。読み物が豊富で、非常にボリュームがある。峠好きな方は、保存版として手に入れたい一冊だろう。
主なタイトルを紹介すると、
●しらびそ峠と遠山郷(新妻喜永) ●北国街道と二つの峠(伏木貞三) ●小鹿坂峠と十石峠(井出孫六) ●特集 ふるさとの峠  ●日本の峠50選 ●峠番付 ●京都北山における峠歩きの楽しさ ●我が思い出の峠10 著名な執筆者が峠の魅力を伝えてくれる。知っている峠、知らない峠、行ったことのある峠、これから行きたい峠など、読んでいるとすぐにでも峠越えの計画を立てたくなってくる。昔のサイスポは内容が濃かった。峠やツーリングの記事が実に多かった。山と渓谷も同じくだ。本当に「山」に特化した内容で埋めつくされている。古いモノクロ写真に味がある。峠を愛する文章が心に響く。

峠通過の儀礼と文学
・野本 寛一  ・掲載誌 國學院雜誌  ・1977.3
「わが国土の七割は森林山岳である。それゆえ、人々が他との交流を求めたり、おのれの生活圏を拡大しようとする場合にはどうしても山越えをしなくてはならなかった。その山越えの場が峠であり、峠越えの厳しさにともない様々な信仰や伝承が生まれもした。」始まりはこう書かれている。峠神を知るには「峠の石」、「峠の樹木」に注目しなければならないと書かれている。うーん、ちょっと自分の能力ではなかなか難しい世界だ。しかしそれほど「峠」には深い信仰と儀礼が存在するということらしい。 もっとこういう面も勉強しないといけないと教えてくれる資料だ。

ニューサイクリング 創刊150号特別増大号(特集峠 )
・ベロ出版社  ・1977.5  ・150p  ・26cm
説明不要の峠特集号だ。この表紙を全てのサイクリストが絶賛する。一冊全てが峠を語っていると言ってもいいぐらいの特集だ。著名な、真のサイクリストがエッセイを寄せている。ニューサイ詩でも、これだけ徹底して峠を取り上げたのも初めてだろう。この年代はランドナーが元気だった。ツーリングが人気だった。そして峠越えが楽しかった。ユニークなサイクリストが実に多かった。ランドナー派にとって、最高の時代に最高の一冊が特集された。何十年たってもひとつも色褪せない内容だ。やはり峠越えはサイクリストにとって永遠だとあらためて思うばかりだ。

地名の知識100
・池田末則 ほか著   ・新人物往来社   ・1977.9   ・233p  ・20cm
地名に関して色々な面から分析した本であるが、峠に関しても33ページ程書かれている。なかなか面白い内容で、各地の峠の名前がどういう理由でつけられたのか、という解説が興味深い。なるほど、と思わせる記述もあり、これまで峠の名前を気にして越えたことなどなかったと、ちょっと反省した。今後は、峠越えをするときに、その名の由来を自分なりに考えてみたいと思った。もっともっと峠に関して述べてほしかったが、最後に著者はこう締めくくっていた。 「峠については、まだまだ述べたいことが残っているが、紙面の関係上ここで筆を収めることにする。峠(越)の名称は、地域の風土性や先人の生活、行旅の体験、軍事・交通上の意義をは じめ、民俗・言語・伝説など、さまざまな人生現象と浅からぬゆかりをもつものである。峠にちなむ地名の重要な歴史性を心に留めて、多くの人々が峠をとりあげて、地名的研究を進めることを希望してやまない。」

峠-文学と伝説の旅
・野本寛一 著  ・雄山閣出版  ・1978.9  ・244p  ・19cm
あらためて読み直してみると、なんて素晴らしい本なのだろうと気付く。若い頃はただただ高い峠を目指し、多くの峠を越えることばかり考えていた。しかしこの歳になるともうそんな気力も体力もない。峠越えは文学と伝説の旅である。そう気付かせてくれるのがこの本だ。かなり古い本だが、峠の伝説は今でも脈々と続いている。やはり歴史をしっかりと学んで峠を越えると、全く違った楽しみ方ができる。全国の45の峠を文学的に解説してくれる。巻末の「峠の楽しみ五十項」は、峠越えを楽しむ人への指南書である。

峠を歩く
・伊藤桂一 著  ・日本交通公社出版事業局  ・1979.2  ・292p  ・20cm
帯タイトルより
「峠と里の風物詩 歴史をしのばせる石だたみの峠道、越える人もなく草木におおわれた峠道、眺望の峠道等等、 峠の古道を歩き、ふもとの里を訪ねる。」登場する峠は13。・美幌峠 ・算用師峠 ・山伏峠 ・三平峠 ・顔振峠 ・中山峠 ・権兵衛峠 ・鳥居峠 ・木ノ芽峠 ・八鬼山峠 ・大山峠 ・犬寄峠 ・高森峠 それぞれの峠を訪れた紀行文である。じっくり読めば、その峠の本当の魅力が伝わってくる。

コンサイス日本山名辞典(修訂版)
徳久球雄, 三省堂編修所 編   ・三省堂   ・1979.3   ・558 [10] 51p   ・18cm
はじめにより「山国日本に生まれたわれわれにとって、山は心の故郷である。一つ一つの山の名称には、その地域に生きる人々の思想と生活が息づいている。そこに日本の風土があるのである。山の名、 峠の名にわれわれはもっと思いを深める必要があるのではなかろうか。そのような意味から、ここに、日本の山・峠の名称をとり上げ、一冊の辞典としてまとめた。ここでは20万分1地勢図に記載されている山名・峠名の全てと、日本各地域にとって関係の深い山と峠を重点的に集録して、 約1万3,000 という数を得た。」 こんな辞典があるとは驚いた。それにしても素晴らしい辞典だ。峠の事を調べるときはまずこの辞典を見る。要点が簡潔にまとめられていてわかりやすい。それにしても「地蔵峠」というのは全国に多数あるとこれで分かった。永久保存版の辞典である。

山と別れる峠
・串田孫一 著  ・実業之日本社  ・1984.5  ・293p  ・20cm
詩人、串田孫一のエッセイ集である。「生の躍動」「山に眠る人に」「富士山佐藤小屋」など、山にまつわる味わい深いエピソードを、自身の挿絵とともに掲載している。「峠」とタイトルにあったので手に入れたが、内容は山にまつわる短いエッセイ集だ。峠の紹介といったガイドブックではない。

峠 はるかなる語り部
・井出孫六 著  ・白水社  ・1984.11  ・177p  ・20cm
帯タイトルより
「水戸天狗党が攘夷の旗をおしたてて中山道を西に駆ける。秩父の峠に、困民党の声がこだまする。箱根には、石畳に刻まれた幾多の怨念の叫びがある。今は遠い峠路を行き交った人間の、汗と感懐を憶いつつ綴る紀行エセ−。」 六つの章から構成されている。1.峠に関する二三の考察 2.箱根八里を歩く 3.中山道の峠を歩く 4.夜明け前紀行 5.秩父の峠から 6.道のしるべ  第一章は、柳田国男氏に対して著者の感じる所が述べられていて面白い。峠を愛する人それぞれの思いがいろいろとあり、感じ方も考え方もそれぞれ違う。こうして読み比べるとまた違った魅力がある。

歴史紀行 峠を歩く
・井出孫六 著  ・ちくま文庫  ・1987.3  ・249p  ・15cm
実に興味深い本である。井出孫六氏の幼少期の頃からの思い出と、峠に対する考え方、そして「秩父騒動」との出会い、十石峠へ出向いたときに初めて「峠」を意識するようになったという。こうした峠と歴史のつながりが本編でいろいろと書かれている。登場する峠は12。・十石峠 ・洞ケ峠 ・笛吹峠 ・二重峠 ・赤土峠 ・乙女峠 ・御殿峠 ・狩勝峠 ・大菩薩峠 ・野麦峠 ・人形峠 ・八達嶺 それぞれの峠にはそれぞれの歴史が深く刻まれている。やはり、こうした歴史を知ってから峠を訪れるべきだろう。非常に勉強になる一冊である。

芸術新潮(残したい日本)
・新潮社  ・1987.6  ・29cm
芸術新潮とは以下のように紹介されている(ホームページより)
「暮らし」はアートであるをキャッチフレーズにあらゆる事象を「芸術」という観点から検証し、表現する「芸術新潮」。1950年に創刊され、歴史と文化を見続けてきたハイクオリティなアートマガジン。歴史的な芸術作品から、建築、古美術、現代アートまで、あらゆる「美しきもの」を独自の切り口で紹介しています。
「残したい日本」と題して特集が組まれていて、その中に「峠」を取り上げたコーナーがあった。
●三大パノラマ峠(碓氷峠、美幌峠、十国峠) 
●大和歴史の峠(芋峠、暗峠、小南峠) の6峠が写真と簡単な解説で紹介されている。残したい日本に含まれているということは、非常に価値のある峠だ。残念ながら芋峠と、小南峠は訪れたことがない。どちらも奈良県の歴史ある峠だ。行く機会に恵まれたら、ぜひ訪れてみたい。

日本の峠路
・山本偦 著  ・立風書房  ・1988.9  ・298p  ・20cm
帯タイトルより
「峠は日本人の思索の場」「日本は山国である。 峠を越さなければ他国に行けない。 万葉の昔から営々と旅をつづけてきた日本人は、峠で何を考えたのだろう。く旅を栖として> 歩きつづける著者が、滅びゆく <峠の路〉を優しく掘り起こしつつ辿る。」
実に健脚な著者である。松尾芭蕉の「奥の細道」を追い、全コースを徒歩で辿っている。消えゆく峠路の記録を残したく、60歳以降に集中して峠歩きに専念している。この情熱はどこから生まれて来るのかと思うほどだ。日本全国、本当によく歩いている。自転車とは違う世界だけに、登りも下りもその苦労は計り知れない。旅心に溢れた貴重な一冊である。

峠路の歴史風景(連載24回)
・山本偦  ・掲載雑誌:歴史と旅   ・秋田書店   ・1990.1
雑誌「歴史と旅」に連載24回で紹介された峠の紹介記事である。紹介されている峠は、日本全国各地の歴史に名を残す峠ばかりだ。各回6ページの記事になっていて、24回合計で144ページになるボリュームである。数点の写真と地図、そして丁寧な峠紀行は、面白くて一気に読み通してしまう。添えられた地図がとても見やすくていい。訪れたことのない峠も多いので、こうした解説はとても役に立つ。連載24回をまとめると、ちょうどいい1冊の本にな る。

旅と鉄道(旅情は山を越えて_峠)
・鉄道ジャーナル社  ・1990.1  ・142p  ・26cm
鉄道と峠は、よく特集されるテーマだ。この1冊も丸ごと峠がテーマとなっている。信越本線・横川〜軽井沢間の素敵なグラビアに始まり、全国の「鉄道と峠」のシーンを伝えてくれる。鉄道マニアにとってはワクワクするような内容だが、自分にとっては登場する峠に興味がある。続いて登場するのが「晩秋の峠路 スイッチバック ドン行列車の旅」と題して、奥羽本線・福島〜米沢間の駅を紹介している。一番思いで深い駅が「峠駅」だ。過去2回訪れたことがあるが、ここで紹介されている写真が、自分の記憶と一緒だ。峠ファンはやはり一度は訪れたい駅だろう。さらに特集は「全国の峠道 北から南から」と続く。貴重なSLの写真も交えて、鉄道と峠の紹介が続く。自転車での峠越えばかりでなく、こうして鉄道で峠を越えることもまた旅の楽しみだ。

峠路をゆく人々(山村の交易・交通と運搬)
・山村民俗の会 編  ・エンタプライズ  ・1990.8  ・233p  ・20cm
帯タイトルより  「異郷の地と結ぶ峠越えの道  山人たちや行商人、巡礼者、 漂泊芸人など、あの山この村を越え人びとがゆきかう峠路には哀歓に満ちた数々のドラマがあった。」
あとがきより  「峠路は、狩や漁、柚仕事や炭焼など、山村の人びとにとって日常から利用された生活の道であったとともに、交易・交通の道として外界と結ぶ人と物の流通経路であった。」
実に面白い本である。峠を交通、物流などの面からとらえた内容になっている。山村民俗の会とは、山登りの仲間たちが、 柳田国男に啓発され昭和14年に創立された。そうした民俗学的な観点から「峠」をとらえた本は他にない。同じシリーズの「山村と峠道」も気になる本だ。

特集 秋の峠路(山と渓谷)
・山と渓谷社  ・1991.11 676号
特集は「秋の峠路」と題して、峠紀行、写真、エッセイ、おすすめコースなどを紹介している。その中でお気に入りなのが、 新妻喜永氏のフォトエッセイと、布川欣一氏の「書物のなかの峠越え」だ。フォトエッセイは、雰囲気のいい峠の写真に、簡単なコメントが添えられている。「書物のなかの峠越え」は、峠を題材にした書物の解説がわかりやすい。登場するのは、芥川龍之介、若山牧水、司馬遼太郎、井出孫六、山本茂美、柳田国男、大島亮吉、小暮理太郎、田部重治。最後の終章には、現在の消えゆく峠への布川氏の思いが語られている。書物の中の峠が、ますます価値を高めるだろうと述べている。

歴史再発見の旅 峠の旧道テクテク歩き
・山本偦 著  ・講談社  ・1992.10  ・143p  ・21cm
この本は4部構成になっている。1.山国の峠 2.街道の難所越え 3.西国の峠路 4.諸国峠路歴史紀行十六選  実に楽しく、そして勉強になる本である。これ一冊で日本全国の街道と、峠越えの話を楽しむことができる。「歴史再発見の旅」とタイトルにある通り、街道の歴史、峠にまつわる歴史話が充実している。カラー写真が豊富で、美しい街道風景、峠の様子が楽しめる。知らない峠も数多い。この本を読むと、まだまだ勉強不足だと感じる。ページ数も多くなくコンパクトな本であるが、実に内容の濃い一冊である。「テクテク歩き」というフレーズが気に入った。ここを「ポタリング」に変更すると自分にはぴったりだ。

峠道の歴史探訪
・山本偦 著  ・東京新聞出版局  ・1992.11  ・278p  ・20cm
本のタイトル通り、峠道の歴史にどっぷり浸れる名著である。帯には次のように書かれている。「峠路は思考の場!古人のたどった峠を歩き歴史をしのべば、時間空間を越えた多次元的な旅が味わえる」とある。なるほど、確かにそんな気もしてくる。登場する峠は全国各地の歴史ある峠が24。1話1話に深い歴史が刻まれている。峠越えの楽しみ方は色々だ。こうして歴史を振り返りながら峠を楽しむのもいいだろう。

静かな峠を歩く(岳人547〜558 連載12回)
・石井光造 著  ・ネイチュアエンタープライズ  ・1993.1〜1993.12
岳人に12回連載で紹介された「静かな峠を歩く」シリーズ。連載12回のタイトルは以下の通り @一本松峠と姥捨伝説 A雪の大峠を越えて B鞍部か山頂か、三国峠はどこに? C春はまだ浅い残雪の甲子峠越え D五蛇池峠と蕎麦粒山 E六林班峠の廃道を歩く F七日休の名にひかれて G八丁の距離を感じた峠 H奥秩父・雁坂峠いまむかし I十文字峠へ里程観音を辿る J焼山峠から富士浅間山へ K山上集落と十二曲り
連載12回のタイトルに魅了されてしまった。峠の魅力をよく伝える名文だ。全て紹介したい。
@峠歩きは山歩きと違い、人が山に刻んだ歴史 思いなどの、人間的感情が偲ばれる
A街道跡に立つ石灯ろうと石仏が かつて人が住んでいたことを物語っていた
B峠という文字は山を上り下りするに由来する というのだから、峠は山であってもおかしくはない
C峠は、人が越える道であるが、風が吹き越える場所でもある
D「道の痕跡はない」といわれた。それ以来二十年、越えられない峠路を辿るのもおもしろい
E茶色になった古い地形図の中に、峠の歴史が凝縮されているようだ
F休みの意味を持つ峠は以外に多い 旅人にとって峠は、越えるだけでなく休息の場をも、意味していた
G峠歩きの楽しみは そのとき、どんな思いで人が越えていったのか、感情や気持ちを想像することにある
H高い山並みを越えて、村と村とを結ぶ峠ほど、峠らしいと思う
I縄文人の行き交った十字路が十文字峠なのかもしれない。交易のため、峠を越えた古人の、ロマンがしのばれる。
J低いなだらかな山地には、奥深く人が住む 里を結ぶ峠路が、縦横に踏まれる峠の国とは名言だ
K峠道を歩いて感じるのは、人の感情を考え道が造られているということだ

日本の街道ハンドブック
・三省堂  ・1993.7  ・238p  ・21cm
日本の街道をまとめあげた一冊である。峠の本ではないが、街道を行けば峠に出会う。街道と峠は切っても切れない関係だろう。そういう意味では、街道に興味を持って走るのもまた楽しいものだ。この本では以下の様に街道を分類している。「江戸からみちのくへ」(19街道) 「江戸から常総・武甲へ」(6街道) 「江戸から京へ」(10街道) 「北国と結ぶ」(11街道) 「古都のある道」(15街道) 「京から西へ」(11街道) 「四国路」(21街道) 「九州路」(8街道) 「海上の道」 日本にはこんなに多くの街道があるのかと驚く。気が付かないうちに街道を走っていたのかもしれないが、知らない街道もまだまだある。

岳人(557)(晩秋特集 歴史の峠路を訪ねて)
・ネイチュアエンタープライズ  ・1993.11
素晴らしい特集号だ。峠を語らせたらこの人、というぐらいの著名な方がエッセイを執筆している。新妻喜永氏の写真と文で始まり、それぞれの人が峠への思いを深く語っている。徳本峠越えのエピソードでは、なんとザックを背負ったパスハンター2名が写っているではないか!この当時はこうして奥深く自転車が入りこんでいた。良き時代のいい写真である。多くの峠の様々なエッセイが綴られている。やはりいつになってもこうした峠への憧れは色褪せない。素晴らしい峠たちに感謝である。

峠の村へ(山里の履歴書 )
・飯田辰彦 著  ・NTT出版  ・1994.2  ・257p  ・20cm
帯タイトルより 「かつて山が人々とともにあった時代−−峠は交通の要衝として栄え、人・物・文化の伝播において大きな役割を果たした。今なお心豊かに峠に住み続ける古老たちの素朴な語りに、日本の近代と今が浮かび上がる。」 この本は全国の峠にまつわる物語が18話収められている。峠には必ず集落(村)が関係する。この本は、峠道そのものよりも、そこに注目して書き上げられたものだ。訪れたことのある「京柱峠」、「八十里峠」、「釣瓶落峠」などは、あらためて読み直すと思い出が蘇ってくる。この著者の様に地元の人と交わる機会はほとんどなかったが、峠の集落の様子など、なんとなく記憶にある。やはり峠越えは人との出会いが魅力だ。集落の人にとって、この峠がどういう存在なのか、どういう歴史を刻んできたのかを聞くことも大切だ。この本は、そうした事を気付かせてくれる本である。

峠の道路史(道の今昔と峠のロマンを訪ねて)
・野村和正 著  ・山海堂  ・1994.3  ・326p  ・22cm
著者は東京大学工学部から建設省に入られた方だ。他の峠ガイドとは違って、峠の道路、トンネルなどに視点を置いた内容だ。全国35の峠を紹介しているが、豊富な写真と詳細な道路史が記述されている。技術的な資料も豊富で、トンネル断面図、投影図までも添えられている。トンネル建設の歴史、技術、ロマンなどが書かれた貴重な本である。そして巻末の参考文献一覧、技術的な参考資料は実によく調査した資料だ。

岳人(581)晩秋の峠路をゆく
・ネイチュアエンタープライズ  ・1995.11  ・190p  ・26cm
こんな紹介文で始まる特集号だ。
「山の上と下。それを結ぶのが峠。車社会の発達で消えつつある今でも、まだいくつか美しい峠道が残っている。生活物資が通り、戦でまけたサムライが逃げ、見知らぬ世界への扉となった峠。それぞれ秘められた物語を追いながら、秋と冬のはざま、落ち葉を踏んで峠を越えてみませんか。静かな山頂があったり、好展望が開けたり、温泉が待っていたり、ひなびた山里に出会ったり、現代バージョンで峠越えの魅力を紹介します。」 もう、まさにこの文章通りだ。何も付け加えることのないぐらい、見事に峠越えの魅力を表現している。特集は前半の50ページほどだが、ページをめくるたびに魅力ある峠が紹介されていく。峠越えのポイントや、おすすめの本も紹介されている。晩秋には峠越えが似合う、と感じる特集号だ。

増刊 歴史と旅(古街道を探検する)
・秋田書店  ・1997.5  ・386p  ・21cm
「失われゆく土道や石畳道の感触を求めて136の古道を訪ねる」と目次に書かれている。内容は圧巻である。日本全国には、これほど多くの古道があったのかとあらためて気付かされる。峠、街道、古道はそれぞれが深く関わっている。それぞれが持つ歴史の中で深く関わってきた。一つ一つの古道、街道の紹介を読んでいくと、単に峠越えだけを目的にしては物足らないだろう。峠にまつわるこうした歴史事情を知るべきだ。とにかく丁寧に解説された貴重な一冊だ。どこかに出かけるとき、まずはこの本で下調べしてから出かけるといい。古街道の辞書みたいな内容だ。写真も素晴らしい。

地図で歩く鉄道の峠
・今尾恵介 著  ・けやき出版  ・1997.5  ・238p  ・19cm
自転車で峠を越えるのでさえ結構大変なのだが、鉄道が峠を越えるとなると、それはもう想像を絶する困難だ。いかにきつい勾配であろうと、道路ができていれば車や自転車はどうにか登っていける。しかし鉄道はそうはいかない。ほんのわずかな勾配でも列車にとっては最大の難所に違いない。この本は、そんな鉄道の峠とのかかわりを様々な面から綴っている。一話一話が読み物として面白く、自転車とは違う世界だが峠に対する人間の挑戦がいろいろと読み取れる。トンネルの有難さをつくづく感じる本である。

改訂山DAS(山歩きデータバンク)
・石井光造 編著  ・白山書房  ・1997.8  ・187p  ・21cm
ユニークな本だ。山歩きに関して、山に関する様々なデータをまとめた本である。”こだわる”がテーマとなっていて、項目は・山名にこだわる ・高さにこだわる ・三角点にこだわる ・名山にこだわる ・山の姿にこだわる ・地図帳にこだわる ・峠にこだわる ・谷と湿原にこだわる ・温泉と食べ物にこだわる ・地形図にこだわる となっている。・峠にこだわるでは、峠の名著の紹介や、峠というものの解説が素晴らしい。そして峠の高度順の一覧も掲載されている。山へ行く人には一冊丸ごと役に立つデータバンクである。

樹林の山旅(関東・甲信・南会津の山歩き)
・浅野孝一 著  ・実業之日本社  ・1998.4  ・213p  ・20cm
この本は、著者が定年後15年の間に歩いた山旅の記録である。50年に及ぶ山の経験の中から、山に対する考え方や登り方の変化についてもあとがきで書かれている。この辺りはさすがにベテランの経験である。多くが山に関する記録であるが、峠も所々に登場してくる。ページ全体を使ったモノクロの写真が素晴らしく、いい雰囲気に仕上がっている。自転車ツーリングに役立ちそうな情報は少ないが、山に対する著者の考え方がよくわかって参考になる。この本のタイトル「樹林の山旅」も素敵だ。

関東周辺 峠を歩く
・旅行読売出版社  ・1998.5  ・122p  ・26cm
表紙より
「歴史の舞台に登場した野麦峠や文学の舞台になった大菩薩峠など情緒あふれる峠をモデルコースと地図を付けて詳細にガイド。昔から親しまれてきた味どころ、おすすめの宿などの情報も紹介」「歴史散策やネイチャーウォッチングを楽しむ峠歩きの決定版」 いわゆるムック本であるが、内容は相当充実している。登場する峠は70を越える。簡単な峠歩きのガイドだが、豊富な写真と地図、データにより、非常に見やすくまとめられている。旧街道の宿場町に関しての特集もあり、これ一冊で峠歩きをたっぷり楽しめる内容になっている。「峠から眺める富士山の名景」もいい特集だ。さすが旅行読売出版社だけあって、旅の情報量と企画力は素晴らしい。

峠路を行く
・蜂矢敬啓 編著  ・高文堂出版社  ・1999.6  ・231p  ・19cm
「第一章 峠路に立って」 「第二章 峠路の歴史」 「第三章 峠路余聞」という構成の本である。
第一章は実に面白い内容だ。峠に対して筆者の思うことを、あらゆる方面から述べている。話の論点も次々と変わり、読んでいる方も戸惑うほどだ。しかし、深い考察と多くの経験からの話なので、感心するばかりだ。第二章は、関東近辺の著名な峠の歴史を詳細に述べている。文学と歴史好きの方にはおすすめだろう。

新装版 日本百名峠
・井出孫六 編  ・メディアハウス  ・1999.8  ・365p  ・21cm
1994/7に「信州百峠」という超豪華版の本が出版されて驚いた。数ある峠の中から選ばれる峠には何が入るのか。自分の越えた峠は入っているのか。そうした期待を混めて読んでいく本だった。「日本百名峠」はそれを全国を対象とした本だ。さすがに全国である。無数に存在する峠の中から百に絞るのは容易なことではない。それゆえ、ここに登場する峠は日本の峠の代表と言っても過言ではないだろう。さて、自分はいくつ越えたことがあるかと数えてみたら、たったの30であった。まだまだである。まずはこの本に登場する峠を一つでも多く越えることが峠を楽しむ入口かもしれない。

峠は今、・・・・・・
・掲載誌 観光文化 = Tourism culture  ・日本交通公社  ・2000.5
機関誌「観光文化」での特集記事。以下のような説明がされている。「峠が障害的な存在か、あるいは役立つ存在かは別として、政治経済、歴史文学、人物交流など、さまざまな形で私たちと係わりのあったことは疑う余地がない。一時は地域交通網の整備によって、好展望地を除く峠がそのを終えたかにも思われたが、今、形こそ変われその重要性が改めて着目されつつある。」 3名の方が峠の持つ意義、歴史、役割などを語っている。峠の紹介というより、歴史的な意味や役割を解説している。

旅人たちの峠(ふるさと日本列島[)
・高田宏  ・季刊誌CEL 53号  ・2000.6
作家である著者が、八ヶ岳山麓の山荘から東京世田谷の自宅まで、何を思ったか自転車で行くことにした。笹子トンネルを抜ける恐怖から、旧道の峠越えをすることになった。その時の一部始終が実にリアルで面白い。峠越えの辛さが実によく描かれている。トンネル一つで越えてしまう現代の峠越えとの比較が面白い。さらに箱根から東海道に至る様々な峠、鈴鹿峠をはじめとする近畿地方の峠。著者の目にした峠に対する意識や思い出が実にうまく表現されていて引き込まれる。そして「峠」という字に対する分析も面白い。「峠」は国字、すなわち日本で作った漢字である。中国本来の漢字にはない文字だという。山を上り下りするという意味を一つの漢字に作り上げた知恵に感心するばかりだと述べている。登山家や地理学者とは違う視点からの見方はなかなか面白い。やはり峠には奥深い魅力が潜んでいると感じるばかりだ。

日本の分水嶺(地図で旅する列島縦断6000キロ)
・堀公俊 著  ・山と溪谷社  ・2000.9  ・271p  ・21cm
分水嶺とは”水を分ける嶺”のこと。長いこと旅へ出ていれば必ず分水嶺を越えている。意識しなくても知らない間に越えている。多くの人は分水嶺がどこにあるかを知らないし、分水嶺が載っている地図もない。これがアメリカの地図ではしっかり載っているというのだから驚きだ。日本は、分水嶺に関しては遅れていると著者は言っている。たしかに、自分もこれだけ長年峠を越えてきて、分水嶺を意識したことはほとんどなかった。2022年11月に善知鳥峠へ行って、初めて分水嶺と「ご対面」してきた。この本では日本列島を7つのブロックに分けて分水嶺を解説している。1.北海道編 2.東北編 3.関東編 4.中部編 5.近畿編 6.中国四国編 7.九州編 これ一冊を読めば、日本列島の全ての分水嶺がわかると言ってもいいだろう。峠と分水嶺は切っても切れない関係だ。分水嶺をもっと知り、研究すると、峠越えがより充実するだろう。

峠と古道に遊ぶ(山と渓谷 784号)
・山と渓谷社   ・2000.11 784号 

特集号ということで、素敵な写真とエッセイ、そしておすすめの古道歩きが紹介されている。串田孫一氏のエッセイに始まり、大菩薩峠巡り、柳生街道、千国街道歩きと続く。後半は「古道を歩く 歴史をたどる 特選十八道」と題して各地の古道・峠を紹介している。峠名だけを紹介しておくと、・徳本峠 ・仙人峠 ・大内峠 ・星尾峠 ・千種越 ・三坂越え ・笹谷峠 ・大里峠 ・大峠 ・三平峠 ・沼山峠 ・三国峠 ・角間峠 ・十文字峠 ・足柄峠 ・天城峠 ・針ノ木峠 ・柄山峠 など著名な峠が並ぶ。最後は「峠と古道物知りデータ」と「マタギ道」の解説がある。さすが山と渓谷の特集だけあって、内容が濃い。ついつい古道へ足を踏み入れたくなるばかりである。

NC峠ガイドCD-ROM
・エヌシー企画  ・2001.8  ・CD-ROM3枚
販売用広告には次の様に書かれている。  ・CD-ROM3枚組 定価10,000円 (税込) 送料500円 ・北海道から沖縄まで 100余峠を満載 ・データとして標高、 略地図、 実走レポート等を収録 ・バックナンバーより今井彬彦編集顧問峠エッセイを収録 ・高画質カラー写真多数  ・実走動画データ収録   元気一杯だった頃のエヌシー企画が作った、峠特集のCD-ROM3枚組だ。思い切った企画で、当時としては紙以外の媒体で読者に情報を提供する画期的な物だった。峠の紹介も多くのサイクリストの協力で出来上がっているようだ。貴重なのは「月夜沢峠」を越える動画だ。雪の中の苦労が動画で残されている。温見峠の動画は車からの映像だ。あれこれと詰め込んだお宝感満載のCD-ROMであったが、走行記録は貴重な財産として利用価値がある。

特集 思い出の峠路(山の本)
・山の本 37号  ・白山書房  ・2001秋
白山書房は1979年創業の出版社。主に登山関係の雑誌、ガイドブックなどを発行している。 「山の本」は1992年から続いている季刊誌だ。2001年秋号では「特集 思い出の峠路」と題して、倶楽部会員の峠に関するエピソードが集められている。エピソードは全部で7話。タイトルは「蘇った峠路」「峠の少年」「五年間通った峠」「峠は人生そのもの」「ふたりで越えた峠」「初冬に越えた峠路」「笹尾根の峠探索」 特集の最後には峠本の紹介があるが、これが充実していて素晴らしい。私が資料を探すきっかけになったのが、この紹介だ。さらに峠の種類別データという観点から一覧が載っている。「動物名の峠」「人名のつく峠」「2000m以上の日本の峠」「塩が越えた峠」「境の意味の峠」「自然の境の峠」「鳥の名の付く峠」 非常にユニークな分類で面白い。

週刊 日本の街道 全100冊
・講談社  ・2002.4〜2004.5 
本の紹介より
「はるか昔から日本人が歩いてきた道。そこには生活があり、文化があり、歴史があり、そして物語があります。ページを開くたびに出会える、あの頃の日本。まるで歩く早さと同じように、一歩一歩、日本人の心のふるさとに近づいていく。街道から眺める日本は温かく、そしてきっと新しい風景があるはずです。」
ずっと欲しかったこのシリーズ・・・とうとう買ってしまった・・・全100冊。豪華バインダーに納められた日本の街道シリーズ。ニューサイのバインダーと同じような重厚感。持つ喜び、開く楽しみ、そして見る満足感。最高だ。たまらない。このシリーズ全てで、ほぼ日本の主要な道のりを見ることができる。自分の半世紀に渡るツーリング人生を経てきて、今この「日本の街道」を眺めていくと、まるで全てのツーリングを振り返るような満足感に包まれる。記憶に刻まれた光景、風景、そして峠の写真。何もかもが、自分の走ってきた記録を蘇らせてくれる。とにかく素晴らしい企画だ。1冊1冊の完成度が素晴らしい。100冊もあると、永遠に読み終わらないのではないかと思うほどだ。文句なし。永久保存版だ。

文化庁選定 歴史の道百選
・森田敏隆 著  ・講談社  ・2002.11  ・101p  ・25×26cm
何一つ欠点のない、完璧な1冊である。もう、息が止まるほどの完成度、内容の濃さである。歴史の道となっているが、多くの峠も登場する。そして自分の訪れた道、峠が多数登場する。1枚の写真の訴える力はこれほど凄いのかと、つくづく本物の写真の力を感じる。何を伝えるか、何を見たか、何に心を打たれたか。一枚の写真には撮影した人の多くの思いが込められている。本物の写真は見た人にそれが伝わる。この写真集は、全編にわたって自分の心に突き刺さった。もう圧巻の出来である。あぁ、ここも行った、これも見た、ここで写真を撮った。もう自分のツーリング人生を振り返るような写真集だ。巻末には全ての道の詳細な解説がされている。もう、何も言うことのない、最高級の一冊である。

日本山名事典
・三省堂  ・2004.5  ・1140p+73p  ・22cm
はじめにより 「ここでは国土地理院の基本図である2万5千分1地形図に記載されているすべての山名と峠名を収録した。地図に記載がなくても登山の対象となるピークや各地の人々に係わりの深い山も含めて約2万5千項目となった。また辞典でなく 『日本山名事典』 としたことにも意義がある。それは単に地名として収録しただけでなく、山名は地域文化の大切な表現として理解し、その意味で解説を記述し、「山名由来」 ほかの山名に関する小論を付加したことである。」 前著の「コンサイス日本山名辞典」のリニューアル版かと思ったらそうではないようだ。辞典→事典となっていることからも、内容が変化している。内容も充実し、本の事典のサイズもかなりのボリュームアップだ。この事典も調べ物には必須の一冊だ。

ツール伝説の峠
・安家達也 著  ・未知谷  ・2005.7  ・273, 13p  ・20cm
昔からツールドフランスが大好きで、今みたいに完全中継される以前から、民放、NHKの放送を見ていた。やはり何と言っても山岳ステージが最大の楽しみ。あり得ないような標高差の峠をいくつも越えていく。ダウンヒルは時速100kmに迫ろうという速さ。何もかもが超絶の世界を思い出させてくれるのがこの本だ。海外を走ったことは一度もない。たぶん、この本の峠を越えることもないだろう。永遠に自分の中では憧れの峠だ。

峠の歴史学(古道をたずねて)
・服部英雄 著  ・朝日新聞社  ・2007.9  ・332p  ・19cm
内容紹介より 
「生産地と消費地を結ぶ生活のための「流通の道」。軍事拠点と前線を結ぶ「軍事の道」。そして神仏に救いを求めて歩む 「信仰の道」。三つの性格の異なる古代から近代までの歴史的な峠道を歩きながら、道と峠を行き交う人々、峠を守ってきた人々の暮らしを考え、道を辿る人々の心性に想いを馳せてみる。」 3つの道にまつわる歴史的な考察が詳しく書かれている。歴史好きの方にはかなり面白い内容だろう。 読み応えたっぷりの本である。巻末には「峠みちへの案内」と題して、著者が峠を訪れた際のアドバイスが書いてある。実際に歩いてみるときの参考データになる。

ジロ・ディ・イタリア峠と歴史
・安家達也 著  ・2009.5  ・282p  ・20cm
背表紙の紹介より  「二大ツールの一つ、ジロ・ディ・イタリア」 「聳える峠に刻まれる数々のドラマ、逸話、選手達の名勝負」 「2009年5月、 GIROも百周年を迎える。 ジラルデンゴ、 バルタリ、コッピ、ゴォルからブーニヨ、 パンターニ、シモーニ、バッソまで、時空を越えて読み解くGIROの歴史とエピソード。自転車ロードレースをもっと知りたい! 愉しみたい! 全ての自転車ファンへ!!!」 遠い国の、遠い昔のレーサーたちの活躍記録だ。この当時のレースは何もかも面白かった。ヘルメットも被らなかった時代は、選手の表情が全て伝わってきた。人間ドラマが数々展開し、これぞ最強のスポーツだと感じていた。「ツール伝説の峠」と同様、この時代が大好きな人にとってはたまらない本である。懐かしい選手の名前と顔が沢山登場する。

シクロツーリスト(旅と自転車 vol.2 峠総力特集)
・グラフィック社  ・2011.5  ・159p  ・29cm
ランドナー派であれば、必ずこの特集本は購入しているだろう。ツーリング系自転車専門誌とあって、その内容は徹底している。編集長は現役サイクリストであるから、やはり何を伝えるかを心得ている。日本の峠100選として選ばれた峠は、日本各地の有名な峠ばかりだ。各地のサイクリストがそれぞれの峠を紹介している。自分の知人、友人も登場しているので安心して読むことができる。長谷川弘氏のエッセイ、イラストがなかなかいい。この本にはメカニカルな話も多く、サンプレ特集はなかなか貴重な資料だ。自転車雑誌の峠特集として、記念すべき1冊であろう。

峠を旅する(新・日本の峠100選)
・金ケ江利行  ・日本写真企画  ・2011.6  ・128p  ・26cm
この雑誌の存在を知ってから、様々な方法で探したのだが見つからなかった。アマゾンで検索すると画像は出てくるが、それ以上の情報は見つからない。国会図書館で探しても見つからず。もう諦めていたところ、奇跡的な出会いで入手することができた。もう興奮と感激の嵐だった。巻頭は峠写真家である著者と井出孫六氏の対談から始まる。全ページフルカラーの絶景だらけの一冊である。とにかく写真が美しい。これほどきれいな峠の写真はまず見たことがない。日本全国100峠、全てを訪ねてみたくなる芸術的な一冊だ。残念ながら、この本を入手することは相当困難だろう。これほどの完成度だ、なんとかならないものか?

峠 TOUGE(連載157回)
・BS日テレ  ・2012.7   
旅の小道具」でも紹介しているので、詳細はそちらをご覧いただきたい。「峠 TOUGE」というタイトルだが、内容は峠に限らず全国のハイウェイ、山岳道路をトヨタ86で駆け巡る番組だ。走行シーンの美しさ、カメラワークの素晴らしさに魅了される。映像はこうやって創るものだと教えられる。日本全国の観光地を巡るだけに、一般車の少ない早朝に撮影するなどの苦労が伝わってくる。博報堂が制作しているが、さすがプロデュース力は抜群だ。もっともっと続編を続けて欲しかった。

地図中心( 特集 自転車に乗って)
・一般財団法人 日本地図センター  ・2013.4  ・48p  ・30cm
月刊「地図中心」は、地図好きの方のための専門誌だ。毎号焦点を絞った特集が興味をそそる雑誌だ。一般の方にはまずお目にかかることのない、そして内容が高度すぎる雑誌だろう。自分もこれまでに面白そうな特集号を数冊購入したことがある。その中で、唯一自転車に関係する特集がこの「特集 自転車に乗って」だった。特に峠を紹介する内容ではないが、地図と自転車のかかわり、メリット、面白さ、奥深さを伝えている。表紙はなんとあの大好きな「しらびそ峠」が飾っている。そして執筆者の中には山岳サイクリング研究会のメンバーが清水峠について解説している。峠の紹介本とはまた違った観点からのレポートは、やはりサイクリストならではだ。古い内容ではあるが、山と自転車、そして地図との関係は、何年たっても変わることがない。GPS全盛の時代であるが、やはりこうした基本を知ることは山へ入る人のマナーであろう。

シクロツーリスト(旅と自転車 vol.10 日本の峠200選)
・ひびき出版  ・2013.8  ・159p  ・29cm
峠特集の第2弾である。今回は「私の好きな峠ベスト20」「日本の峠200選」という豪華な内容だ。ベスト20のランキングを見ると、やはり納得できるランキングだ。どの峠もスケール、満足度、景色など文句なしだ。全国にはもっともっとおすすめの峠がたくさんある。それが「日本の峠200選」に沢山登場してくる。私も原稿依頼を受けて、いくつかの峠を紹介している。この特集号は、前号にも増して、徹底的に峠の魅力を伝えている。京都北山周辺の案内も素晴らしい出来だ。今回も至る所に知人、友人が登場してくる。やっぱり皆さん峠越えが大好きなんだと、あらためて気が付く。夏沢峠越えの山サイ企画もなかなか素晴らしい。

柳翁閑談(柳田国男)
・柳田国男  ・民俗学の創始者  ・河出書房新社  ・2014.5  ・191p  ・21cm
アマゾンより 「没後50年を迎えてさらに輝く民俗学の創始者柳田国男の総合研究。『文芸読本』の特集を中心に歴史的文献から最近の成果まで網羅。「柳翁閑談」など、単行本・全集未収録の柳田文献も多数収録。」 この本、「峠-旅の深い味わい」の中で、柳田国男氏はこう述べている。 「高い峠に立つと、今まで吹かなかった風が吹き、山路の光景も一変するようなことによくぶつかる。私はよく峠のない旅は、アンのないマンジュウのようなものだといってきたが、峠のあちら側とこちら側との、いちじるしく違う所をえらんで旅をするのは、旅人の一つの道楽といってよいかもしれない。」 峠の魅力を知り尽くした人でなければ語れない言葉だと感じた。峠の魅力は、そこに自分自身で立ってみなければ絶対にわからない。これほど繊細な峠の魅力を伝える人がいただろうか、と思うばかりだ。もっともっと研究する必要がある。

EPTA(特集 峠をゆく
・ヒノキ新薬株式会社  ・2015.9  ・65p  ・21cm
エプタとはいったいどんな雑誌なのか?以下のように書かれている。
『エプタ』は、基礎肌粧品メーカーであるヒノキ新薬株式会社が発行する企業文化誌です。1955年の会社創業間もない1960年代から発行していた社外誌『asunaro』を、2001年に新創刊し、季刊+1の年間5冊発行。2001年創刊から、全国ご販売店を通じご愛用者様の配布のほか、各界のオピニオンリーダーへの送付、また、インターネットでの一般の方々への販売を行っております。
美しい表紙に始まり、内容は全国の素晴らし峠の写真を一杯紹介している。「峠おやじ」の名和氏、「サラリーマン野宿旅」の蓑上氏も登場する、私お気に入りの1冊。素晴らしい!

絶景ドライブ(日本の峠を旅する)
・学研プラス  ・2016.8  ・115p  ・30cm
「峠の数だけ感動に出会えます。北海道から九州まで、一度は走ってみたい27本の厳選ルート。」
「クルマで旅に出たくなる絶景峠、快走峠、歴史峠。」
豊富な写真で一杯のドライブガイドだ。訪れたことのある峠も多く、絶景の写真を見るとあらためて感動が蘇ってくる。峠の紹介以外にも、食事処、温泉、観光案内も充実している。素敵な写真は旅心を掻き立てる。

峠を旅する(連載12回)
・蓑上誠一  ・地方公務員安全と健康フォーラム  ・2016.7〜2019.4  
蓑上誠一氏は名著「サラリーマン野宿旅」の著者。その著者が「地方公務員 安全と健康フォーラム」という広報誌に12回連載したのがこの資料だ。登場する峠は、・知床峠 ・五輪峠 ・桟敷峠、落合峠 ・崩野峠 ・冠山峠 ・金山峠、桧原峠 ・辰巳峠 ・志賀坂峠 ・地芳峠 ・行者還トンネル ・美幌峠 ・天城峠 著名な峠が多く、自分の訪れた峠も多い。素敵な写真と文章が「峠と旅」の世界に引き込む。ジムニーで野宿旅をしてきた著者だが、サイクリストにも通じるものが実に多い。

岳人(街道、峠をゆく )
・辰野 勇  ・2016.11   ・ネイチュアエンタープライズ  ・130p  ・26cm

山岳専門誌「岳人」の、珍しい峠特集だ。特集「街道、峠を歩く」というタイトルで全国の素敵な峠が登場してくる。紹介されているエリアは、南アルプス横断道、国東半島、大菩薩嶺、仙北街道、熊野古道、柳生街道、木曽路など。山岳雑誌なので、自転車とは活動するフィールドがだいぶ異なるため、自転車での峠越えが不可能な峠もある。それでも、美しい写真や紹介文を読んでいると、ついつい引き込まれてしまう。「石仏・石碑の基礎知識」というワンポイントがなかなか勉強になる。必ず出会うこうした石仏の意味や違いを解説している。

全国2954峠を歩く
・中川健一 著  ・内外出版社  ・2018.8  ・167p  ・21cm
「峠研究家」中川健一と記されている。全国2954の峠を越えたという物凄い方である。峠越えには、車・バイク・MTBなどを駆使している。巻頭では峠とは何か、峠越えの楽しさを伝えている。厳選されたおすすめの33峠の紹介、絶対行きたい120峠の紹介は、どんな峠が登場するかページをめくるのが楽しみでもある。多くの峠の写真を見ていると、まだまだ知らない峠が多いことに気が付く。巻末のデータ一覧は著者の集めた貴重なデータだ。旅のプランニングに役に立つ貴重な一冊である。

サイクリストのための百名峠ガイド
・八重洲出版  ・2019.9  ・105p  ・30cm
なかなかユニークな百名峠だ。いわゆる人気投票ではないので、小さな峠や味のある峠、雰囲気のいい峠など色々だ。自分も納得の峠が多く、やはりちゃんと走っているサイクリストが選んだ峠だと感じる。ちなみに数えてみたら、100峠の内、越えたことがあるのはちょうど50峠だった。ということはまだまだ半分ということ。今後の楽しみがまだまだあるということだ。各地のベテランサイクリストが一つ一つの峠を丁寧に紹介している。やはり同じ景色を見てきたサイクリスト同志、写真や文章に心通じるものがある。峠をテーマにした特集はなかなか大変だが、また新たな百名峠の特集を期待したい。

文化庁選定「歴史の道百選」
・文化庁  ・2019.10  ・1〜78:平成8年選定(*:令和元年追加),79〜114:令和元年選定
ホームページより
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/kinenbutsu/rekishinomichi/index.html
「古くから人,物,情報の交流の舞台となってきた道や水路等は,我が国の文化や歴史を理解する上で極めて重要な意味を持っています。これらの歴史的・文化的に重要な由緒を有する古道・交通関係遺跡を「歴史の道」として,その保存と活用を広く国民に呼び掛け,顕彰するために,平成8年に全国各地の最もすぐれた「歴史の道」78か所を「歴史の道百選」として選定しました。
さらに,令和元年,新たに36件の道を選定し(既選定への追加選定19件),「歴史の道百選」は114件となりました。」
全国の素敵な道が紹介されている。ツーリングのヒントになりそうな道が多数紹介されている。訪れた所も多数ある。知らない所も多数ある。全ページを印刷して、一冊の本に仕上げれば、素敵な「歴史の道百選」の出来上がりだ。
なお、これを元にした写真集も出版されている。「文化庁選定 歴史の道百選(森田敏隆著、講談社)」

モトツーリング(あの山を越せ 峠へ。)
内外出版社  ・2019.11  ・Kindle版  
バイクによる峠越えガイドだ。フルカラーの写真が実に美しく、眺めているだけで爽快な気分になる。大弛峠の特集は読み応えがあり、豪快なスケールの峠越えをたっぷり感じさせてくれる。「絶景峠」の特集も素晴らしく、美しい写真を見ていると、一度は自分の目で見てみたくなる峠ばかりだ。また、峠の茶屋に関する特集もなかなかいい。素敵なイラストを見ていると、団子とお茶で一服したくなる。バイクと自転車という同じ二輪同士なので、峠を越える事に関しては結構通じるものがある。サイクリストからしてみても、この本は役に立つ1冊だと思う。とにかく写真が素晴らしい。

土木技術(特集 峠と土木)
・土木技術社  ・2020.2  ・108p  ・30cm
「特集 峠と土木」と題して、様々な方の峠に関する解説が紹介されている。まさか土木という観点から峠を考察した本があるとは思ってもいなかった。よくもまあ見つけたものだと自分でも感心している。表紙の写真は「青崩峠」である。目次から 1.「全国2954 峠を歩く」 2.「八十里越えの今(時を越えて)」 3.「祈りの道(六十里越街道)の活用と保全活動」 4.峠道の斜面対策(峠道の安全を守る)」 5.峠を越えて運ばれた海の幸(山国・甲州における海産物利用の歴史)」 6.ゴッタルドベーストンネル(スイスアルプス ゴッタルド峠を貫通する世界最長の鉄道トンネル) 7.「カイバル峠の英印軍工兵隊」 8.「湖尻峠を越えた湖水、深良用水」 9「.碓氷峠越えのアプトに道」、他 となっている。専門書であるため、土木関係の方の執筆が中心だ。峠道の安全対策では、様々な工法によって安全が守られていることが書かれている。高度な内容で難しいが、峠と土木がこれだけ密接に関係していたことにあらためて気が付いた。災害による多くの通行止めの峠道を見てきたが、こうした技術によって災害復旧がなされているのだとよくわかる。我々が安全に走れるのは、こうした土木技術者のおかげである。大変勉強になった。

峠狩り40選
・下野康史 著  ・八重洲出版  ・2021.8  ・98p  ・29cm
「知られざる絶景・秘境・酷道を楽しむドライブガイド」と記されている。いわゆる車による峠越えのドライブガイドだ。全国各地の著名な峠を、車によるドライブで越えたレポートだ。フルカラーの写真と地図が豊富で、峠越えの資料としてはよくできている。紹介している峠は40峠。しかし、さすがに車と自転車では峠越えの根本が違うため、やはりアクセル一つで越えることができてしまう世界は、サイクリストには物足らない。

(ヤマケイ文庫)
・深田久弥 編  ・山と溪谷社  ・2022.3  ・365p  ・15cm
紹介文より
「峠をテーマに深田久弥が編集したアンソロジーから、登山家や文人が記した明治から昭和初期にかけての代表的な紀行を収める。古来人の生活と深い関わりを持ってきた峠路を辿り、その情趣を味わい、歴史や土地の暮らしを偲ぶ名紀行三十一編。小島鳥水、尾崎喜八、若山牧水、木暮理太郎、田部重治、柳田國男ほか、個性豊かに、味わい深い峠の旅を綴る。」峠の紹介というよりも、峠にまつわる文学作品である。訪れたことのある峠であれば、新たな発見につながるかもしれない。

新編 峠と高原
・田部重治 著  ・山と溪谷社  ・2023.3  ・429p  ・15cm
登山界に多くの功績を残した著者が、山旅、スキー、高原、峠、街道、山村へと領域を広げ、多くの著書を残した。この本は、著者の40〜50代の著書から四十四編を収めたものだ。峠に限らず、様々な旅、雑記、随筆などがまとめられている。古い内容であるが、訪れたところも多く、情景が浮かんでくる。独特の文章表現、世界観に引き込まれる。400ページを越える、 読み応え十分の1冊である。

峠狩り第2巻
・下野康史 文  ・八重洲出版  ・2023.3  ・107p  ・29cm
「峠狩り」シリーズの第2弾。前号と同じく、峠を旅するドライブガイドだ。車で行く峠なので、当然自転車でもOKだ。しかし逆に車が多いともいえるかもしれない。ドライブでは、登りのコーナーやワインディングが楽しいかもしれないが、自転車にとっては全く逆だ。道路に視点をあわせた写真が多く、見ているとダウンヒルのコーナーリングをイメージできる。峠のデータとして、コーナー数、コーナー密度(何mおきにコーナーが現れるか)が掲載されているところがやはりドライブガイドだ。

分水嶺の謎(峠は海から生まれた)
・高橋雅紀 著  ・技術評論社  ・2023.9  ・416p  ・21cm
帯タイトルより 「地質学者が100年を越す地形学の常識に挑む 知の冒険、第1弾!」
とにかく、物凄いボリュームの一冊である。そう簡単に読み通せる本ではない。数ページ読むだけで、脳細胞がかなり活性化されるほど、謎解きと探求心をくすぐられる内容だ。著者は有名な地質学者だ。なにより地形図を眺めるのが大好きだという。そしてブラタモリにも何度も登場している方である。(http://tkmasaki.starfree.jp/television/television.htm)。残念ながらまだ放映を見た記憶がない。あまりにももったいない。探してすべて見てみたくなった。「峠は海から生まれた」という言葉に引き寄せられて購入した本だが、そこに行きつくまでには最初のページから全て読んでいかなければ辿り着かない。いや、必ず全てを読むべきだ。これまで何も考えずに山に登り、峠を越え、川を渡り、そして海に出た。たまに「分水嶺」を越えることもあったが、まったくその成り立ちも、仕組みも、謎も、疑問も感じてこなかった。水は高い所から低い所へ流れる、ただそれだけの常識しか持っていなかった。だがしかし、この本を読めば、様々な疑問に出会い、地球の誕生に至るまでの歴史を学ぶことになる。ここまで研究してくると、もはやサイクルツーリングで必要な地形学の範囲を超越しているが、実に楽しい研究である。子供の頃、色々なことに興味があった。目の前の出来事に疑問が一杯あった。わからないことは自分でとことん調べた。この本を読んでいくと、そんな小さかった頃の、夢一杯の少年時代に戻った気持ちになる。はっきり言って、一度読んでもよくわからない。それほど徹底的に調べ上げられている。「おわりに−−私の分水嶺」まで読むと、なぜか感動と、爽やかな気持ちに満たされる。そしてうらやましいほどの情熱が伝わってくる。第2弾は、果たしてどんな傑作が出来上がるのだろう。楽しみである。



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