「つなわたりの空間」 カリカリカリカリ――――――― 鉛筆が試験用紙を走る音が聞こえる。 むくっと起上がると彼は、担任の教員に見られないようにまわりを見渡す。 頭を抱える者。自信まんまんにすらすら解いている者。もはや解く事を放棄して 睡眠をとっている者。なにやらおまじないをはじめている者など色々な生徒がい たが、ストーブの近くにいる生徒は暑そうだった。彼の席は窓際だったがそんな 事をしている余裕はさすがになかった。すばやく筆箱に手を伸ばすと、 中に入っている消しゴムをとった。 もう一度そっと教員の方に目をやるが、こちらの動きに気付いている様子はない。 安心すると彼は消しゴムについている紙のカバーをはずした。 昨日の夜にしこんでおいたカンニングペーパーである。 今日のテストを聞かされた時は本当に驚いたものだ。 だが一晩あれば十分だった。苦手な物理だけにしっかり準備しておかなければならないのだ。 (俺が悪い点をとったりしたら教師やお母様を心配にさせてしまう。 そんな事をしたら心臓の悪いあの人たちのことだ。きっと体をわるくしてしまうだろう。 そんな事にさせないためにもこのカンニングは必要悪なのだ。そうなのだ。) ひとりごちながらニヤニヤして早速裏に書いてある要チェック単語を見ようとすると―――――― 真っ白であった。もう一度見てみる。白である。 ふと、3日前偶然見た隣の家のアンナのパンツを思い浮かべたりしたが。 (昨晩俺が必死に書き写した物理大典のあの重要単語は?滑車とてこの摩擦についての関係と公式は?なぜないのだ?) 真っ青になると彼は慌てて筆箱をひっくり返した。教員が振り向いたようだが そんな事にかまっていられない。他に消しゴムを持ってきてるのではないかと思ったが違うようだ。 ではあの昨晩3時間かけて1文字2ミリという芸術的な小ささにする事に成功した あのカンニングペーパーはどこにいってしまったのか? 「あと5分です。みなさんそろそろおわりましたか〜?」 担任の教師の少し調子のはずれた声が教室にひびいた。 今日は少し空気が乾燥しているらしくストーブには水をいれたやかんが置いてあるのだが、あまり関係ないようである。 (まずい、このままでは・・・) 残り時間を聞き、仕方なく彼は、必死に物理の問題に向かったがもともと嫌いな科目の上、まったく勉強はしていない生徒の為に問題を易しくするほど教師は優しくはなかったようである。 トーマス・レモンビッチ。常に学年のトップ10には入る、この秀才は話題を取るのが上手く男子にも女子にも人気のある好青年である。 ただ自己流で字を覚えたらしく独特な文字を書くのがくせで,それがしばしば教師を困らせた。 「あ〜あ、結局難しかったじゃないか〜。今回のテスト!」 制限時間が終わり、担任の教師がテストの回収を始まるのを見ながら、 マジクは嘆息した。 昨日得意科目と胸を張るコンスタンスに特訓をしてもらったが やはり一夜漬けで 出来るような問題ではなく、結果はあまり変わらなかったようだ。 今回はかなりの力作のようで問題用紙のあちこちに変な黒ずみが見える。 (そういえば、物理の先生は肺が弱くて、力むと吐血するらしいけど、本当だったのかな?) そんな事を考えながらマジクは回答用紙を担任の教師に渡した。 そういえば前の席のトーマスは前回の期末テストで学年8位だったのを思い出した。 おそらく今回もかなりの出来だろう。 (そうだ、トーマスと答え合わせをしてみよう。大体の点数は分かるかも知れない、 コンスタンスさんのヤマはほとんど当たってたし) あれだけの勘をもっていながら今まで検挙率がゼロに等しいなんてよほど警察官って厳しい仕事なんだなぁ、と彼女に少しの恩と同情を感じながら トーマスに声をかけてみる。 「トーマス。ちょっといいかな」 すこし図々しいかなと思いつつ彼の顔を覗きこむと―――何かがいた。 生気が抜けていると言うか、魂が飛んでいると言うか、腐らないように水分を飛ばし外気と触れ合わないように葉と布でしばった人の死体のようなものがいた。 ボソリとそれが呟く。 「・・・・・・マジクか・・・・・・・」 マジクはふとオーフェンが4日連続無飲無食していた時の3日目の夜のことを思いだしたりもした。 そーいえば昨日仕入れた生ハムは大丈夫かな〜、昨日食材を搬入している時に気配を感じたような気も、などと冷蔵庫の南京錠の鍵を見ながら考えたりもしていると、 トーマスは虚ろな目をしながらマジクに語りかけた。 「俺は頑張ったよな?そう、俺は頑張ったんだ。何の力も使わず、反則などせず自分の力だけでやり遂げたんだそう正にそれこそに意味があるんだ!そう俺はやったんだー!!」 最後の力を振り絞るようにトーマスは吠えた。 「そうだよね。トーマス!結果なんて努力すればついて来るんだ。大事なのはそんな事じゃないんだ」 がっしりと抱き合い(というよりトーマスはマジクに寄りかかるように)二人がお互いの努力を称えあっていると 二人の近くに担任の教師がたっている。妙にニコニコしている。 「トーマス・レモンビッチ君。良く頑張ったようですね。ところで私は先程皆のテストの監督員をやっている時に一つ消しゴムを拾ったんです。名前が書いてあると良かったんですが見当たらなかったのでカバーをはずしてみたところ見覚えのある文字があったので・・・・」 担任の教師は更にニコニコするとトーマスに消しゴムを渡し、、 「後ほど正式に呼出状を渡します。お母様には都合のよい日程を聞いておいて下さい」 と、残すと彼女は足早に立ち去っていった。 凍りつくトーマスを前にマジクは分けが分からずおろおろするだけであった。 [あとがき] 今回は一応マジク編?かな。て言うかオーフェン出した事ないなあ中間試験シーズン だからここでギャクでもと思ったんですけど・・・・余計なお世話かな?特にコメントはありません。 さあ、俺も勉強しなくちゃ。 トップに戻る NOVEL一覧に戻る かずのこさん素晴らしく共感できる小説をどもありがとうございました♪ |