座標変換について

片山泰男(Yasuo Katayama)

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1. ローレンツ変換と不変量を一般化
2. なぜ ds^2 = g_ik dx^i dx^k か
3. 座標系の間の局所変換係数
4. 計量とミンコフスキー時空への局所変換係数
5. ミンコフスキー時空への変換の空間的写像のイメージ
6. 計量の意味


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1. ローレンツ変換と不変量を一般化

特殊相対論のローレンツ変換は、慣性系間の相対速度による座標変換であった。もとの系 K の (x,t) を x 軸方向に(光速を 1 とする)速度 v をもつ系 K' からみた (x',t') は、γ= 1/√(1-v^2)として、

x'= γ(x - vt)
t'= γ(t - vx)

であった。この (x,t) から (x',t') への変換は x と t の大きさによらず適用できる線形変換である。速度の方向と垂直な y, z は、変換の影響を受けず y'= y, z'= z である。ローレンツ変換は、4 次元座標 (x,y,z,t) の不変量 s^2 を変えない変換 であった。

s^2 = x^2 + y^2 + z^2 - t^2

s'^2= x'^2- t'^2 = γ^2((x-vt)^2 - (t-vx)^2)= x^2 - t^2= s^2

それに対して一般相対論の不変式は、局所の不変式である。x,y,z の間隔Δx, Δy, Δz, Δt を無限微小量 dx, dy, dz, dt に変更し、

ds^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2 - dt^2

しかも、その時空に係数である計量 g_ik が付く。座標軸の名前、x,y,z,t は、 x^1, x^2, x^3, x^4 と x の肩に番号を付けて表す。

ds^2= g_ik dx^i dx^k

これは、すべての座標軸の組合せ 10 個の (x^i, x^k) に対して係数 g_ik を掛けた積和である。非線型写像の局所の微分的な不変量は、 この 2 次同次式の和で表現でき、それより複雑にする必要はない、それはなぜだろうか。


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2. なぜ ds^2 = g_ik dx^i dx^k か

4 次元から 4 次元への変換から次元を減らし単純化して理解する。 2 次元から 2 次元への微分可能な任意の連続写像、 x'= f(x,y), y'= g(x,y) があって、dx'/dx, dx'/dy, dy'/dx, dy'/dx という 4 つの偏微分を順に a,b,c,d とするとき、 これらは、座標 (x,y) の関数であるが、無限微小量 dx 等の大きさには影響を受けない。微分 dx, dy は、dx' dy' だけ の関数であり、もし次数が違うと最小次数だけが優勢になるから、それは、同次式であって、1 次である。

dx'= a dx + b dy,
dy'= c dx + d dy

という 1 次同次式の線形変換で表せる。微分の不変量 ds^2 を表す式は、微分の関数であり、やはり次数が違うと 最小次数だけが優勢になるから、同次式でないといけない。dx', dy' が a,b,c,d を係数とする dx, dy の 1 次同次式 であるため、微分不変量 ds'^2 = dx'^2 + dy'^2 は、元の dx, dy の 2 次同次式で表せるのである。


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3. 座標系の間の局所変換係数

一般座標系間の時空の全体の変換は、非線型な写像、その局所の微分の変換は、線形変換で記述できる。非線型写像は、

x'= f1(x,y,z,t)
y'= f2(x,y,z,t)
z'= f3(x,y,z,t)
t'= f4(x,y,z,t)

として書ける(f1 〜 f4 は、微分可能な関数)。まとめて、4 元座標 x から 4 元座標 x' への微分可能関数として、x'= f(x) とも書ける。座標の微分の線形変換は、Σを省略して次のように書くことができる。

dx^j'= a^j_i dx^i

a^j_iは、4 元座標の微分 dx^i に対する微分 dx^j' の比、偏微分であり、f1 の x を x + dx に変化したときの、 f1 の変化分、a^1_1 = df1/dx = dx'/dx である。

一般座標変換とは、基本的に時空の座標系間の(微分可能な)非線型写像である。それには座標の微分の従う線形変換式を使うのである。 どのような(微分可能な)非線型写像も、微分の線形演算を使って表現できるからである。微分の存在と微分の線形性を仮定する。 重力方程式が g_ik の微分も使うから微分の連続も仮定している。

局所の計量 g_ik に対応した局所の変換係数 a^k_i があり、それは特殊相対論のローレンツ変換に類する線形変換である。 一般相対論は、遠方を記述しないわけではない。局所の記述は、遠方の時空、全体の時空を明確にするためのものである。 微分の元の関数の非線型写像の存在を仮定し、それを求めることが目的なのである。値を入れれば値が出てくる関数(写像)と いうものは、1 対 1 であればいいが、そうではないかもしれない。多値関数、特異点も出てくるかもしれない。値が存在する 定義域を限定する必要がある場合もある。そういう答えが出てもそれは、その方法の限界を示すだけである。


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4. 計量とミンコフスキー時空への局所変換係数

さて、局所変換に戻って、

ds^2= g_ik dx^i dx^k

という ds の不変式があるとき、ミンコフスキー時空 K' への変換がどの時空点についても可能と仮定する。 2 次元に単純化した例では、次の (dx,dt) から (dx',dt') への線形変換がある。

dx'= a dx + b dt
dt'= c dx + d dt

元の時空の不変量 ds^2 は、変換後のミンコフスキー時空の不変量 ds'^2= dx'^2 - dt'^2 と等しい。

ds^2= ds'^2= dx'^2 - dt'^2

dx' dt' の式を代入して、

ds^2 = (a dx + b dt)^2 - (c dx + d dt)^2
= (a^2 - c^2) dx^2 + 2(ab - cd) dxdt + (b^2 -d^2) dt^2
= g_11 dx^2 + g_14 dxdt + g_44 dt^2

こうしてミンコフスキー時空への変換係数 a,b,c,d から元の時空の g_ik がでる。 この例では、g_11= a^2 - c^2, g_14= 2(ab - cd), g_44= b^2 - d^2 である。

2 次元でなく 4 次元間の変換では、式は多少複雑になるが同様に、

ds^2= dx'^2 + dy'^2 + dz'^2 - dt'^2
ds^2= (a^1_i dx^i)^2 +(a^2_j dx^j)^2 +(a^3_k dx^k)^2 -(a^4_l dx^l)^2

これを書き並べると、

ds^2=
(a11 dx + a12 dy + a13 dz + a14 dt)^2
+(a21 dx + a22 dy + a23 dz + a24 dt)^2
+(a31 dx + a32 dy + a33 dz + a34 dt)^2
-(a41 dx + a42 dy + a43 dz + a44 dt)^2

それゆえ、g_ik のうちの g_ii は、上の式から縦に採って、

g_11= a11^2 + a21^2 + a31^2 -a41^2
g_22= a12^2 + a22^2 + a32^2 -a42^2
g_33= a13^2 + a23^2 + a33^2 -a43^2
g_44= a14^2 + a24^2 + a34^2 -a44^2

2 次元の g_11= a^2 - c^2 がこの式では、g_11= a11^2 + a21^2 + a31^2 -a41^2 と、空間側が x から x, y, z に拡張され、 3 つの2乗の項の和になる。


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5. ミンコフスキー時空への変換の空間的写像のイメージ

重力を消去する局所慣性系のミンコフスキー時空への変換の空間的写像のイメージを持つために、つぎのことを考える。 dx'= a dx + b dt へ、dt'= 0 をいれた c dx + d dt= 0 から dt= -c/d dx を代入すれば、

dx'= a dx + b (-c/d dx)= (a - bc/d) dx

となる。 bc= 0 であれば、

dx'= a dx

ということである。dt'= 0 であることから、これは、変換後の空間の図を描いている。dx から dx' への係数が a であり、 ミンコフスキー空間への変換時に x 方向に a 倍が掛かることを表している。

g_11 = a^2 - c^2 の c が 0 なら、g_11 = a^2 ということになり、空間 1 方向の計量 g_11 は、ミンコフスキー時空への 空間変換係数 a の 2 乗である。つまり、ある方向の大きな計量には、その√の大きな変換係数が対応している。

a 倍に拡大してユークリッド的な等方性をもつミンコフスキー時空になるには、その場所のその方向は、元は 1/a に縮小していた とみなさなければならない。変換前のその場所の時空では等間隔を表すメッシュは目が詰まり、物差しは短縮していたのである。

y, z 方向についても同様であるから、計量 g_ik 自身、ミンコフスキー時空への変換の性質を表していて、dx'^i = a^i_k dx^k 自身から、空間の短縮/伸長そして時間の経過速度が a11, a22, a33, a44 によって与えられる。例えば、a12 等のクロス項が ない場合、1/√g_11 が局所の x 方向の物差しの大きさを表し、√-g_44 がその場所の時間経過の速さを表している。 これが、計量の意味であり、時空の曲りにおいてそれ以上に重要な意味はない。それがリーマン幾何学の基本テンソルの意味である。


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6. 計量の意味

一般相対論で扱う計量という言葉の意味は、理解し難いものではあるが、一般相対論の目的は、重力方程式を大局的にある条件 で解いて時空に分布する計量の場を大局的に求めることである。それは、重力のもたらす時空の一般座標変換、とくに重要な 局所慣性系への変換を求めることである。それは、各点の計量を全体の場として求めることである。

計量は、一般座標変換によって変化する。同じ重力源の近辺の場であっても、見る系によってそれは異なる。それが、相対論という 名をもつ理由である。特殊相対論では速度をもった他の系の物差しと時計の経過がローレンツ変換を受けて異なってみえたように、 ある時空点の局所慣性系から見れば、その無限小の近辺はつねにミンコフスキー時空であるが、時空間的な遠方は異なっている。 質点の近辺の時空は、無限遠からみることもできるし、各点の自由落下系から見ることもできる。質点から一定の距離を保つ系 から見ることもできる。すべてそれぞれの異なる計量場で示すことができるが、質点のもたらした影響は、もともと客観的に同一 の現象である。

無限遠からみたブラックホールの計量のすぐ側の静止系は短縮している。その部分のメッシュは目が詰まっている。それならば、 逆にそこから見た宇宙は縦に延びているだろう。

その場所でボールをもった手を離すと自由落下系がすぐにできる。自由落下系、つまり局所慣性系では、局所的に重力の影響を完全に 無くすことができるからブラックホールの無限遠の静止系も、地平面のすぐ外側の自由落下系も、時間の経過についても物差しの 大きさについても速度のない間は同じであろう。

手を離されたボールから見た、質点の側の静止系である手は、短縮しているだろう。ブラックホールのそばの自由落下系である ボールは、すぐに加速を始め、しだいに速度を得てローレンツ変換を受け質点の半径方向に短縮を始めるだろう。

そこから見た無限遠の静止系も速度を得て短縮してくる。自由落下系から見たブラックホール全体の空間図は、遠方から見た ブラックホールの空間図とは、しだいに異なってくるであろう。


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質点近傍の静止系が半径方向に短縮している理由は、もちろん重力による圧縮が原因ではない。逆にそれを潮汐力による伸長と 考えるのは、現象の符号が逆であるから説明にならない。この変形は力学的ではなく、局所時空の座標変換と説明されるのである。 それは、固体のエーテルの風を受けて短縮するという、ローレンツ短縮のローレンツによる力学的解釈を特殊相対論が不必要とした のと同じである。質点の側の静止系で剛体でない物体が短縮するのは、力学的現象であるが、この変形は、剛体の短縮であるから 力と関係しないのである。

それなら、実際に地球上で静止物体が受ける弱い重力は、説明できないのか、と反論が来るだろう。ニュートン力学で自由落下物体が 受ける加速度を、その近辺の静止系の時空がもつ性質であると置き換え、質量が測地線上にないことが、床との力を発生していると いうのだろうか。弱い重力では、g_44 以外には大きな違いはでない。g_44 のニュートンポテンシャルとの等値によってニュートン 力学的なことは説明するのである。特殊相対論では、ローレンツ変換が経験から遠い予言であった理由は、光速に類する速度をもつ 物体が少ないためであった。一般相対論の一般座標変換が経験から遠い予言であるのは、強い重力が少ないためである。

ピタゴラスの 3 平方の法則 ds^2= dx^2 + dy^2 + dz^2 は、ユークリッド幾何学のなりたつミンコフスキー時空の剛体法則である。 2次元では、

ds^2= dx^2 + dy^2

それに対して計量は、時空による剛体の変形の法則を表している。半径 ds の円は、

ds^2= dx^2 + 4 dy^2

という g11= 1, g22= 4 の時空では、剛体円が y 方向に 1/2 に短縮した楕円になる。

ユークリッド的でない非線形の写像、局所の時空の性質を表す計量が重力方程式を満たすのである。質量による重力のために 時空が変形し、そこにある全ての物体、剛体さえも変形させる。それが局所の計量によって表される。