物理現実の量子力学記述は、完全と考え得るか?

ネーザン・ローゼン(Nathan Rosen)
訳 片山泰男(Yasuo Katayama) Feb. 17 2017
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1. 導入

1935年に上記のタイトルをもつ論文(Einstein, Podolsky, and Rosen 1935)がフィジカルレビューに現れた。 この論文は、プリンストンの高等研究所において、Albert Einstein, Boris Podolsky,及び私自身によってもたれた多くの議論の産物であった。 その議論の目的は、量子力学の概念と原理、そして我々が我々に問題と理解すると思われるものの理解を助けることであった。 その議論のなかで我々が到達した結論として、上記の質問に対する答えは、"No" であった。

論文はそのとき、物理学者の間に、かなりの反論を引き起こした。今、40年以上の後、議論はまだ続いている。それゆえそれは、 Albert Einsteinの生誕100周年に、この論文に立ち返り、現在的な視点からそれを再考するのは、適切な機会であると思える。

次の章では幾つかの批判的な注意点とともに、上記論文(以下、単純に"論文"という)の詳細なレビューを与え、その後の章でBohrの対立的視点を提示し、 それから議論をする章になる。

2.論文

その論文は、その言辞で始まる:
どの物理理論の真面目な考察も、客観的現実との区別を考慮にいれないといけない。客観的現実はどの理論とも独立で、その理論が操作するどの物理概念 とも独立である。これらの概念は客観的現実と対応することを意図していて、これらの概念を手段として、我々自身にこの現実の絵を描くのである。

明らかに、それは暗黙に想定され、ほとんどの物理学者が信じる、客観的な現実が存在するということ、物理的世界が人間の観測者から独立で、 物理的理論は、この現実のある側面を記述するということ、それゆえ、そのある種の絵を形成することができるようになるのである。

物理理論の成功の判定を試みるとき、我々は自身にふたつの質問をしてよい。(1) "その理論は正しいのか?"そして、(2)"その理論が与える記述は完全か?" これらの質問の両方共に肯定的な答えが与えられた場合にだけ、その理論の概念が満足しうる。理論の正当性は、その理論の結論と人間の経験との間の 一致の程度によって判定される。この経験は、それ単独で我々を現実について推論をする、物理のなかで実験と測定の形態を形成することを可能にする。 我々がここで考察したいことは、量子力学に適用した、2番目の質問である。

今日、ひとがときどき耳にするのは、理論にひとが望むものの全ては正しくないといけないことである。つまり、それが人が実験結果に一致する数々 のものを得るような計算を実行することを可能にしなければならない。そして、その理論が現実のいかなる描像を用意することを必要とはしていない ことである。しかしながら、私には、多くの物理学者がそのような描像を求めていて、2番目の質問、完全性を彼らが必要としていることは重要であると 思う。

完全という言葉に何の意味を付与していても、完全な理論に次の要求は必要である。その1、物理現実のあらゆる要素は、物理理論のなかに対応物を持た なくてはならない。我々はこれを完全性の条件と呼ぶ。2番目の質問は、こうして容易に答えられる、我々が、何を物理的現実の要素と決定することが できるならばすぐさま。

注意すべきことは、何が物理的現実の要素であるか決定することに付加して、ひとはまた、何がその理論のなかのその対応物であるかを決定しなければ ならない。ここで自明になることは、それに対応する概念と数値が、理論のなかに現れないといけないことである。

物理的現実の要素は、先験的な哲学的考察によって決定されることができるものではなく、実験と測定の結果として要求することで見出されなければ ならない。現実の包括的定義は、しかし、我々の目的には必要としない。我々が合理的とみなす、次の批判基準を我々は満たさなくてはならない。 もし、系を何かして擾乱することなければ、我々は確かさ(1に等しい確率で)をもって物理量の値を予測できるなら、そのとき、この物理量に対応する 物理的現実の要素が存在するのである。この批判基準は我々には物理現実を認識する大量の全ての可能な方法からは遠く離れているようにみえるが、 少なくとも、そのなかに条件を置くときはつねに浮かぶ、1つのそのような方法を、我々に用意する。それは現実の必要条件でなく、単に十分条件である。 この批判基準は、古典的なだけでなく、量子力学的な、現実の概念に合致している。

この批判基準は、議論において決定的な重要性をもつ。その鍵となる点は、"系に何者かの擾乱がないとき"という点である。これは次のように考えられる。

論文に含まれる概念を明示するためには、1次元の自由度をもつ粒子の行動の量子力学的記述を考察しよう。参照は状態の概念によって作られ、それは 波動関数φによって完全に特徴付けられ、物理的な観測可能な量、Aとその演算子(これもまたAで記述する)、そして、固有関数に対して....

P.C.Aichelburg et al. (eds.), Albert Einstein copyright Frieder. Vieweg & Verlangsgesellschaft mbH, Braunschweig 1979