相対性の理論

The Theory of Relativity
Albert Einstein (1949)
in "Out of my Later Years"(Citadel Press)
(訳 片山泰男 Sep.21 2014)

数学は排他的に、概念の互いの関係をそれらの経験との関係の考慮なしに取り扱う。物理も数学的概念を扱うが、これらの概念は、 経験の対象との関係を明確な定義だけによって、物理的内実を達成する。これは、運動、空間、時間の概念の場合に格別である。

相対性の理論は、これら3つの整合したある物理的解釈に基づいた、その物理の理論である。 "相対性の理論" という名は、運動が 経験的観点からつねに、ある物体がもうひとつとの (例えば、車の運動は地面に対して、又は地球は、太陽と恒星に対して) "相対" 運動として表われるという事実に結び付いている。運動は決して、"空間に対しての運動" 又はいわゆる、"絶対運動" としては 観測されない。その最も広い意味の "相対性の原理" は、次の言明に含まれている:物理現象の全体性は、"絶対運動"の概念の 導入の基礎となるものを与えないような特性のものである。;又は、より短く、正確でないが:絶対運動はない。

我々の洞察はそのような否定的言明からほとんど利益を得ないように思うかもしれない。しかし、現実にそれは、(想像可能な) 自然法則への強い制限である。この意味で、相対論と熱力学にはある類似性が存在し、後者もまた否定的言明に基づいている: "永久運動は存在しない"。

相対性の理論の開発は、"相対性の特殊理論"と "相対性の一般理論"との二段階で進んだ。後者は、制限した場合としての前者の 有効性と、その整合性の連続とを仮定している。

A. 相対性の特殊理論

古典力学における空間と時間の物理的解釈

物理的立場からの幾何学は、互いに関して静止して置かれた剛体(例、それらの端が永久に接触した3つの棒で構成する3角形) が従う法則 の全体性である。そのような解釈においてユークリッドの法則が有効である、と仮定される。"空間"はこの解釈では、原理的には他の全て の物体の位置が関係する無限の剛体(又は骨格) (参照物体) である。解析的幾何(デカルト)は参照物体として空間を表現する3つの互いに 垂直な剛体棒を使用し、その上に空間点の "座標" (x, y, z)は、(剛体の単位尺の助けを借りて) 直交投影として知られる方法で測定される。

物理は"事象"を空間と時間のなかに扱う。各事象は、位置の座標 x, y, z のほかに時間の値 tに属する。後者は、無視できる大きさの (理想的な周期過程)による時計によって測定できると考えられた。時計Cは、座標系の1点(例、座標原点(x= y= z= 0)に静止していると 考えられる。(x,y,z)の場所をもつ事象の時間は、事象と同時に時計Cに示される時間として定義できる。ここで、"同時の"は、特別な 定義なしに物理的に意味のある概念として仮定される。これは (その速度は毎日の経験からは無限である) 光の助けによって空間的に 離れた事象の"同時性"が明らかに瞬時に決定できる範囲内にだけ無害であるとみなせる、正確さの欠如である。

特殊相対論は、同時性を物理的に光を使って定義することによって、この精度の欠如を消した。Pにある事象の時間tは、事象から放射れた 光信号の到着したときの時計Cの読みで、その距離を旅するのに必要な時間に関して較正される。この較正は、光の速度が一定(という仮説) を仮定している。この定義は、空間的な遠方の同時性の概念を、Cへの光信号の到着とCの読みという同じ場所に起きた事象の同時性の概念 (同時生起) に還元する。

古典力学はガリレオの原理に基づく:物体は、他の物体がそれに作用しない限り、直線的で均一な運動をする。この言明は、任意に運動する 座標系にとって有効ではありえない。それは、いわゆる"慣性系"についてだけ有効と主張されうる。慣性系は、互いに関して直線的で均一な 運動をする。古典物理の法則は、全ての慣性系に関してだけ有効性を主張する(特殊相対性の原理)。

これで、特殊相対論に導いた矛盾を理解することが容易になった。経験と理論は、次第に次の確信に導いていった。空の空間のなかの光は、 その色や、光源の運動状態に依らずに、常に同じ速度cをもって旅するのである(光速一定の原理、以降、"L原理" と呼ぶ)。いまや、 初等的に直観的な考察は、同じ光線が全ての慣性系で同じ速度cをもって動くことはあり得ないことを示すと思われる。L原理は、 特殊相対性の原理に衝突していると思える。

しかしこの矛盾は、時間の絶対性の先入観、又は遠隔の事象の同時性のそれ、に基づいた見かけのものであることが明らかになる。我々は 事象には選んだある座標系(慣性系)に対して定義されるその瞬間のx,y,z,t だけをみることができる。ひとつの慣性系から他に乗り換える ときに実行されなければならない事象のx,y,z,tの変換(座標変換)は、特殊な物理的な仮定なしには解くことのできない問題である。しかし、 次の仮説は、解くのに十分に正確である:L原理は全ての慣性系において成立する(特殊相対性原理のL原理への応用)。変換はこうして定義され、 x,y,z,t において線形で、Lorentz変換と呼ばれる。Lorents変換は、ふたつの無限に近い事象の座標の差、dx,dy,dz,dt からなる、

dx^2 + dy^2 + dz^2 -c^2dt^2

の表式の不変性(つまり、それが変換を通して新しい系の座標差からなる同じ表式のなかへ乗り越えること)の要求であると、 形式的に特徴付けられる。

Lorentz変換の助けによって、特殊相対性の原理はこう表現できる:自然の法則は、Lorentz変換に関して不変である。(自然法則は、x,y,z,tの Lorentz変換の助けによって、それを新しい慣性系に導入するなら、その式の形を変えない。)

特殊相対論は、空間と時間の物理的概念のより明確な理解、それに伴い、動いている物差しと時計の振舞いの認識を導いた。それは、原理的に 絶対同時性の概念、そしてそれによってまた、Newton の意味における同時的遠隔作用の概念を、除去した。それは光速に比べて無視できるほど 小さくない運動を扱うとき、運動法則がどう変更されなければならないかを示した。それは電磁場のMaxwell方程式の形式上の明確化を導き; とくに、電場と磁場の不可欠な同一性の理解を導いた。それは運動量とエネルギーの保存則を単一の法則に統一し、質量とエネルギーの等価性 を示した。形式の観点から、特殊相対論の達成をこう特徴付けることができる:自然法則のなかで、宇宙的な定数c(光速)が果たす役割りと、 自然法則に入っている時間を片手に空間座標を他方の手にするような両者の式の間に近接した結合が存在することを一般的に示した。

B. 相対性の一般理論

特殊相対論が古典力学の基礎を達成したのはひとつの基本的な点においてであり、すなわち:自然法則は慣性系を参照してだけ有効である。 "許される"座標間の変換(つまり、式の形式を不変に残すような)は、排他的に(線形の)Lorentz変換である。この制限は物理的事実のなかで 現実に基づくだろうか?次の議論は、それを確信的に否定するだろう。

等価性の原理。物体は慣性質量(加速への抵抗)と重力質量(与えられた重力場、例えば地球の表面の、のなかの物体の重さを決める)とをもつ。 それらの定義によれば非常に違うこれら2つの量は、経験に従って測定された一方と他方の同じ数。これにはより深い理由がなければならない。 その事実は次のように記述できる:重力場のなかで異なる質量が同じ加速を受ける。最終的にそれはまたこう表せる:重力場のなかの物体の 振舞いは、まるで、もし重力場がなければ、後者のとき、使われた参照系が、(慣性系でなく) 均一加速される座標系である。

これらはそれゆえ、後者の場合の次の解釈を禁止する理由がない。ひとが系を"静止"とみて"みかけの"重力場を"現実"のものと考える。 系の加速によって "発生させられた" 重力場にはもちろん大きさに制限がなく、有限領域に重力質量によって起こされ得ないものである; しかし、もし、我々が場のような理論を探しているなら、この事実は我々を制止する必要がない。この解釈をもって、慣性系はその意味を失い、 ひとは重力と慣性質量の等価性のひとつの "説明" をもつ。(質量の同じ性質が、記述のモードによって、重さと慣性として表われる。)

形式的に考察すれば、もとの慣性系に対して加速している座標系の受け入れは、非線型の座標変換の受け入れを意味し、このゆえ、不変量 すなわち相対性の原理の概念の強力な拡大を意味している。

最初に議論の打ち込みに、特殊相対論の結果を使ったが、座標系のそのような一般化は、もはや測定結果として直接に解釈できないことを示す。 重力場を記述する場の量とともに座標系の差とだけが、事象間の測定できる距離を決定する。非線型の座標系の変換を等価な座標系間の変換とし て受け入れを強制されたことをひとが見出したあと、全ての連続座標変換(それは群を形成する)を受け入れるという最も単純な要求が現われる。 それは、そのなかに場が正規な関数として記述された、任意の曲線座標系を受け入れることである。(一般相対論)

いま、なぜ一般相対性の原理が(等価原理の基礎の上に)重力の理論を導くか理解するのは難しくない。特別な種類の空間があって、その物理構造 (場)が特殊相対論の基礎によって正確に知られていると仮定できる。これが電磁場と物質のない空の空間である。それはその"計量"によって完全に 決定されている:dx0,dy0,dz0,dt0を2つの無限に近接する点(事象)の座標差とし、そのとき、

(1) ds^2= dx0^2 + dy0^2 + dz0^2 - c^dt0^2

は、測定できる量であり、慣性系の特別な選択によらない。もし、ひとがこの空間に新しい座標、x1,x2,x3,x4を一般座標変換を通して導入すれば、 そのとき、同じ点のペアにある量 ds^2 は、次の形式の式をもつ。

(2) ds^2= Σ g_ik dx^i dx^k (i,kの1-4に渡る累積)

ここで、g_ik= g_ki であり g_ik は対称テンソルを形成する。そして、x1,..,x4において連続関数である。そのとき、特別な種類の球力場を"等価 原理" に従って記述する(すなわち、ひとは式(1)に再変換できる。) Riemannの計量空間の研究によって、g_ik場の数学的特性は正確に与えられる。 (Riemann条件) しかしながら、我々が探し求めるものは、"一般的な" 重力場によって満たされる方程式である。それらもまた g_ik型のテンソル場 によって記述されると仮定するのは自然である。それは一般には式(1)に変換することを許さない。すなわち、Riemann条件を満たさないが、より弱 い条件では Riemann条件と同じく座標系の選択によらない(つまり、一般不変量である)。単純な形式の考察がより弱い条件を導きだし、それは Riemann 条件と近接に結合する。これらの条件は、純粋に重力場のまさにその方程式である。(物質の外側で、電磁場のない場所の)

これらの方程式は、Newtonの重力方程式を近似方程式としてもつだけでなく、観測によって確認されたある小さな効果をもたらす(恒星の重力場 による光の偏向、放射光の周波数の重力ポテンシャルの影響、惑星の楕円軌道のゆっくりした回転ー惑星水星の近日点移動)。それらは、さらに これらの系から放射された光の赤方偏移によって明らかにされた、銀河系の膨張運動への説明をもたらす。

一般相対論は、現在までまだ重力場だけに一般相対性の原理を成功裡に適用できたが、全ての場にではない。我々はまだ確かに知ることができない。 空間の全体場がどのような数学的機構によって記述されるか、何の一般不変量がこの全体場のどれに使われるかは課題である。しかし、ひとつのこと は確からしい:すなわち、相対性の一般原理は、全体場の問題を解くために必要で効果的な道具と証明されるであろうことである。