個人の経験は、事象の系列のなかに配置されて我々に姿を現わす; この系列のなかで我々の記憶する単独の事象は、"以前"と"以後"と の判定規準に従って順序付けられて現れ、そして、それらは、それ以上分析できない。それゆえ、その個人にとって私-時間、又は 主観的時間が存在する。これは、それ自身、計測できないものである。確かに、私は、後の事象に前の事象より大きな数を付けるように 事象に数を添えることができる;しかし、この添付の性質として、全く任意であり得る。時計を手段として事象の順序を比較して、 私が定義できるこの添付は、与えられた事象の系列の順序を時計によって供給される。我々は、時計によって何かを理解するが、 それは数えられる事象の系列を用意し、後述する他の特性をもつのである。
言語の助けによって異なる個人は、ある程度、彼らの経験を比較することができる。そのとき、異なる個人のある感覚の知覚は、 互いに対応している一方、他の感覚の知覚は、そのような対応が確立できないことを見出す。我々は、異なる個人に共通のそれらの 感覚知覚を現実とみなし、それゆえ、ある尺度で、非個人的とすることが習慣付けられている。自然科学、そして、それらの最も 基本的な物理は、それらの感覚知覚を扱う。物理的な物体の概念、特に剛体は、相対的にそのような感覚知覚の一定の複合体である。 時計は同じ意味で、また物体であり系であるが、それが数える事象の系列が、その全てが等しいと見なし得る要素(訳注:時間間隔) によって形成されているという追加的特性をもつ。
我々はいま、我々の空間の概念と判定に立ち来る。経験と我々の概念との関係に厳しい注意を払うことは、ここでまた不可欠である。 Poincaré は、彼の本、"科学と仮説(La Science et l'Hypothese)" に与える言及のなかで、明確に真実を認識していたと私には思える。 剛体に我々が知覚できる全ての変化のなかで、我々の体の自発的運動によって打ち消し得るものは、それらの単純さによって印される; Poincaré は、これらを位置の変化と呼ぶ。単純な位置の変化によって我々はふたつの物体を接触させることができる。幾何学に基本的な、 合同の定理は、位置のそのような変化を支配する法則をとり扱わなければならない。空間の概念にとって次のことは本質的にみえる。 物体 B, C, ... を A まで持ってくることによって、我々は、新しい物体を形成できる;それを我々は、物体 A を延長するという。 そうして物体 A を延長し我々は、ついに何か他の物体 X まで接触するようになる。全ての物体 A の延長の全体を "物体 A の空間" と呼ぶ ことができる。そのとき、全ての物体は、"(任意に選んだ)物体 A の空間" のなかにあることは正しい。この意味で、我々は抽象のなかに 空間をいうことはできず、"物体 A に所属する空間" だけをいうことができる。地球の地殻は、我々の毎日の生活において物体の相対的な 位置を判定することにおいて、非常に支配的な役割を果たしているために、確かに弁護できない空間の抽象的な概念を導いた。 この致命的な誤りから我々自身を解放するために "参照物体" 又は "参照空間" だけについていうべきである。 これらの概念の洗練は、一般相対論を通してだけ必要となることを、我々は後に見る。
前相対論の物理では理想的剛体の構成法則は Euclid 幾何に整合しているということが仮定されている。これが何を意味するかは、 次のように表現できる:剛体上に印された 2 点は、間隔を形成する。そのような間隔は、我々の参照空間に相対的に静止 にさせることが多種多様な方法によって可能である。もしいま、この空間の点が、座標値 $x_1, x_2, x_3$ であるといえ、その間隔 の 2 端の座標値の差、$Δx_1, Δx_2, Δx_3$ が間隔のどの方向においても同じ次の 2 乗和を与えるなら、 \[ s^2 = Δx_1^2 + Δx_2^2 + Δx_3^2 \tag{1} \] そのとき、参照空間は、ユークリッド的 (Euclidean) であり、座標値は、デカルト的 (Cartesian) という(*)。この仮定を無限小の 間隔に制限しておけば、実際には十分である。この仮定に含まれているものには、むしろ特別でないために、それらの基本的な重要性 のために我々が注意をしなくてはならないものがある。最初に、理想的な剛体が任意の仕方で動かし得ると仮定されている。第2番目に、 理想剛体の方向に対する行動は物体の素材や、位置の変化に独立であることが仮定されている。それは、ふたつの間隔が一度一致すれば、 それらはつねに、どこにおいても一致するという意味においてである。これら両仮定は、幾何学において、とくに物理測定において 基本的重要性をもち、経験から自然に起きる; 一般相対論において、それらの有効性は、天文学的大きさと比較して無限に小さい 参照空間と物体だけにおいて仮定される必要がある。
我々はいま、特殊相対論と一般相対論のなかで類似の役割を果たす、一連の思考に来りくる。我々は問う:我々が使ったデカルト座標 以外に、他の等価な座標はあるだろうか? 間隔は、座標系の選択から独立である物理的な意味をもつ; そして、我々の参照空間の 任意の点から敷かれた、全ての等しい間隔の終点の軌跡として、我々が得る、球状の表面も同様である。もし、$x_ν$ と $x'_ν$ ($ν$は 1 から 3) を我々の参照空間のデカルト座標とするなら、そのとき、その球状表面は、我々のふたつの座標系のなかで次式によって表される。 \[ ΣΔx_ν^2 = 一定 \tag{2} \] \[ ΣΔ{x'}_ν^2 = 一定 \tag{2a} \] (2)と(2a)が互いに等価であるために、どのように $x'_ν$が $x_ν$ によって表されなければならないか? $x_ν $の関数として表された $x'_ν$ に関し、$Δx_ν$の微小値への Taylor の定理によって、我々は次を書くことができる。 \[ Δx'_ν= Σ_α {∂x'_ν \over ∂x_α} Δx_α + {1 \over 2} Σ_{αβ} {∂^2 x'_ν \over ∂x_α∂x_β} Δx_αΔx_β ... \] もし、我々が (2a) をこの式で置き換え、(1)と比べるなら、x'_ν が x_ν の線形関数でなければならないことを見る。 もし、それゆえ、 我々が次を置けば、
又は、 \[ Δx'_ν = Σ_α b_{να} Δx_α \tag{3a} \] そのとき、方程式 (2) と (2a) の等価性は、次式で表される。 \[ ΣΔ{x'}_ν^2 = λΣΔx_ν^2 (λは、Δx_νから独立) \tag{2b} \] それゆえ、$λ$が定数でなければならないことが出る。もし、我々が $λ= 1$ と置けば、(2b) と(3a) は、次の条件を与える。 \[ Σ_ν b_{να} b_{νβ}= δ_{αβ} \tag{4} \] ここで、$α=β$ 又は $α≠β$ に従って$δ_{αβ}=1 $又は $0$ である。条件 (4) を直交性の条件、変換 (3), (4) を線形直交変換と呼ぶ。 もし、我々が $s^2 = ΣΔx_ν^2$ が、全ての座標系で長さの自乗に等しくあるべきと規定するなら、そしてもし、我々がつねに同じ 単位の物差しをもって測るならば、そのとき、$λ$は、$1$ でなければならない。それゆえ、我々の参照空間のなかで、ひとつのデカルト 座標系から他へ、それによって渡すことのできる線形直交変換は、唯一である。我々は、そのような変換を適用するなかで、直線の式 が直線の式になることを見る。(3a) を逆転して、両辺に $b_{νβ}$ を掛け、全ての$ν'$ によって総和すると、我々は次を得る。 \[ Σ b_{νβ} Δx'_ν = Σ_{να} b_{να} b_{νβ} Δx_α = Σ_α δ_{αβ} Δx_α = Δx_β \tag{5} \] 同じ係数 $b$ は、また逆の$Δx_ν$の置き換えを決定する。幾何学的に $b_{να}$ は、$x'_ν$ 軸 と $x_α$ 軸間の角の余弦である。
人は普通、幾何学をその概念と経験の間のどのような関係からも分離していると学ぶことが習慣付けられている。純粋に論理的であって、 原理的に不完全である経験主義から独立であるものを切り離すことには利点がある。これは、純粋な数学者の満足である。 彼は、公理から彼の定理を正しく、すなわち、論理的な誤りなしに演繹できるならば満足する。 ユークリッド幾何学が真であるか否かという問いは、彼の関心にない。しかし、我々の目的のためには、幾何学の基本的概念を自然の 対象に関連させることが必要である; そのような関連なしには幾何学は物理学者にとって無価値である。物理学者にとって、幾何学の 定理が真であるか否かについての問いに関心がある。この視点からユークリッド幾何学が定義から論理的に導かれた単なる演繹を超える 何かを断言することは、次の単純な考察から見られるであろう。
空間の $n$ 点の間には、$n(n-1)/2$ の距離 $s_{μν}$がある。これらと、$3n$ の座標値との間には我々は次の関係をもつ。 \[ s_{μν}^2 = (x_{1(μ)} - x_{1(ν)})^2 + (x_{2(μ)} - x_{2(ν)})^2 + ... \] これら、$n(n-1)/2$ の方程式から $3n$ の座標値が消去されてよい、そしてこの消去から $s_{μν}$には少なくとも $n(n-1)/2 - 3n$ の方程式 が残るであろう(*)。一方、$s_{μν}$ は、測定できる量である。そして定義から互いに独立である。これらの $s_{μν}$ の間の関係は、 必ずしも先験的 である必要がない。
幾何学的不変量の2番目の例として体積を考えよう。これは、次で表現される。 \[ V= ∫∫∫ dx_1 dx_2 dx_3 \] Jacobi の定理を使って我々は、次の式に書くことができる。
もし、我々が自ら制限し、それらの変換を行列式 + 1 をもつ(*)(座標系の連続的な変化からくるものだけ)とすれば、そのとき V は不変量である。
不変量は、しかしながら、デカルト座標の特定選択に独立に我々が与え得る唯一の形式ではない。ベクトルとテンソルは、他の表示形式である。 現在の座標値 x をもつ点が、直線上にあることを次式で表示しよう。 \[ x_ν - A_ν= λ B_ν (ν= 1..3) \] 一般性を制限することなく、我々は次を置くことができる。 \[ Σ B_ν^2 = 1 \]
我々はいま、テンソルの概念を導く幾何学的実体があることを短く示す。$P_0$ を2次の表面の中心、$P$ を表面の任意の点、$ξ_ν$ を座標軸上 への間隔 $P_0P$ の投影とする。そのとき、表面の方程式は、 \[ Σ a_{μν} ξ_μ ξ_ν = 1 \] このなかで類似の場合も、我々は総和の記号を省略し、2度現れる添字について総和を実行すると理解する。 我々はそうして、表面の式を次のように書く。 \[ a_{μν} ξ_μ ξ_ν = 1 \] 量 $a_{μν}$ は、選択されたデカルト座標系に関して、与えられた中心位置について、表面を完全に決定する。 線形直交変換の$ξ_ν$への変換の知られた法則 (3a) から、我々は、容易に $a_{μν}$ の変換法則を見出す(*):
より高階(添字の数)のテンソルも解析的に定義できる。ベクトルを階数1のテンソルとみなし、不変量(スカラー)を階数0のテンソルとみなす ことは、可能であり、かつ利点がある。この点に関して、不変量の理論の問題は、次のように定式化され得る:どのような法則に従って 与えられたテンソルから新しいテンソルを形成することができるか? 我々は、後にこれらの法則を適用できるようにするために、これらの 法則をいま考察する。最初にテンソルの特性、線形直交変換によって同じ参照空間のなかでひとつのデカルト系から他への変換に関する特性 について扱う。法則は次元数から全体として独立であるから、我々はこの数を $n$ として残し、最初には不確定とする。
定義 もし、ある対象が $n$ 次元参照空間のなかのすべてのデカルト座標系に関して $n^α$ の数の $A_{μνρ}$... ($α$は添字の数) によって 定義されるなら、これらの数は、α階のテンソルの成分である。ただし、変換法則が次式であるなら。 \[ A'_{μ'ν'ρ'...} = b_{μ'μ} b_{ν'ν} b_{ρ'ρ} .... A_{μνρ...} \tag{7} \] 注意 この定義から次が出る。もし、(B),(C),(D) がベクトルであるとき、 \[ A_{μνρ...} B_μ C_ν D_ρ... \tag{8} \] は、不変量である。逆に、任意選択のベクトル(B), (C) に式(8)が不変量を導くことを知るなら、(A)のテンソル性が推定できる。
乗算 階数$α$のテンソルと階数$β$のテンソルから、階数$α+β$のテンソルを得ることができる。最初のテンソルの全ての成分に 第2番目のテンソルの全ての成分を掛けることによって: \[ T_{μνρ... αβγ...} = A_{μνρ...} B_{αβγ... } \tag{10} \] 縮約 階数$α- 2$のテンソルを階数$α$のテンソルから、ふたつの確定した添字を互いに等しく置き、そしてこの単独の添字について総和する。 \[ T_{ρ...} = A_{μμρ...} (= Σ_μ A_{μμρ...}) \tag{11} \] 証明は、 \[ A'_{μμρ...} = b_{μα} b_{μβ} b_{ργ...} A_{αβγ...} = δ_{αβ} b_{ργ...} A_{αβγ...} = b_{ργ...} A_{ααγ...} \]
テンソルの対称特性 テンソルは、それらの添字のうちふたつ $μ, ν$ に関して、$μ, ν$を交換した結果の両成分が互いに 等しいとき対称、等しく反対符号のとき、反対称(訳注:skew-symmetry "斜対称"は、"反対称"と意訳する) と呼ばれる。
対称状態: $A_{μνρ}= A_{νμρ}$
反対称状態: $A_{μνρ}= -A_{νμρ}$
定理 対称又は反対称の特性は、座標選択から独立であり、そこに重要性がある。その証明は、テンソル定義の式からくる。
特別テンソル I. 量、$δ_{ρσ}$ (4) は、テンソル成分である(基本テンソル)。
証明 もし、変換の式 $A'_{μν}= b_{μα} b_{νβ} A_{αβ}$ の右辺で、我々が $A_{αβ}$ を、量 $δ_{αβ}$ (それは、$α=β,α≠β$ に従い$1, 0$) に置き換えれば、我々は次を得る。 \[ A'_{μν}= b_{μα} b_{να} = δ_{μν} \]
II. 全ての添字対に関して反対称テンソル($δ_{μνρ...}$)であって、次元数 $n$ に等しい階数をもち、その成分が $+1$ 又は $-1$ であり、 それが$μνρ... $ が $123...$ の偶奇の置換に従うものがある。
証明は、上で $|b_{ρσ}|= 1$ を証明した定理の助けによって出る。
これら、数少ない単純な定理は、不変量の理論から前相対論の物理と特殊相対論の方程式を築くための装置を形成する。
我々は、前相対論物理のなかで、空間中の関係を指定するために、参照物体又は参照空間、そして、それに加えてデカルト座標系が 必要であることを見た。デカルト座標系を、それぞれが単位長をもつ棒によって形成された立方体的な枠組と考えることによって、 我々はこれらの概念の両者を融合してひとつにすることができる。この枠組の格子点の座標値は整数である。基本的な関係、 \[ s^2= Δx_1^2 + Δx_2^2 + Δx_3^2 \tag{13} \] から、そのような空間格子の構成員は、全て単位長であることが出てくる。時間のなかの関係を指定するために我々は、標準時計を加え、 デカルト座標系の又は参照座標系の、いわば、原点の位置に置くことを必要とする。もし、事象がどの場所で実行されても、その事象と 同時である原点にある時計の時間を指定すればすぐさまに、我々は、それに 3 つの座標値 $x_ν$ と時間 $t$ を割り当てることができる。 それゆえ、我々は、以前には個人のふたつの経験の同時性だけに関係していたのであるが、遠方の事象の同時性の言明に客観的意味を (仮想的には) 与えることができる、そのように指定された時間は、我々の参照空間のなかの座標系の位置に全く独立であり、それゆえ、 変換(3)に関して不変量である。
前相対論の物理の法則を表す方程式系は、ユークリッド幾何学の関係をもつと同様に、変換(3)に関して共変であると仮定される。 空間の等方性と一様性は、この方法で表される(*)。 我々はいま、より重要な物理の方程式のいくつかを、この視点から考察する。
($dx_ν$)はベクトルであり; $dt$、そしてそれゆえ、$1/dt$ もまた不変量である; こうして、($dx_ν/dt$) はベクトルである; 同じ方法で ($d^2x_ν/dt^2$) がベクトルであることを示すことができる。一般に、時間に関する微分操作は、テンソル特性を変えない。一方、$m$ は 不変量(階数0のテンソル)であり、 $m ({d^2x_ν \over dt^2}) $ は、ベクトル、又は、階数 1 のテンソルである(テンソルの乗算の定理によって)。 もし、力 ($X_ν$) がベクトル特性をもつなら、同じことが差分、($m ({d^2x_ν \over dt^2}) - X_ν$) についても成立する。これらの運動方程式は、 それゆえ、参照空間のなかの全ての他のデカルト座標系においても有効である。力が保存される場所の場合、我々は ($X_ν$) のベクトル 特性を容易に認識できる。なぜなら、ポテンシャルエネルギー$Φ$が存在し、それが粒子相互の距離だけに依存する、そしてそれゆえ不変量である。 力のベクトル特性、$X_ν= -{∂Φ \over ∂x_ν}$ は、そのとき、階数 0 の微分についての一般的な定理の帰結である。
1階のテンソル、速度を乗算して、次のテンソル方程式を得る。 \[ m ({d^2x_ν \over dt^2}) - X_ν {dx_μ \over dt} = 0 \] 縮約とスカラー $dt$ による乗算によって、我々は運動エネルギーの方程式を得る。 \[ d({mq^2 \over 2}) = X_ν dx_ν \] もし、$ξ_ν$を質点と空間に固定された点の座標の差とすれば、そのとき、$ξ_ν$は、ベクトルの特性をもつ。 我々は、明らかに ${d^2x_μ \over dt^2 } ={d^2 ξ_ν \over dt^2}$ をもつ、粒子の運動方程式が次式に書けるように。 \[ m ({d^2ξ_ν \over dt^2}) - X_ν = 0 \] この式を$ξ_μ$で乗算して、次のテンソル方程式を得る。 \[ (m ({d^2ξ_ν \over dt^2}) - X_ν) ξ_μ = 0 \] 左辺のテンソルの縮約をとり、時間平均をとれば我々はビリアル(virial)の定理を得るが、それについてさらに考察はしない。添字の 交換をして続く引算をして、我々は、単純な変換をして、モーメントの定理 (訳注:角運動量の時間微分が力のモーメント) を得る。 \[ {d \over dt} [m (ξ_μ {dξ_ν \over dt} - ξ_ν {dξ_μ \over dt})] = ξ_μ X_ν - ξ_ν X_μ \tag{15} \]
我々は次に、連続媒体の運動方程式を考察する。$ρ$を密度、$u_ν$ を座標と時間の関数とみる速度の成分、$X_ν$ を単位質量あたりの体積力、 $p_{νσ}$ を $x_ν$ 増加方向の$σ$軸に垂直な表面上の歪力とする。そのとき、領域の運動方程式は、ニュートンの法則から、 \[ ρ {du_ν \over dt}= - {∂p_νσ \over ∂x_σ} + ρX_ν \] ここで、${du_ν \over dt}$ は、座標 $x_ν$をもつ時刻 $t$ の粒子の加速度である。もし、この加速を偏微分係数で表現するなら、我々は$ρ$で割って次を得る。 \[ {∂u_ν \over ∂t} + {∂u_ν \over ∂x_σ} u_σ = - {1 \over ρ} {∂p_νσ \over ∂x_σ} + X_ν \tag{16} \] 我々は、この方程式がデカルト座標系の特別な選択によらずに成立することを示さなくてはならない。($u_ν$) は、ベクトルであり、それゆえ、 ${∂u_ν \over ∂t}$ もベクトルである。${∂u_ν \over ∂x_σ}$ は、2階のテンソル、${∂u_ν \over ∂x_σ} u_τ $は、3階のテンソルである。左辺の第2項は添字$σ,τ$ の縮約からの結果である。右辺の第2項のベクトル特性は明らかである。右辺第1項も、やはりベクトルであるためには、$p_{νσ}$がテンソルの必要がある。 そのとき、微分と縮約によって ${∂p_{νσ} \over ∂x_σ}$ が結果する。そして、それゆえ、ベクトルである。それはまた、スカラーの逆数 ${1 \over ρ}$の乗算の後に おいても同じである。その $p_{νσ}$ は、テンソルである。そして、それゆえ、次の式に従って、変換する。 \[ p'_{μν}= b_{μα} b_{νβ} p_{αβ} \] は、この式を無限小の4面体で積分するメカニズムで証明される。$p_{νσ}= p_{σν}$ それゆえ、歪テンソルが対称テンソルであることは、 モーメントの定理を無限小の平行6面体に適用することによって証明される。以上述べたことから、上で与えたルールの助けによって、 その方程式が空間のなかの直交変換(回転変換)に関して共変であり; そして、その式が共変であるためには、式のなかの量がそれに従う ルールも変換されなくてはならないことも明らかになる。
我々はまた、歪成分が物質の特性に依存する式の共変性をテストする。そして、共変性の条件の助けを伴って、圧縮性粘性流体の場合のこれらの式 を立てる。もし、我々が粘性を無視するなら、圧力 $p$ はスカラーであって、流体の密度と温度だけに依存するだろう。そのとき、歪テンソルの貢献は、 明らかに、次である。 \[ p δ_μν \] ここで、$δ_{μν}$ は、特別な対称テンソルである。この項は、粘性流体の場合にもまた存在するだろう。しかし、この場合には圧力の項もあり、$u_ν$ の空間微分に依存する。我々は、この依存性を線形と仮定する。一方、これらの項は、対称テンソルでなければならず、入ってくるのは唯一、 \[ α ({∂u_μ \over ∂x_ν} + {∂u_ν \over ∂x_μ}) + β δ_{μν} {∂u_α \over ∂x_α} \] であろう。(なぜなら、$∂u_α \over ∂x_α$は、スカラーである。) 物理的理由(すべりのない)から、全ての方向に対称的な拡大が仮定される。 すなわち、もし、 \[ {∂u_1 \over ∂x_1} = {∂u_2 \over ∂x_2} = {∂u_3 \over ∂x_3}; {∂u_1 \over ∂x_2}, etc., = 0, \] であるとき、摩擦力は現れず、そのことから、$β= -{2 \over 3} α$ であることが出てくる。もし、 $∂u_1 \over ∂x_3$ だけが 0 と異なるなら、 $p_{31}= -η{∂u_1 \over ∂x_3}$ としよう。それによって$α$が決定される。我々は、そのとき、完全な歪テンソルのための次式を得る。 \[ p_{μν}= p δ_{μν} - η[({∂u_μ \over ∂x_ν} + {∂u_ν \over ∂x_μ}) - {2 \over 3} ({∂u_1 \over ∂x_1} + {∂u_2 \over ∂x_2} + {∂u_3 \over ∂x_3})δ_{μν}] \tag{18} \] 空間の等方性(全方向の等価性)からくる、不変量の理論の人間的な価値は、この例から明らかとなる。