初めてラジオ2台でステレオ放送実験がされたときの空間再現に感激した記憶が私にはある。家を出た高校時代から私の趣味は、真空管 式 6L6GCを使ったプッシュプルステレオアンプ、"トラ技"によるトランジスタメインアンプなどの製作だった。電卓がまだ存在しない時代、 "ラジオ技術" や、長岡鉄男氏のスピーカー自作の本を手にして作ったスピーカーは、10cm のフォスター (現フォステクス) のユニットを 使ったバスレフ型や 2種のスピーカーの背面の音圧をインピーダンス整合させるバックローディドホーンという音響迷路型スピーカーだった。 ソース(音源) は、私には高価なレコードか、FM ラジオ、オープンリールテープデッキだった。"ラジオ技術" は古本屋で多く集めた。 オーディオは地方出の貧乏大学生には所詮、無理な趣味であったが、半田ごてを使って組み立てることのできる電気回路だけが確かな技術 のように思った。時代は今のような速度が無く、ゆったりと大きく進む時が何事も受け入れてくれた。
電気音響変換は、音質を聞き分けるためのヘッドホンを別にして、音を部屋に出して聞くためのスピーカーユニットには、磁場の中で 電流が力を受けて動く動電式が一般的である。これには低音側の能率と高音側の分割振動の問題がある。音を放射するコーンの部分が 小さければ変換の能率が低く、それは波長に関係するから、低音を出すには面積が大きくないといけない。また、高音ではコーン紙が ピストン運動せず分割振動する。分割振動はある程度、避けられず、能率上は有害ではないが、コーン紙の素材特有の音を出す傾向が あり、コーンが紙製なら紙の音がし、金属であれば金属的な音がする。そこで、周波数の帯域をLCネットワークで分割して別のスピー カーを使ったり、さらに別々のアンプを使うマルチアンプ方式にしても、それらには別の問題が伴った。仮に帯域分割が理想的にいっ たとしても、スピーカーの空間的な位置が周波数によってずれ、音像定位が悪くなる。そのため、フルレンジには、捨てがたい魅力が あった。小型フルレンジユニットのバックローディドホーンは、背面の音を使った低音増強を目的としていた。
スピーカーにはまだ不明なことが多数残っているかもしれない。アンプでは当時から A,B,C 級などがあり、トランジスタには OTL、 コンプリメンタリプッシュプル, OCL, BTL があったが、まだ FET は使われず、1bitアンプは残っていたようにである。当時、 パルス幅変調は、すでに教科書にあったのにノコギリ波とアナログ入力の和をコンパレータにいれた自作の PWM アンプのオシロの 波形を見せ、大学3年生が教授に1から説明しなければならなかった。1bitがアナログアンプよりよい可能性を理解させることは不可能 だった。私にとって学ぶべき技術は多く、それをまとめる時間はなかった。現在の1bit アンプは PWM とはかなり違うものであるが。
スピーカーのエンクロージャー(箱)には、大きく分けて密閉型とバスレフ(低音反射)型の2種がある。密閉型は、空気の容積のもつ 軟らかさとコーン振動子の質量(と面積)から共振周波数が決まり、それより下の周波数は大きく減衰する。バスレフ型は、穴付き箱 であり、穴に長さをもたせたダクト部分の空気の質量と内部容積からくる音響的な共鳴を利用して、第2の共鳴を作り、密閉箱よりも 低音を稼ぐことができる仕組みである。しかし、箱の振動を避けるために箱は厚く重い木材が必要であり、両者とも高価になりやすい。
だからといって単純な平面バッフルの壁も、前述のように、部屋ぐるみ設計する大変さになり、どうすればそれを容易にできるか というと、この平面が前後の音を遮るためのものであるから、ユニットの周りのバッフル板を後ろに曲げていって、筒にすればよい。 それは 1/4波長 0.85 m の半径の円板でなく、その程度の長さの筒で代用できることになる。筒はなにより製作が容易であり、 立てれば場所をとらない。これは最も単純で安価なスピーカーである。このスピーカーは、背面の音を箱で密閉するのではなく、 筒で遮るものであり、ある意味、音響迷路 (ラビリンス)型のスピーカーであるが、迷路が内部反射のない直線である。
そして、筒の反対側は開放する。筒の反対側の開放口からの音は部屋に放射され、逆位相の波が遅延されてユニットの所で 同位相になる周波数がある。横からみると、筒の逆側は、同じ音圧の逆位相の筒の中の音速だけ遅れたものが出てくる。遅延が あるから双極子ではないが、床に反射させる音が遅れるのは自然である。信じられないかもしれないが、上のユニットから出る 音よりも大きく感じる。それはスピーカーユニットの音響インピーダンスが床のほうにマッチしているからであろう。そして、 筒構造は、平面の木材の板を組み合わせた箱よりも内部の音圧に振動せずに耐えるのも容易である。なによりも、筒型の内部の 音響振動は、コーン紙のピストン運動に対応した筒の軸方向の空気の運動を阻害しない。それに比べると、四角い箱である密閉箱 やバスレフ型は、人間の耳に敏感な数cm〜数10cm サイズの内部の複雑な反射が問題と思われ、箱内部の吸音材を大量に使うこと によって変換効率を下げ、いわゆるデッドな暗い音になる欠点がある。筒型は、バックローディドホーンの特性を持たせることは 難しい。ホーンは容積部分と首の部分があってから断面積を徐々に広げることでコーンとのインピーダンス整合をさせ変換効率を 高めるものであるから。
ユニットと筒の間の接合には振動吸収剤を使う。筒自体が振動するとやはりその素材の音を出すから、振動はしないほうがよいが、 ユニットの振動は筒の軸方向であり、それが筒に移っても音響を放射する方向ではないから筒に固定してもよいという考え方もある。 ユニットの振動は、コーン紙との質量比を考えると、受ける加速度は無視できるかもしれないが、ユニットの金属フレーム部分の 振動を空気中に許すと高音を放射する。最初、私は、ユニットのネジ穴にゴムの車輪のようなものをネジで取り付け、筒を4箇所 で外側から押さえた。このネジが軟鉄製のときは、なんら問題なかったが、ステンレスネジを使うと耐えられない高音の共振をした。 最終的にはユニットの鉄製フレームの円形以外の4箇所のネジ穴付き羽部分をすべて切り取って、ユニットは振動吸収材を介して 筒にゆるく結合して静かにした。接合をいい加減にしている間は、余計な音が出て騒がしかった。私は、最初からスピーカー径と 筒径を一致させ、10cm径の筒に10cm径のユニットを使い、スピーカーユニットを取り付けるバッフル板を使わなかった。筒は、 床から少し(数cm程度)離す方が大きく離すよりも、ホーン型が利用する音響インピーダンスマッチングと同様な効果でよいようであった。 それでも低音は不足している。
筒型のスピーカーを作って色々な音を聞いてすぐに分かるのは、潮騒又はホワイトノイズのような音のときに筒の音、筒鳴りが することである。海辺で巻き貝を拾って耳に当てて音が聞こえるのと同じである。しかし、それ以外のときに、このスピーカー の音の特徴、すっきりした中高音がそれまでに経験しなかったものであることに気がつく。筒鳴り防止は、どうすればよいかは 難問である。私は、吸音材を一切入れなかった。パイプオルガンから始まり、管楽器の音は、奇数次高調波に富む。この筒の共鳴は、 片方の端を閉じた管の共鳴に近いものであろう。両端を開放した筒は、さらにオクターブ上になる。吸音材によって、筒の長さ 方向の3次以上の高調波からくる筒鳴りを避ける程度の吸音材を内部に置けばよいとはいえ、吸音は空気媒体の軸方向のピストン 振動を阻害しない程度である必要がある。3次を消すにはかなりの中音域も吸収しないといけない。しかし、一般に多過ぎる吸音材は 音を殺し、能率を下げ、筒型スピーカーを密閉箱の音にするだろう。3次の空気速度の腹に適量だけ置くことが解決するかもしれない。 吸音材は動径方向には中心軸に近いほど少なくて効果があるように思うが、ドーナツ状に配置する案が最近見られる。
普通と逆に、CDプレイヤーからアンプまでの線は2本の太い線(これがシールド線でないことは、片チャンネルに2本ずつ使って いたことから知るのだが)で、それを実に大きくすきまのある太さ数cmの2重螺旋に巻いているのは、何の意味があるのだろう。 そして逆に、スピーカーケーブルには、回路配線用の細い 1mm 径程度の被覆銅より線を使っていた。この人は、電気的 インピーダンスを全く無視している。スピーカーケーブルが細いことの説明を求めると、彼は単に音質追求からこうなったという。 細い軟らかいスピーカーケーブルのよさを説明するのに、彼は太いスピーカーケーブルが堅い音になり、細過ぎると軟らか過ぎる ようになるという。これはよく知られたことで、細いケーブルの直列抵抗はダンピング特性を変える。抵抗が大きいとf0近辺に インピーダンスのピークを反映するようになる。それは、制御の効かない緩やかな低音増強である。しかし、なぜそうであるかを 彼はケーブルの縦振動ではないかというあり得ない推測をされた。さらに、 "フラックス" によるのではないかといわれた。 それは、スピーカーからの洩れ磁束ですか? という私の質問に彼はこの英語を再度いってこれ以上説明せず理解を求めた。 すなわち、この "フラックス"(流出) がスピーカーからの洩れた磁場か、地球磁場 (200 m gauss 程度)か、屋内交流磁場 (2m gauss 程度) かを明確にしなかった。アンプ出力に交流の電源電圧が影響を残すとき積の要素、変調となって、混変調歪 という音の濁りとなることがあり、よくオーディオで問題になる。
スピーカー磁石の洩れ磁束と地球磁場は直流だから除外するなら、スピーカーユニット内磁場(数1000 gauss)に比べて、屋内交流磁場は 10^-6 も小さい。彼は、それが影響するかもしれないという。もちろん、当時のオーディオの常識に沿った白黒付けられない多くの発言 もあった。CD プレイヤーは、小型のものがよい。とくにPC用がよい。CDの周りを黒く塗ると音がよくなる。アンプは、自動車用が電源 変動に強くてよい。その他、一杯である。そのことは、私を失望させたとは対照的に、上司とトップを彼に心酔させ、その後、アスキー は、オーディオラブという部署を作り、彼に投資するようになる。
1999 年8月8日、FE103 2個購入、アクリルパイプ10cm 径長さ1mx2の値段調べ。足のデザイン図、波長と長さの関係を記述。9月7日に反射板、 足の設計図。9/12 建築資材店で塩ビパイプを見るが購入しない(*)。 10/24アクリルパイプ2本、蓋と足用アクリル購入。2000年、1/26 筒型 スピーカーを会社へ。1/29 FE83 x 2、1/30 8cm径 0.5m のアクリルパイプ購入し足工作。2/20 8cm径1m、FE88 x 2購入。3/12ユニット取り 付け部品を記述。3/14 10cmユニットも、3/17,18, (19日、反射板)、8/2710cm, 8cm Unit 9/16 エッジ切り。10/1 10cm エッジ切り。
その後、私のこの趣味は中断を余儀なくされた。アスキーは債務超過になり、部署が解体し、私は 2001年4月末にアスキーを辞し、 次の会社の仕事に没頭し、これに戻る余裕がなかった。最近、2ch でこれの自作研究が盛んであることを知り、この文章を記録として 自作研究者に捧げることにした。 (Dec.25 2008)
(*) ただでさえ散乱した私の部屋に、さらに水道管工事用パイプが部屋のなかに散乱することが予想されていやなのと、径がスピーカー 径と一致しなかったからである。ちょうどの 10cm と 8cm がなかった。透明なアクリル管は、美しく存在感がないため、部屋を狭く感じ させないことがよい。しかし、結構な高価であり、実用的には倒れたときに破損しやすい。私もすでに1本壊してしまった。 当時の上司と同じくである。ゴム輪は、破損防止のためである。